我、想うことありて東に旅立つ
ギアの街。エルタージュ領と呼ばれる異世界カナンナの南に存在する大陸の一国にその街は存在する。
平和とまでは行かないが、魔王の牙のかかりにくい遠くに存在する場所なので、人々の賑わいはそこそこ。
例えで話すなら、賑わった東京の人通りを半分にしたくらい。といえば伝わるだろうか。
酒場がある。といえばどこにでもあるだろと吐き捨てたくなるような言い方をされるかもしれないが、冒険者の酒場といえばギアの街ではここが一番有名だ。
王都に存在しないのにエルタージュ領で一番の知名度を誇る依頼相談所を有してる特殊な繁栄をしたこの街の酒場で俺はしばらく世話になっている。
そういう訳もあってこの街の繁盛のしかたは人通りがそこそこある程賑わっているのだ。
人々は活気のある生活を送り、酒場の冒険者も明るく過ごす中、俺たち勇者一行とアントン・カタストロフが率いる3人は曇天が頭上にあるかの如く、ルイズ’ス・ターバンの食事の席を曇らせていた。
「……ということは、今回も進捗状況はなしってことか」
「そうみたいね」
俺の総まとめにナナミが答える。
『……はあ』
円卓に5人のため息が溜まる。
俺たちは、カメレオンの魔物と戦いが終えてからおよそ1月ほどの間頭を抱え続けている。
悩みに関しては俺の仲間、とはいえ一人しかいないのだが。ミカという魔法使いに関する事情で困難している。
「にしても、魔漏に関してこんなに情報が集まらないとは思いもしなかったぜ」
「王都エルタージュでも見つからないなんてね。全部の魔導関係店を回って情報一切なしだとは想像もしなかったわ」
「せめて遠くに知り合いがいるくらいあっても良いと思ったんだがなあ。こうも何もないと打つ手なしだ」
正直、魔漏がここまで希少な症状だとは思いもしなかった。
魔術の才を持つ人間に現れるというこの現象は、アントン、ナナミ、レフェリーが王都に用がある際尋ねまわってくれたのだが、何と有益な情報は全くなし。
大都市でさえそんな人間が居るという噂話でしか聞いたことがないという話を聞くだけだった。
まあ、俺の住んでいた世界みたくネットなんて便利な物もないからという理由もありそうだが。
そんな素晴らしい物もなければ知らないの割合だってかなり増えるはずだ。
おまけにこの現象。例えある程度の数存在していたとしてもだ。
「まあ、ちらほら見聞きしてるやつがいるってことが分かるだけでもマシか。とにかく、その情報があるだけで漏らすのを治す方法があるとい……」
言葉を言い終える前に俺の右足に衝撃が走る。
「にいぃぃぃぃぃいやああぁぁぁああ!」
「その呼び方だけは止めてくださいって何度言えば分かるんですか!!」
それは杖を足に突き立てられて起こる痛みだった。
何も悪意なんて込めてないのに……
漏れたのは水道の水だって可能性もあるじゃん……
「一海、流石にその言い方は酷ぇぞ」
「うるせえ……お前に言われたくねえ……」
とまあこのやり取りを見て分かる様に、魔漏とは寝ている合間に魔法を放ってしまう行動の事を言う。
別に恥ずかしいものでもない。寧ろ敬われるべき才だ。
だが元々魔法と縁のない世界で生まれた俺からしてみれば、結びつくものがどうしても布団に世界地図を描く光景と重なって仕方がないため彼女に叱られてしまう。
というかこの世界でさえマイナーなせいでデリカシーのないアントンさえ俺と同じことを言って前怒られていただろ。と心の中で思っている。
最近はこのやり取りもちょくちょくかましてしまっていた為、ミカには申し訳ないと思っている。
だが、そのおかげもあってか、ほんの少しだけだが俺たちに気兼ねなく接してきている様になった気もする。
怪我の功名とまでは行かないが、それはそれで良かったのかなとも思っている。
「……よし!」
しばらくの沈黙の後、リーダーのアントンが何か決心したかのように口を開く。
そして早歩きで掲示板まで向かう。
「どうしたんだろアンちゃん」
「……ま、何となく察してるけどな」
そして戻って来て手に持った紙を机に叩きつけた。
「レフェリー、ナナミ。レクサンデルに行くぞ!!」
「ええ?!」
「やっぱりな」
俺には何か分からなかったがレクサンデルって、別の王国領だよな?
エルタージュから東にある更に大きい王都だったはずだ。
紙を覗き見るとそこには『小型馬伝式 荷物輸送の護衛』と書かれていた。
「馬車の護衛の後向こうで中型討伐を受けるぞ!」
「それ本気なの!?」
「ああ、マジだ。それにそんだけ長い間滞在したらレクサンデルで話も聞けるかもしれねえしな!」
俺にはまだ状況が理解できていないが、ナナミの様相が険悪なものに変わっているのは分かっていた。
「私たち中型なんて倒せるかどうかも分からないのよ!」
「ナナミ、何言っても無駄だ。多分こいつは本気だ」
「本気だから困ってるの!」
ミカも状況を呑み込めていないのか困惑している。それに自分の事の為にそうしようとしている様にも見えたらしい。
「アントン、気持ちはありがたいんですけど。わざわざそこまでしなくて……」
そう言おうとした時、最後まで言うのを阻止し言葉を被せる。
「違うんだミカちゃん。これは俺らの……いや、俺の意地なんだ。だから気にしないでくれ」
「……アントン?」
俺もアントンの意地に関して何かは分からなかった。
ただ何となく思ったのは、あの戦いで思うことがあったのではという考えだった。
「さあ、ということで俺たちは一月ほど旅してくるからよ。お前らに稽古は付けれないけどそれまではのんびり過ごしといてくれよ! てことでお前ら、早速打ち合わせだ!!」
そう言って仲間の2人を連れて去って行ってしまった。
「どうしたんでしょうか急に」
「……分かんないけど、思うことがあるんだろう。まあ、頼ってばっかも悪いから偶には俺たちだけで頑張ってみるか!」
ニコッと笑いかけ答えると彼女も少し笑顔で「はい」と答えた。
アントン達が離脱した。
良ければ感想、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。





