鴨で鴨を釣る悪魔
ギアの街に存在する建築物の平均より、立派に作られているその建物の中は内装も綺麗に仕上がっている。
白を基調とした珪藻土で塗られ床も赤いカーペットが敷かれているその場所は、取引所の様に空間を仕切るカウンターがある。
客が侵入出来る場所には少々の座席やら立ちながら物が置けるテーブルも存在している。
その空間のカウンターで使用人の服装に近い身なりの綺麗な女性が応対する。
「ヴィトー様、お待たせしました。こちらが今回の取引分です」
手渡したのは数枚の紙切れと片手で数えれるほどの紙幣にそれに乗った硬貨数枚。
そしてそれを受け取ったのはいつぞや一海をだまくらかそうとした目隠れのシスターであった。
「どうもー」
それをカバンに収めると軽く一声添えて去っていく。
外に出て大きく一伸びする。
今日は雲が5割ほど覆う晴れ模様なのだが彼女にとっては最高の快晴に思えるほどの気分だったに違いない。
「いやー今日は最高に晴れてるわね!」
最高の気分を噛み締めてから歩みをまた始める。
体がよろめくくらい足元に大きく衝撃を感じた。
体制を立て直し周囲を確認すると、一人の男の子が転んでいるのを確認する。
彼女はすぐさま腰周りのポケットをそれとなく確認すると、子供に駆け寄った。
「盛大に倒れたわね……大丈夫?」
子は手をつき起き上がると目線を前に向けた
悲しげな感嘆をあげると、介抱しているシスターは同じ場所に目を向ける。
そこにはケバブの様な食べ物の残骸が散らばっていた。
「どうしよう……」
「あちゃあ。また買うしかないね」
シスターがもう一度男の子に目を向けるとかなりシュンとしている。そしてううっと声が漏れ涙も漏れ始めた。
「どうしよう……お金がない……」
どうやら悲しげになっていた理由は失ったからだけではなくもう買える手持ちがないのもあった様だ。
その言葉を聞き、カバンからあるものを取り出すと、
「泣くなガキンチョ。モテなくなるぞ」
「姉ちゃんのせいだろ!?」
辛辣な一言に振り返ると治癒魔法を擦りむいた膝に当てる。
治癒魔法は、傷を自己再生能力の上昇と消毒などといった補助を促すことで回復する仕組みなのだが、そういった形で治るせいで痛みが走る。
度合いによっては激痛が起こるが、擦り傷なので消毒液を塗られた様な痛みが彼を襲った。
「イダダダダダ!」
「はーい神の御加護完了」
「どこがだよぉ!」
泣き怒鳴る少年に向かいにやりと嫌な笑いをし忠告する。
「あらぁ残念。それなら左ポケットの御加護も要らないのね」
「ふざけんな! 変なこと言ってからかう」
その言葉を聞きながら彼は左の太ももに手を置くと、感じた違和感のせいで文句を止めることになった。
確認する為に中に手を入れ取り出すと、そこから出て来たのは1枚の銀貨だった。
「え……何で?」
「だから、ベルン様の御加護よ。可哀想なガキンチョを慰めたまえ……って。神様ってお金持ちなのね」
もちろん加護なんて嘘である。本当は口の悪いシスターが少年が痛みに悶えてる間に仕込んだだけである。
だが子供ながらにもそれを察した少年は勘づいていた。
「……いいの姉ちゃん?」
「あたしが人に金なんてやるもんか。それは神の慈悲よ。いっぱい買って腹壊しなさい」
そしてクラリネッタ・ヴィトーは去っていく。
その背中を少年は眺めるしか出来ず、感謝の言葉を呟いた時は彼女はもう雑踏の中に消えた後だった。
意気揚々と鼻歌を歌う彼女が軽快な足取りで歩く中、一人の男の影が近づいた。
「すみません」
呼ばれて方向を向いたシスターは一人の大柄の冒険者に目がいく。声の発生源は彼からだろうと察する。
先程までの気の強そうな本当の自分ではなく、聖女の様な笑顔と性格に変貌する。
「どうされましたか?」
「何と言えば良いのか……アクセサリーの売り方を教えてくれるシスターがいると噂を聞きまして。……もしあなたなら教えていただきたいのですが?」
クラリネッタの顔は微動だにしなかったが、話の内容を聞き心の中でニヤついた。
そろそろ身の安全のこともありこの街から去るつもりだったのだが、相談が舞い込んできた以上しっかりお得になりたかった。
(最後の最後に獲物が来るなんてラッキー! こいつには売るだけ売っておさらばしよ)
「まあ、貴方様もご興味が? でしたらどこでお話ししましょう?」
スキンヘッドの冒険者はどうしようかと考え、しばらくすると閃いた。
「でしたら、丁度お昼ですしランチの美味しい店があるんです。そこでお話しでも」
「成程、それは良いですね。私も丁度お腹が空いていまして」
「ハッハッハ! ならお連れします!」
男の高笑いを終えると両名は目的地へ歩き出す。
ーーーーーー
「美味しい!」
シスタークラリネッタのその声は日の当たるテラス席にて、隣の席くらいだと大きく感じるほどの声量で美味しさを表現する。
「よく分からない物が入ってるけど甘い!」
彼女が注文し頬張ったのはかの世界ではオムライスと呼ばれている物だった。ソースはデミグラスらしき物。流通技術的に半熟は好まれない為昔ながらのレトロな焼き加減で包んだ物だ。
その美味しさに彼女はつい本当の口調が漏れている。
「それは良かった! その中のはナーバ産のヨネムギらしい」
「ええ?! ヨネムギって加工しなくても食べれるの?!」
更に声を荒げる彼女はらしくない姿を見せていると恥じ、咳払いをして戒める。
「失礼しました。年甲斐もなくはしゃいでしまいました。……ちょっと失礼します」
彼女はリュックの横ポケットからメモ帳程の小さな本を取り出し、オムライスを観察しながら筆を進める。
「水っぽい……蒸してるのかしら。特産品って……普通のヨネムギでも……」
ブツブツと独り言を呟きながら書き記していく。その様子を見て大男はフッと笑う。
「味は劣るらしいですが、普通のでもできるそうです。あと、『炊く』みたいです。水に浸して蒸す。蓋をして汁気がなくなるまで煮ることです」
意外な男の言葉に彼女は驚愕する。
そそくさと聞いたことを書き記して本を閉じる。
「ありがとうございます。……料理、お好きなんですね?」
それに対して彼は笑顔で答えた。
「なああんた、どうして……いやすまない。そろそろ本題の方が良いかもな」
聞きたかったことを曇り顔で封殺し、男は本題の儲け話に舵を取った。
「それもそうですね。では……」
それを聞くと彼女はネックレスを一つ出す。
「実はとある街に伺った時に、露天商の方から頼まれたのです。このネックレスを広めてほしいと。何でも、力を封じ込めたネックレスみたいで」
「ほう、これが?」
「はい。私も半信半疑だったのです。でも普通の店で売ると買った半分くらいなのに、分かる人は2000Eで買う人がいました」
「何だって?!」
男は凝視する。
「……俄には信じられんな」
「そうなのです。しかも値段は500。1500円も特してしまいます」
そしてシスターは顔を暗くしながら言葉を続けた。
「……しかし私も広めると協力はしたものの、旅をしている身。タダでお渡しするわけにもいきません。だからもし協力していただくならお恵みいただきたいのです」
「……成程、それでいくらだ?」
「買った場所の情報は1500。ネックレス一つ300で売っています」
「情報量はともかく、ネックレスだけだと損してるじゃないか。大丈夫か?」
彼女の不利益に男は困惑する。
「良いのです。私はあの露天商の頼みを聞いているだけなので。……それに、もし利益の出たお方ともう一度会えた時。お布施して頂けるんですよ」
「……成程、意外と考えられている。手を伸ばす人を増やしてくれるのか」
「さて……どうされますか? 情報、ネックレス、どんな形で買われても。ただし、皆様に幸せになって欲しいので、物は5つまでとさせて頂きます。全部で3000ですね」
「俺も混ぜてくれよ。3000で買わせてくれ」
新たな鴨の声が聞こえて来たのはシスターの後方からだった。
その声に対して彼女は心中ウキウキしてたまらなかった。
「はい、どうぞ席に」
「目の前の獲物を捕えたら3000払えるんだわ。ほんと今日はラッキーだなあ、俺」
シスタークラリネッタの目の前にいたのは何時ぞやの頭のキレる冒険者。その彼、一海が悪魔も殺せるほどの眼光で睨みついているのに対し、彼女は固まるしかなかった。
あれ?! 何故一海がここに?!
良ければ感想、評価、いいね、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。
面白いと感じたら気楽にお願いします。





