そのシスター、銭ゲバにつき
テントの中に入った俺には、お金の準備と称しもう一つだけ気になることがあってここに来た。
残念ながらこの世界の知識だとか常識のない自分からしてみれば、何に気をつけなければいけないのかなど全く分からない。
人の行動習性や思考回路に関しては作品制作に関わっていた関係で想像力や直感で読める事も多いのだが、こと世界情勢や物の性質、体感したことのない貧富による行動理念に関してはそれで補えない。
だから俺はこっそりと相談できる先輩に聞くことにした。
俺は置いてあった剣の鞘をノックするようにコンコンと鳴らした。
「聞いても良いか?」
『――――なんでしょう』
反応を確認すると、那由多を手に持ち入口の隙間からこっそり覗かせる。
シスターとミカが売り物に関して他愛のない話で和気藹々としている。
「あの女性の手にあるアクセサリーに不思議な力があるらしいんだけど分かるか?」
静かに答えを待ち、その結果は。
『ーーーーご冗談を』
やはりそうか。
最悪の想定通りシスターは騙されている。
なら俺の回答は原価では買えないという交渉をするしかない。
俺も困ってる人は見逃せないが自分の経済状況を捨ててでも顧みる程お人好しでもない。
だからせめて安い値段で買うという形に持っていくことにしよう。
そう決めて資金を持ち外に出る。
「すみません。お待たせしました」
「いえいえ、こちらこそ申し訳ございません」
彼女の一言を聞き、元いた場所に座る。
「単刀直入にお伝えします。俺の所もあまりお金はありません。その上そのネックレスに力が込められている確信も持てません。だからこちらとしてもそのお値段で買うには抵抗があります」
そう伝えるとシスターは悲しそうな顔をした。
「やはりそうですよね……。薄々感じておりました。騙されているのではないかと。……ごめんなさい見ず知らずの貴方たちに無礼なことをしてしまって。そろそろ私も去らせていただきます」
「ま、待ってください!」
立ち退く準備をし始めた彼女を止める。
「……500Eならどうですか? それくらいなら仮に力が篭ってなくても困ってる貴方を助けたと誤魔化せる。だからそれで手を打ちませんか?」
旅をするには少ないが、少なくともこれくらいなら今日路頭に迷う事もない。
これで彼女は納得してくれるだろうか。
「なら……」
よし、これで応じてくれそうだ。何とか良い感じに。
「なら900でこれも買っていただけませんか?!」
泣き声をあげながらカバンから取り出したのは全く同じそれを4つ程出してきた。
『ええ?!』
俺たちが驚くのも無理はない。
そこには地に伏せ必死に懇願する僧侶の姿。
先程の粛々とした神々しさが一気に陥落したのだから。
「5つあるんです?! 何で?!」
「前の街で野蛮そうな方々に絡まれて、買わないなら体で払えって!」
ミカの疑問に対しそう答えたシスターにほんの少しだけ同情した。
「くっ……ふざけた野蛮人共だな」
「どうかお願いします! 2000Eの価値はないでしょうが全部売れば払った値段は還元できるかもしれません。もし本物ならお得な値段になります! ご友人とかに販売すればバックもあるかもしれませんので。どうか、神に御慈悲をーー!」
そう言いながら彼女は両手で顔を覆い泣き喚いた。
「一海、流石に可哀想です!」
「ああわかった。900Eで購入……するかボケェ!!」
『ええぇ?!』
彼女たちは俺が払いそうな流れだったのに暴言まで吐き捨て拒んだのを驚いたが、俺からしたらまともな理由がいくつかあった。
そしてあえて荒ぶった行動をしたことにより相手の嘘が一つ露呈する。
「ゴロツキに無理矢理買わされてる時点で高くないに決まってるだろ! あとやっぱり嘘泣きだったなお前!」
「ええ?!」
「しまった!」
驚いた拍子に覆っていた手が離れた顔を指さし指摘する。
そう。彼女の発言の矛盾とさっきから仕草がおかしかったのがまず原因だ。
先程から他に伏せてお願いしたり、泣く時はそっぽ向くか両手で顔を隠し大声で叫んでいる。
まるで泣いてる顔を見られたくないようにしている。
こんな状況でそれをするなんてまるで泣き落とし。同情で買わせようとしたと思うしかない。
あと彼女の矛盾だ。ゴロツキに脅されて買ったものが高いわけない。その上さらに気になるのはこいつは利益還元の話を持ち出して乗り切ろうとしたことだ。
「利益還元の話で推して知人に売らせようとしてるし。ほぼマルチなんだよ! 物自体補給できたら無限連鎖講なんだよ!」
そうなのだ。払えない金額ではないということと、連鎖させて儲けようとしてないだけ遥かにマシなだけのマルチ商法なのだ。
大元なのか末端なのか分からないし、騙す気だったのか本気で信じているか確証もないが、俺たちは被害に遭いかけたという事実だけは避けられなかった。
そして俺の言葉を聞きペテン師は神妙な顔をして呟いた。
「物がいっぱいあったら……あなた天才?」
「そこまで思いついたなら思いつけよ! てか初めから詐欺目的かい!」
何てこった。どうやら服をはだけさせると出てきたのは天使ではなく悪魔の羽。それもサタンの翼だったらしい。
「いや、本当に休ませてもらおうと思って。ついでに資金繰りしただけよ」
「呼吸の様に人を騙すなぁ!……全く教徒のフリして騙しとか、この世界どうなってんだよ」
「え、シスターは本職よ?」
「この世界どうなってんだよ!! 銭ゲバシスター入信させてんじゃねえ!!」
「あの……どうしてこんな事を?」
「お金が欲しいからだけど」
ミカが理解できない様な表情で問う。
それに対して飄々と腕を組み答える。
「え……それだけですか?」
「当たり前じゃない。世の中全て金が解決するの。楽に暮らすのも、服も食べ物も、揉め事さえお金で解決できるのに。持たずに死ぬなんて、あたしはごめんよ」
「それじゃあ、自分が生きる為なら何をしても良いんですか!?」
「逆に聞くけど、魔物に襲われたら抵抗しないの? 人殺しに遭ったら逃げないの? 悪漢に捕まったら……もしかしてそういう趣味だったりする?」
「あるもんか!!」
「アハハ、意外と物知りね。まあそういうことよ。あたしは生きる為に必要なお金をどんな手でも多く持っていたい。ただそれだけなの。……楽をして暮らせるだけのね」
これは酷い。
他人を食い物にしてまで金に執着する守銭奴でもここまで酷いのはレアである。
まあ価値観が違ったり極端なのは良くないが最悪いい。
金が大事だという内容は間違いではないからだ。
ただ問題は、それを本職の教徒が言ってるんだから尚更酷い。
禁欲という概念をまるきり放り投げ欲まみれに生きてるのが一番良くない。
何はともあれ放っておけない。
「じゃあ、そんな楽される前にしょっぴく事にしようか」
「あら残念。頭がキレる人とは仲良くしたかったんだけどここまでみたいね。あたしのお仕事も失敗したし、これで失礼させてもらうわ」
彼女は自分のリュックの紐を手に持ち、空いている右手を腰のポケットに突っ込んだ。
「余裕だな。逃げれると思ってるのか?」
「逆よ。逃げれるから余裕なのよ。それじゃあ……〘ホーリーライト〙!」
ポケットから出し、天に掲げたその手に持つのは銀のロザリオ。
そして魔法を唱えるとそこから眩い光が視界を包み俺とミカは怯んだ。
閃光が発し終わると銭ゲバシスターのいた場所に彼女の姿はなく遠くにもそれらしき影は見当たらなかった。
「逃げられましたね」
「破茶滅茶だなあ……立てばシスター、話せばペテン師、逃げる姿は大泥棒。とはな」
嵐の様なひと時に、ドッと疲れたことは言うまでもない。
何て銭ゲバなシスターなんだ……!
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