Flark Fight
「オラァ!!」
「?!」
開始の合図直後、俺の目の前には袈裟切りを行おうとする男の姿。
その速度に反応しきれずバックステップしかできなかった。
何だこの速さ?!
今キャッチボールをするような距離から一瞬で詰められた?!
そして俺の目が捉えたのは、ニヤリと笑う冒険者の顔。
それを見て寒気がする。
「そこは俺の領域だ」
その男の構えに見覚えがある。
自分の世界で馴染み深い居合にも似た姿。
袈裟切りからの流れで大きく貯めた納刀の様な状態。
そしてそこから一つ、二つ、三つと駆け、気が付けば追いつきそうな場所まで動いてる。
一つ予想外なのは届きそうにない位置での切り上げを行ったことは理解できていなかった。
だが、その姿を見た時にはもう遅い。
当たるはずがない距離離なのに俺の胴体には衝撃が走る。
そして更に後ろへ吹き飛ばされてしまった。
「斬撃か?!」
『ーーー着地してください!』
「分かってる!」
無様にだが俺は数メートル先で何とか着地し、横たわることなく片膝を付きながら踏みとどまる。
頭が追い付かない。体を見ても切れた様な感じがしない。ほんの少し胸当てが凹んだくらいか。
「何かの魔法か?」
『ーーーいえ、恐らく魔力を武器に纏わせてその武器の射程を伸ばしたのです』
ということは斬撃を飛ばしたというよりは木刀の長さを変えたが正解か。
「奇麗な花でも見つけたかい?」
声が聞こえたと同時に肩に手が置かれる感触がした。
それが起こるということはあり得るはずがないが、先程の状況を踏まえると事実なのだろう。
理解したくはないが振り返る。
そこには手を振る戦士の笑顔がある。
「マジかよ……」
次には振り回した右足の裏蹴りで俺の腹を蹴る。
痛みは凄まじく流石に身構えることもできずゴロゴロ転がってしまう。
「1ダウン!」
先程開始の合図行った冒険者がご丁寧にレフェリーもしてくれていたらしい。
集まったギャラリーが少し沸く。
「流石期待のルーキーってところか」
「居合のアントン。凄いよねえ。冒険者としてまだ間もないのにあれだけ戦闘をこなせる人はいないわ」
観衆の声を聞いているとどうやらアントンという男が流石だと。
いやそんなの知るか。俺は無理矢理戦わされてるんだが。
「おいおい、こんなのでダウンしてて勇者を名乗ってもいいの?」
「あ?」
こいつ俺が剣に選ばれた人間って知ってるのか?
「何でその事を?」
「ミカちゃんに聞いたんだよ。その人とパーティーを組んでるって。だからこうして戦ってるんだろうが」
てことはあの酒場での出来事はわざとなのか?
だとしたら本当の理由とかあるのだろうか。
那由多が欲しいとかならあり得るか。
「……本当の目的は何だ?」
「いやいや別に。本当も何も家の仲間を返せって言ってるだけだが?」
「仲間仲間だなんて言ってるけどあの子嫌がってたぞ? それが理由なら可笑しいって言ってるんだが」
「いやそれはその……色々あるんだよ!! それにそういうお前はあの子を勇者って名前で釣ってるんじゃねえのか!!」
いや増々理解に苦しむ内容だ。ただでさえこっちは言われのない理由で決闘なんてやってるんだよ。
色々あるで済ませるんじゃねえよ。
「なあ、真面目に俺が分かってないんだよ。お前は何に怒ってるかまず話をしろよ。そもそも俺は剣に選ばれた人間だが、戦闘に関してはマジでずぶの素人なんだが?」
「お前がずぶの素人とか知ったことじゃねえよ。お前、あの子を勇者隊のメンバーに入れたんだろ?」
「……はあ?」
え、何?
勇者隊……魔王討伐のメンバーに俺がミカを迎え入れたって話になってるってことか?
いやいや可笑しい。そもそも募集をかけて0人だったんだぞ。誰も入りたがるわけがないんだよ今のところ。
「俺はあの子にお金が貯まるまで依頼を一緒にこなしてほしいって頼まれただけだが?」
「はあ?」
俺が腰をかけている所に両肩を掴み俺の目を睨んでくる。怖い。
「嘘言ってんじゃねえよ! 俺はあの子本人から聞いたんだぞ!!」
「はあ?! ミカが言ってたのか?!」
「そうだよ! 俺が話があって会った時にあいつから聞いたんだ!!」
驚愕の事実が発覚した。何とこの騒動の発端がミカだった。
あまりに情報が少ないせいで全部理解できていないが恐らくはこうだ。
こいつのチームとミカが何かしら不仲な状態になりミカが抜け、独り身の状態で偶然俺に手伝いをお願いする。
そうやって今日の酒場の一件で何かしら戻りたくない理由があり俺の諸事情を利用したということだろうか。
成程。大体だが理解できた。
全部こいつのせいじゃねえか。
こいつのメンバー内で起こした不祥事に巻き込まれただけという最悪なオチじゃねえか。
というかそもそも。
「まずそれが本当かルイズさんに聞けよ!! 何だかんだそういうのしっかりしてるんだからさあ!!」
「アホか! 朝はそもそも要件で出払ってたし、あの人はミカの話に便乗するはずだからな!!」
「便乗?」
「けっ、まあいい。結局この決闘も意味なくなっちまったな」
この時、俺の怒りは頂点にまで到達していた。
余りにも理不尽な出来事に、そのイライラさせる振る舞い、態度が。
自分から振っておいた喧嘩が意味なくなるっておかしくないか?
それで何も悪びれもなくいけしゃあしゃあと話を続けているんだ?
手元にある木刀をギュッと握りしめそして、
「じゃあ悪いが、さっさとケリ付けさせてもらグワァ?!」
クソ野郎の頭に向かって円を描きながら飛ぶ木刀は見事に命中し怯む。
「おいお前!頭は反則だろう、が……」
相手が忠告している時には俺はもう特撮ヒーローが如く宙に滞在しドロップキックの準備をしている。
そして相手の胸と首の間の鎖骨付近に向けて足を延ばす。
適応魔法のお陰だろうか。
いつもならドロップキックをかます事さえ困難なのだが見事に奇麗に決まり相手は数メートル吹き飛んだ。
だがいつもやらないことをやると慣れていないこともある。
無様に地面に落ち自分の体も少しダメージを受けてしまった。
「痛ぇ!」
「グッ……」
俺は着地に失敗しただけなので早めに立ち上がる。
「1ダウンだ!」
「はあ?! 顔面はルール違反だ!! なしだよナシ!!」
「手が滑って頭に当たっただけだ! 自分の意志でなけりゃ顔面に当たってしまうのは仕方ないに決まってるだろ。有効だ!!」
「そんな屁理屈通るか!!」
「通るよ! なあレフェリー、確実に顔面に狙った証拠もないのに今の状況を不正と認めるわけにはいかないよなあ?!」
「れ、レフェリー……?」
レフェリーに向かい弁護側の主張を述べる。
審判の反応が困っている。
「まあ、上手く投げれる根拠もないから今のは偶然もあり得る。」
「そんなバカな?!」
怒髪冠を衝いてしまっている俺はもうあいつに少しでも仕返しをしたいがために更に舌を回す。
「それとも不意打ちでも1本取られたのが悔しいか? 恥ずかしいか? そりゃそうだろうさ! 俺たちは冒険者だ! 魔物からの不意打ち何て日常茶飯事の状況は想定していないといけない! 居合のアントン様がへっぽこ冒険者に一本取られるなんて恥ずかしいに決まってるよなあ!!」
先程聞こえた話も踏まえ少しでも痛めつけたかったのかもう口が止まらない。
「てめえ。さっきから調子こきやがって……クソ雑魚にわざわざ詫びを入れようと思ってたのに戯言喚きやがって……もう許さねえ!! てめえだけはここで性根叩きなおしてやる!!」
「どの口が言ってやがる!! お前が100%悪いのに謝るのが遅いからブチ切れてんだよこっちはあ!!」
罵詈雑言の終わりがラウンド3の開始合図。
お互い前に全速前進する。
初めに動いたアントンは突き。俺は相手側にジャンプし回避する。
そしてまた。
「くたばれぇ!」
突進から足でブレーキをかけ一気にそこから納刀状態の様なポーズに変化し接近を開始する。
今度は全力の突きからの派生だからまだ何とか状況を整理できる。恐らくここからさっきと同じように射程の伸びた一撃を繰り出すはず。
だが、それが分かっても木刀では相手を攻撃するチャンスさえ存在しない。
だからここからどうにかして近寄る必要があるのだ。
何か策はないものか。
今用意できている物といえば相手をブチ切れさせたことと、
俺のことを下に見てるということか。成程これならいけるか。
俺はあいつの攻撃に木刀を構え防御の態勢にする。
見事に相手は同じ行動。そしてデジャヴの様に同じ様に後ろに飛ばされる。
「だから甘いんだよクソ雑魚!!」
そう言って相手が飛ぶはまたも俺の背後。
しかしここで違う展開が。
「な?!」
俺はそれを見越し武器を構え背後の接敵に備えていた。
渾身の胴斬りは相手の咄嗟の防御で防がれはするが見事に決まり、そのまま衝撃で敵の木刀が弾け、武器も敵も彼方に発射された。
俺もそこから追撃をと突進し、真上に振りかぶる。
「オラァ!!」
武器で兜を割る。
だがその止めの一撃は想像の中だけで終わってしまった。
何故なら俺の木刀は折れていた。
「ァアレエ?!」
そのまま振りかぶった余力でくるくる扇風機の様に回り地面に背中から滑りこける羽目になってしまった。
そんな熱い激戦から起こった珍妙な状況にギャラリーは思わずクスクスと笑ってしまう。
そしてそんな状況で神妙な声で響く、「2ダウン!」の声だった。
恐らくこれはお互いダウンしてしまってるので両者に宣告されている。
起き上がろうとするお互いの目に映るのは遠くに刺さったアントンの木刀。
お互いに走り出し妨害の為に拳や足で攻撃し合う。
殴り、当たり、蹴り、躱され、フェイントで進みまた攻撃、この展開が続き次第に揉みくちゃになって大騒ぎ。
こうなってはもうダウンルールの意味がない。
そんな彼らの真面目で不真面目な大喧嘩の苦労を知らず何故か観客はボルテージが高まっていく。
まるでストリートファイトを見て楽しんでるようにマウントの取り合い、有利の奪い合い、泥沼化した世紀の殴り合いが幕を開けることになってしまった。
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俺だって追放されたい!!~お前が追放してくれたら栄光の冒険ライフが待っているのに~
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