覚悟とは
お互いの得物が噛み合い、火花を散らす。
既に黒騎士の中身がないと判明してから何十、何百と重ねられた剣戟。しかし、お互いに有効打と呼べる物を与えられずに時間だけが過ぎ去っていく。
ただ、その刃に乗せられた殺意だけは本物で当たりさえすれば容易くその命を刈り取るだろう。
『大丈夫。貴方は忘れてしまっているかもしれないけれど、この程度の敵ならいくらでも戦って来たでしょう?』
白華を振るい、剣を交らわせる度に脳内にあの声が響く。
ソレが何者なのか。そもそも、彼女は俺の何を知っているのか。前世でも関わり合いがあったのか。そういった疑問が浮かばないわけではないが、今この戦場において思考は足枷にしかならないと全て破棄した。
「――っ!」
黒騎士の大剣が頬を掠める。
その狂気が振るわれる度に死を感じずにはいられないが、それでも尚、この身体は前へと踏み込んでいく。
不思議な感覚だった。
白華を振るい、大剣が振るわれ、その刃を交わらせる度に俺の体は本来の姿を思い出すかのように最適化されていく。
『記憶なんてしてなくていいわ。だって、身体が覚えているもの。貴方は戦う人……思考せず、その染みついた動きに身を任せるだけでいいの』
ならば、目の前の敵に集中するだけでいい。
そう意識してみれば、戦いにおいて不要な物は全て削げ落ちていく。音も感覚も視界の情報でさえ、消えてみればいらない物が多すぎた。
肉体の限界さえ、理性の判断でしかない。
何故かはわからないが、こうして怪我が治るのであればそれさえ無視していい。
《……!!》
「――」
突き出された大剣の刃に沿って白華を当て、その剣先を僅かに逸らす。
それだけで最小限の動きで回避し、反撃に出る事が出来る。
「ふっ……!!」
左手を握りしめ、胴体に向かって突き出す。
一発でダメなら二発。二発でダメなら三発殴打すれば、あの絶望的な強度を誇っていた甲冑が凹む。
そうだ。そもそも、何を迷っていたのか。
この左腕は特別製だと自分でも言っていたじゃないか。ソレは、生身の腕よりも頑丈だと言う事であり、ならばどれだけ無茶な使い方をしたとしても問題はないという事だ。
《――!!》
だが、この大剣を受けるのはダメだ。
もしも、コレを左腕で受けるような事があれば、熱したナイフをバターに差し込むが如く簡単に斬り落とされる。
この大剣が特別製なのか……それとも、何かしらの魔法が使われているのか。気にはなるが、白華で打ち合えるのであれば問題にはならない。
「……っ!」
振られた大剣を白華で受け、お互いの位置が変わるように足を動かす。
そして、示し合わせたかのようなタイミングでお互いに刃を振るう。
『ほら、仔猫ちゃんも頑張らないと。今の貴女はただ振り回されているだけよ?』
『ぐっ……!! そんな事わかってるよ! てか、いきなり出てきて一体何者!?』
『そんな事、後でもわかるでしょう? 今は目の前の獲物に集中しないと。こんな事なら昔のあの子達の方がよっぽど頑張ってたわよ?』
『ムッキー!! その言葉、絶対に撤回させるから!!』
紅く染まっていた白華の刃が更に深い紅へと染まっていく。
それと同時に切れ味も増したようで、甲冑に深い傷を付けられるようになる。だが、コレでは足らない。いくら俺の技量が上がろうと、いくら白華の力が上がろうともそれだけで打ち倒せる敵ではない。
「(この戦いで重要なのは膂力でも技量でも経験でもない……)」
俺と黒騎士では決定的に違う物がある。
ここまで打ち合った果てで気付いたのはその差だった。俺は、ユキを救うためにこの戦場に来てコイツと戦っている。だが、コイツは違う。俺という“敵”を認識し、その剣を交えた段階で既に目的は“俺という敵を何を犠牲にしてでも倒す”という物に変わっている。
故に、差とはその覚悟。
全てを犠牲にしてでも目の前の敵を倒すという戦場において当たり前の『生きるか死ぬか』の殺し合いに対する理解でしかない。
「なら……俺もそうしよう」
理性をかなぐり捨て、本能のままに戦おう。
ガンダルの気配はすぐそこまで来ている。後ろを気にする必要はもう無いと言ってもいい。
「――装填」
呟く。
魔力がない身体で鍵言葉を呟いた所で何の意味もない。だが、それでも、奥の手とは誰にでもあるもの。
左腕の魔力路が一気に活性化するのを感じる。それと同時に暴れ狂う熱い魔力が全身を焼く。それでも、その魔力を圧縮し装填する。
『ユウ!? そんな事したら――!!』
他人の魔力はどんな毒よりも猛毒。
一度体内に入れてしまえば、全身の魔力路を破壊し最終的には死に至る。
だが、魂が繋がっている俺と沙織ならば短時間ならどうにでもなるはずだ。
「ぐっ……!!」
身体が悲鳴を上げる。頭が鈍器で強く叩かれているように痛い。脳が沸騰し、その全てが液体になって体外へと流れだしそうな程に熱い。
白華と不思議な力が即座にそれらを修復するが、またすぐに壊れていく。その繰り返しはどんな拷問や怪我よりも地獄だ。
「うっ……!」
死がすぐそこまで近づいているのを感じながらも斬り結ぶ。
黒騎士は俺よりも遥かに格上。恐らく、剣聖に近しい存在。
ならば、それを打ち倒すには俺は文字通り命を賭ける必要がある。
「ぐっ……あっ……!!」
剣閃が煌めき、火花が視界を照らす。
朦朧とする意識を身体の痛みで繋ぎ止め、その一瞬をただひたすらに待つ。
数秒が数十分に感じる程に長く感じる中で――時は来た。
上段からの渾身の一撃。
それを半身で避ける。砕かれた地面と剣圧によって怪我を負うが全てを無視。
「発射……――ッ!!」
白華を手放して魔法を発動する。
常人を超え、目の前の強敵すらも超えた力で大剣を足場にし宙へと身体を舞い上がらせる。
「腕の一本、くれてやる……!!」
即座に黒龍布を外し、翡翠色の魔力で構成された左腕を解き放つ。
左腕は抑え込まれていた魔力を放出させ、不定形な弓のようなナニカを形作る。
「吹っ飛べ!!」
その左腕を兜が取れた甲冑の中へと突っ込めば、暴走した魔力は轟音と共に大爆発を起こした。
砂ぼこりが舞い、視界が回転する。尋常じゃない衝撃を身に受けながらも俺が最後に見たのは、上半身が吹き飛んでも尚、その両足で立つ黒騎士の姿だった。
白華「今日の教えて白華先生のコーナーはおやすみだよー」
沙織「よければ、ブックマーク・感想お願いします!」
白華「私に解説してほしい事とかもどしどし応募してね!!」




