魔法使い争奪戦
街の中を歩き続け酒場に向かう途中、俺は那由多に小声で問いかける。
「そういえばさあ。何で錆を取っちゃいけないんだ?」
俺の中で疑問だったのは那由多の刀身が錆びていることだった。
力がなくなっているから錆びているのか。
それだとしても何故あの時、依頼の報告を終えた後、錆を取ろうとして鍛冶屋に行くのを断られたのか。
その疑問がいまだに晴れていない。
『ーーーこれは念の為です。私という切り札が……勇者の再来が敵に知れ渡るのを可能な限り遅くするために偽装魔法をかけているのです』
「それって意味があるのか? バックボーンが分かんないから何ともいえないけどさ」
まあ確かにあれだけの力を簡単に操れるならそれくらい意識しても良いのかとも思うが。
『ーーーユーリは、魔王リベリオに一番食らいつくことのできた戦士です。だから私の存在を知ればその為に対策を練る。それほど敵はこの世界を潰すのに執念的なのです』
「よっぽど憎いんだな。だったらまあカモフラージュするに越したことはないか」
『ーーーええ、だから……絶対鍛冶屋で研がないでくださいね! 結構繊細な作りなので絶対研がないでくださいね!』
「お、おう……」
嫌なんだろうなというのはひしひしと伝わった。
それが本当に繊細な作りだからかは分からないけれど。
ーーーーーー
俺は酒場のドアを開けて入る
「離してください!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
それは我がパーティの魔法使いの声だった。
「そう言わずにさあ、頼むよ!」
「嫌です!」
どうやら戦士のような冒険者に絡まれているようだった。
俺は何があったのかと焦り駆けつける。
「ストップストップ! どうしたんですか!?」
「一海!」
ミカは俺の後ろに身を隠す。
「何だお前? 今こっちは大事な話をしてるんだよ!」
「落ち着いてください! うちの仲間が何かしてしまったのなら申し訳ございません。だから何があったのか教えてください!」
「うちの仲間?」
状況を整理しようと確認したその瞬間、相手が何かに気付き静かになる。
「お前かあ! うちの仲間を奪った奴は!!」
その男は俺の胸ぐらを掴む
「は、はあ?!」
「だったら話は早いな。勝負しろ!ミカの争奪を賭けてこのアントン・カタストロと決闘で勝負しやがれ!!」
「決闘?!いやいやおかしい!色々おかしい!!」
そして俺はこのアントンというゴロツキに突き飛ばされる。
「お前ら! 今から東の草原でこのマヌケと決闘を開始する! 見たい奴は今からそこに来い!!」
そしてアントンはそう言い放った後、俺の襟元を掴み引っ張られる。
「おい! 俺はまだ戦うなんて言ってないだろ!!」
「うるせえ! お前に拒否権なんてないんだよ!!」
理解が状況に追いついてくれなかった。
ああ、とんでもないことになってしまったな。
それだけは感じている。
ーーーーーー
その戦いは、ビギン草原の入り口付近で行われることになった。
話を聞きつけた冒険者達がその景色が気になり、ちらほら集まってきている。
「良い感じに集まってきたな。じゃあそろそろ始めるか」
ああ、もう逃げられないんだなと悟っていた。
準備運動をしていたそいつはこちらに振り向き叫ぶ。
「おい! 武器は何を使っている?」
「……なんでそんなのを聞くんだよ!」
「馬鹿かお前! お前の事は憎いが殺し合いなんて簡単にやってられるか!! 木刀、棍棒、木のショートランス、どれを選ぶ!!」
そういう倫理観があるなら血が昇るのをなんとかして欲しいところだが今はそんな説得をする時間もない。
「木刀だ!」
短気男がそれを投げる。
木刀はクルクルと回転しながら俺の近くの地面に刺さる。
「ルールは模擬戦フィックス式ノータイム3ダウン。致死ダメージはなしでいいな?!」
何もわからん。そんな試合の形式を言われたってこっちに来たばっかりの俺に言われても理解できてたまるか。
『ーーー木製武器限定で頭と極部は狙うのを禁止されているルールですね。時間制限なしでダウン3回で負けです』
なるほど、そう言った場所を狙うなって話か。
「丁寧なご説明ありがとう那由多。分かったーー!! 3ダウンだなーー!?」
「ああ! じゃあそろそろ始めるぞーー!! 合図の準備をしろーー!!」
『ーーー相手が良心的で良かったですね。因みに今後そういう事があるならルールは確認してください。模擬戦のつもりがデスマッチだなんて事ざらにあるので』
こんな短気馬鹿を良心的とは思いたくないがそんな風俗だと流石に良心的だと思わざるを得ない。
仕方ないがそういう風に思っておいてやる。
冒険者の男が銃を手に上に向ける。発砲音が開始の合図なのだろう。
そしてしばらくの沈黙を破り、音は炸裂する。
良ければ感想、評価、ブックマークお願いします。





