――貴方に安らぎを
後書きの「教えて白華先生」がいらない場合は言ってください。
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その言葉が口から出たのは無意識だった。
ただ、あの男に言われた言葉が頭から離れず、瞳に映った空に一つだけ輝く星に対して本能が何かを察したのかもしれない。
だから……反応が返ってくるとは思っていなかった。
『――貴方に安らぎを』
鈴の音を転がしたような優しい声だった。
その声が聞こえるのと同時にあれほど願っても重りが付いたように動かなかった身体は、羽のように軽くなった。
『――!!』
「うあああああああっ!!」
指先に力が戻る。
ソレを理解した瞬間に考えるよりも先に身体が反応した。右手に握る白華を力強く握りしめ、膝まづいた体勢から勢いよく立ち上がるのと同時に、右腕を振り上げる。
地面を斬り裂いて振り上げられた白華は、銀閃を伴って振り下ろされていた大剣を迎え撃つ。
甲高い音と共に俺と黒騎士が後ろへと仰け反る。
何故、さっきまで弾く事さえ出来なかった大剣をこうも簡単に弾く事が出来るのかという疑問はあったが、それらを全て置き去りにして後ろへと揺れる身体を叱咤し、前へと踏み込む。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
その一振りに剣技なんてものは存在していなかった。
ただ、死にかけの人間が苦し紛れに振るった乱暴な一撃。しかし、そこに乗った力と殺意だけは一流だ。
故に、黒騎士は今までのように大剣で受ける事をせずに半身を引くことでソレを避けた。
地面へと当たり、大小の岩を空中に舞い上がらせた白華は刀身を半分以上大地に埋め込むまで止まらなかった。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら、頭部から流れる血で赤く染まっていた左目を手早く擦る。
それ以上血が垂れてこない所を見ると、俺は何故か傷が治っているらしい。だが、使った魔力とスタミナだけは返ってこない。劣勢なのは変わりなかった。
《……》
黒騎士は先程の一撃を警戒しているのか、油断なく大剣を構えている。
こっちは死に体だというのに、その構えからはまだまだ余裕を感じられた。
『ユウ、大丈夫なの?』
「ああ……何でかわからないけどな……」
白華に返事をしつつ呼吸を整え、俺も構え直す。
正直、血を流しすぎたのと魔法の反動で今にも倒れそうだ。白華の治療と謎の力で身体の傷は治っているとは言え、ゲームのようにすぐ完治とは行かない。
身体はさっきまで傷を負っていた事を覚えていて、急に治ったとしてもソレに反応出来ずまだ不調を訴えかけて来るからだ。
「流石に、そろそろ終わりにしたいよな」
そう口にしてみても、勝機が見えているわけではない。
相手は自分より遥かに格上で、しかも油断なんてしてくれるような優しいヤツではない。なんだったら余力さえ残しているようだ。
対する俺は傷は治ったと言えどボロボロ。魔力も底を尽きて身体の調子も悪い。打てる手は既に残っていない。
「逃げられるような相手でもないしな……」
《……》
チラリと周囲を見てみれば、いつの間にか戦っているのは俺と黒騎士だけになっていた。どちらかが全滅したとかではない。単純に亡霊騎士達が前線から引いたのだ。
人間側も黒騎士が発する圧に引くことも進む事も出来ずにその場に留まっている。幸いにして距離はあるから巻き込む心配などはしなくていいが、一か八かを賭けて逃走するという選択肢は取れない状況だった。
「ふぅ……」
一度大きく深呼吸して、黒騎士を見据える。
何を思っているのか黒騎士はその場から一歩も動かずに大剣を構えたままこちらを見ていた。隙など、いくらでもあっただろうに。
「行こう……」
『活路は前にしかないからね』
白華の言葉に頷いて、一歩前に出ると黒騎士も合わせて一歩前に出て来る。
ジリジリと互いの動きを睨み合っていても、やはり活路が見えない。さて、どうしようかと考えていると不意に脳内に先程聞こえた声が響き渡った。
『貴方は戦い方を忘れてしまったのね? でも、大丈夫。すぐに思い出せるわ。ほら、前に出て』
そんな声と同時に優しく背中を押され、俺は大きく一歩踏み込んだ。
「――ッ!!」
意図しない踏み込み。
それでも体勢を崩さずにいられたのは、これまでの経験があったからだろうか。
『まずは剣を振りましょう? 大丈夫、今の貴方に怖い物なんてないわ』
俺の動きに反応した黒騎士に遅れる形で白華を振るうと、先程と同じように互いの剣は弾かれる。
だが、二回目という事もあってお互いに体勢を崩す事はなく、続けざまに剣を振るい再度火花を煌めかせる。
『火花は貴方を祝福し、気力を与えてくれるわ。だから、怖がる必要なんてないわ』
続く三撃目、四撃目と剣を打ち合う。
魔法を使っても追いすがる事しか出来なかった黒騎士の剣に対して何故ここまで打ち合えるのかという疑問はあった。だが、ソレを気にしている余裕なんてない。
言ってしまえば綱渡りをしているようなものだからだ。
細い糸の上を手探りで歩いているに過ぎない現状で、考え事なんてしている暇はない。
『貴方は相変わらず片手で剣を振るうのね? なら、空いている手の使い方はどうするの?』
声に言われて、左手を使っていない事を思い出した。
果たして、ソレは左腕がない時期が長すぎた故なのかはわからない。だが、黒騎士相手には使える物は使うべきだと思った。
白華を振るいながら、機会を見定め――互いの剣が弾かれた所で身体を捻らせる。
足から腰へ。腰から上半身へと力を素早く伝達し、左腕を突き出す。
「吹っ飛べ!!」
がら空きだった胴体に手を当て、伝達した力を全て叩きこむ。
帝国式攻式三ノ型激衝――全身を使って運動エネルギーを蓄積し、ソレを突き出した腕を通して相手に与える技。
本来なら敵の内部にまで衝撃を浸透させ、内側から破壊する技だが黒騎士は少し後ろに下がっただけだった。
故に、俺は素早く踏み込んで白華を下段から振り上げる。
左斜め下から右上へと振り抜かれた白華は甲冑に浅い傷を残す。この速度で攻撃したにも関わらず反応してきた事には驚くが、それよりも先に右手が動いた。
「―――ッ!!」
即座に上段に構え、白華を両手で握って全力で振り下ろす。
銀閃が煌めき、その軌跡を残す。
『浅いよ!』
「わかってる!!」
わかってはいる、が……ここから繋げる手が浮かんでこない。
『私が手伝ってあげるわ』
また、声が聞こえた。
そしてまた身体が勝手に動き、両手で持っていた白華を手放した。
「なっ!?」
敵の前で武器を手放した事に驚いていると、身体は素早くしゃがみ込んでから勢いよく真上へと跳んだ。
途中で黒騎士が踏み込んでいた右膝を足場に上へと跳び、途中でクルリと空中で回転する。振り上げられた右足は綺麗に黒騎士の兜へと直撃する。
所謂、サマーサルトというヤツだった。
「……っ!」
着地し、白華を回収して再度斬りかかるが流石に黒騎士もソレを許してくれるわけがなく、大剣が水平に振られた。
ソレをヒラリと回避して距離を取った所で身体の主導権が戻って来た。
『ユウ、今のは……』
「それは後だ……だが、まさかな……」
先程、激衝を放った時に違和感は感じていた。
だが、こうして目のあたりにするとこんな事があるのかという気持ちが湧いて来る。
「まさか、生き物でさえなかったとはな……」
目の前に居るのは兜が地面へと落ちた黒騎士。
だが、本来なら顔がある場所には何も無かった。そこから察するに、おそらくあの甲冑の中には肉体と呼べる物は何一つ入っていないだろう。
「厄介だな……」
黒騎士には肉体がない。
ソレは、言葉にするよりも厄介な事だ。
何故ならば、肉体があれば痛みを感じ、痛みを感じれば生物ならば多少は動きが鈍くなる。それに、スタミナだって有限だから持久戦に持ち込めば勝機があるかもしれなかった。
だが、ヤツにはソレがない。
つまり、痛みで動きが鈍くなることもなければ……恐らく、スタミナに制限もないだろう。
ここに来て最悪の展開に、俺は溜息を吐きたくなる気分だった。
白華「教えて白華先生の時間だよー!」
沙織「今日は前回の続きからだよね?」
白華「そそ、前回は魔臓の説明をしたんだよね。今回はその続きなんだけど、魔臓から魔力が流れる管を魔力路って呼ぶの。コレは血管と同じように全身に満遍なく張り巡らされていると言われているよ」
白華「この魔力路は人によって太さが変わるんだけど、太ければ太い程大規模な魔術が行使出来るよ」
沙織「えっと……魔力が多く流せるから?」
白華「そういう事! そして、ユウの魔力路は私と契約した時に私が拡張したからトップの魔術師よりも太くなってるんだ」
沙織「か、拡張?」
白華「正確には、私の魔力路を上書きしたっていうのが正しいかな? 浸食とも言うね!」
裕「またなんかさらっと……」
白華「そして、ユウの魔力路に私が魔力を常時流して全身の筋肉を強化しているからユウの身体能力はおかしいんだね!」
沙織「そういう仕組みだったんだね。あれ? それならその魔力を使えば……」
白華「残念だけどソレは出来ないの。何故なら、魔力三原則に引っかかっちゃうからね」
沙織「ま、魔力三原則?」
白華「次回は魔力三原則を解説するよ!」




