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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
39/53

マルチレベルマーケティングの氾濫

 とある日の朝の出来事だ。生活のルーティンに加わった食材の買い出しに街をぶらついていた時の話だ。

 八百屋と言えば良いのだろうか。いつも伺っている戸建の一階が開放的になって外にまで陳列している食材屋で買い物をしていた。


帰ろうとすると、そのおじさんから「勇者の兄ちゃん」と珍しく声をかけられた。


 俺としては不思議だった。その肩書きをひけらかしにしているわけでもなければ、腫れ物に近い存在の為酒場で呼ばれる以外その名で呼ばれることがないからだ。


「何で俺のことを?」


「家のバカ息子、騎士目指して冒険者やってんだよ。一回スライムと戦ってる時に助けたことがあるって」


 それを聞いて思い出したのはたまーに酒場で話しかけてくれた、俺と同じ身長170ほどの槍を使う若者だった。

 カメレオンの襲撃より前に2人で苦戦している時に助けてくれた男がいた。数は少ないが一緒に飲み食いもした。


「ああ、あの戦士の!? それで、どうされたんですか?」


「あいつが妙ちくりんな物勧めてきやがってな。これからの時代は二足の靴を履かないと生活できないだの変なことも言っててなあ……これなんだけどよお」


 裏から話しながらそれを探り見つけると俺に近寄り握り拳を差し出した。

 手を受け皿にして貰い確認する。

 妙な既視感に悩み続け、考えるが思い出せない。


「よくわかんねえけど、値の張る物らしくてな。なんでも、不思議な力を持ってるネックレスらしい」


 その言葉に気付きあの嵐の様なひと時を思い出しピンと来た。

 ああ、このネックレスはあの時売られかけた物と瓜二つだ。


「……おじさん、これどこで手に入れたか聞いてます?」


 暫くおじさんは天井を見て考えに耽る。そして思い当たって欲しくない心当たりに感づくと教えてくれた。


「ああそうだ、あいつ妙に浮かれててよお。あんな別嬪(べっぴん)見たことねえとか、神は居たとか言ってな」


 別嬪。


「商売の仕方も教えてくれて、これを赤字覚悟で買わせてくれたって。3000Eとか言ってたかなあ」


 値段が吊り上がっている。


「しかし兄ちゃんの反応からすると本当に力があるみてえだなあ。俺も息子伝いで教えてもらおうかな。はー、俺も手取り足取り教えてくんねえかなあ……(うるわ)しのシスターさんに」


 ……ああ、成程。全部察しました。

 あの時俺が問い詰めた時の言葉で完成してしまったんだ。最悪の騙しのテクが。

 やっちまった。どうしようか。


 そう考えが巡りながら一番初めに導き出した答えは。


「……おじさん、それいくらで売ってくれます?」


 罪滅ぼしだった。






ーーーーーー






 ガラテンは動揺しながら酒場の席に座っている。


 理由と言っても彼が理解できていないのだが、今日、鞄を買う為に商店街の通路を歩いていると、店から袋を抱えて出てきた一海を発見した。


 その時に「おおブラザー!」といつもの様に話しかけると、立ち止まり彼は悲しそうな顔をしてガラテンを眺める。

 その時に奇妙な雰囲気を感じ取ったが、それが何か理解できず見つめ合った時間だけが過ぎる。


「……どうした?」


 様子のおかしさを訊ねた時には遅かったらしい。涙を流して一海の起こした行動は、


「ヘーーーーーーーールプ!! ヘルプミーガラテーーーーーーーーン!! エマージェンシー、エマージェンシーコールだガラテーーーーン!!」


 手持ちの紙袋を投げ捨て大声で叫びながら大男に泣きついた。

 思わずガラテンも暫くテンパるが何とか取り乱し勇者を落ち着かせ、彼の要望通りミカも呼び酒場で緊急会議が開かれた。


 円卓にガラテン、その真向かいに一海、ミカは逆コの字の位置に座っている。

 そして円卓の中心には例のペンダントが置かれている。


「……これがどうかしたのか?」


 全く情報のないガラテンに一海は膝をつき指を絡め橋を作り、上層部のポーズを取りながら説明する。


「……最近よく聞く儲け話の事を知ってるか?」


「ああ、あれなあ。ここでよく飲む奴も言ってたよ。人に売って広めろって奴。提供者に少し返さなきゃいけないらしいけど儲かるって」


(くそ……本格的にマルチになってしまってる)


 物凄い剣幕でその情報を聞き、かなーーり複雑な心境の一海にガラテンは言葉を続けた。


「……まさか緊急事態って金策の話じゃないだろうな?」


「そんな楽観的な話じゃない。……なあガラテン。お前この話聞いてどう思う?」


 あごに指を置いて思案する。そしてガラテンは回答する。


「凄いなとは思ったが、正直半信半疑でな。教えてきた奴も凄い剣幕だから断ったよ」


「お前本当に頭良いよな……そう、実は詐欺なんだよ」


「お、おいおい一海。疑問だっただけで決めつけてはねえ」


 慌てて弁明する大男だが、その勘違いに首を振って応対する。


「いや、これは本当にそうなんだ。俺はこれが詐欺だと知っている」


「実は私たち、これと似た手口で話しかけられたんです。」


「何だって?」


 ガラテンに話しかけていたミカは一海に向かって問いかける。


「そういえば、この詐欺ってどんな仕組みなんです? わたしたちの時ってこんな大事になる様なやり方じゃないですよね?」


 そう聞くとうーんと唸り、勇者はどう伝えようか長考する。


「仕組みにも問題はなく、数は限りない。しかし別で限りがあると崩れるのはなーんだ?」


「なぞなぞかよ」


 彼女は間を置いて閃く。


「……もしかして『人』ですか?」


「正解。この手口は、一見何の変哲もない名案なんだが供給数を考えてない。無限に増え続ける数に追いつかないから後に入る奴は損しかしないんだ」


「成程、違和感はそれだったか。……だが、他の人間もそこそこ得するよな? それに広めた奴が広めた分は自分の利にならないし」


「一番狡いのは、広まろうがなかろうが自分が騙した分に関してだけはプラス収支なんだよ。その後に続いた奴が持ってくる金は追加報酬。鴨がネギしょってやって来るだけ」


 一海の説明に対し二人は簡単な声を上げ理解する。


「その、『カモ』と『ネギ』は分かんないですけど、確かにそれなら問題ないですね。いざとなればずらかれば良いですし」


「一海名詞はいつもの事だろ。だが、止める理由は何だ。勇者的な話か?」


 いよいよ自分の出すこの世にない名前に対し、一海名詞と名前が付き始めたことに遺憾を感じ彼は苦虫を噛み潰した。

 そして、一連の事件を抑止(よくし)する理由を語る為卓の中心に顔を寄せ小声で話す。


「この騙しが流行った理由が、俺の言葉のせいで産まれたかもしれないんだ。あの銭ゲバシスターの事だ。トンズラしたり捕まりかけた時に黒幕で俺の名を囮にするはずだ。じゃないとこの街に二度と来れなくなるからな」


「成程、その前に捕まえたいって事だな。がってんだ!」


 大男は心臓に拳を当てて了承した。

 魔法使いも一つ笑顔で返した。


「でもどうしましょう。ギアの街って貴族がいるくらいには広いですよ? もう逃げてる可能性とかもですし」


「可能性としてまだ街にはいると思う。あの女の性格的にギリギリまで搾り取るはずだ。だから明日には捕まえたい所だが……」


 その時、聞き覚えのある女性の声が一海たちを呼ぶ。その方向を見るとナナミが歩み寄って来た。


「ナナミさん、どうしたんですか?」


「ねえ、今忙しい? 手伝って欲しいことがあって」


「すまないナナミ、実はこっちも立て込んでるんだ」


 ガラテンの断りに残念な顔をするナナミだが、その後テーブルの上のネックレスを見て焦った顔をする。


「……もしかして、そのネックレスの犯人を探してる!?」


「そうですけどどうしてそれを?」


 一海がそれを不思議そうに聞く。

 そして嬉しそうに、しかし焦っているのか突っかかりながら要件を言う。


「実は私もなの!!」


 この展開に関しては俺たちは想像することはできなかった。

まさかまさかの大捕物に発展?!


良ければ感想、評価、いいね、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

面白いと感じたら気楽にお願いします。

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