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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
28/53

解決の糸口は突然に

 その日、我ら勇者隊一行に新たな悩みが舞い込んでいた。

 いや、少し詳しく伝えると数日前に受けたギアの街から西にある泉の森での依頼が原因で俺たちは大きなため息をつかざるを得なかった。


 簡潔に言えば調子に乗ってしまったのだ。

 あの爬虫類と戦って以来、俺たちはセルスライムなら優に戦えるようになっていた。

 強い敵と戦うという経験がここまで人を強くさせるのかと歓喜し、そのテンションが絶好にハイな状態のときにあった小型討伐依頼、ウルフェンの討伐の紙を見つけてしまったのが運の尽きだった。

 要はそのウルフェンに手も足も出ず困っていた。


 手も足も出ないというのは本当にその言葉通りだ。攻撃なんて殆ど当たらなかった。

 そしてそれまで何をしてたのか。誰もが疑問を持つことだろう。


 戦う。ワンサイドされる。全力疾走。 

 そしてそれを1日中繰り返す。

 

 それを何日かに渡って行ったが成果が出ず只々日が過ぎた。


 だからこうして夜の酒場で二人で辛気臭く食事をする羽目になっている。


「何であの時倒せたんだろうな……」


「何でなんでしょうね……」


 しばらくの沈黙。


「あんな素早かったですかね」


「……わからねえ」


「私、最低限の戦力になったと思ったのにな……一発も……当たらなかったなぁ」


『はぁ~~』


 お互いの口から黒い瘴気が出そうなほどのため息を大きく吐いた。


 そんな負の感情に満ちた一席に向かい、木の床を軋ませ歩み寄ってくる男の影が一つあった。


「おやおや勇者御一行。そんなに楽しそうにドンチャン騒ぎしてよ!」


 その声に気付き俺たちは声の鳴る方向に顔を向けると、いつぞやのいかついゴロツキの様な見た目の優しい剛力、ガラテンが隣に立っていた。


「ドンチャン騒いでるように見えます?」


「ああ、意気揚々としてる所本当に腰を折って悪いんだが、アントン達見なかったか?」


 何の悪気もなく、あくどい言い方でもなく、ただ周りを明るくさせる様に。いつも通り冗談を交えてくる。

 本当に読めない人だ。


 ただ何故レクサンデルへ旅立ったアントンを探してるのか。

 もう旅立ってから二週間ほど経っているのに。

 等と思っていたが、少し考えて思い出すことが出来た。

 この人は確かあいつらが出張に行く前に長い事離れてたんだよな。

 だったら知らないのも無理ないかと思い説明する。


「アントン達はレクサンデルに向かいましたよ。まだもうしばらく帰ってきません」


「そうなのか!? 出払ってたから見なかったんだな」


「……そういえばガラテンさんも出払ってたんですよね。どこ行ってたんですか?」


「姉さんにあって来てたんだ」


「弟だったんですね。意外です」


 ミカはかなり気だるげに話すが意外だったようで顔には出てなかったが驚いていた。


「ああ。ちょっと魔導書を読ませてもらってたんだ」


「魔導書……? 何か覚えるつもりなんです?」


「ただの調べものだ。あんま気にするな」


 調べものの為だけに足を運ぶなんて律儀だな。

 やっぱりこの人は見た目と言動が反していて、何故か聞いていて躓くような感覚に陥るんだよな。

 突っかかりが消えないというべきか何というか。

 ただ一つ疑問が残るのでそれだけはぶつけて聞いてみる。


「でもそれなら魔道具店とかじゃダメなんですか?」


「多分そんじょそこらの魔道具店よりも家の姉さんに聞いた方が早いからな。魔術マニアみたいな感じだし」


「なるほど」


 魔術マニアか。確かにオタクみたいな知識量だと下手するとそういった店より詳しいし品揃えも良かったりする。

 人柄まで読めなければ家族もそんな感じで想像がつかないな。


 ……魔術マニアか。本当に何でも知ってたりしてな。


「そしたら、魔漏の事とかも詳しかったりして。ハハハ!」


 俺はまた無意識にそんな事を口走ってしまう。

 隣で彼女がブルっと一瞬震える。恐らく俺の言葉に反応したのを堪えたのだろう。

 そして横目でギロッと睨んでくる。ごめんって。そんなに睨まないでくれ。

 彼女の怒りを何とか流せないかと俺はあえて高笑いする。 


「そりゃ詳しいに決まってるだろ! ハッハッハッハッハ!」


 お互いの高笑いが酒場に響く。時と場と自分の感情さえも無視して大きな声でちょっと待って今何て言った?


「ガラテンさん。今何て?」


「え、当たり前だろ。って」


「何が当たり前って?」


「え、そりゃ魔漏について詳しいって」


 無が流れた。周りの喧騒だけがしばらく響き俺たちは硬直した。

 そして、時が動き出すように。流れが元に戻る。


『知ってるんですか!?』


 あまりに衝撃的な内容に俺たちは思わず相手の顔面目掛けてのめり込み尋問する。


「うぉお!? どうしたお前ら!?」


「お姉さんは何でそれを知ってるんですか!?」


「魔術マニアさんは治し方について知ってたりするんですか!? 何かいい方法を知らないですか!?」


「おいおい落ち着けってお前ら!!」


 突然の入れ食い状態の質問に只々たじろぐガラテンだった。







――――――







「なるほどなあ。嬢ちゃん魔法が使えないんじゃなくて燃料が空だったのか」


 事の内容をテーブル席に座りながら全て隠さずスキンヘッドの男に暴露した。

 それに対しどういった反応もなく、淡々と、冷静に、深刻な顔でまともに聞いてくれ、事態の重大さを理解しながら答えてくれた。


「レクサンデルとかヘルタッドとか大国になるとそういう人間はちらほらいるんだがそこまでの規模は初めてだ」


「意外といるんですね」


 自分以外の同族を見たことがないせいか彼女は実感のないようにそう答える。


「あてにはするな。俺の都合で多く見かけたってだけだ。俺の姉さんがそもそも魔漏だったからな」


「お姉さんもそうだったんですか?」


「ああ、知ってる中じゃ俺の姉さんが一番酷い。死属性魔法だったからな。飼ってた犬が死んでなかったら家族全員死んでたな!」


 物騒過ぎる属性の魔法が出てきた。状況によってはミカより酷いものを炸裂させてるじゃねえか。

 笑えるわけのない話で高笑いを決めているがメンタルが凄すぎるなこの人は。


「……よく笑えてますね」


「生きてるからな。それに全部が全部直ぐ死ぬような魔法じゃなかったし、何より物損被害とか周りの迷惑も掛からない物だった。そう考えると嬢ちゃんの方がよっぽど辛い」


 まあ確かに被害はないっちゃないけども。でもそう考えると如何にミカの状況が最悪だったのかが身に染みてくる。


「にしても、俺がいてホントに良かったな。お前らそんな状況じゃ王都にさえ行けなかったじゃねえか。」


「それじゃあ治せるんですか!?」


 とんとん拍子に話が進んでしまい思わず声を張り上げる。

 俺のデリカシーのない発言のせいではあったが、まさかこんな形で早く事が解決するなんて。

 これでようやっと彼女を仲間として連れだせることが出来る訳だ。


 思わず笑みを隠せないままミカの方を見る。そしたら彼女も隠せないままこちらを見ていた。

 そしてお互い肩を掴んでハグに近い状態で喜んだ。


「良かったなミカ! これで旅が出来るぞ!」


「良かった!……良かった!」


 彼女の目には一粒だけ涙が浮かんでいる。

 そりゃそうだ。なんせそれは彼女の人生の約半分を蝕んだ呪いなのだ。

 それに悩むことがなくなるということはどんな形であれ自由になるということだ。嫌なわけがない。

 彼女の過去について理解している分俺まで嬉しくなってしまう。

 自分だけの都合だけでなく、本当に良かったと思う。


「……そうだお前ら。せっかくだから俺の頼み聞いてくれないか?」


 俺たちの歓喜の舞はガラテンの一言により終幕を告げる。


「頼み?……もしかしてアントンに頼もうとしてた事ですか?」


「ああ、折角お前たちの頼みを聞いたんだからさ、俺の悩みも手伝ってくれたらなと思い立った訳さ」


「勿論ですけど……私たち役立ちませんよ?」


 その言葉を聞いてガラテンは高笑いし言葉を続ける。


「別に良いんだよそういうのは。俺のリハビリを手伝ってもらうだけだからな!」


「リハビリって……全然ピンとしてるじゃないですか」


 そう、この疑問は確かなものだった。何故なら彼はどこからどう見ても五体満足。

 無事息災な見た目をしているにも関わらずリハビリテーションなんていう言葉を吐き出したからだ。


「詳しい話はその時に話す。そしたらそうだな……お、これなんて丁度良さそうだな!」


 そう言って彼が机を叩いた場所は、現在進行形で依頼を受けているウルフェン討伐依頼の紙だった。







――――――







 ガラテンの頼みを聞いた翌日、もう一度討伐依頼のある街から西にある泉の森を3人で歩いていた。

 大男が仲間として加わっている状況に少々緊張してしまっていて、木漏れ日の刺す自然が堪能できる森の風景も楽しめずにいた。

 翌々考えれば俺はアントン以外の冒険者とそこまで関りを持てていなかった。

 アントンの決闘のおかげというのもおかしい話だが、そのおかげで気楽には話しかけてくれるのに旅のメンバーとして関わった事は一度もなかった。

 気を使ってくれたのか触らぬ神に祟りなしというか。ともかく、勇者の肩書がここまで関係を阻むのかと思うと悲しくなってくる。

 普通勇者ってちやほやされるような物じゃないのか?

 等と思考を巡らせているとゲームの中でも厄介ごとしか押し付けられてないよなって考えも浮かんで分からなくもないと感じてしまうのも人の嵯峨である。

 まあ、俺自身の特訓やミカの問題でその余裕さえなかった訳だが。何にせよ依頼に一緒に出掛けるというのは1月経って一度もなかったというのも悲しい話だなと感じてしまった。


 小枝の転がる道草を歩いている中、彼が口を開いた。


「先に伝えておくが、直ぐに治るものじゃないぞ」


「そんなんですか?」


「ああ、状況によって個人差が凄い。人によっては2ヶ月程で済むが数年かかる場合もある」


「年単位か……」


 それはマズいな。きっとこの世界の人達は、いずれ滅ぶかもしれないと悟っていても、世界滅亡がそこまで来ているという状況は俺以外知るはずがない。

 国の偉いさんは知っているかもしれないがそれでも人に言いふらすような物でもない。だから実質確実に分かっているのは俺だけだ。

 それに最前線からほど遠いこの国であのカメレオンの襲撃もあったのだ。

 1月2月程なら余裕はあるかもしれないが、年単位など待てないかもしれない。


「基本はそれくらいかかる。だが、治るかどうかと旅が出来るようになるのは話が別だ。お前さんらの悩みは1月で解決する」


「本当ですか!?」


 大男は首を縦に振る。


「かなり突貫工事だけどな。というよりは嬢ちゃんが特殊過ぎるというか。とにかく何とかする方法は知ってる。でもそれに関しては魔法を覚える事になるんだが大丈夫なのか?」


「状況にもよりますけど、ナナミさんから教えてもらってるんですよ」


「ハッハッハ! そうか! なら丁度良すぎるなあ!!」


 ガラテンは何がツボに入ったのか、笑いが止まらない。

 一体何に笑っているのだろう。


 だがその笑いが突如機械が壊れた時のように止まる。

 さっきまでの朗らかな顔つきが戦士の様な眼光に変わる。

 背中に背負った大斧を引き出し両手で整える。


「準備しろ。おいでなすった」


 その言葉に俺たちも構える。


「これだけは忘れるな。敵が来たら俺を盾にしながら戦え。嬢ちゃんは遠慮なく俺ごと敵に攻撃しろ」


「そんなことできませんよ!」


「良いんだそれなら。だから絶対忘れるな。その理由が嫌でもわかる」


 言葉の意味が全く分からなかったが、恐らくそれはリハビリのそれと関係があることだとは悟った。

 俺たちは凛として待つ。俺たちを狙う謎の影を。

ガラテンの悩みとは何か……


良ければ感想、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

面白いと感じたら気楽にお願いします。

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