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【本編完結】君のために繰り返す~前世から続く物語を終わらせます~  作者: 夜桜詩乃
第九章 未来へのメッセージ
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夕焼け

余計な事は何も考えずにに雪原を駆け抜ける。

雪を蹴りあげてスケルトンの集団に飛び込み、白華しろかを振るう。一振で数体のスケルトンを仕留める事が出来るが、数だけは無駄に多いために目に見えて減っている感じはしない。


『でも、モテモテだね』

「嬉しくないけどなっ!!」


単騎突出してきた俺を脅威だと認識しているのか、スケルトン達のヘイトは全てこちらに向いている。

四方八方から突き出される剣や槍を避け、お返しに白華を振るう。倒したヤツを乗り越えるようにして次のスケルトンが現れ、また同じ事を繰り返す。


「埒が明かないな!」


スタミナにはまだまだ余裕があるが、それだって何時まで持つかは分からない。

一旦、距離をとるべく軽くジャンプして目の前に立っていたスケルトンの顔を踏み台にし、バク転の要領で後ろへと飛んで包囲網を抜ける。


「あっちは……まだ、様子見か……」


チラリと背後にいる人類側を確認し、行動の遅さに若干の苛立ちを感じる。

アレは、指揮してる奴がダメだな……。


『人間側は期待できないし、スケルトンは待ってくれなさそうだし……どうする?』

「……仕方ない」


数秒だけ考えて、すぐに行動を決めた。

白華を地面に突き刺し、左腕に巻かれた黒龍布こくりゅうふに手を掛ける。


「沙織、やるぞ!」

『えっ!? あ、分かった!』


戦いに慣れていないからか、遅れて返ってきた返事に頷いて黒龍布を一気に引き剥がすと、黄緑色の左腕が現れ、腕を構成している沙織の魔力が活性化して大きく揺らめく。


『落ち着いて。大丈夫だから、ね?』


沙織が声を掛けると、興奮気味だった魔力は徐々に落ち着きを取り戻す。


「よし、いいぞ……」


やっぱり、自身の魔力だからか沙織が声を掛けると制御が効きやすい。


「数が多いなら、一気に吹き飛ばしてやる……」


膝立ちになり、大弓の形を取った魔力の弦を引く。

精霊大弓はその魔力によって大弓を形取り、その魔力で矢を形作る。故に、威力は込めた魔力の分だけ上がる。


「ーー装填セット


矢が鈴の音を雪原に響かせながら肥大していくのを横目に魔法を準備する。想定する威力の矢を放った場合、その反動で身体がバラバラになるから強化しておく必要があるからだ。


『大丈夫なの……?』

「問題ない……まだ、もっと溜めるんだ」


鈴の音が何段階も高くなるにつれて沙織が不安そうな声を発する。

今はまだ制御が効いているが、コイツは産まれたばかりの赤子同然ーーいつ、暴発するかわからない。


『暴発したら、この平原は吹き飛んじゃうね』

「そうならないように集中しないとな」

『は、初めての実戦で責任重大すぎるんだけど……!』


軽口を叩きながら正面を見据えれば、そこには吹き荒れる魔力風によって進軍出来ずにいるスケルトン達とーー


「夕暮れだ……」


青とオレンジに彩られた空があった。


『ここに落ちてきた時は曇ってたからねー。まぁ、雲はユウが吹き飛ばしちゃったんだけど』

『綺麗……』


夕暮れは好きだ。

何故かはわからないが、昔から安心感を覚えるから。


「……」


元の世界で見ていた夕焼けよりも綺麗だなと思っていると、空に一つだけ耀くホシを見つけた。

それと同時に、精霊大弓が小さく震える。


「なんだ? お前は、一番星に憧れてるのか?」


聞いてみれば、返事をするように再度震えた。


「なるほどな。でも、一番星はダメだ……アイツは輝ける時が一瞬だし、何よりもすぐに忘れ去られるからな。だから、そうだな……お前はあの夕暮れを目指せ。夕暮れなら誰にも忘れられない」


忘れられるのは、死だ。

いつか力尽きたとしても、忘れられない限り本当の死ではない。


「わかったか?」


問い掛けてみれば、今度は大きく震えた。

どうやら、夕暮れを気に入ったようだ。


「いい子だ」

『ちょ、あんまり無闇に褒めると!』


沙織の焦る声と同時に、矢は更に大きくなる。


『ほらぁ!』

「悪い……だけど、そろそろ限界だな」


ゆっくりと腕を動かして照準を定める。

狙うのは中央ーーそのさらに奥だ。


「ずっと、見えてたぞ……発射インパクト


矢を放つのと同時に魔法を発動し、最大限に肉体を強化する。


「強化してコレかよ……!」


矢を放った衝撃で地面は陥没し、ハリケーンの中に居るんじゃないかというほどの逆風に襲われる。

その衝撃は空気を大きく破裂させるものであり、魔法もによって極限まで強化した肉体でさえ悲鳴をあげた。


『ユウ!』

「わかってる!」


逆風に逆らって立ち上がり、白華を地面から引き抜く。

放たれた矢は、周囲の全てを広範囲に渡って殲滅しながら進みーー俺が狙った場所へと着弾した。


「ーー!」


音が消えた。

いや、音だけじゃない。この世界の全てが一瞬だけ消えた。


『ーーユウッ!』

「ーーー!!」


白華を振り抜く。

それと同時に発生する爆音と衝撃は先程よりも大きいものだった。それこそ、それだけで大規模殲滅出来るほどだ。

広範囲に及んだソレは俺や、背後にいる人間達にも牙を向いたが、白華の斬撃に防がれて届く事は無かった。


「一つだけ、わかった事がある……」

『ん〜? 私が優秀な武器ってこと?』

「……コイツの扱い方をもっと勉強しようって事だ」


耳鳴りがする中でそんな軽口を叩き、目の前に出現したデカいクレーターを見て、もしかしたらコレを人間側に責められるかもしれないと思った。


「まぁ、敵対したら分かりやすくていいか」


精霊大弓を消すと、右手首に巻きついていた黒龍布が自動的に左腕に巻き付く。


「お前は働き者だな……」


そう呟き、振り返る。

さて、相手の出方を見るとしようか。





人間側ーー氷の国に所属する兵士達は目の前で起こった出来事を理解出来ずにいた。


「なんだ、アイツは……」

「人間、だよな?」

「一体、何が……」


突然、人が空から降ってきたと思ったら“見たことも無い武器”を片手にスケルトン共に単騎駆けを仕掛けた。

その勢いにも驚かされ、その後に何処からともなく現れた大弓によって放たれた一撃は一言でいうならば『有り得ない』だった。


「……」


一人の兵士が近くの地面を見ると、あの攻撃の余波で赤く加熱されていた。

その様子にアレが自分達の国に撃ち込まれたらと想像して息を飲んだ。


「おい、動いたぞ……」


同僚の声に視線を戻せば、そこにはゆらりと立ち上がってこちらに振り向く男の姿があった。

線は鬼神の如き戦いを繰り広げたとは信じられないくらいに細く、見に纏っている服は見たことも無い物だ。

だが、それらよりも男の目が兵士達の注目を集めた。

黄緑色と紅色のオッドアイ。その両目が薄暗くなりつつある世界で仄かに輝いていたのだ。


「……」


汗が頬を伝って地面へと落ちる。

男が一歩近づく事に増える威圧感によって、本能が逃げろと全力で訴えてくる。


「動くな……動いたら……殺される……!」


自分に言い聞かせた言葉だったが、周りも同意見らしく頷いた。

ゆっくり近づいてくる男は、途中で足を止めた。


「なんだ……?」


その行動に注意を払っていると、先程まで感じていた威圧感が嘘のように消えた。


「……はっ! はぁ……」


隣の同僚が大きく息を吐き、他の兵士達もようやく酸素を得たとばかりに大きく深呼吸をした。

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