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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
13/53

その剣の名は那由多


「ふぁ~~~」


 俺は自分の泊まっている宿で目を覚ました。


「……よく休めたよ」


 ここ暫くは魔物討伐で体を使っていたからか知らないがよく眠れた気がする。

 ……とは言ってもスライムの討伐だけだが。

 それでも元非戦闘民族からしてみれば労災生命保険待ったなしの過酷な労働環境だ。

 一時的に仲間がいるからましだが、それでも2人で剣と杖で殴り合うだけだ。

 例え雑魚でも骨が折れる。おまけに金がしょっぱい。

 一月分の猶予があるからまだしのげているというくらいだ。

 多分それを超えてまだこのような状況なら俺は自転車操業で日常を暮らすことになる。

 ……駆け出しは辛いな。


 そんなことを思いながら身支度を進める。

 服も着て、しっかり鎧も身に着けて。


『ーーーおはようございます。一海』


ふと部屋から声が聞こえ、俺はその発信源に、……光の剣に向かう。


「……おはよう。那由多」


『ーーー今日もあの魔法使いの子と依頼を受けるんですよね?』


「ああ、そうだ。もうすぐ酒場に向かうぞ」


『ーーー分かりました』


 少し前に、と言っても初めの依頼をこなした翌朝のことだ。

 あの時力を貸してくれた光の剣、その意思が再起動した。




ーーーーーー





 俺はその日、また朝早くに目を覚ました。

 また謎の轟音によって無理やり起こされたのだ。

 何度周りを見渡しても何もない殺風景な光景だ。

 そんな状況のせいで眠れなくなってしまったので、何となく剣を素振りをしていた。

 これもフィクションでの知識なので真偽は不明だが、よく剣術を習う人間は素振りをしているイメージだったのでそれに習い独学でだが基礎錬をすることにした。

 いつもなら多分スマホでゲームしていたりするだろうが、他に出来ることもないので時間つぶしにでもならないかと思い付きでやっている。

 こうして練習してみると、意外と辛いものだなと思った。

 いざ振り続けてみると、実際50~60回程でかなりしんどくなってくる。

 剣が重いというのもあるだろう。しかしそれでもやはり不思議なのは運動系でもないのにこれだけ出来るのだということだ。

 自分としては20とか30で疲れてくるのではないかと思っていたからだ。


「やっぱり少しだけ筋力とか上がってるのかな」


 まあいずれにしろそれもこの剣が話してくれなければ意味のない話である。


『ーーー朝から基礎練習とは精が出ますね』


「うおぉ?!」


 何とビックリ玉手箱。噂をすれば影。

 そのことを思っていたら話せるようになってしまった。


「……あの、話しかけるタイミングはちょっと考えてほしかったな」


『ーーー失礼しました。折角一人のタイミングでしたので話しかけてしまいました』


「はあ……まあいいよ。それにしても、どうして今になって話せるように?」


当然の疑問を問いかける。


『ーーー実は、転移魔法を使用する際あなたの力をお借りしたのです。あの魔法はかなりの力を必要とするので』


「そうなのか。てっきり俺がここで生活しやすくなる力をくれたのかと思ってたけど」


『ーーーと、疎通魔法と身体適応魔法を諸々と』


「多い多い多い。転移魔法だけじゃないのかよ。幸せセットのてんこ盛りかよ」


なる程。これで合点がいった。

俺の身体能力が向上したのも、通訳翻訳出来るのも、あの超人的なジャンプができるようになってるのもそれのお陰だということだな。


『ーーーそれだけ多いのです、あなたの素質が』


「……なあ、俺なんかが本当に魔王を倒せると思うか?」


 俺は、ずっと疑問だった。自分という人間が果たして本当に魔王を倒せるほどの逸材なのか。

 それはここに来てから今までもそうだ。俺は、未だに実感がないのだ。


「この世界のスライムを倒すのでさえ時間がかかってしまうんだぞ?俺なんかが……復讐できると思うか?」


『ーーーーそれは分かりません』


「わかんないって……俺が倒せると思う程の力があるから俺を選んだんだろ? 詳しい理由とかないのかよ?」


光の剣は暫く黙る。


『ーーー魔王の力は、私たちでは測ることのできないほど力が膨大なのです』


「じゃあ何で俺が倒せると思うんだ? それさえ分からないなら根拠なんてないだろ!」


 そんなの、自殺行為と一緒じゃないか。


『ーーー期待してはいけないのですか?』


「はあ?」


 何を言ってるんだこいつは。


『ーーー可能性に賭けてはいけないのですか? それは何%あればあなたは頷いてくれますか? 人によっては50%の確率でさえ躊躇い、75あっても信用できない人間だっているのです。誰しもが0に等しい中で!!……0.01%に希望を持つのは罪なのですか?』


「それは……?!」


 その言葉に俺の言葉が躓く。


 俺は、夢の確率を知っている。

 数では詳しく分からないが、この目の前で幾多の破れた人間を眺め、数人ほどその夢が散りきる間際まで共にした。

 幾千もの散る桜の中で欲しい1枚があったとして、それをつかみ取れる確率はきっとその夢を掴む確率と同じなのだろう。

 でも夢というのは厄介なものだ。

 その無数の分母を目の前に並べられても幸福だと思える方へ駆け出したいのだ。

 自分にはそれしかないんだと。それがなければ息を吸えないのだと。

 まあ、実際には半端な人間が割合を占めてしまっていて、実は本気ではなかった奴が多いという話は今は野暮なのだが。

 それでも、どんな確率だって追い求めるのが人の嵯峨なのだろう。

 そう言われてしまうと、何も言えなくなる。

 俺だって元々そのうちの一人だ。

 本当は漫画が描きたかったし。それが諦めきれなくて週刊漫画の編集者なんてやっていたんだ。

 せめてその桜が掴めなくても、その周りを掴みたかった。


 少し取り乱してしまっていたみたいだ。良くないな、ホント。


「お前の言い分も分かる。でも、そんな無謀な確率を俺に託すってのは死ねって言ってるのと同じだってことも分かるだろ?」


『ーーーすみません。変に熱くなってしまいました』


「……俺もごめん」


暫く訪れる静寂は2人を落ち着かせる。


『ーーーあなたが不安になるのも分かります。でもその悩みに関してはあと少しだけ待っていてください。あなたが今上手く力を扱えないのは、あの時お話しした元素の回復がまだ遅いだけなのです』


「遅い?」


『ーーーええ。魔法とかを使用する環境じゃないと、生成速度が遅い状態なのです。だからあなたは必ず使えるわけではなく、使えてもあの時の様な威力で使えません。適応魔法もまだ続いているので更に生成も遅くなっています』


「……つまり今は粛々と鍛錬しとけってことだな」


『ーーーそういうことです。それだけお伝えしたかったのです』


 こいつと話していて分かったのは、俺は過信せずに暫く身を潜めながら自分を鍛えろという話だそうだ。


「はあ……分かったよ。言う通りにしますよ光の剣さん」


 この言葉を言った時、俺はふと思ってしまった。

 ユーリはこの剣のこと何て呼んでたんだろうな。

 名前とかあるのだろうか。


「気になるんだけど、お前名前とかあるの?」


『ーーー私は武器ですよ?何故気になるんです?』


「いや、正直お前とちょくちょくこれから話すことになるだろ?それだと呼びにくいんだよ。ユーリは何て呼んでたんだ?」


『ーーー……フフ』


 何で笑ったんだ?すごく気になるな。


『ーーー私は昔、この剣の制作に携わった人たちから、とある願いを込められて付けられた名前があるのです。どんな絶望的な状況でも、数多あるその中から一つの希望をつかみ取れる様にと願いを込められ、『那由多の剣』と呼ばれていました。ユーリはそこから那由多と呼んでいました』


 那由多。

 那由多か。

 どうやら俺はその名前によく縁があるらしい。


「そうか。まあ、お前ともう一度話せて良かったよ那由多。よろしくな」


 はい。と那由多は言う。


「誰と話してるんですか?」


「ひえ?!」『ーーーひえ?!』


 はっと後ろを振り向くとテントから覗くミカの姿。

 そして近づいてくる。


『ーーー私の声他の人に聞こえないんです!! ごまかしてください!!』


「え?! あ、え、マジか……」


 そういえば俺、ユーリが手に持ってるときはこいつの声聞こえなかったんだよな……

 触れてる時か所有者を対象とかそういう限定なんだろうな多分。


 どうしよう。えーと。何て言おうかな。


「えっと……その……バレてしまったか……」


「……何をですか?」


 不安そうな顔で見るミカ。


「俺が……」


「俺が?」

















「筋肉と話せることを!!」




















 暫く沈黙が続く。


 やばい。メンタルがやばい。


「あ、こ、こうやって剣を振ってたりすると上腕二頭筋とかが効いてる効いてる!って言ってくれるんだよホント!!」


「……何だ。それなら早く言ってくださいよー」


「え?! ミカ筋肉と話せるの?!」


「剣術の練習なんて恥ずかしがらないでください。立派じゃないですか!」


 あ、良かった。そっちに取ってくれた。

 さっきの視線真面目に心に来た。

 もし痛いと思われてたらミカと別れた後首吊ってたかもしれない。


「でも残念ながらそろそろ報告に行きますよ。準備しましょう」


「ああ、分かったよ」


 ミカはもう一度テントに潜る。

 それを見てはあっとため息をする俺。


「……よろしくな、那由多」


 俺の独り言が聞こえないくらいボソッと呟いた。


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