ミカ・リアンノンは魔法が使えない
俺は目が覚めるとカーキ色の天井を見上げていた。
どうやらあの戦闘で死んでなかったらしい。
それにしてもどこだろうか。教会とか病院みたいな場所には見えない。
隅の方で何やらごそごそとしている少女がいるみたいだ。
その子は何かに気づいたかのように振り向くと俺の方に寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
その子は心配そうに話しかける。
「ああ、ありがとう」
少し視界がぼやけていたのが聡明になってくる。
どういった場所なのかと周りを見渡す。
状況を確認すると、どうやら2人くらいなら大の字で寝れるほどのテントの様だ。
彼女は白のノースリーブにホルターネックのシャツ、赤のフレアスカートを着た少女だった。
腕には肘から付けたアームカバーの様なローブの袖を付けている。
ランタンに照らされて分かるのは彼女の髪は火で赤く見えるが、光に当たると赤く透ける黒髪の様だ。
初めの印象としては魔法使いの様なイメージを抱いた。
俺は体を起こそうとすると、全身に激痛が走る。
「イテテテテ!」
「まだ動いちゃ駄目ですよ! ちょっと待ってくださいね。」
彼女は手に持っている塗り薬の様なものと布きれの様なものを持っている。
まずは薬を俺の頬にスッと塗り、その上から布を被せる。
「これで朝にはましになってると思います。でも駄目ですよ、薬草も持たないで旅をするのは。誰かが見つけた時に助けられないかもしれませんからね」
その一言で思い出す。そういえば俺、お金を支給されてたのに下準備をしてなかったなと。
急にこんな場所に送られてるものだから感覚がおかしくなってたのかそんなこと考えてなかったことを少し恥じる。
「ごめん、慣れてなかったから」
「フフッ、気にしてませんよ。多分新しい冒険者の方ですよね?」
「そうだけど、どうしてわかったんだ?」
そう聞くと彼女は「ごめんなさい」と一言呟いて俺のかばん(ズタ袋)の中に手を入れる。
「一人で生活していると、防衛手段として見ないと危ないんです」
そして取り出したのは俺のバッチと依頼書だった。
「見習い冒険者で忘れ物は良くありますけど、バッチと依頼書だけなのは初めてです」
ああ、何だろう。凄く恥ずかしい。
「ごめんね、迷惑かけて」
「ああ、冗談ですよ!実は私もやっちゃってるんで!!……スライムと戦って目が覚めたら夜の草原に寝そべってたこともあります」
「ぷっ、ははは! じゃあ俺と一緒だね!! イテテ……!」
思わず吹き出し、傷が痛んでしまう。
「ごめんなさい!」
「気にしないで。……もしかしてさ、依頼でスライム10匹の討伐とか受けてない? 俺そのクエストを受けた魔法使いを探してるんだよ」
丁度スライムの話が出たので思い出し話題に上げる。
彼女はそれに即答する。
「ルイズさんに頼まれたんですよね? さっき依頼書も見ちゃいました」
「やっぱり。期限が迫ってるからって僕も行ってあげてくれって言われたんだ。練習ついでにって」
「練習ついでに?……珍しいですね。あの人が練習ついでに私に手伝いをつけるなんて」
少し不思議に思ったが、何も状況を知らない俺からしたら分からないことだった。
「でも助かります。ありがとうございます。詳しい状況は明日言いますね」
こくりと俺は頷いた。
……そういえば自分の事を言ってなかった。
「自己紹介、まだだったよね。俺の名前は……」
そういえばここの世界って海外の様に名と姓の順で名前になってたっけ。
どう説明しようか。
「姓は劔で名は一海。一海で呼んでくれて良い」
何か変にキザな言い方をしてしまった。変に思われてるかな。
「カズミ・ツルギですか……いい名前ですね。私はミカ。ミカ・リアンノンと言います」
よろしくと言い、お互い握手した。
ーーーーーー
翌日の朝。テントの前で準備を整えている俺とミカ。
ほんの少しだけ眠い。多分回復しきってないのだろう。
いや、それもあるが多分朝の爆発音にも似たなにかのせいで起きてしまったからだろう。
俺の頭からそれが離れない。恐らくだがあれは結構近くで起きていた出来事だと思う。
なのにそんな痕跡が見当たらない。
何だったんだろうかあれは。
まあそんなことはどうでもいい。それよりも準備だ。
彼女から貰った薬草や色々を詰めて。
防具もしっかり装備して。
そういえば錆びってましにできないのかな。
やすりとかあればいいんだけど。
「ミカ、聞きたいんだけど。研磨剤とかって持ってたりする?」
近寄るミカ。テントの中とは違い上から緑のボロボロのローブを纏っている。
「すみません。今は持ってませんけど、何に使うんです?」
「そっか。ないならいいんだ。……これも恥ずかしい話なんだけどさ。実はこれ貰った剣なんだけど、昨日抜いたらちょっと錆びてしまってたんだ」
「錆びて? そんな直ぐに錆びるものなのですか?」
「俺もよくわからなくてさ。もしあったら突貫でもいいから研げればと思ってさ」
「貰いものなら、もしかしたら血が残ってたとかあるかもしれませんね。ギアの街に戻ったら一度詳しい人に聞いてみましょう」
「わかった。そうするよ……どうした?」
彼女は少し暗い顔をしていた。
「……この際お話しするんですけど、実は私、まだ魔法使えないんです。魔法使い見習いというかなんというか……そういう事情で討伐も今は大杖で殴るしか出来ないんです。」
成程。彼女も見習いという訳か。道理で依頼に時間がかかるわけだ。
だったら自分も戦士見習いだ。自分の不甲斐なさもお互いで助け合う様に動けばいいだけだな。
「そうなんだ。わかった! お互い見習い同士頑張ろうな!!」
「?!」
そういい俺は手をグーにして突き出す。何故だろう彼女が少し驚いた気がした。
「……はい!!」
そして彼女も手を差し出し拳をぶつける。
そして準備が完了したのでそのまま出発する。
ーーーーーー
スライムを見つけるまでの移動中、俺は彼女から詳しい依頼の内容を聞く。
依頼内容は馬車の運転手から、スライムの数が少し増えてしまって困っている。
セルスライムと呼ばれる魔物は、初めは危害を加えないのだが攻撃を受けると敵と判定して倒れるまで攻撃してくる習性があるらしく、それは物でも一緒らしい。
馬車の通り道にスライムがいると馬が踏んだり馬車が轢いたりしてしまい攻撃してくる。
そのせいで馬車の破損等多く被害がでるのだそうだ。
「へえー。じゃあ、スライムが多くなってきちゃうと困るから減らしてほしいって依頼なんだな。それなら倒さないと行けなくなってくるな」
「はい、だから一応また稼働がはじまる3日後までに倒してほしいという話です。因みに残りはあと4匹です」
「じゃあもう終わるね」
「はい。本当は一人だと明日くらいまでかかるかと思っちゃいましたが、ヘルプが来てくれてので安心して倒せそうです」
自分で戦ってみて実感したが、一人で、それも生身でまともに戦うと、結構苦戦してしまう。
慣れてくると早いのだろうが、害の少ない青の半固形でさえあの戦闘力の高さだ。
それを一人で魔法禁止縛りでってなると話も変わる。大杖で殴る上女性だ。
スライムも単独で動いてくれてればいいがちらほら見るのは結構2匹以上で動いている。厄介だ。
それだと結構粘って探して倒しても1日2匹が限度かもしれない。
時間をかけ過ぎると別の仲間に見つかるかもしれないリスクもある。
倒れてしまっては更にノルマも遠のく。
それなら時間がかかっても仕方ない。
「……お」
早速俺たちの目の前に現れたのはスライム2匹。
「早速きましたね。丁度良い数です。私は右を狙いますね」
「分かった。じゃあ俺は左だな」
早速開幕のゴングが鳴る。
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