致命招来、想いに乗算する
まずは全力の縦振り。
スライムは攻撃を受けるがまだ生きている。
前の経験で地面のお陰で力の逃げ場がなくなって切れたのかもしれないと思っていたが、その推理は間違っていたようだ。
「よっ」
スライムのアッパーカットを避け距離を取る。
昨日のサシの勝負が功を奏してるのか、少しだけ相手の動きが分かった気がした。
これならなんとかまともに戦えるかもしれない。
向こうもポカポカと殴り合っているが、何とか戦えているようだ。
それじゃあパパっと終わらせて向こうの手助けに行こう。
心の中でそう考えれるほど自分には余裕があった。
俺はスライムに向かい疾走する。
それに合わせてスライムも飛んでくる。
危ないと思い転んで回避する。
物によってはローリングで回避をして直ぐに相手に攻撃ができるようなイメージがアクション系にはあるが、運動に慣れてない自分からしてみれば、それは非常に難度の高い芸当なのだなと実感させられる。
むしろ今よく自分は転んで回避しようとして実践できたなと褒めたいくらいだ。
……そういえば何となくだが、心なしか身体能力が上がっている気がしている。
今更だが自分の視力は両目0.8程なのだが、ある程度遠くの物も視認出来たりしているし、このスライムとの距離なら相手の姿が鮮明に見えている。
仕事で走り回っているとはいえ、俺はインドアタイプなのにここまで動けているし、何なら運動している人でもここまで動けるのか想像できない。
もしかして何かされているのか?そういえば自分の担当している人間の漫画に「異世界で戦わせるならそれ相応に戦うことのできる状況にしないと読者が納得しない」と助言したことがあったが、それと同じ現象が何かしらあった?
まあ、どんな理由が有れ自分にとっては好都合なのに変わりはなかった。
よし、じゃあもう一回詰めようか。
俺は剣を構え態勢を整える。
もう一度駆け出す。
一段目の一振りは躱され。
もう一振りの二段目も後ろに後退される。
大きく飛びのいたその動きを見て、
「もう一丁!」
俺は走り、前に飛び落下の勢いでたたき切ろうとした。
これも故郷の知識の見様見真似だが、この距離なら行ける気がした。
そのジャンプは奇麗な弧を描き、空を見上げるように高く舞い上がりそして。
敵の頭上を飛び越えた。
「え?」
その軌道はまさに自分の狙っていたスライムを飛び越え、明後日の方向へ進める。
「わっちょ、っと!!」
その軌道は思わぬことにミカとスライムの元へと降りていく。
「へえ?!」
驚くミカの顔が見える。
自分の着地地点には偶然もう一匹のスライム。
思わずスライムに向かって振りかぶる。
想定外ではあったが、その一撃は敵のど真ん中を通り、勢いのお陰で敵を一刀両断できた。
やったと思いつつも少し気まずい。
彼女からしてみたら突然作戦を無視して飛んできた男だからな。
変に思ってるだろうな。
「だ……大丈夫……?」
何とか笑顔を作り声をかける。
「え、ええ。ありがとうございます」
「良かった。大丈夫そうデェェ!!」
背中から発生した衝撃に俺は吹き飛ばされる。
「ええええええ?!」
吹き飛ばされた後、俺は先ほど戦っていたスライムにタコ殴りにされる。
それに驚愕を隠せないミカ。
急いで駆け付け俺を攻撃するスライムを攻撃するミカという珍妙な光景がそこに広がっていた。
しばらくしてスライムは機械が止まるように停止する。
荒い息を整えようとする魔法使い。
「はあ……大丈夫ですか?!」
「ああ、ありがとう」
「良かった……これであと1匹倒せば終わりですね」
……とても胸が痛むが、言わなきゃいけない。
「いや、あと2匹だ」
「倒したから助けたんじゃないんですか?!」
「ごめん、ちょっと変な状況になって」
変に硬直した後、フフッっと笑い始めるミカ。
「全く、ダメダメですね! でも、ありがとうございました。この調子で残りも頑張りましょう!」
彼女はそう言って座っている俺に手を差し伸べる
「……ああ!」
俺もその手を掴み立ち上がろうとする。
しかし目の前に居たはずの彼女は突然消えてしまった。
「ブゥ!!」
目の前にはスライム。
はっと気づき視線を横に逸らすと草原を転がるミカの姿があった。
「ミカーーーーーーーーーーーー!!」
まずい別のスライムがやってきていたか!
直ぐ戦闘態勢を取り目の前のスライムを何度も切りつけ倒す。
「大丈夫か?!」
俺は彼女の元へ駆け寄ろうとした。
あれ……
あの奥にいるのは……
「……狼?」
立ち上がろうとするミカ。そして視認してしまう。
「まずい、ウルフェンだ?!」
直ぐに身構える。しかし、彼女は飛びついてくる狼の口に大杖を咬ますのが精一杯だったらしく、そのまま倒れて力勝負に持ち込まれてしまう。
「ミカ?! 大丈夫か?!」
直ぐさま向かおうとした。
しかし左の視界から何かがくるのを察知し、剣で受け止める。
別のスライムだった。
「な?! もう1体居たのか!」
クソ、一体相手にするだけでも辛いのにやばそうな敵までいるなんて!
スライムの攻撃を受け流しながら攻撃する。
早く助けに行かないと。そんな焦りだけが自分を急かす。
何となくだが、あの狼はスライムとは違い命の危機を感じるものがある。
でも自分も2対1で戦うのは流石に厳しい。
せめて早くこいつを倒して向かわないと。
ふと脳裏に日本での出来事を思い出した。
自分の不甲斐なさで守りたいものを守れなかったあの時を。
由奈の顔が脳裏に浮かんだ。
「クソ……お前なんかに、構ってられないんだよ!!」
相手の飛び込みに横一閃で切り払う。
ほんの少し剣が光った気がした。
まだあまりダメージは与えていなかったはずだ。
だがその念液体は真っ直ぐに奇麗に開かれ息を止めた。
何がどうなってるか分からないが、今は気にしていられない。
「……よし!」
全力疾走で彼女の元へ、ウルフェンに目掛けて走り出す。
「うぉおおおおおおおお!!」
それに気づいた狼はミカへの攻撃を止め後退する。
さっきの飛び切りのミスが頭に過る。
もしかしたら失敗するかもしれない。
ならミスの確率が減る方向に飛ぶしかない。
俺の謎の直感がそう囁く。
「上が駄目なら前しかないよなあ!!」
俺は右足で大きく地面を踏み込み、さっきよりも上ではなく前目に飛ぶように意識し蹴り飛んだ。
その速さは後退した狼も驚くほどの速さで間合いを詰め、更にさっきよりも少し輝きが増したように刀身が光る。
「もう誰も死なせたくない!!」
〘致命招来ークリティカル・コールー〙
剣がその思いに応える様に強く煌めく。
そしてその横に振られた一撃は、狼の体を切りつけ相手の体を切断する。
やった!
倒せた!!
と心の中で喜んでいたのも束の間だった。
あれ、どうやって止まるんだこれ。
疑問が浮かんだ時には遅かった。
何とか頭から地面に突っ込むという事態は避けるものの体で衝撃を受け止めそのままゴロゴロと転がる。
「イダダダダダダダ!」
その場で悶え苦しむ俺。さっきまでのかっこよかった自分はどこへ行ったのか。
そして痛みが引いてきて少し落ち着いた。
「大丈夫ですか?」
傍から声がした。
「……ああ、何とか。というよりそっちこそ大丈夫なのか?」
「私は何とか無事です。……ありがとうございました。あなたが居なかったら死んでいたかもしれません」
「……気にしないでくれ。俺を助けてくれたお礼さ」
「……それよりどうしますか?残り1匹は明日倒しますか?」
そういえば俺いつの間にか倒してしまってたんだよな。……驚いてくれるかな。
「ああ、そのことなんだけど」
「どうしたんです?」
「君が狼と戦ってる間に2体、倒しちゃってるんだよね」
俺はにこやかにピースサインを突き付ける。
「え……ホントですか?」
「ああ!」
「……残念。かっこいい所もあるんじゃないですか」
「……残念ってどういうことだよ」
そういうと暫くの静寂に耐えられなくなったのか、2人で笑い合う。
お互いの楽しそうな声が草原に響いた。
ーーーーーー
「いやー、お疲れだったね!」
ルイズさんが俺たちに向かってニコニコと話しかける。
昨日の狼事件簿から翌日の事。依頼達成の報告の為ミカと酒場に来ていた。
「それじゃこれが報酬の500Eだ」
そういうと俺たちにお金の入った布袋を2個カウンターに置いた。
中身を確認する。
「え、これ合計で1000Eないですか?」
「うん、一海君とミカちゃんにそれぞれ500Eよ」
「良いんですか? そんな太っ腹な事しても」
「あたしが出した依頼の分だから問題ないよ。それとも2人で500を折半する?」
「いや、まあ、貰えるものは貰います」
俺は一礼する。
「そんな畏まることないさ。それにミカちゃんに要件もあったからね。早く戻って来て欲しかったんだよ」
「私に……ですか?」
オーナーは首を縦に振る。
そしてちょっとこっちに来てって言うかのように手を寄せるジェスチャーをした。
そして何故か俺に聞こえない距離で背を向けながら話す。
何故俺に聞かれたくないんだ?
……いや、被害妄想はよそう。きっと彼女自身の都合なのだ。
何故彼女が動揺してるのかは分からないがまあ俺には関係ない事だ。
そして彼女は振り向いた。
「……あの、すみません!」
どうしたんだろう。ちょっとぎこちない気がする。
「どうしたの?」
「実は、手伝って欲しいんです」
「うーん、何かによるかな?」
「実は、お、お金を、集めてまして」
何だろう。そういう言い方をされると警戒したくなるのが地球人の嵯峨なのだが、今までの様子としてはそんなことをしそうな子ではなさそうなのだが。
まあここで平凡な光景しか見てないが、一応終末世界だから可能性がないことはない。
それで騙されたらトラウマ物だな、本当に。
「……お金を貸してほしいって話?」
少し鎌をかけてみる。
「ち、違います違います!……実は私、とある物を買うためにずっと一人で依頼をこなしてたんです。でも……仲間なんて組めたことなんてなかったから。その物を購入できるまでで良いんです。暫く私と一緒に……依頼を受けてもらえませんか?」
彼女は少し恥ずかしそうにお辞儀をする。
なる程。お金を少し貯めやすくするために一緒に依頼をこなしてほしいということか。
だったら彼女にお金を掏られる以外で騙されることはないか。
……でもどうしよう。俺は、自分の進みたい道さえ分からないのだ。
こんな風に何とか生活はしてるが、いずれどうするかを選ばなきゃいけない。
それをこんな風に時間を潰していいのだろうか。
ふと俺の頭に過ったのは由奈の顔だった。
何でだろう、別に彼女に似ている訳でもないのにどうして頭に浮かんだのだろう。
似ているといえば髪の色と目くらいだ。
……ああ、そういえばあいつが昔言ってた言葉があったんだ。
「決められないなら、身を任せて決めてもいいんだよ」
って言ってたんだ。
俺と出会う前は誰とも仲良くなれなくて引きこもりみたいな状態だったあいつは、ずっと絵を描き続けて暮らしていたらしい。
親はあいつが元気で生き続けてくれたらそれでいいって思ってくれてたらしいけど、ある日ネットで繋がってる知り合いから絵はどこで勉強してるのかと聞かれたことがキッカケで俺と同じ美大に通うことにしたらしい。
そういう風に生きることに繋がったということは、そんな生き方もありなのだろうと思う。
……本当にそれでいいのだろうか。
「……嫌、ですか?」
……まあ、こんな時にあいつの言葉を思い出せたんだ。
今は何も分からなくても、きっと俺の糧になってくれるはず。
……それでいいんだよな?
「……俺、今は何すればいいか分からなくてさ。よく分かってないんだ、本当に。だから……流れるままに決めてみるよ」
彼女の頭にはきっとクエスチョンマークが浮かんでるように戸惑っている。
そんな姿がちょっと可愛いと思ってしまった。
「だから手伝うよ。力になれるか分かんないけどさ!」
ミカは俺の返事を聞いて段々明るくなる。
「ありがとうございます!」
分かったよ由奈。俺も流れに任せてみるよ。
そうしたらきっと……見つかるんだよな。
「それで、何が買いたいんだ?」
そして彼女は少し恥ずかしそうに呟いた。
「……実は、魔導書が欲しいんです。」
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