彼女の夢と彼の後悔
俺はルイズさんと話を終え、休憩室のドアを開けカウンターの近くを通り酒場のホールへと戻ってくる。
近くの机にはミカが不安そうな表情で椅子に座っている。
俺が出てきたのに気付きフッと立ち上がる。
その杖を握る両手は強張っていた。
「勇者様……」
弱弱しい声で彼女はそう言った。
いつもと違う雰囲気なのは嫌でも察してしまう。
まず俺の事を一海と下の名前で呼んでいなかったこと。
今まで一度もそんな肩書で呼んだことなんてない。
ということはそう言った事情を隠すためにルイズさんにひそひそと話をされたあの時から緊張を殺して話していたということだ。
明るい雰囲気の少女だと思っていたのだが、ほんの少しだけ悲しいと思ってしまった。
だけどそんな気持ちを堪えやるべきことをしなければと俺は平静を保つ。
「そんな心配しないで。……教会って凄いね。あんなボコボコにされてもここまで回復できるなんてさ!」
「すみません。私のせいで」
どうしようか。こんな感じだと、ミカが委縮してまともに話せないかもしれない。
だとしたらどうしたら落ち着いてくれる?
色々考えた末、場所を変えたほうが落ち着けるかもしれないのではと考えた。
効果はないかもしれないが、しないよりはいいかもしれない。
「人がいると話辛い?」
「……どちらでも問題ありません」
「じゃあ外の方が良い。今なら広場も人が少ないと思うし、俺がその方が良い」
そう言って彼女を連れて酒場から出た。
ーーーーーー
日本に住んでいた頃と違い、夜というものは人通りが少なくなるというのは灯りが少ないからというものがあるのかもしれない。
この世界にも月という概念に近い大きな星が空に浮かんでいることからその月光に照らされて薄暗くだが周りが確認できるというのは困ることはないのだと実感した。
ただやはりと言うべきか。部屋から漏れ出る室内光や街の関係者が灯した街灯がなければかなり暗いものだ。
昼には賑わいを見せていたこの街の噴水のある広場もそれだけ暗ければ人気スポットとは言え人は嘘みたいに少ない。
そんな誰もいない二人だけの空間で、俺とミカは階段近くの噴水の石塀に座り静かに時間を過ごしていた。
良いように言ってはいるが彼女は気まずそうにしている。それは罪悪感によるものか何というかは俺にはわからない。
ただ俺としてはまず話を聞かなければどうしようかという決断にも至れないのだ。
だからこの告白前の緊張感に似た気まずさを和らげなければならなかった。
「俺、結構この街の景色とか好きなんだよな。今までこんな静かな場所で暮らしたことなかったからさ。凄く落ち着けるような空間でリラックスできるんだよね」
というように、とりあえず世間話から切り出してはみる。最近初心者向けの草原などでは見かけないような強めの魔物が出てくるのが多いという噂とか。
次はどんな依頼を受けてみるかとか、そんな他愛のない話を。
世間話を繰り出しているうちに彼女はポツリと疑問を一つぶつけてきた。
「恨まないんですか?」
やっと口を開いてくれた。
安心にはなるが返答には困る。何せそもそも彼女が何をしたのかはまだ聞けていないからだ。
それによっぽどの大事でもない限りはそもそも怒ってさえいないのだから。
だから暫くどう切り出そうか考えてレスポンスする。
「何を?」
「私の揉め事に巻き込んだことです」
「別に気にしてないよ。……ルイズさんから聞いたよ。パーティーを組むはずだったんだってね」
「はい。碌に魔法の使えない私は、やっぱり皆から煙たがられるような状態でどこも受け付けてくれなかったんです。そんな時、ルイズさんが手伝って一組だけ受け入れてくれる人を見つけてくれたんです」
彼女の話を聞いて段々と理解する。
魔法の使えない魔法使いが如何に毛嫌いされるものなのか。
あの時伝えた言葉、彼女が恐る恐る俺に伝えたあの言葉は重いものだったのだと思い知る。
「それがアントンのパーティーだったのか」
「はい」
「でもどうして抜けちゃったんだ? あいつはまがいなりにも君の事を面倒見ようとしてたらしいけど」
彼女は黙って俯く。
「私には、どうしても叶えたい事があるんです。例えどんなに自分が未熟でも、誰かに笑われても、しなければいけないことがあるんです。……笑わないで聞いてくれますか?」
その表情は真剣で純粋でそして、怯えている。
否定されるのが嫌だと。今までの経験上断られる事を分かっていると。
そんな恐怖を味わいたくないと。
だけど今、彼女はそう思ってさえも俺に伝えようとしてくれている。
俺に感じてくれた可能性に彼女は、応えてくれようとしている。
分かった。なら俺もその気持ちに応えてやらねばならない。
決意を纏い俺は「ああ」と返答した。
「私には、兄がいるんです。少し年の離れた兄と長い間二人で暮らしてたんです。小さいときに住んでいた故郷は魔王軍の侵略で滅んでしまって、そこからずっと」
ミカも故郷を失っていたのか。
その気持ちは俺にも痛い程分かる。
俺もつい最近失ってしまったばかりだから。
「辛かったんだな」
「そこはもうあまり気にしてません。記憶も定かじゃなかったので。それに、野宿ばかりのひもじい生活でしたけど私にとっては宝物なんです」
ほんの少しだけ笑顔がこぼれたのを横から眺めている。きっとそれでも楽しかったのだろう。
そんな話を聞いて良いなとつい思ってしまった。
「ただある時、長い長い旅に出るという話になってしまったんです。兄は魔王討伐軍に選ばれたんです。そこの戦士として選ばれた兄には大切な役目を任せられたらしくて……それが、今に至るまでの最後の別れになっているんです」
「もう何年あってないんだ?」
「10年程です」
長い期間の別れだ。そういった討伐隊として離れたということは戦地に向かったのだろう。
……つまりは、その人はもうこの世にいない可能性が高い。
そうなると彼女の願いはその兄を探すという理由だろうか。
確認するしかない。
「じゃあ、その兄を見つけたいのかい?」
帰ってきた応えはノー。
顔を横に数回振った
「もう察してるんです。いないかもしれないって。だから生きてる兄を探すのは諦めました」
「……そっか」
「でも見てみたいんです。兄が歩んだ道がどんなものだったのか。何の景色を見て何を感じたのか。知りたい。そして出来れば果たせなかった兄の夢を、魔王を、倒したい。勇者様の一行として旅をできるなら似た景色を見れるんじゃないかって思ったんです」
ルイズさんの言っていたことを俺は薄っすら理解してきていた。
重大な役目というものは素質の持つものがやるべきである。そういう考えを持つ者も多い。
しかし時としてそれよりも大切な物が道を切り開くことだってある。
人を自分の会社に採用する際、思っている以上に見られる部分はその人がその会社に対して何故選んだのかという部分だ。
想いが強ければ才能を秘めていようと想いの強い凡才が選ばれるという事態は稀によくあるというものだ。
まあ、それも言葉の選び方を考えなければ意味のない話ではあるのだが。
それはそれとして、彼女がミカを勧めたい理由は恐らく魔王に関係する物事に関しての信念、執着心の強さなのだろう。
誰もがそんな不憫な役目をやりたがらない中一番物を言うのは勇者を裏切ることのない信頼と動機の合致なのだ。
力は現状なくとも、素質と信頼と動機が揃っている。
これ程までに頼れる火力砲台は選ばない理由はない。
その理由を実感する度、あのオーナーは力も経営力も先見の明も相当の切れ者だというのを思う存分堪能させられる。
「成程。理由は分かったよ。でも気になるのは、それとアントンの件って関係はあるのか?」
そこなのだ。あんな喧嘩の吹っ掛けられ方をしたのだ。
しっかり理解できないと今でもあいつの顔を見る度キレそうになって仕方がない。
「皆に、アントンとその仲間の人達と顔合わせをしたんです。自分の事を聞かれた時に冒険者になった理由を聞かれて話したんです。受け入れた皆ならその事情を聞いてくれると思って。でもその時にリーダーから言われたんです。『やめた方がいいんじゃないか?』って」
絶句した。
この時の俺の顔は多分阿修羅より怖い顔をしていたに違いない。
ミカが俺の顔を見て少し怯えるが俺はそれ以上にあいつに引いている。
「どうしたんですか?! 何故鬼に?!」
いや、気持ちは分かる。一応ここは終末世界だ。終わろうとしている場所だ。
この世界に住む人間の感想としてはそれを勧めるのは間違ってはいない。
だが例えどんな事情があるのであれ、受け入れようとしている仲間に、釘を刺されているにも関わらず、あまつさえ他人の理想を否定するように聞こえる発言をするのはマジでない。
デリカシーの欠如が軽量小説の恋愛物語を超えてきている。
それが学園ラブコメならまだ救いはあるが残念ながらこれは表現するならファンタジー。
世界は救えてもその倫理の欠如は救えない。
『ーーー最低ですねあの人』
ほら、今までROM専してくれてた那由多さえ口からこぼれたぞ、悪口が。
「いや、ほんと碌でもない事しかしていかないなと思ってて」
「お、落ち着いてください。それに、今までの経緯を話してなかったのもあったので優しさだというのも分かるんです。ただそれでも私としては否定されたような気持になって。それでこじれちゃったんです」
そりゃそうだとしか言えん。
全部原因があいつにしかなくて逆にちょっと面白くなってきたわ。落ち着けるわけがない。
「まあ全部わかって良かった。何も悪くないじゃん、ミカは」
「でも、そのせいで勇者様は傷ついてしまって。それに、やっぱり嫌ですよね……魔法の使えない魔法使いなんてパーティーにいるのは」
「んーー、何だろうなーー」
俺は立ち上がり腕を組んで考える。いや、考えるフリをした。
正直俺の中では、どんな裏の事情があろうとミカを連れて旅に出る予感はしていたのだ。
意外とこんな妙な出会い方をしたこの子と流れで仲間になるんじゃないかって。
でも事情を知った今それは確信に変わってる。
俺が手放す訳にはいかないと。
今はまだ見習いでも、駆け出しだったとしてもだ。こんな切り札がいるのはこれから先ほぼあり得ない。
時間はないかもしれないけど。仲間を集めるのも苦労する状況で選ばない理由なんてのも存在しないのだから。
だったらベットするしかない。オールインしか道はない。
「俺はどちらかと言うと嘘の方が嫌いだ。ミカ、一つ隠してる事はないか? 俺はルイズさんから聞いたぞ」
「え?それはもうないですけど」
彼女は戸惑ってる。そりゃそうだ。だって隠してるつもりもない話だろうしな。
「いいやあるね。ミカ、お前魔法使えるだろ? それも特大のやつを」
何かに気づきハッとする彼女。
立ち上がり弁明する。
「それは、いつ使えるかもわからないので使えないのと一緒ですよ!」
「いいや嘘だ。俺も魔法の使えない魔法使いはずっと仲間にはできないと思うけど、最上級魔法の使える魔法使いは手が出るほど欲しいんだからさ!」
「……良いんですか? 私で」
今まで否定されていた恐怖を取り除かれるような感覚にその声は震えていた。
女を泣かせてはいけないと教えられたこともあったがこれくらいなら神様は許してくれるだろうか。
「当たり前だ。俺なんてへっぽこ剣士なんだぞ。例え魔法が使えなくたって連れてくよ」
俺も決心することにしよう。
俺は勇者になんて成れないかもしれない。
しかしならないと決める事とはさよならをすることにしよう。
だから身近な出来ることから始めていく。
その一歩として俺はこの脆くも儚げな魔導士の卵を孵化させることを誓う。
例えそれが時の流れに身をまかせただけだとしても、この決意が反撃の狼煙となると祈り、剣を振るうことを誓おう。
……それで良いんだよな?
由奈、ユーリ。
「あと、一海だ。勇者様なんて大層な存在でもないからさ。気楽に呼んでくれ。じゃあ、また明日」
そして俺は去っていく。後ろからは泣いている声が聞こえる。
一緒にいてやりたいが、泣き顔を見られるのも嫌だろうし見ずに帰ることにした。
『ーーー粋な事するんですね』
ニヤニヤしながら言われた気がした。
「うるせえやい」
そう言われるとすごく恥ずかしくなってしまう。
何となく俺は空を見上げる。
今日の月は目を瞑ったような三日月だ。そこに偶然、一本の流れ星が涙を描くように線を引く。
ああ、きっと空も泣いてくれているのだ。
今日がきっと彼女の悲しみを拭い去ってくれているのだろう。
俺はそう信じている。
ーーーーーー
後日、朝の酒場にて俺はミカが来るのを待っていた。
待っている間、依頼の掲示板を見てもピンとくる物がなかった為、モーニングを頼みそれを席で待っていた。
「ミカ、大丈夫かな」
やはり良い感じに話はできたものの何となく心配にはなった。
彼女は明るくなってくれているだろうか。
またいつもの様に依頼をこなす日々は来るだろうかと。
そんな心配をしながら待っている最中、とある一人の眼鏡をかけた白衣の女性が俺の元へやってきた。
「もしかして勇者、一海様ですか?」
俺はその声が背後から聞こえて振り向いた。
誰だろうこの人は。
「そうですけど。どうしたんですか?」
「私、プリーストのナナミと言うんです。実はあなたとお話がしたくて」
話か。
もしかしたら仲間に入れてくれという相談の話か?
だったらありがたい。
プリーストということは回復役は旅に欠かせないからな。
意外とお淑やかで奇麗な人だし、俺の旅も花が出てきたな。
いきなり女性二人が仲間になっちゃうと例え重苦しい旅でもどうしてもテンションが昂ってしまう。
それに法衣のせいで分かりづらいが恐らくデカい。何がとは言わないが。
恐らくEかFはあると見える。
ここは男として負けられない。何としても仲間に引き入れなくては!!
「ど、どうぞどうぞ! ここにお掛けください!」
「いえ、実は料理が届いてしまってて。私の席の方に来てくれませんか?」
「そうなんですね。わ、分かりました!」
気分ルンルンで颯爽と準備をし彼女の後ろを付いていく。
頑張れ俺。何としてもこの子を口説き落として仲間にしてハーレム勇者軍団の野望を叶えるんだ!!
「どうぞ、空いてる所に」
にこやかな顔を作って話してくれるナナミさん。
「はい、分かりました!」
そして俺は席に座ろうと手を伸ばした。
そして何故かアントンと目が合った。
お互い硬直する。理解が追い付いていなかったのだろう。
『げえ?!』
お互いの声がハミングする。
何故アントンがここに?!
ていうか席を見ると昨日レフェリーをしてくれた無骨そうな男もいる!!
どういうことだ?!
全然理解できないぞ?!
「おいナナミ! 仲間にしたい奴がいるって言ってなかったか?!」
「ううん、紹介したい人がいるって言っただけだよアンちゃん」
成程。この女こいつの仲間なのか。お淑やかな雰囲気なのに中々強かだな。
とそんな場合じゃない。この気まずい状況を打破しないと。
「お前、さてはハメやがったな?!」
「え、アンちゃん私の事を?……幼馴染だからってそんなぁ!」
「言ってないしその冗談はやめろ!」
「つれないなあ……さあ、座って!」
惚気を見せられた後に席誘導を促すプリーストに困惑しか出来ず、座るしかなかった。
席順は円卓を俺、ナナミ、アントン、レフェリーと囲み、俺の右隣が空席という5席の形になっていた。
「おい」
気まずい空気の中リーダーは声をかけた。
「……何だ」
「言うことはねえのか?」
「はあ?」
何だこいつと思った矢先、ナナミが動いた。
どこから出てきたか知らないが彼女の武器なのか、取ったメイスの柄で頭を殴る。
「グァ!?!?」
「ちょっとアンちゃん!! あなたが全部悪いんだからちゃんと謝って!!」
「ナナミ! メイスはダメだ! 柄でもマジでダメだって!!」
「良いの回復するから!! 私のいない時に揉めるからこんな事してるの!!」
成程。この子はこの面子のストッパーなのか。合点がいった。
昨日いれば騒動にもならなかったんだな。
にしても痛そうだ。回復枠を仲間にする時は性格を気を付けないといけないな。
「一海!」
その声の先を向くと駆け寄る一つの姿。
「……とアントン?!」
俺の取り囲まれてる状況に察し、驚愕する。
「あ、良かった! ミカちゃん! 実はアンちゃんが伝えたいことがあるって!」
「け、結構です! 私は帰ります。じゃあ一海、行きますよ!」
俺は何となく察した。もしかしてと。
だから俺の服を引っ張って逃げようとするミカを抑制する。
「待て」
「どうしたんですか?」
そして耳打ちをする。
「少しだけ聞いてやってくれないか?」
「でも……」
「大丈夫だ。無理矢理引き戻そうとするなら俺が言うから。頼む。座ってくれ」
俺は右手を片合掌してお願いした。
彼女は不安そうに座る。俺も座った。
ナナミが俺の事を見て笑顔を送ってくれた。
ありがとうと言ってくれた気がした。
暫くの静寂が円卓を包みこむ。
その静けさに何か言いたいのか、ナナミがメイスをチャキっと構え、アントンがそれに困惑した顔で睨む。
そして席を立ち俺とミカの近くまで来て。
「すまなかった」
奇麗な土下座を披露した。
俺とミカは言葉をなくす。
昨日会ったばかりでも傍若無人の言葉が似あうあいつが深い土下座をした。
どういうことだ。
「ずっと後悔していたんだ。ミカちゃんの為に言ったあの言葉を。俺不器用で口下手だからさ。勘違いされても仕方ない言葉で言っちまった。後で聞いたんだ。君の夢の本当の意味を。そんなの知らずにあんなこと言って傷つけたの後悔してたんだ。すまなかった!!」
その言葉は彼があの日から必死に考え紡ぎだした拙い謝辞だった。
声は次第に震えだし、大きくなっている。
「ホントはミカちゃんの助けになりたかったんだ。ホントは勇者隊に入らなくても魔王を倒そうって言いたかったんだ! 俺たちの仲間にならないかって言いたかったんだ!! だからせめて謝って役に立ちたかったんだよ。そしたら長い間何もできず……時が来ちまった」
俺は、急にこいつの事を憎めなくなっていた。
こいつは多分物語でいう、少し古風な熱血主人公なのだ。
だから血が上りやすく、仲間想いで、遠慮なしで、憎めない。
言葉を遠慮せず伝え口下手だから酷く聞こえ喧嘩になる。
俺を助けてくれた時もそうだ。
どんなに憎くても同じ場所で笑い合う仲間だから死んでほしくない。
そんな本当は誰でも憧れるヒーローの様な性格なのだ。
そうするとこいつが俺を敵視してた理由も。
「俺、英雄になるのが夢でさ。お前には悪いと思ったけど、俺の手で魔王を倒したくてさ。そんな時にミカちゃんがお前のパーティーに入ったって聞いてグチャグチャになったんだ。初めてだったからさこんな気持ち。だからお前がそうだと分かった時……多分嫉妬しちまった。お前にも悪い事しちまった!」
やっぱりか。必死になって弁明してる時に俺が偶々居所が悪かった。
本当に間が悪かっただけなのだ。
アントンは自分の非を何度もすまねえと謝罪し続ける。
成程。じゃあ俺も許さない訳にはいかなくなった。
一番初めの自分の罪もミカへ先に謝ったことだし、自分の恥も全てさらけ出し、地球規模でさえ珍しいジャパニーズスタイルである土下座もこの異世界で見れた。
なら許すしかないじゃないか。
ただミカはどう思ってるのだろうか。
彼女はこれにどう返すのだろうか。
「頭を上げてくださいアントン」
初めに切り出したのはミカだった。
「あなたの気持ちは分かりました。だから私も水に流します」
頭を上げるアントン。その顔は見るも無残な大洪水だった。
「……ミカちゃん」
「お前の理不尽な不祥事は気に食わないけど、ミカが許したんなら仕方ないな。俺も許してやる」
「お前……お前良い奴だなあああああ!」
多分大雨だったからか決壊したダムからまた水が流れ出す。
そして俺の胴を両手でホールドしその土砂崩れの酷くなったリーサルウェポンで掏りつけてくる。
やめろ汚い!って言ってもこいつは離れてくれない。
「ありがとうね。勇者さん。君のお陰で後悔はなくなったわ。口と態度は悪いけど、根は良い子だからまた仲良くしてあげてね」
ナナミが俺に向かってそう言うとニコッと笑いかけてくる。
その笑顔はズルいな。可愛いと嫌なお願いだって聞いてしまいそうなスーパースマイルは俺に効く。
分かったよと照れながら返答した。
「せっかくだから一緒に食べましょう! ほら皆席に付いて! 何なら奢るから!」
お節介なまでに優しいプリーストの一声でアントンもトボトボと泣きながら席に付く。
何となくミカの方を見た。彼女もこちらを見ていた。
目が合いどちらも笑顔になる。
言葉で言い表すことが出来なかったが、取りついていた鎖が解けた気がした。
「ありがとうございます。一海」
「気にするな。じゃあ一緒に食べるか」
俺たちも席に座る。
「なあ勇者さん、一個だけ良いか?」
今までの経緯を優しく見守ってた彼らの仲間、審判をしてくれた男が俺に問いかける。
何ですかと聞いてみた。
「気になったんだけど、どこかで会ったことあったか?」
ん?
俺こっちに来てそこまで時間経ってないし会ったこともないよな多分。
「ないけどどうして?」
「いや、気になったんだよ。どうして俺の名前を知ってたのか」
「え、全然わからないけど」
「そういえば俺も気になったんだよ。どうしてこいつの名前知ってたんだ?」
え、何。どういうこと?
どういうことだ?
全く分からない。けど、アントンと審判男がそいつの名前を言った現場を見てるってことは多分あの時か。
……まさか。
「失礼ですけど、名前聞いても?」
何も掴めていないような顔で彼は口を開く。
「レフェリー・バークだ」
名前を聞いた瞬間笑わずにはいられなかった。
誤訳だ。まさかの翻訳魔法が被った名前を名前として翻訳している。
こんなこと、こんな偶然もあるのか。ああ、笑わずにいられるか。
「ごめん、実は俺の故郷の言葉でさ!」
ーーーーーー
ルイズは料理を運ぶ途中、その光景を見つめ少し余韻に耽る。
あのバカがしでかし、長い間誤解が解けない時はどうしようかと思っていた。
結果間に合わなかったけど、あの一海という男のお陰で交友の輪は広がった。
今までの氷結した時間が嘘の様に回り始めている。
あの円卓に広がってる賑やかな声がそれを物語っている。
「雨降って地固まるって感じかね」
そう呟いて彼らの席に料理を運び去る。
ミカが仲間に加わった!
良ければ感想、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。





