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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
23/53

魔王軍:先兵「擬態のメレオニダス」

 俺は酒場への報告とミカを安全な場所まで連れる為に戦場から離れていた。

 何もお互い話せず走り続ける。

 少し気まずかったが、何も話さない訳にもいかないと思い話題を振り絞る。

 思いついたのは彼女の安否についてしか思いつかなかった。


「よく耐えたなミカ」


 安心させようと笑って見せる。

 そしてミカは俯きながらポツリと呟いた。


「何で助けたの?」


「え?」


 その問いの意味は今の俺には理解できなかった。


「いやあ、謝ろうと思って追いかけたら変な奴に追い詰められてたからさ。体が動いちゃってた」


「そうじゃなくて」


 彼女は足を止める。その異変に俺も足を止めた。

 何だろう。やはりさっきの事でまだ怒っているのか?

 迷ったな。どう伝えれば良いかも分からない。


「私、アントンの時みたいにまた一人で飛び出したんですよ? 助ける意味なんてないでしょ?」


 彼女は続けて言葉にする。声を震わせながら。

 成程。あいつの時と同じ事をしてしまったと後悔してるのが大きいのか。

 ならいうことは一つだな。


「仲間なんだから、当たり前だ。それにどう考えてもあれは俺が十割悪いし。それより、俺の事はまだ嫌か?」


 小さく首を横に振る。


「そうか……それなら心置きなく行けるな。」


 良かった。

 これでまたあいつみたいに追いかけ続ける羽目になったらそれこそアントンに怒鳴られるからな。

 さあ、これで家のわだかまりも消えた事だし、劔小隊も冒険者としてらしい事をしなきゃな。


「ミカ。酒場には一人で報告してきてくれないか?」


「え、でも!」


 少し辛いけど、これは事実でもある。なら、出来る事をやってもらうしかない。

 少なくとも、今は彼女が最大の適任者だから仕方もない。

 俺もあいつらばかり迷惑をかける訳にもいかないからな。


「悲しいけど、魔法がまだ上手く使えない状態で戦わせるわけにもいかないから」


「でも、一海もまだ慣れてない状態で戦う訳にも!」


「多分、ここは男の正念場なんだ。あんまりこう言うのはなんだけどさ。俺も役に立たないなりの意地があるから。」


 そう言うと悲しそうな顔をする。そりゃ仕方ないよな。同じく未熟な冒険者なんだから。

 でも、俺も強がってでも、恐怖に怯えてでも走らなきゃいけない気がした。

 そうじゃなきゃ魔王を倒すっていう野望すら夢のまた夢だから。

 勇者とは、(いさ)みありし者と書いて勇者と読むのだから。


「……分かりました。すぐ呼んできますからね。絶対死なないでくださいね!」


「ああ!」


 彼女は少し考えそう答える。それに元気に答えよう。

 少しでもミカが安心出来るように。

 俺の返事を聞き立ち上がり必死に走り始める。

 少しポツリと言葉にする。彼女に聞こえないように。


「頼んだぞミカ。出来るだけ早く。なるだけ早く。……やばい。凄く怖い」


『―――あんなにカッコつけてたのに?!』


 あまりの震え声と腑抜けっぷりに思わず那由多からの横槍が入る。


「しょうがないだろ! 俺だって初めて自分から本気の戦いをするんだぞ!」


『―――まあそれも一海らしいですけどね。だから敢えて言いましょう。怖いままでいてくださいね』


「え、何で?」


『―――恐怖は誰しも抱く感情です。ましてや、誰しも自分を殺したい人などいる訳がない。克服するんじゃなく共存してください。じゃないと化け物になるんですから』


 どういうことか完全には理解できなかった。

 でも何となく分かったのは、怖いと思うことは普通だということだ。

 でも出来るだろうか。もしかしたら逃げ出すかもしれない。

 無様な姿を晒して投げ出すかもしれないのに。


『―――大丈夫です。知らない間にそれが出来たあなたならきっと』


「……分かったよ。まあ頑張るだけ頑張ります」


 少しだけだが気は安らいだ。よし、これで少しはまともに戦える気がした。


「アアアアアアアアアア!!」


 進行方向から聞こえた声にハッとする。


『―――一海、急ぎましょう!!』


「ああ!!」


 俺たちは駆け出した。






――――――







 まずは一突き、爬虫類の持つ棍はナナミに向かい繰り出される。

 その速さに動じず彼女は集中に耽る。

 一直線に迸る(ほとばしる)武器は突如横から受ける衝撃で狙った方向とかけ離れる。

 攻撃を静止させたのは瞬間移動によるアントンの右飛び蹴り。


「なんと」


 弾かれたせいでちょっとよろめいた怪物の隙を見逃さず間を詰めるレフェリー。

 しかしその隙にしては些か距離が遠い。


「まだ遠いですね……ん?」


 走る大男に目を奪われ魔法使いの動向に気を向けた時、彼女の準備は整っていた。


氷刃烈弾(ひょうじんれつだん)、〘コルダ〙!」


 ナナミは詠唱を終える。蒼い魔方陣と共に冷気が漂いそこには3つ4つ氷柱(つらら)が完成し魔物に向かい発射される。

 鱗のモンスターは持っている棒を縮小させこちらに目掛ける氷刃を素早く弾く。

 そしてその間に男は背中に抱えた大斧をカチャリと握り攻撃範囲にまで到着する。


「うおおおおお!!」


 その振りかぶりはしっかりと相手を見据えて降ろされる。

 そういう予定のはずだった。

 斧は空振り地面を叩いたという結果だけしか残らなかった。


「何?!」


 直ぐに状況を確認する。振り下ろした周囲に突き立てられた赤い棒の先端が刺さっている。

 レフェリーは上空に何かあると察知し横転し回避をする。


「安心してください。今は何もできませんよ」


 大男が驚いたのはあの速度に対応し空中へ回避できたからだけではない。

 見上げて警戒する。


「これはこれは、こんな辺鄙(へんぴ)な国で疎通体(そつうたい)を拝めるなんてな。最高の一日になりそうだ」


「最近じゃ珍しい事でもないですよ。それで驚かれては困りますよ」


「珍しくなくなったのはどこの誰のせいなんだろうなあ?」


 歓談に割入ったのは疎通体に目掛けて振りかぶるアントン。

 しかしそれを察知していたのか爬虫類は高速でポールダンスをしその場で回転。遠心力の加わった蹴りで弾く。

 剣で咄嗟に防御しアントンはそのままレフェリーの近くに着地する。


「今の防がれるのか」


「気を付けろアントン。あいつ疎通体だ。大型並みにたちが悪いかもしれん」


「冗談だろ?!」


 信じられないというような形相でレフェリーを睨んだ。


「真面目な情報でふざけれるか」


「……逆だ。冗談で言えよ」


 納刀した剣の柄をギュッと握り直す。


「何か忘れてるようですが、私、ここからが本気なのです。楽しませてくださいね!」


 上り棒を軽やかに下る様に滑り、地面に着地してはそこに刺した棒を急速に伸ばす。

 それは攻撃の為に伸ばしたものではない。距離を放すための逃亡策。真逆の先端にしがみつき退避する。

 そうはさせるかと駆けようとしたアントン。しかし危機感を覚え踏みとどまる。


 姿が消えた。それも相手の持つ武器さえも。


「はあ?! 武器まで消えるって知らねえぞ!!」


「ナナミと合流だ! 恐らく潰しにくるぞ!!」


 男どもは急いで後方に注意しながらナナミの方向に走る。


 一回、いや、二回程か。少し遠方で地面と何かの衝突音がした。

 恐らく移動だろう。先程から棒を利用してしか移動していない。

 相当な鈍足だろうと見た。だがそのデメリットを消すためのあらゆるものが備わっていて易々と詰めれない。

 どうしたものかと頭の中でアントンは思考を繰り返すが答えは出ない。

 自問自答を続けた結果何事の事件も策もなくナナミと合流が出来た。


「ごめん。魔法、弾かれちゃった」


「気にするな。あっちが上手だった。それよりあいつ疎通体だ。気を張れよ」


「そんな……エルタージュに特例型なんて?!」


「信じたくないが聞いちまった。無策に魔法使うより回避に徹しろ。じゃねえとお陀仏かもしれねえ」


 緊張感がパーティーを包む。四方八方から攻撃が飛んでくる可能性がある今、身構えない方が無理だった。

 そして、降りかかる魔の手に誰も気づくことが出来なかった。


「アアッ!?」


 見えない刺突を受けたのはナナミだった。

 その吹き飛び方は見えないが、挙動で察するに棒の先端が当たったのだろう。背中から当たり直線に吹き飛んだ。


『ナナミーー!!』


 二人の声が空間に響く。

 誰もがしまったと思い吹き飛んだと思った。

 しかし不可思議が起こったのは更にここからだった。


 彼女の体は一瞬宙で貼り付けの様になる。


「……は?」


 そしてそこから、本来吹き飛ぶであろう方向と真逆の方向にベクトルが向き、空中へ落下するように異様な吸い込まれ方をした。


「なんだなんだ?!」


 慌てふためくレフェリーに、黙るしか出来なかったアントンだった。

 彼女の吸い込まれる先を見続けると次第に空気から姿を現した魔物の姿だった。

 そして彼女が吸い込まれた理由も自ずと判明する。

 槍の先端に吸着していたのだ。


「……おいおいマジか」


 アントンは絶望する。この状況はとんでもなくマズい。いや、手遅れかもしれないと。

 脳内に(めぐ)ったのは、何故奴は最長射程から狙わなかったのか。何故走ってたどり着くかもしれないような距離で攻撃したのか。

 その答えさえもう理解している。

 今から行われるのは俺たちの惨殺ショーだと。


「わざわざ舐めないと引っ付かないのは厄介なのですが、こういう時は最高ですね」


 相手はナナミの張り付いた面を地にかざし両手で棒を振り上げた。 


「やめろおおおおおおおお!!」


 アントンは全力で『翔り』を行う。だが肝心な第一打までは止めきれない距離だった。

 悪魔は餅を杵で打ち付ける様に地面に、強烈に、打ち付ける。


「アアアアアアアアアアアア!!」


 響き渡った悲痛な叫びが絶望の第二ラウンド開始のゴングとなった。


 瞬時に駆け付け一撃をお見舞いしようとしたその攻撃は棒によっていなされる。


「てめえ! よくもナナミを!!」


「あははははは! 逆恨みも甚だしい!! この擬態のメレオニダスから無傷で帰れると思いあがるなど笑止千万!! 腐った心、命と共に散ればいい!!」


 何度も放つ無数の抜刀に先ほどの様に傷は受けてくれず、軽やかな棒術で受けきられる。

 しまいには怒りの一閃を放とうとした際。


「ほうら」


 と言いナナミの接着した面を盾にされる。

 それに何とか踏みとどまるも。その後の振り回した柄の反対側を脇腹にくらい吹き飛ばされた。


 走って駆け付けるレフェリーはまだ少し間に合いそうにない距離だった。


「さて、楽しみますか。……おやあ?」


 何を疑問に思ったのか知らない。だが、その目線はナナミに向けられたものだった。


「あまり傷ついてないですねぇ……成程、〘コート〙ですか! じゃあ少しでも長く耐えてくださいね!!」


 残虐の餅つきがまた始まる。ナナミの悲鳴は小刻みに響き、数発行われた時ようやくレフェリーが攻撃圏内に入り武器を振るう。

 倒れていたアントンもまた立て直し『翔り』で同じくらいにまで距離を詰めた。


『うおおおおおおおお!!』


 その時ナナミを張り付けた接着性の唾液の効果が切れ地面に落ちた。


「丁度ですね。蹴散らしましょう」


 メレオニダスは棒の中心部を持ち頭上で回転させる。


『ぐあああああああ!!』


 伸縮するそれは広範囲に渡り地面を削った。

 そしてアントンとレフェリーの突撃を防ぎ、強烈な一撃と共に遠くへ吹き飛ばした。


 更にメレオニダスはその場から動かず、しかし棒の伸縮によって何度も惨たらしい突きの連続で追い打ちする。


「あははははは! 先程と違い無様! みじめで滑稽だ!」


 男二人はぐったりと倒れそこから動けない。

 そしてボロ体で気絶しているナナミを赤い棒をなぶりながら見つめた。


「さあ、続きと行きましょうかお嬢さん」


 メレオニダスは両手で棒を振りかぶった。




 足音が聞こえ魔物は虐殺を中止し、思わず音のした方に防御態勢に入る。

 それはメレオニダスの後方から聞こえ、視界に入ったのは剣を振りかぶる男の姿だった。


「おやおや、あの子と逃げたと思っていました。でも単身突撃はあまり感心しませんねぇ」


 鍔迫り合いを行った相手は一海だった。


勇者vs魔王軍先兵

いざ尋常に勝負!!


良ければ感想、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

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