王都コルタナ第二騎士団団長:ガラテン・サーズボルトの野望
※初見さんの補足。
陰属性……この世界の魔法は、火、水氷、雷、地、風の5属性に陰陽の2種類の計7種類がある。
歩き始めて数十分程。森の中の泉の近くまで到着する。
言葉にするのが難しいが、光と影のコントラストが絶妙で色鮮やかで、神秘的な場所だった。
泉の縁の近くに聳え立つ一本の木にガラテンは背を向け座る。
「いやあ、それにしても嬢ちゃん本当に魔法を使える様になっていたんだなあ。バッチリ効いたぜ」
「えへへ、それほどでも……」
「いや、バッチリ効いてないっすよね」
俺が耐え切れず突っ込んだのには理由が有った。
ウルフェン2頭の戦闘後の道中、もう一体だけウルフェンと出くわしたのだが、何とまあビックリするほどに早く戦闘が片付いた。
勿論先程行ったガラテンをおとりにしてミカの魔力玉で倒す戦法でだ。それであっさり依頼は完了。
あんだけ苦戦したのが嘘みたいだった。
そして俺がガラテンに言いたいのは、この人かなり強めの一撃を喰らって平然としてる所だ。
あのカメレオンが膝まづくレベルの火力より深くウルフェンに噛まれたはずの小さな傷の方が痛そうに見えるのはおかしい。
まあ、そもそもその噛み傷も小さく済んでいる時点で違和感しかないのだが。
「何であれ受けてピンピンしてるんですか……」
何が面白いのか笑い飛ばす大男。
「まあそう焦んなよ一海。俺のリハビリも込めてまとめて話してやる」
「……纏めて?」
身の回りの装備を取っ払い、紫色の布製の上着に手をかけ脱衣するガラテン。
目に映ったのは想像だにしていない酷いものだった。
俺たちは驚愕を隠せなかった。ミカに至っては言葉が漏れる。
「!? 酷い……何ですかその痣は?!」
彼の左腹部には大きな傷跡。まあ、それだけならまだ戦士の傷で済んだ。
問題はその傷跡から伸びる荒れ地のひび割れの様に刻まれたヒビと、魔方陣とか、お札とかに書かれている草書体の様な刻印。それらが黒く、茶色より汚らしい濁色を彩らせテカる。
雰囲気だけで理解する。まがまがしい雰囲気を。警鐘を鳴らす。触れてはいけないとまではいかないが、近づくなと。
害はないにしても、死を感じるものだと。
「こいつはな、呪いだ。死の呪い。掛かってからもう9年も経ってる」
「9年って……死の呪いなのに生きていられるんですか?」
「当然無理だ。何故ならこれにかかった奴は俺以外死んじまってるんだから」
確実に死に至る呪いだって?
矛盾しかない。なら何故彼は生きれている?
「信じられないだろうなあ。だがこれを言えば皆分かる。この傷は王都コルタナで騎士団長として負った傷だからな」
「騎士団長だったんですか?」
俺からしてみればこの世界の情勢がわからない今聞いても理解はできない。
だがミカにはピンと来たのだろう。俺にも分かるように続けて動揺する。
「コルタナ領騎士団長?! まさかそれ絶望病なんですか?!」
「絶望病……? コルタナって言うとヘルタッド領の隣国ですよね?」
「知らないんですか?! 亡国コルタナの悲劇を!?」
亡国コルタナ……そういえばこの世界に来て資料漁りをした時に見たな。確かとある魔物によって一日で領国が滅んだって。
まさかあの伝記でありそうな話が史実なのか?
「あまり知識のない私でさえ魔人『絶望王』の話は有名ですよ!……レンカの実といい結構トンチンカンなんですね、一海って」
やめてくれ、その言葉は地味に効く。流石に急遽転移してきた俺に可愛らしく言われても響く。
「まあそう言うことだ。俺はその時のウルトラレアな生き残りってわけだ。その時に受けた呪いだ。そして何故か生きてる」
「でも何故なんでしょうね」
自分で何故かと言っておきながら彼は答えを知っているようだった。
俺の言った言葉に少しニヤッとして言葉を続ける
「まあ理由は分かってるんだ。姉ちゃんに調べてもらったからな。姉さんによく魔法の実験台にされてたんだ」
複雑な表情にしか出来なかった。何か、想像がしやすくて困る。この世界のよくある兄弟問題みたいな感じで。
ガラテンの苦い表情から察して俺も苦虫を噛み潰した。
多分本当はあまり姉さんと固く言いたくもないのだろうな。
「ただ、そのおかげ……いや、せいもあって俺は魔法が効かない体質になったんだ」
「……どのくらいですか?」
「100%だ」
『100ゥ?!』
思ってる以上の数値だった。驚くのも無理はない
「スゲエだろ? 有害な魔法に関しては全く受けない様な体になってたんだ。そのおかげもあったからか俺は戦場では無敗。『不滅のガラテン』なんて異名もついていたからな」
「……異名付きですか」
まさかの怪物ときた。凄すぎるぞこの人。
……でも分からない。それならもう一つ疑問が浮かぶ。
リハビリに関して矛盾が生じる。
「でも、話してくれたって事はリハビリに関係するんですよね? おかしくないですか?」
「確かにそうですよね……何が起こってるんです?」
すると大男は悩みながら言葉を紡いだ。
「言い方も困るんだが。ざっくり言うと俺が100%なら、あいつの呪いは120あるって感じだ。小さい効果までは消しきれてないんだ」
なるほど。肝心な要素を100と仮定したら小さい物をオーバーフローさせて計算してるんだな。
だとすると症状を聞かないと始まらない。
「どういう害があるんですか?」
「本来の呪いの力は『絶望する』だ」
「……あんまり分からないですね」
正直な感想を述べたらガラテンは笑った。
「まあそうだろうな。だがこいつは存在する力で一番味わいたくないぞ。発狂した状態が永遠に続く。……生きる事に絶望している状態からどうやっても抜け出せないんだ」
言う言葉が見つからない。それはゾッとしたのか。はたまたまだ理解しきれてないからか。俺もミカも感じた事だ。
「……それで死にたくなるものな」
「死ぬさ簡単に。魔物を見れば怖さで竦む。暴れる。泣きわめく。状況なんてお構いなしに逃亡する! そんな状態で逃げる以外起これば魔物の餌。そうじゃなくても毎日重しになるんだ。首を吊りたいと! 溺れ死にたいと!……俺はそんな状態から、『絶望する心理』をカットしてるんだ」
食いついて答えられた彼の解答は俺たちを絶句させるにはあまりにも明確だった。
そのあまりの凄惨な効力に言葉を失う。
「まあそう暗い顔するな。この9年間で今は『暴れる事と逃げる事』だけは制御できるように努力できた。そこまで制御できるなら完全には無理でも最低限の制御はできるかもしれない。……俺は少しでも戦闘で動けるようになるようになりたいんだ」
この人の執念は何だ?
何がそうさせている?
つまりこの人の目標は、ゲームで見かけた何が起こるか分からない呪文と同じ理屈の状態異常の回復がしたいって事か?
幾らなんでも無謀すぎる。そんなの治せるのか?
「いくら何でも無謀すぎます!……その呪いは治せないんですか? 陰属性なら治す可能性もあるんじゃないですか?!」
ミカの言う通りだ。魔法なら呪いを解くなんて探し続ければ可能性だって。
ナナミさんの話では、陰属性の魔法は呪いとか状態異常に関する物らしい。だから解呪の方法だって!
「無理だと分かってるんだ。姉さんに聞くと、魔力だけど魔法じゃない物らしい。つまりこれは俺たちの技術じゃ治せない本物の呪いだ」
……凄いお姉さんだという感想を抱くと共に、どうしようもない事実だけが泉に漂った。
「……分かってるんだ。俺の人生は長くない。だからといってこのまま死ぬなんてこともできない。俺はこの命尽きるまで、奴と決着をつけねばならない。王都コルタナ第二騎士団団長:ガラテン・サーズボルトは、第一騎士団団長:ティルグリム・オディナを殺さなければいけないんだ」
あの明るく元気に接してくれた優男ガラテン。その彼の目が一番冷たく燃えたのを俺は覚えている。
彼が背負った宿命は大きい。
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