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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
17/53

たった一人の立候補者


 日も暮れ、沈もうとしている夕暮れ時に、俺は酒場の 休憩室の様なそれらしきこぢんまりとした木製のテーブルと椅子がある小部屋で座っている。

 先の決闘の後、教会で治癒魔法をかけてもらったのだが、魔法というものが如何に素晴らしいものかというのを理解した。

 治療時には消毒液をかけられた時みたく激痛が走るものの傷という傷は殆ど完治される。

 見た目も殆ど痣は残らない。


「凄いなあ」


 感心しながら腕の元々傷の付いてた場所を眺めながら店主が来るのを待っていた。


「うん、ありがとうね。じゃあちょっと頼んだ」


 扉の奥から声が聞こえた。

 そして扉が開きルイズが入ってくる。


「待たせたね。手が離せなくて」


「いえ、良いんです」


 スタスタと歩きテーブル越し向かい側の椅子に腰かける。

 彼女は俺の傷を気にしていたのかさっと体を見回し語りかける。


「傷はもう大丈夫そうだね」


「はい。出費は少し痛かったですが」


「その傷でも中々痛手だったでしょ? 深い傷になると5倍くらいかかるからね」


「……勉強になります」


 俺は苦虫を噛み潰し店主は少しニッと笑い話しかけてくる。

 治療費は金額でいうとザっと250E程だ。

 この一回でスライム5匹の依頼分。人生見積で計算すると節制して2週間分の料金がかかる。

 今の自分たちにとってはかなりお財布に厳しい内訳である。

 そうやって彼女は楽しそうに笑顔を浮かべ談笑していたのだが、本題に入ろうとしたのかキリっとした真面目な表情へと変化する。

 そして頭を下げる。


「すまなかった」


 ルイズが謝罪した。


「な、頭を上げてください! どうしたんです?!」


 そのままの姿勢で淡々と話す彼女。


「君に一つ嘘をついていたことがある。そのせいで今日の昼の様な騒動に巻き込んでしまった」


「嘘? それに騒動って、あれは……アントンでしたっけ? ただ因縁付けてきただけなんじゃないのですか?」


「ああ」


 そして頭を上げる。


「まず、嘘について話そう。募集の件についてなんだ」


「募集って、魔王討伐のですか?」


 この街で駆け出し冒険者として依頼をこなしている理由は、そもそも魔王討伐のパーティー募集をかけている事だった。

 仲間を集め旅立つため近くの酒場でこうして鍛錬も込みでここに滞在しているのだ。

……まあ、今でも0人なのだが。


「何が嘘なんですか?」


「実は一人だけいるんだ」


「え?」


 思わず聞き返してしまう。


「一人だけ希望者がいるんだ」


「……ええ?!」


 俺は立ち上がり手を付き前のめりに体を突っ込む。

 それはそうだ。だっていないと思ってた希望者だ。

 そりゃのめりたくもなる。


「それなら言ってくれたっていいじゃないですか!!」


「あたしだって快く勧めたかったさ。でも勧めにくかった理由がある」


「でも嘘をつく理由もないと思うんですけど!」


「例えそれが魔法を使えない魔法使いでもかい?」


「魔法が使えない……?」


 その時、些細な閃きが頭の中を過る。

 魔法の使えない魔法使い。それはきっと俺の知ってる女の子。

 今まで手伝いをしていた少女なのではないか。

 聞かずにはいられなかった。


「まさか……ミカですか?」


 頭を縦に振る店主。

 何ということだ。まさか彼女がパーティー希望者だったなんて。

 衝撃でしかなかった。

 確かにここまで大層な募集に魔法の使えない魔法使いを勧めるのはためらってしまうだろう。


「でも、それなら紹介しても問題なかったんじゃないんですか? 玉砕覚悟で挑ませるのは悪い事ではないと思うんですけど」


 確かにそのやり方は間違いではないのかもしれない。

 でもそれはあの子の、ミカの思いを踏みにじることになる。

 それは何というか、許せないと思った。


「違う違う。逆なんだ。あたしはあんたに仲間にして欲しかったんだ」


「……増々状況が読めません」


 全く。しばらくこの人と関わってきたが考えてることが見えないな本当に。


「あの子から、どれくらい事情を聴いてるんだい?」


「事情って?」


「あの子に頼まれてる事とかの話さ」


 俺はミカからお願いを聞いた時、事情を詳しく聞いていた。

 どうやら彼女は魔法を全く使えない魔法使いらしく、簡単なものでも良いから使える様になりたいということで魔導書の購入を決意したらしい。

 彼女から手伝いの事情を聞いた時に、やってたゲームの先入観で魔物を倒せば魔法を覚えるものだとは思っていた為疑問にも感じていなかった。

 魔法が使えなければ魔法使いなんて名乗って良いものではないと翌々思えば分かるはずなのだがそういった先入観のせいで聞くまで思いもしなかった。


 そして魔法を覚える為に壁となったのが本の値段だった。

 魔法を使えるようになる為の色々が書かれているということは、自分の世界で言うところのプログラミングの言語習得に近しいものなのだ。

 スマホや携帯等使えてもそれを作ることができないみたいな。そんな感覚らしい。

 そういった専門的なものを免許もなく取得できる代わりに高い。

 初級入門なのに費用は12000Eと6か月分の給料に近い値段はすると聞き気が遠くなったのを覚えている。

 本来魔法を覚えようと出来るのは貴族や元々魔法と関わりの深い種族ぐらいしかなれない。

 ミカが集めてる金額がもう少しでその目標の額に達するらしいがよく生活を切り詰めて集めれたものだと感心している。


「えっと、魔法が使えないっていうのと、覚えるために初級の魔導書が欲しいって聞きましたけど」


「成程ね。だったら知らないんだね。あの子が一つだけ魔法を使える事も」


「そうなんですか?」


「と言ってもいつでも使えるわけじゃないんだけどね。ただ、それでも使えてる時点でおかしいくらいに物騒な物だよ。あんたも見ただろ?空が急に暗くなったのを」


 頭の中に思い浮かべたのはコエンマから逃げ回っていた際に上を見上げた時、雲一つないのに暗転した空と魔方陣だった。

 まさかその原因って。


「あれを彼女が?」


「あれは最上級炎魔法なんだ。バーンアウトって言ってね。一番強い属性魔法っていうのは使える人間が一握り、いや、指で数えるくらいしか存在しない。例え時々しか使えなくても、熟練の魔導士でさえ発動できるかもわからない魔法だ」


 まさかの話だ。あれはあの子の仕業だったらしい。

 動揺を隠しきれず言葉が出なかった。


「だから僕に仲間にして欲しかったんですね」


 頭を縦に振る店主。


「まあそれ以外にも理由はあるんだけどね。何にせよ魔法使いとしては天才と呼ぶことさえおこがましい程の素質なのは間違いない。だからあたしはアントンのパーティーにお願いしたんだよ。しばらく仲間として魔法を教えてあげて欲しいってね!」


「……そこであいつが関わってくるんですね」


「ああ、だからその時にしっかり、丁寧に説明したんだけどね。なのに……なのにあいつときたら……」


 ルイズの様相がおかしくなり、机に置かれている両手こぶしに力が籠められるのがわかる。

 何となく嫌な予感がし俺は身構える。そしてその予感は目の前の火山の噴火により理解する。


「あのバカ! その忠告を完全に無視してあの子にタブーを言ったんだよ!! 一番!! 言っちゃ!! いけない話を!! お陰で結局あの子は誰も仲間を見つけれてないし、何より魔導書を結局買わせる羽目になったのさ!! 本当にやってくれたのさあいつは!!」


 あの荒くれ者をデコピンで弾き飛ばしたような怪力看板娘は込めた力で机をバンバン台パンする。

 壊れるほど、いや、もう破片が飛び散る程。あと数発喰らえば完全破壊されてしまうだろう。

 それに慌てふためき俺は言葉で抑制しようとする。


「落ち着いて! 落ち着いてルイズさん!!」


 その後冷静さを取り戻したのかすまないと一言いい落ち着いた。

 しかし本当に巻き込み事故の様な話で困った顔しか出来なかった。

 今の騒動で店員さんが扉を少し開けて覗き込んでるし反応しづらくて仕方がない。

 本当にあの荒くれ者が全部悪いとなってくるといよいよ呆れるレベルの自業自得だなと感じざるをえなかった。

 ……しかし、彼女に言ってはいけない事とは何なのか。

 それは少しだけ気になってしまった。


「少し思うんですけど、あいつは何て言ってしまったんですか?」


 そう聞くとルイズは目線をこちらに向け少し考える。

 そして言った言葉は。


「ミカちゃんに直接聞いてみるといい。それは私があんたと組ませたい一番の理由だからさ」


 奇妙な感じの言葉ではぐらかされてしまった。

 素質があるから組ませたいのが一番の訳だと思っていたのだが、そうではないらしい。

 一体何があったのか。それが気になった。




良ければ感想、、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

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