ガラテン・サーズボルトは動じなさ過ぎる
初見の為の補足
ウルフェン……小型の魔物。狼に似た生物。この世界では狼事態は存在しないので、「男は狼」という言葉も隠喩でウルフェンが使われる。
木陰から飛び出したそれは大きな口を開きながら空中を舞い牙を立てる。
狙った方向は俺だった。
身構えていたのだが、死角からの攻撃はやはりまだ早さというものに追いつけず回避しか判断できない。
横に回転し屈んだ状態で態勢を立て直す。
「出たなワンちゃん……!」
姿が見えていれば何とか対応は出来る。当てるかどうかは別としてだ。
眼光の威圧でギロリと睨みつける。あのウルフェンも負けじとこちらを睨む。
ただ、その膠着状態は長く続かなかった。
もう一匹木陰から飛び出したウルフェンがガラテンの左足に嚙みついた。
「ガラテンさん!!」
ガラテンは声も上げずそのまま動じない。
その攻撃に反応した初めの一匹も俺たちの戦闘要員を一人早急に潰すために大男に向かい走り出した。
こちらへの攻撃を対処しようと専念してた為反応が遅れて行動を許してしまう。
「しまった!?」
牙は右腕に向かって伸び、喰らいつかれる。
それでも彼は何も動じず、喚きもしない。
『――――一海、早く!』
「分かってる。くそ、何とかしないと!」
狼たちは必死に喰らいつく。早くくたばれと言わんばかりに。
俺は早急に一番近くの右腕に噛みついた奴に目掛けて剣を振るう。
しかし攻撃に気づかれ噛みつきをキャンセルし距離を取られた。
その状況に感づいた左足のもう一匹も攻撃を止める。
「大丈夫ですか!?」
そう聞いても応答がない。まさか弁慶みたいに立ったまま気絶してたりするか!?
すると、
「ハッ…!? だ、大丈夫だ。構わず盾にしろ」
「でもガラテンさん!!」
「良いから! それが最善だ」
かなり深く嚙まれていたがとりあえず大丈夫そうで安心した。
……だが何だろう。引っかかりが残った。
ガラテンの動きに違和感を覚えた。
口に表すことのできない何かが喉のイガイガを作った。
だが今はそんな疑問に構っている余裕もない。どうやって倒すかが問題だった。
そしてまた狼は噛みつきに俺に向かってやって来る。
その距離なら力を使って横に薙ぎ払えば当てれるかと思い、煌々と輝かせ射程の伸びた一撃をお見舞いした。
しかし相手は何かを察して高くジャンプし俺の顔面に飛びついた。
勘づいて薙ぎ払った動作から直ぐさま屈み前転する。
回避には成功した。しかし。
「しまった、ガラテンさん!」
そのまま軽やかにガラテンに向かって噛みつく。またもや右腕にがぶりつく。
そして魔力玉から逃げていたもう一匹も左足に噛みつき、デジャヴと言われてもおかしくないくらい先程と同じ状況が完成する。
「クソ! またか、よ……」
この瞬間、謎の引っかかりが何か分かった気がした。
そういえばあの人、この戦いで動いたか?
噛まれて動じないのは凄いけど、普通攻撃とか喰らった時って「グッ」とか言いそうな気がするし、何より彼は反撃しない。
何故だ?
分からない。よく分からぬ疑問が解決しても理由だけは理解できない。
何だろう。どうしてもスッとしない。
この瞬間、俺が悪魔と思われても仕方のない発想が過ってしまう。
『――――どうしたんです! 早く!』
「一海! 何故動かないんです!?」
ミカと那由多からの問いかけに俺は外道の答えで返す。
「待ってくれ。少しだけ様子を見させてくれ」
「ええ!?」 『――――ええ!?』
ミカと那由多の声がハミングする。
「正気ですか!?」
『――――気でも狂ってしまったのですか!?』
「すまない!……だけど何か様子が変なんだ! 少しだけ時間をくれ!!」
何だこの違和感は?
早くその正体を見つけないと。
まず気になる所は……噛まれた部位。流血が少ない気がする。
二度噛まれている。それも長時間だ。なのに傷が少ないな。
いや、確かに傷は少ないがそれはこの違和感と関係ないな。
だとしたら……やはり動きか。全く動じなさ過ぎる。
普通人間、いや生物だってそうだ。
治療なんてできなくても森羅万象は抵抗する。
それを全く行わない。
声を上げないのは男の矜持なのかもしれない。でも無抵抗でダメージを負い続けるのはただのバカだ。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
初めて声を上げた。
おかしい。抵抗するんだったらもう少し早くやればいいものだ。
だのにある程度噛まれ続けた今叫んだ。
それも痛みとかじゃなく振り切ろうとする気張り方だ。
だがそれでも彼の体は動かない。
狼たちも噛み続けたままだ。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
ガラテンは動かず噛まれている。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
ガラテンは動かず噛まれている。
「うおーーーーーーーーーーー!!」
……ガラテンは動かず噛まれている!!
何だこの光景は!?
さっきまで殺伐としたバトルをしていたのに俺の悪魔的観察のせいで新喜劇を作り上げてしまった!!
ただのギャグだ!
真剣勝負のはずなのに!!
何なのだ!
どういうことなのだ!
全く意味が分からんぞ!!
だがこれで謎の引っかかりの正体だけは分かった。
これが恐らくガラテンのリハビリなのだ!
今の俺には到底知るよしのない事態が起こっているがこの不思議な硬直がガラテン・サーズボルトの悩みなのだ!!
だとすると分かったのは、あいつの言った助言が全部本気で何か理由があるからだ!
とすれば、俺たちのするべきことは……
「ミカ! ガラテンごと撃て!!」
「え、ええ!?」
謎の空間にたじろいでいた彼女が更に意味不明な命令で困惑する。
そりゃそうだよな。指示した俺が分かってないもん。
でも彼女にしか頼めないことだ。俺も嫌だが言うしかない。
「でもガラテンさんはどうなるんですか!?」
「とにかく撃ってくれ! じゃないとあいつがやばいかもしれない!!」
「ん~~……ああもう分かりました! 変なことになっても知らないですからね!!」
苦渋の決断の末、持っている木製の大杖の先端を狼どもに多く当たる場所に目掛け向ける。
先端付近に少しづつオリジンが溜まり一つの球体をこねあげる。
彼女の成長は素晴らしいものだった。
魔漏の一件で呪文の習得は先送りになってたものの、魔力玉の生成に関しては練習を怠っていなかった。
だから作成の仕方だけはかなり上達していて、時間はかかるが大きな魔力を圧縮して小さく打つことも出来るようになっていた。
それをやってるからだろう。魔力玉は大きくなっては縮小。大きくなっては縮小をくりかえしていた。
「出来るだけ……当たらないように……はあ!!」
攻撃はかなりのスピードで飛んでいき、見事最前にいるウルフェンに直撃する。
しかしかなりの魔力を圧縮したからか、そこから大きな衝撃が発生し周りに土煙が勢いよく舞う。
「しまった、溜め過ぎたかも! ガラテンさん! ガラテンさん!!」
彼女は思っている以上の衝撃が発生して焦りが止まらなくなる。
俺もここまで強力な一撃が出るとは思っておらず、土煙舞うその中の男の姿を必死に目で探す。
狼の死体は転がっている。おまけに2匹だ。
だが倒せた事実より今は大男の安否確認だ。
次第に晴れる景色の中には正しく弁慶の様に立ちふさがる男の姿。
だがもし話の様に、立ちながら死なれて、どっちの意味でも弁慶になられていてはそれはそれで困る。
「ガラテン! しっかりしろ!!……ガラテンさん!!」
そしてそこにいるガラテンの肩を揺すり起きるか試みる。
「は!?……お前ら大丈夫か!?」
「……ガラテンさん!!」
閉じていた両目がバッと開き俺たちに状況を訪ねてきた。
ミカは自分が配分をミスったせいもあってかなり心配そうに駆け寄り、無事と分かると安堵の為胸に手を置いた。
良かった。命に支障はないみたいだ。
「良かったー……じゃねえ! ガラテンさん! そういえば俺らリハビリの事情詳しく聞けてないんですよ!!」
思わずこのちんちくりんな騒動の原因のせいでてんやわんやしたのは事実だった為思わず口にしてしまった。
「あーー……悪いなブラザー。こんなに早く出くわすと思ってなかったんだ」
「全くですよ! あとでゆっくり聞かせてもらいますよ!」
男はアハハと小さく気まずそうに笑う。
何はともあれ、とりあえず戦闘は片付いた。後はじっくり事情を聞くだけだ。
彼の奇行の原因とは?
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