天より来りて
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どれだけ神様に願っても……どれだけ頭上に輝く無数の星空に願ったとしても、叶わない願いだと思っていた。
雪が一面に広がって銀色に輝く大地。その上に立つ、無数の武装した人と無力な私。それに対するのは無数の武装したスケルトン。
彼らがどこからやってきて、何故私たちを襲うのかはわからない……わからないけど、この国の王、その一族として今は前線に行っていて不在の兄と父親に代わってこの場を指揮しなければならない。
「ぁ……ぅ……」
頭ではわかってるのに、体は動かない。口は歯車が外れてしまったかのように呂律が回らない。初めてこの目で見る戦場に、初めて感じる実戦の空気。私は、完全にソレに飲まれてしまっていた。
だから、願った。
誰でもいい。
どんな人でもいい。
どうか、この場に居る私たちを助けてください、と――。
「スケルトン、前進を開始しました!!」
「ぁ……は、はい……っ」
だけど、やっぱり願いは届かない。
神様も星空も上から見ているだけで私たちに手を差し伸べてくれない。
そう、思ってどうにか口を動かして進軍の指示を出そうとした時――
「なっ!?」
「対ショック姿勢!!」
――轟音が戦場に響いた。
それと同時に大地が悲鳴を上げているかのような揺れが足元を不安定にさせる。
「わっ……!!」
「姫様!」
危うく倒れそうになったところを隣に立っていたお世話係の爺やが助けてくれた。
その太い腕に抱かれながら、前方に目を向けてみると私たちの軍とスケルトンの丁度真ん中に天まで届くのではないかというほどの土煙が立ち上っていた。
「な、なにがあったの……?」
「私もハッキリ見えたわけではありませんが……何かが天から降ってきました」
私の呟きに爺やが答える。
一体、何が降ってきたのか。この場に居る誰もが土煙の中央を凝視した。
△
▽
穴を開けた直後は天に上るような浮遊感があったが、その後すぐに一気に地面にたたき落された。
「いてぇ……」
砂埃と冷たい何かが立ち込める中で、大の字に倒れながら呟く。
身体がバラバラになりそうな衝撃があったのにも関わらず、手足が無事に付いている事は最早奇跡と言っていいんじゃないだろうか。
『ユウ、ゆっくりしている暇はなさそうだよ』
「みたいだな……結構な気配を感じるけど、片方はアンデッドか?」
『死霊系魔術で生み出されたスケルトンかな。戦争地域に落ちてきちゃったみたいだね』
白華の分析に内心で頭を抱える。
俺は、前回のこともあって人間・魔族の両方と敵対している。そんな中で両陣営が争っているど真ん中に落ちてくるとは運がない。
この砂ぼこりのおかげで、今はまだどっちも様子見をしてくれているが……晴れた時には両方から襲われる可能性が高い。
『ど、どうするの?』
戦いに慣れていない沙織が不安気に聞いてくる。
それに対して、俺と白華は無言で頷きあってからその場で立ち上がる。
「決まってる」
背中に背負っていた白華を右手に持ち、左手の精霊大弓を消してから脳内のスイッチを入れる。心に鍵をかけ、戦う事だけに集中するように深呼吸を一回。
スッと体の芯が冷えていくのを感じながら右腕を振り上げた。
「こういう時こそ――前に出るんだッ!!」
右腕が振り下ろされるのと同時に発生した剣風によって立ち込めていた砂埃が一気に晴れた。
即座に周囲を確認。なるほど、俺の前方にスケルトンの軍勢で人間側は後方か。
「妙だな……」
『うん。人間側の装備が古いね。今じゃもう使われなくなった装備が多いし……何だかおかしいよ』
「……それに、俺の姿を見ても警戒はしているようだけど明確な敵対心を感じない……本来なら白華を見るだけで殺気をぶつけてくるんだけどな」
『私たちは恨まれてるからね。どうするの?』
状況を動かしてしまった以上、ここで止まっている事は許されない。
この先の行動を相手に譲ってしまったら、次に何かをするときに取れる選択肢が狭まってしまうからだ。一つ、何かを譲ればこの先も譲り続けなければならなくなる。
「スケルトンからやるぞ――あいつらは意思のない人形だ。人間側は様子見のつもりか未だに動こうとしないし、後回しにしても大丈夫なはずだ」
『はーい』
黒龍布が自動的に左腕へと巻き付いたのを確認してから、白華を正眼に構える。左腕が出来てから両手で構えるのも練習してみたが……長いこと右腕一本で使ってきたからか、全然ダメだった。
そのため、今でも右腕だけで構える。
右足を一歩前に出し、半身にした身体。
銀色に輝く刀身の剣先は正面に居るスケルトンへと真っ直ぐに向いている。
「リハビリだな」
誰に言うでもなく、そう呟いてから大きく一歩踏み込んだ。
スケルトンとの距離は凡そ二十歩と言った所だが、そんなのは俺にとっては一歩で十分だった。
一瞬で懐に潜り込み、白華を振るう。
銀閃を置き去りにし、倒したかどうかの確認も最後まで見届けずに次の獲物へと体を反転させる。
「ちゃんと数は確認しておくんだった……なッ!!」
想定していたよりも数が多いことに舌打ちをしながら、白華を振るう。
個々の力が弱いことが救いだ。
「……」
スケルトンとスケルトンの間を縫うようにして移動しつつ、すれ違いざまに白華で首を切り落としていると、ふと視界が白銀の世界であったことに気づいた。
「雪が積もっていたのか……」
あの時感じた冷たさは雪が舞い上がったことによる物だったのか、とどこか遠くで思う。
この雪が固まってしまう前には、この戦いを終わらせようと心に誓いながら次のスケルトンへと肉薄した。




