ソウルカード識別法
それは水。透き通った透明な水。
純度100%の紛れもない本物。
その中に落ちてきたのは1枚のカード。
トランプの様に紫を主色においた模様にその裏には白地に魔方陣が描かれたカード。
そのカードが入水すると、インクが漏れ出すように青色があふれ出す。
透明だった水は浸食され真っ青に濁りきった。
その光景は、酒場から借りたガラスコップで作り出された世界。
眺めるのは俺とミカとアントンの一行だった。
あの大騒動から数日たったある日の事。俺とミカは彼の仲間のプリースト、ナナミ・アナムネシスに魔法のイロハを教わっている。
その為に講義を受けているのだが、初めに見せられたのはマジックショーだった。
感嘆の声をあげるのは俺とミカ。
「これどうなってるんだ?」
思わず俺は先生に質問する。
「魔方陣が吸い取った魔力を色に変えるの。元々のこのカードはソウルカードって言う武器だけど、それに識別魔法を描いて魔力を込めることで自分の事を知れるのよ」
識別魔法って聞くと相手の事を調べたりすることができるイメージの方が強いけど、そんな一部でしか使わないような専用の魔法もあるのかと疑問には思う。
まあ疎通魔法とか部分的な物も多いし妥当ではあるのだが。
そのことについて問い合わせたところ。
「基本的にはこれがメインよ。魔法を覚えるとき何が得意かを判断する魔法。頭のいい人は罠を探ったり毒があるかって使うみたいだけどそれの方が特殊ね」
と帰ってきた。用途としては意外とあるみたいだけど難しいうえ知れる情報も少なめなのがネックなのかもしれない。
だから使うタイミングが多い自分の魔法を覚える指針に使うことが多いということか。
「因みに調べれる属性は陰陽と5属性とその他諸々って感じね。陰陽はちょっとニュアンスが違うけど光と闇の魔法が得意ってイメージで大丈夫」
「その他って何があるんですか?」
ミカが質問した。確かに陰陽の詳しい内容も気になるがそっちの方が気になる。
「色によったら今の七つ以外の色が出る事があるのと、水事態に変化がある時があるの。泡立ったり、水量が減ったり。基本的に後者の反応がある人は魔法が苦手な人。色の出ない人は本当に苦手で、何の反応もない人はご愁傷様ね」
最後の言葉が滅茶苦茶辛辣なのが少し気になるが、要は魔力を放出したり操ったりするのが得意かまで分かるということだろう。
それについて聞いてみるとやはりそうみたいだ。彼女は嬉々とした表情で語る。
「あなた良い想像力してるね。大体はその通り。因みにアンちゃんは緑の沸騰で、レフはオレンジの増水。同時に反応した時は出た色の属性は使えるって感じね」
如何にも戦士枠の2人がその反応なのを見るとやはりそうなのだなと思った。
こういう物語でしか見ない展開を見るとやっぱり男心というものがくすぐられるもので、少しワクワクしている自分がいた。
「楽しそうだな一海。まあ気持ちは分かるが、何の反応もないときショックデカいから気を付けろよ」
「そ、そんな風に見えたか?」
「ああ。笑顔がこぼれてるぞ。まあ気持ち抑えていけ」
アントンに言われてそんな顔してたのかと知り少し恥ずかしくなる。
あの一件以来、こいつとは和解した。
アントンの野望も魔王を倒したいという夢と聞いて仲間にならないかという誘いをしたのだが、やはり自分が英雄になりたいからという理由で今度は丁重に断ってくれた。
その代わりと言っては何だが、ミカに最低限の魔法の習得を手伝うという話を向こうからお願いされる。教えている間に俺の時間が余ることもあり、その間に戦闘のイロハも教えてくれるという提案もしてくれた。
そしてタイミングが合えば依頼を一緒に手伝ってもいいと言ってくれたのも凄くありがたい展開になった。
最初の印象の悪さから一転、ここまで手厚い援助をくれるような状況になるなんて想像もしていなかった。
何となくだが、周りからある程度こいつが慕われているのも分かった気がする。最初のカチコミさえなかったらもっと良かったのだが。
ナナミは俺とミカの目の前に水のガラスコップと並べる。
「じゃあとりあえずミカちゃんから調べよっか!さっき私がやった様にやってね」
「わ、分かりました」
少し緊張しながらミカは先程彼女がやった様に、カードの魔方陣部分を少し出した舌で一舐めする。
魔力を込めるという行為は意外と難しいらしく、教わる人間はそれも困難らしいのでこれが安定するらしい。
ナナミが手本で見せた時カードで隠れて見えなかったが、ミカは右隣の席なのでちらっと見える。
じっと見てしまったのが気になったのか、こっちの方を恥ずかしそうに睨みつける。
「そんなじっと見られると緊張します」
「ご、ごめん」
そうだよな。何も思ってなかったけど気になるよなと今更ながら気づいた。
「変態だな」
「違うわ。やめろ」
アントンが冷やかす。確かにそう見えるけど女性陣の前でその冗談は勘弁してくれ。
幸いミカはそれに何のことか分かってないみたいだからまだいいけども。
そういった一連の流れからぽちゃんとカードを落とす。
じわじわと水に何かが滲み出す。
水を染めたのは灰色。
さっき教わった色の中にはない色で反応に困る。
しかし周りはそうではないみたいだった。
一同は驚きを隠せず判定結果にがぶりより凝視する。
「すごーい。グレーだー!」
「初めて見たぜ」
「こりゃ大雨が降るな」
2人ははしゃぎレフェリーは天気を危惧する。
その状況にあまり理解できずついていけなかった。
そんな俺の戸惑いを代弁するようにミカが問いかける。
「これどういう結果なんです?」
「ごめんね、はしゃいじゃって。これ凄く珍しいし凄いんだ。魔術師なら誰もが欲しがる証」
「何で欲しいんだ?」
「そりゃ殆どの魔法が使えるからな。その色を言うだけでパーティーから引く手数多だ」
「……マジで?」
レフェリーに質問で返し、腕を組みながら「マジだ。」とオウム返しされる。
これは真面目にミカを仲間にして良かったかもしれない。この事実が広まっていざ、俺んとこ来ないか?って聞いてみろ。
へっぽこ冒険者がと罵倒され周りから責め苦を受ける。
この事実を知りアントンの後悔が一層深まったのか両手で頭を掻きむしる。
「あーーーーー! あの時失言してなかったら仲間だったのになーーー!! ミカちゃーーん。やっぱこっち来ないか? 強いぞ家のパーティー!!」
「ざ、残念ながらもう一海と組んでるので」
少し照れた感じでそう答えると白い灰になり机に項垂れ突っ伏する。
良かったなアントン、お前の体は灰色だぞ。
「でも簡単には喜べないわね。普通は魔法を覚えるのってかなり小さい時から覚える人が多いから、年齢で習熟度合いが変わる問題もあるし。何よりミカちゃんの目標が目標だから頑張らないとって感じね」
「普通って何歳くらいから?」
「一番若くて6歳かな。平均で8~10よ」
大分早いな。如何にも金持ちとかが張り切る様な状況だ。
劇団に所属させる親をイメージさせるような雰囲気に近いな。
「まあ、でも10歳から考えても4年ほどしか変わらないからまだ何とかなりそうだな」
「……18です」
「え?」
今何て言った?耳を疑って彼女の方を向いたけど。
彼女の身丈を想像するとそれくらいの齢だと思ってたけど。18?
「……私、18です」
ちょっと(大量の)冷汗が止まらなくなった。
何だって。年齢差はあると思っていたがそれでも俺と8年しか変わらないのか?!
そんなバカな。見た目は完全に女子中学生と相違ない身長とシンデレラバストなのに?!
俺の頭の中でそんな思考が回るが問題はそこではなかった。
そもそも18で魔法使いは厳しいのか。18 or not 18.That is the question.なのだ。
まだ分からない。俺の世界じゃ18は未成年だから。若いの部類だから。
「ナナミさん」
俺は超困惑顔で、(18歳はアウトですか?セーフですか?)という言葉が続くんだぞという思念が届く様に彼女の顔を睨みつける。
恐らくある程度は届いたのだろう。ナナミは困惑しながらアンサーする。
「えっと……18だと魔法を覚えるなら……プリーストの方が多いかな……。生涯的に安定するし、回復役は重宝するから! 魔法使いで凄くなった人は、聞いたこと、ない、か、な……」
質問は届いていた。しかし回答が辛辣過ぎる。
俺から目線を段々と逸らしていくし声も壊れかけのロボットみたくぎこちなさすぎる。
そして今度はミカが白い灰の様に背もたれに倒れ気絶している。
まあ辛い現実の話を聞かされたらショックだよな。でも、
「……いや、落ち込むなミカ。一応最上級魔法使えるんだから可能性はある。強くなれないなんていう確証はない」
その言葉に彼女の意識は戻り俺の方を見る。
恐らく習得年齢が若いのは金銭面の問題や俗世的な暗黙のイメージによるものが大きいだけだ。
魔力も年齢によって衰退するなら話は変わるかもしれないがそれでもまだ18なら若い。
魔法使いとして名を轟かせるつもりでもないなら、今は気にするような話ではないと俺はそう思ってる。
それに。
「それに、ミカは有名な魔法使いになることが目標じゃないだろ? 落ち込むことじゃない」
「一海……」
次第にその顔に元気が戻ってくる。
「ありがとうございます。一海」
「気にするな。次進めていいか?」
ナナミに確認すると「うん」と言い促してくれる。
そう言われ俺も同じようにカードを舐める。
どんな結果になるんだろうなと少しだけ胸を高鳴らせる。
魔法を使うのが苦手でもいいがどうせなら少しでも使えると嬉しい。
これで無反応だと俺の方がショックかもしれないなんて考えながら俺は恐る恐るカードを水没させた。
グラスの中にある水は白い光を放った。
反応が出た。これも凄いのではないのかとテンションが高くなった。
向こうの男性陣とミカはおおと驚いてくれる。
「光ったらどうなるんだ?ナナミ」
期待が高まり思わず聞かずにはいられなかった。
だが、思っていた反応とは違った困惑の表情を表した。
「分からない」
「……分からない?」
分からないって、分からないってことか?
え、この反応凄そうなのに分からないの?まさかこれが無反応だなんてことないよな?
「光ったから反応なしという訳でもなさそうなんだけど、この反応に関して何を表してるのかも分からない」
「ええ……」
それ、一番モヤモヤする結果だな。逆に困る。
「ごめんなさい。もしかしたらどこかにその反応が載ってたかもしれないけど、今は分からないかも」
焦りながら謝ってくれるが別に構わない。何かしら反応があったということはその謎の何かは使えるということだ。「分からないなら仕方ない。」と俺も謝罪にそう返答する。
『ーーーーそれは光の魔法に反応したんです』
那由多から話しかけられ、俺は周りに「ちょっと失礼する」と言って席から暫く離れる。
独り言と思われないために少し遠い場所で小声で話を返した。
「どういうことだ」
『ーーーー私を使うために必要な特殊な魔力に反応してるんです。詳しい名前を言うとややこしくなるので、「光の魔力」と代わりに名付けますけど、そのエネルギーでしか使えない魔法があるんです。それを使える人は光るんです』
「おお、凄いな」
これはいよいよ俺のパワーがグレードアップしてしまうかもしれないなと喜びを隠しきれなかった。
「ユーリもこれを使えたのか?」
『――――実は魔力を持っていたのですが、一部の補助魔法しか使用できませんでした。疎通魔法とか伝心魔法とか、転移の魔法も私を介して無理矢理行っていたので使用時の反動も凄いものでした。光を操っていたのも陽魔法によるものでした』
「そうか……」
それは何となくだが意外だった。
あいつは如何にも光を操ってた様に見えていたが、どうやらその実は陽属性のものだったらしい。
あの光を見てしまうと自分でも光魔法と思うくらいには眩く輝いていたのと今でも覚えている。
それにしても、その光魔法はどういった魔法が使えるのだろうか。
「因みにその内容は?」
『ーーーー色々ありますよ。便利なのは適応魔法ですね』
「それって、あの適応魔法か?」
俺の身体能力をこの世界で適応できるくらいまでに成長させたあの魔法である。
それが一番使えそうなのって、何か嫌な予感がしてきたな。
「他は?」
『ーーーー疎通魔法とか開錠魔法とか、……他にもあったんですけど、あまり実用的な物ばかりじゃないかもしれません』
「……攻撃で便利なのとかないの?」
『ーーーーあ、ありますよ! ユーリが使えなかったので失念してました。〘致命招来ークリティカル・コールー〙とかあります!』
「おお! それ強そうだな! どういう魔法なんだ?」
『ーーーー偶に攻撃が急所に入ります! これが一番強い魔法です!』
少しだけ残念な気持ちになる。光魔法弱くないか?
名前負けしてるけど。凄く使えそうな感じがするのにそんな大層な魔法が存在してないのはどうかと思うのだが。
幸いその急所に関する魔法だけはまだ使えそうだが確率なのがどうしてもいただけない。
無いよりはマシな気がするので仕方なくだが覚える事にしようか。
「……まあいいか。その急所に関する奴だけ教えてくれないか?」
『ーーーーもう使ってますよ?』
「え、どういうこと?」
『ーーーー私を使ってる時は使えますよ。初めのウルフェンを倒した時もそれで倒したのですよ?』
マジか。てことはあの時運よくその力で勝ったということか。
……待てよ。てことは俺結局魔法使えないのでは?
「それ以外で戦闘に使えそうなのは?」
『ーーーーないですね』
解散。
終わりだ。
悲しい事実だけが心を蝕んだ。
悲しすぎて一粒涙が出てきた。
「光魔法、弱いな」
『ーーーー何で?!』
俺は酒場の壁に悲しく手を付き、暫く動けなかった。
頑張れミカ!頑張れ一海!!(ヤケクソ)
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