表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
26/53

8年物の呪いと忌み子


 心当たりなど全くなかった。

 俺が何かしてしまったのかと考えたが何も思い当たらない。

 じゃあ彼女自身が己の力量に不安を覚えてる?

 仮にそうだとしてもあのカメレオンに対して的確に魔力玉を喰らわせていた彼女だ。

 誇るほどではないにしても嬉しがっていい功績だ。

 何も分からない。その事実をそのまま口にするしか出来なかった。


「何自信無くしてるんだ。俺の事しっかり助けてくれてさ。どこからどう見ても立派な魔法使いだったじゃん!」


「ダメなんです」


「いいやそんなことない。ミカが頑張ってくれたから俺も骨折くらいで済んでるんだ。誇っていいんだぞ!」


 幾ら励ましても彼女は俯いたまま。黙ったまま暗い顔から浮いてきはしない。

 参った。本当に参った。


「……そうじゃないんです」


 ポツリ呟くその言葉は長らくの沈黙を破り放たれた。

 じゃあ何が違うんだ?謎ばかり膨れるが何となく察してるのはこれからその答えが発表されるということだ。


「少しだけ、私の昔話を聞いてくれますか?」


「……この話と関係があるのか?」


「はい」


「……分かった。続けてくれ」


 少し深く呼吸する彼女の手は腿の上で強く握られている。

 話すことが怖いのだろう。

 広場で話した時もかなり不安がっていたが、今回はその比じゃない。

 ……彼女は何を恐れているんだ?


「兄が、私の前から去った話を覚えていますか?」


「確か、魔王と戦う為に去っていったんだよな?」


「はい。それまで二人で、野営だったり宿屋を転々とすることが日課だったんです。でも私だけはその日以降、その生活とはさよならすることになったんです。」


 彼女が連ねたのは本当に過去の話だった。

 彼女の苦悩と結びつくのか理解できない様な出だしに未だ混乱している。


「兄が、とある貴族の人に養子として預かってくれる様に話を付けてくれたみたいなんです」


「養子に?」


「はい。何かしら恩があるらしくて、兄の悩みを聞いた男の人が快く受けてくれたみたいです。それ以来私は『リアンノン』が姓となりました」


 これはまたかなりシビアな話題に飛んでしまったな。

 養子というものはかなり複雑な問題を孕んでいる。

 例え本人がその辛さを了承したとしてもだ。

 自分が良くても他人はどうか。それだけではない。決意した本人の意志さえ揺らぐことだってある。


「……その人は良い人だったか?」


 苦笑いにも近い複雑な表情で応答してくれる。


「そうですね。義父は良い人でした。最後まで頑張ってくれましたし。召使いとして呼んだと装ってそこそこ良い対応はしてくれました。学校だって少しだけ行かせてくれましたし」


「そっか。それなら良か……」


「でも他の人は違いました。その人にも家族が勿論いて……私はロムレス・リアンノン以外からは疎まれ続けて過ごしていたから」


 そういう展開だろうとは思っていた。

 だが定番と判定するにしては些か残酷過ぎるだろうか。

 例え当人がどんなに優しかろうと貴族という立場は絶対の地位だ。

 上流階級のルールやそれに拘る者からしたらふざけた話というものだ。

 編集者として色々な話を見てきた職業病みたいなものとして、それが面白いか面白くないかと判断してしまうのは自分として嫌になってしまう。

 ほんのちょっとだけ自分を恥じた。


「同じ召使(めしつかい)の人とか家族の人からいじめとまでは行きませんが悪口とか小さないたずらとかは日常茶飯事でした」


 そこまで丁寧に話してくれて大丈夫なのかと心配になる。

 普通なら言葉に困るがそういうのって、恥ずかしいというか、知られたくないというか。

 とにかく自分が辛い以外ないから。だから気になった。


「……どうしてその話を言ってくれたんだ?」


 聞かずにいられなかった事はやはり知りたい。

 するとミカは窓の辺りをみてそっぽ向く。

 顔が少し赤い気がした。

 

「もう見られたからです。それに関わることを。どっかの変態に」


 横目で、目を細めながら睨んでくる。


「……え、俺?」


 答案用紙はくれなかったが恐らく正解なのだろう。

 だが全く心当たりはない。見当もつかない。何故話してくれた理由に俺が関わったのか。

 分かるのは彼女の機嫌の起伏が激しい事だけだ。


「とにかく、そこからが問題なんです! そんな生活が続くとやはり苦しい訳です。そしてそんな中、私の体に異変が起きて……あの戦いで初めて知ったんです。私が昔放ったそれがオリジンだということに」


「……へ?」


「私はその日初めて魔漏が起きました」


「……魔漏!?」


 この予測不可能のタイミングで恐ろしい言葉が関係してきた事に驚きが隠せない。

 魔漏?

 魔漏だって!?

 ここであの話が関わってくるのか!?

 タイムだ! 状況が更にこんがらがってきたぞ!

 とにかくまず確認しなくては。俺が聞くべき内容なのかを!


「その話は……聞かないとダメか? 言いたくないなら無理に言わなくても」


「言わなくていいなら言いませんよこんな話! 関係大ありだから仕方なく言ってるんです!」


 あまりの張り声と身の乗り出し方で思わず怯んで謝ってしまう。


「は、はい。すみません……」


「はぁ……もうヤダ……死にたい……」


 彼女の高揚がピークを迎え恥ずかしさのあまり両手で顔を隠す。

 しばらくそのままオーバーヒートした機械みたく動かなかったが、突如回復したのかまた話し始める。


「最初はオリジンが弾けるくらいでした。それでも威力が凄くて周りの物を動かしたり、脆いものなら壊すまでの力でした。ただでさえ肩身が狭いのにそんな問題まで抱えたらそういった不満や嫌がらせが加速するんです。でもそんな迷惑がまだ軽い方だったなんてある日が来るまで思いもしませんでした。問題が起きてから少しして、夢を見るんです」


「……夢?」


 アクロバット飛行の様に飛躍する話の内容は遂に夢の話にまでぶっ飛んだ。

 多分、最後まで聞かないと理解できないのだろうなとは感じている。


「そう、夢。夢というよりかは昔の記憶。私の故郷が壊滅した日、唯一思い出した光景を夢に見たのです。父が、魔物の群れに対して呪文を唱えるんです。『終幕を照らす放熱』と。そして目を開けると、……私の視界は赤く燃えていたんです」


「……まさか」


 恐らくその予想は的中している。彼女はきっと唱えたのだ。最上級炎魔法を。

 それを理解した瞬間。この話がとてつもない彼女の闇であり、問題なのだと段階を経て分かりはじめる。

 彼女はお兄さんと離れてからの人生はまるで忌み子の様な扱いを受け続けてきたのだ。

 突出した才を持ったせいで。人と関わる瞬間をもたらされず、しまいにはその体質のせいで良くしてくれる人さえ失う人生だったのだ。

 

「不完全な発動とはいえその火力は屋敷を焼き払うには問題のない程強力でした。その事件のせいで私に優しくしてくれたロムレスさんも追い出す判断をしなければならない程の大事でした。そして私はまた野営生活に戻ることになったんです」


 どう言葉にして良いものか分からなかった。

 ただ、彼女のネガティブな感情を飛ばすしか方法を思いつかず、話題をすり替えれないかと試みる。


「……確かに辛い過去だね。……でも、今はこうやってさ。お兄さんの旅路を追えるかもって所まで来てる。そう思えば嫌なことだって忘れられるから。だから……」


「魔王にたどり着けると思います?」


「え?」


「私、思い出したんです。いえ、見て見ぬふりをしてたんです。この魔漏が治らない限り、宿なんて泊まれないこと。ロムレスさんが無理してくれた旅の資金も全部宿の弁償に消えましたし……」


「……マジで?」


「……マジです」


 今回ばかりは俺も言葉が詰まってしまった。

 つまりこの子を旅に連れるなら宿禁止縛りをしろということだろ?

 いや宿だけじゃないな。町への滞在に1日使うこともリスク高いし。

 何なら長距離の馬車移動も封じられている。

 徒歩のみ露営のみ。うん、詰みだ。王手だ。チェックメイトだ。

 いや流石に初心者勇者にその苦行は酷すぎる。

 良いアイデアも浮かばない。


 これは参った。他に何も良いアイデアが浮かばないし彼女へのフォローもどうするべきか分からない。

 あんだけ意気揚々と魔王軍の敵に勝ったことに喜んでいたのに遠出ができない問題は厳しすぎる難題だ。


 ……諦めるしかないのか?


「……無理しなくていいですよ。寧ろありがとうございました。ここまで長く人と関われたのも久しぶりでしたし。だから……もう関わらない方が良いです」


 ……いや。こんなつまらない壁で悩んでいられるか。

 何かあるはずなんだ。絶対に。

 どうすればいい……どうすれば……


 考えに考えた末、ふとナナミさんの言葉が頭に浮かんだ。


 ああ、そういえば、なんで才のある魔法使いしか起こらない話があるんだ?

 その人に症状があるのなら治ってるか治らないか分かるはずだ。

 ずっと悩むようなものならそれは病気だ。不治の病に近い何かだ。

 魔法使いの話として上がらないはずだ。

 だとしたら起こさなく出来る方法があるんじゃないか?


 ……それに賭けるしかない。

 リスクがあったって捨てるような選択肢をする場面でもない。

 引いてしまう程驚く素質があり成長も早い魔法使い。やはりここを逃しては見つけられない気がするんだ。

 どんなに過酷だって知るもんか。こちとら星を滅ぼした相手と戦わないといけないんだ。

 仲間は強いに越したことがない。ならどの道彼女の悩みを消さないと明日はない事に変わりがない。

 ああ、わかったやってやるよ。渡ってやるよ。無謀と隣り合わせの綱渡り!

 なあユーリ。あの時お前は土壇場の勘が冴えるって言ってたけどな。俺もそうなんだよ。

 俺もこんな重要な場面での選択は間違わないんだ。


「諦めるのか?」


 こちらを見ずミカは背中で語る。


「諦めるも何も無理じゃないですか」


「まだわかんないだろ」


「分かりますよ!!」


 涙を堪えながら振り返り怒鳴る。


「8年ですよ!? ずっとあの日から縛られてるんですよ!!……呪いみたいに付きまとうんです。何もしてないのに忌み嫌われて。どうするべきかも分からず、ただ時間が解決するのを待って待ってそれでも……治りはしなかったものを解決できるわけがない」


「8年物の呪いか……確かに酷い年季物だな。でも生憎俺もそんなこびりで諦める程賢くもないんだよ」


「どうして見捨ててくれないんですか!?」


「だって俺は勇者だから」


 こんな言葉、ただのはったりでしかない。

 こんなことを言いつつ、肝心の自分が勇者と思えてないんだから。

 でも彼女を救うにはこれしかなかった気がした。

 だって勇者は人を救うものだから。

 目の前の困ってる人を助けるのが勇者なのだから。

 そうだよな。ユーリ。


「困ってる人を放ってしまったら、俺は二度と勇者になれないから」


 俺の言葉を聞いて彼女は荒い声を上げていた状況から少しずつ落ち着いていく。

 そしてしばらく考えてまたポツリと話す。


「でも……どうするんです? そんな時間あるんですか? いつかはここから旅立たないといけないんですよ?」


 声の震えを抑えながらミカは当然の疑問をぶつけてくる。


「んーそうだなー……正直どう治すかも分からないしなあ。……でも、時間だけはまだある。少なくとも俺が立派に旅立てるようになるまではまだ時間がかかる。それに結局は仲間も集まらないと旅立てないし」


 そう。俺が旅立つにしてもまだ殆ど準備さえ整っていない。己の実力も。ともに飛び立つ仲間も。

 まだ何も揃っていない。

 だからタイムリミットはそれまでって所か。

 それまでに彼女の体質を治す方法を見つけないと。


「……本当に良いんですか? 私なんかに時間をかけて」


「寧ろこっちからお願いするよ。せっかくの仲間なんだから」


 彼女の顔が綻びそうになる。今にも泣きだしそうになっている。

 ああ、俺も頑張らないと。何としてでも彼女の問題を解決して正式に仲間にする。

 退院後忙しくなりそうだ。


 今にもミカの顔が崩れそうになる。

 そんな顔に涙が流れる前に。


 ミカの背後にズタボロで涙を流しながら男二人が立っている。

 その内の一人が叫んだ。


「お前らぁ……俺は感動したぞ……!」


『うえぇ!?』


 俺たちはそれにビックリし思わず声を荒げる。

 そういえばアントン達もここに入院していたのだった。

 病室も近いうえ大分騒がしくしてしまったから気になって覗きに来てくれたのだろう。


「き、聞いてたんですか!?」


「すまない。病院で声を荒げられたら流石に耳に入ってしまってな」


「うう……」


 彼女の悩みの種がまた一つ増えてしまった。


「でも安心しろミカちゃん。俺たちもしっかり治るように手伝うからさ! だから何でも俺たちに言ってくれよ!」


「そんな! 私なんかの為に無理して時間を割かないでください!」


「いいや、それは私たちが申し訳ないの」


 仕切りの奥から木製の車いすに乗った女性、ナナミの姿が現れる。

 彼女は、あの打撃で全身にダメージを負い一番傷が深かった為、俺よりも長い療養時間が必要になったのだ。

 特に左腕は打ち所も最悪だった為複雑に骨折しているほどだった。


「ナナミさん。無事だったんですね!」


「お陰様でね。本当に一海さんとミカちゃんにお礼がしたいの」


「そんな、俺たち何もしてないですよ!」


 そう遠慮して謙遜(けんそん)する。

 だが彼女たちの感謝は俺たちが思ってる以上に深いものだった。


「いいえ。本当にそうよ。私、あと少し治癒が遅れてたら左腕切らなかいといけなかったんだから」


「……そんなにだったんですか?」


 この時の俺は何も分かっておらずそんな風に口にした。

 後に分かったのは、重度の傷になると治療が遅ければ回復魔法での修復が困難になるらしく、彼女はその治療不可になる手前まで迫っていたらしい。

 だから俺たちは言わば腕を失わせずに済んだ恩人という形になるらしい。


「ああ、だから俺たちも手伝う……いや、手伝わせてくれぃ!! 恩人の助けになりてえんだ!!」


「ほら、珍しくアンちゃんもやる気だし。だからミカちゃん。一人で悩まないで」


 今まで目にためていた涙は限界を迎えたのか、一滴、また一滴と忌み子の瞳から流れた。

 そしてその場で床に崩れ「ありがとう」と何度もつぶやきながら涙を拭う。


 この涙にはきっと、彼女の(よど)んだ8年間。いや、お兄さんがいなくなってからの10年間が詰まっているのだ。

 少しずつでもいい。せめて俺たちがいつか掃除しきれればきっと少しでも幸せな時間になるはずだ。

 それに、彼女を助けようとする時間が完全に無駄だとも分からない。

 成功すれば大きな戦力になりえるし、何より勇者になる立場として完全には無理だったとしても、助けようとしたという行いが大切な気がしたから。

 だから大きな賭けだと思っているが、失敗したって利益としては充分だ。

 ……それに結局仲間の募集もまだ0人だしな。

 

 人の涙というものは感染症らしい。

 その光景を見た人の目からも涙が流れるなんて話も聞いたような気がする。

 だから他の人間にも移さぬよう、俺は自分の胸に大切に残すため窓を眺め悟られぬよう一滴流すのだった。

 今日は快晴。良い天気である。


ミカは魔力玉を覚えた。

一海は光の剣を少し使えるようになった。


良ければ感想、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ