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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
16/53

虎猿魔とオーナーと赤の魔方陣


 揉みくちゃになりながらどれくらいの時間が経っただろうか。

 武器を掴もうとして始まった殴り合いは武器を手に入れるという目的を忘れお互いの殴り合いによって不毛にも時間が経過する。

 両者とも血が昇り過ぎて殴ることで勝負を決しようとしてしまい、勝負の行方は己が拳に委ねられてしまった。

 どちらも顔が腫れあがり、見るも無残なブサイクへと成り下がっている。


(止めないといけないのは分かっているのですが、周りから水を差すなと言われそうで……)


 ミカは決闘という大事になってしまった際からどうすればいいかと悩んでいた。

 自分のせいでこんな顛末になってしまったことに後悔を感じていたが、予想以上の周りの反響のせいで静止に入れなくなっていた。

 結末を見届けるしか彼女に出来ることがなかった。


「へへ……お前、勇者のくせにとてつもない顔に変わってるぞ」


「お前こそ雑魚にとんでもない顔にされてるぞ」


「まだ減らず口叩けるのかよ……その度胸だけは認めてやるよ」


「決めたからな……お前は倒れるまで殴るって!」


 そして俺はもう一発あいつの顔面にストレートを決めに行く。

 相手もそれを見て1発当てようとする。


 この1発が決まれば勝者が決まる。


「はあああああああ!!」


 この時俺、いや、両者とも自分の足元が大きな影が出来ているのだと自分で気づくことが出来なかった。


「おい、何だあの影?」


 1人の町民がふと気づく。それによって周りも違和感を感じざわつく。

 何の影だろうかと議論になり、それに時間を費やす毎に影は大きさを増す。


(大きくなってる?)


 そしてミカは上を向いた。

 そこにいたのは……


 彼女は何かを理解し2人に叫ぶ。


「そこから離れて!!」


 喧嘩屋2人はその声で攻撃を中断しその場所から撤退する。


 本来その場で雌雄が決するはずだった場所に降り立った何かは大きな地震を起こしその場に君臨する。

 降り立った際に纏った風圧は2人を吹き飛ばしてしまう。


 舞い降りたのは全長2階建てのビル程の大きさの2尾の大猿。

 威厳のあるダークブラウンの毛並みに頭頂部から背中にかけて引っかき傷の形をした金の体毛。

 虎模様の色を逆転させたような色彩が覇者の風格を表現する。

 着地したのち大猿は大きな咆哮を上げ人々を威嚇した。


「おい……あれってエンマダイか?!」


「いやいやエンマダイだって?! そんな熟練冒険者でも一苦労する化け物がギアの街にいてたまるかよ!?」


「ああ、エンマダイがそうポンポンいたらたまらない」


 2人の観客の話に割って言ったのは酒場でブレッサンドを食べていたスキンヘッドのゴロツキ。


「そ……そうっすよね!! あんなのポンポンいられてもたまんないですよね?!」


「ああ、だが残念だがそれでもあれは手強い。何故ならその元になっている中型通常種『コエンマ』だからな」


「あれでコエンマだって?!」


 動揺する冒険者に悲しい情報を突き付けるゴロツキ。


「ああ、だからお前らは早急にこいつらを避難させルイズさんに報告してくれ。あとあの2人の救出に遠距離要員は攻撃の段取りに移れ」


「わ、分かったよガラテン!! おいお前らーーーー!! 今すぐ退避しろーーーー!!」


 冒険者2人はその場から疾風の如く去り、1人は酒場に報告に、もう1人は避難誘導と部隊結成に移った。

 観客達は突然の襲撃にパニックに陥りながら街の奥へと雪崩れこんでいく。



「まずい、逃げないと!」


 アントンはフラフラとしながらも立ち上がり逃亡の準備に取り掛かる。

 そして劔も逃げる準備に取り掛かった。


「おい早く街に戻るぞ!!」


 そう言ってアントンは劔の方を向いた時、





 劔はフラついてこけてしまった。


「なぁ?!」


 ああ、このタイミングで限界を迎えてしまったらしい。

 先程の戦闘で劔の体を痛めつけ過ぎたらしい。


「ちぃ!! これじゃああいつが!! どうすれば?!」


 アントンが動揺してしまったのには訳があった。

 彼が先程使った瞬間移動にも似た駿足は、とある条件をクリアしないといけなかった。

 それは剣状の武器を抜刀、もしくは直ぐに攻撃できる状況でないと高速移動できないというデメリットが存在する。

 この世界の剣士は魔法の様に上手く魔力は使えないが、魔力のエネルギーを利用した力の活用をすることで大型モンスターとも渡り合えるような技が存在する。

 それが脚力を急上昇させる「(かけ)り」という技に制約をかけたアントン独自のものだった。

 だがこの効果は高速で移動できるほどの力はなく、限定の条件を付けるという制約を付けることであそこまでの速さへ鍛え上げたのだ。


 そう、今彼はマックススピードで救助に向かえず自分の武器は決闘の為に仲間に預けてしまっている。

 挙句木刀まで弾かれてしまっていたので何も武器が手元にない。


 そしてコエンマが劔に向かい走る。

 どうすればいいかと周りを見回したアントン。

 ほんの少し先に弾かれた木刀を見つける。


「間に合ってくれ!!」


 足に魔力を込め木刀まで地面を蹴る。

 その距離まであと7、4、3、2mと距離を詰めそして手に取った。

 そして次に蹴った移動は先程の1歩よりも遥かに速く長く伸び、音を超え劔の元まで駆け付ける。


 その瞬歩はコエンマの地面を殴りつける1発が届くギリギリに救助に成功した。

 しかし救出があまりにも際だった為殴った衝撃をかすり2人は大きく飛ばされる。


「グアァ!!」


 そして草のベットを転がる。


「おい……しっかりしろ!」


「……何で助けたんだ? 腹が立つほど嫌なんだろ?」


「馬鹿野郎!! こんなので死なれたら気分が悪いからだ!! 早く逃げるぞ!!」


 コエンマはもう一度彼らをターゲットにする。

 しかし今度はパンチではなく口が電気らしきものが漏れ始めた。


「な、ブレスか!?」


 もう一度「翔り」を使用して逃げる。

 元居た自分たちの場所を電気の一閃が直線に放たれた。


 何とか避けきれたものの、上手く跳べなかったせいでまた転がりこむ。


 男達は焦る。まずい、このままでは互いに死んでしまうと。

 そんな後隙にも容赦なく追い打ちをかけようとする魔物。

 そして化け物の駆けていくその姿に向かったのは幾つかの矢と炎だった。

 その投射物は相手の胴体側面に的中し立ち止まる。


「よし、命中!!」


 1人の弓使いが敵が静止したことに喜ぶ。

 魔物はその弓兵の方に向く。

 しかし何も思わぬ素振りで劔とアントンの方に向く。


「効いてないの?!」


 火の玉を飛ばした魔法使いが驚く。


「くそ! こうなったらもっと攻撃をしないと引き付けれないか!」


「間隔を空けろ! こっちに引きすぎても今は街を守れる奴も少ない。あいつらには悪いが今はもう少し耐えてもらうしかない!! あと、撃つなら俺の後ろから撃て。じゃないと俺が防御しきれない」



 弓兵の言葉にゴロツキの男ガラテンがストップを伝える。


(すまないな。今は少しだけ耐えてくれお前達)


 男は祈る。腕を組み佇みながら。その安否を。





ーーーーーー





 私は、戸惑いながらその場所から動けずにいた。


 早く勇者様を助けなければと心の中では分かっている。

 だが、近接戦闘で戦うのは無駄死にということも理解していた。

 スライムさえ倒すのに苦労し、ウルフェンと相手してさえ緩やかに死を待つだけしかできない私にはあの化け物を足止めさえできないだろう。

 そんなこと分かりきっている。


 でも、それでも私がこの騒動を起こしてしまった元凶だから。

 私が助けないといけないのに。


 私が何とかしないと。

 だとしたら私はあれをやるしかない。

 ルイズさんから止められていたけど。今この状況を打破するには私の可能性に賭けるしかない。


 待っててください勇者様。

 私も、怖がらず戦うことにします。





ーーーーーー




 少女は構える。その大杖を。

 あの大猿に向けて。一息深呼吸。

 彼女は集中する。


 さっきまでの嘘の様な快晴が少しずつ暗転していく。


「今度は何だ?」


 ガラテンはその違和感に辺りを見回す。

 その原因がミカという少女が発していることを理解した。


「おい嬢ちゃん、魔法を撃つならそこじゃ狙われ……何?」


 その時男は気づく。この子はあの魔法を使えない女の子じゃないかと。

 何故だ。何故彼女から魔法を発動できる雰囲気が漂っているんだ?

 何か恐ろしい予感めいたものが頭の中に流れる。

 そしてガラテンは彼女が口ずさんだ言葉に耳を疑う。


「終末を照らす放熱、鉄の、ホール・ベアの破綻、融解する熱鉄(ねってつ)は灰塵に……」


 男は悟り蒼白する。

 この詠唱はちぐはぐではあるがまさかあの呪文ではないかという疑念が浮かぶ。


「嬢ちゃん、今すぐやめろ!! その魔法だけは早まっても使うんじゃない!!」


 しかしその男の叫びが彼女に届くことはない。そのまま詠唱は続く。


「くそ、こんな動けない時に!!」


 違和感に気づいた女魔導士が走ってくる。


「どうしたんですか?」


「良かった! 今すぐあの子を止めてくれ!!」


 魔導士はミカの方を見る。


「あの子?……魔法を唱えてるだけでは?」


「詠唱はうろ覚えだが〘バーンアウト〙だ!! 今すぐ止めてくれ!! 恐らく発動する!!」


「何ですって?! 分かりました!!」


 そして魔法使いは止めに入る。




 アントンはどうすれば逃げ切れるかだけを考えていた。


「永遠に逃げ続けるわけにもいかねえしな。どうする」


 そんな中劔が何かに気づく。


「おい。アレなんだ?」


 援護射撃で一時停止していたコエンマがもう一度止まっているのを視認する。

 それに不思議に思い観察していると、上の方を気にしている。


「上の方だ」


 劔に言われそれに気づき上方を確認する。


「何だあれはぁ?!」


 空に浮かぶはとてつもなく広範囲に広がった赤色の魔方陣。

 それに戦闘中の3体は目を奪われたのだ。


(何だあれは?! 赤色ということは炎の魔法だ! でもこんなの見たことない……まさか、最上級の属性魔法か?!)


 目の前の魔物よりも大変な事態に驚愕する。

 このままでは俺たちでさえ丸焦げだ。

 幸い今はコエンマは上の方に気がとられている。

 今すぐ逃げるしかないと判断したアントンは劔を抱えてもう一度駆け出した。


 しかしここに来て、体力の消耗もあったからか魔力が足りなくなってしまう。

 一度は駆け出せたもののそこからは減速し男一人を抱えながら退散するしか出来なくなってしまった。


「このタイミングでかよ?!」




玉響(たまゆら)の断末魔が物語る。癒しの雨と……」


 それでも彼女の詠唱は止まることはない。


「まずい、もう最終詠唱に入りかかってる! 待ってくださーーい!!」


 女は走る。

 しかしその声が届くことも、彼女が妨害に入るのも間に合いそうにない。


忌子(いみご)歌うは『さらば平穏の光』!!バーン!!」


 間に合わないと誰もが思った。

 あの魔法が使われてしまうと。


 そこに割って入ったのは鎧を付けた町娘。

 いや、酒場のオーナー:ルイズ・スカーレイの姿だった。

 ギュッとミカを抱きしめると彼女は動揺し詠唱を中断する。


「ダメじゃないか。私との約束を破っちゃ」


「る、ルイズさん!?」


「でもありがとう。君のお陰で間に合った」


 そして空は透き通った青を取り戻していく。


「さあ、あたしが来たからにはもう任せておいて」


 そう言って店主は駆け抜ける。




「空が晴れた」


 あれは何だったのか。誰が使おうとしていたのか。今の男2人では理解できないことだった。だがそれと同時にコエンマも不安要素が消えたためこちらに走り出す。


「いやいやいやもう無理だって!!」


 もうダメだ。お終いだと思った。

 そんな中を通り過ぎた一陣の風がコエンマに向かって駆け抜けた。


 コエンマは謎の衝撃で地面にひれ伏す。恐らく頭から何かを受けたのだろう。

 そうかもしれないと思った場所に目を向ける。

 そこには魔物の頭頂部にかかと落としを決めている店主の姿がそこにあった。


 そしてそこから一度着地しもう一度跳ね上がる。

 流れる様に落下する力を利用しそこから槍を相手の心臓部があると思われる場所に突き立てた。

 魔物はその一撃で叫びを上げて動かなくなった。

 恐らく息絶えたのだろう。


「一発かよ……」


 劔は驚きを隠せず一言呟いた。


「よし、これで終わりだね!」


「ルイズさあん!!」


 アントンは感動のあまり劔を放り投げ駆け寄る。

 ひょいと絶命した猿から降りそのアントンに。


 軽く額にデコピン。


 そこから吹き飛ぶように劔の近くまで転がる光景を勇者は眺めることになった。

 そしてそこからアントンに歩み寄り往復ビンタ。

 見るも悍ましい恐怖映像を眺める事しか劔には出来なかった。


「あんたは何度あたしの言うことを破るんだい!! この脳筋!!」


「すいません! あの子を育てなきゃいけないっていう使命感で……それで!!」


「もういいって話した事さえ守れないのかい!!……まったく」


 ぐったり倒れる彼への制裁を終え。ルイズは劔に歩を進める。

 先程の体罰を俺も受けるのかと思うと身構えずにはいられなかった。


「ハハハ! 何もしやしないよ! よく頑張ったね!!……こうなってしまったから話さないといけないことがあるんだ。治療後、酒場の休憩室にまで来てくれないかい?」


 そして警戒を解いた。


「は、はい。分かりました」


 そして彼女は去っていった。


良ければ感想、、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。




※良ければ同時進行で、

俺だって追放されたい!!~お前が追放してくれたら栄光の冒険ライフが待っているのに~

も投稿しております。よかったら見てください。


※2:今回出た詠唱出たのちぐはぐな奴ってどういうことだよって思う人もいるかもしれないのでダレ得用完全詠唱版乗っけておきます。いずれ出すつもりでしたが。

ここに載せてます。

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2887277/

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