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【本編完結】君のために繰り返す~前世から続く物語を終わらせます~  作者: 夜桜詩乃
第九章 未来へのメッセージ
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氷の国①

白華《しろか》に言われて無意識に出していたらしい威圧感を押さえると、俺達は人間側の兵士達に囲まれて彼らの国へと案内されていた。


「これは……」

『昔の日本……みたいだね。小さい頃にそういうのを体験出来る場所には行ったことあるよ』


城壁に囲まれた堅牢な門を潜ると、そこには和服を着た人々と江戸時代辺りを連想させる建物やら何やらが目に入ってきた。

兵士達の装備を見た時から、昔の日本みたないな鎧だなとは思っていたが……。


『タイムスリップした気分だね』


沙織がそんな事を言うが、同感だった。


「貴殿にはこれから登城して頂きます」

「わかった」


近くに居た兵士に声を掛けられる。

登城……いきなり現れた不審者を城に案内していいんだろうか?


『この国で一番強い気配がお城から感じるから、下手な兵士に監視させるよりはマシだと思ったんじゃない?』


白華の言うことを肯定するように、隣を歩いていた兵士が自慢げに口を開く。


「この国では、王族が一番強いんです。なにせ、実力主義なので。他国では信じられない事ですけど、こんな世の中ですからね」

「そうなのか……」


返事をしながら周囲の様子を伺ってみれば、そこには兵士の家族と思わしき人達が帰還を大喜びしている。

まるで、帰ってこないと思っていた人が帰ってきたような大盛り上がりだ。


『なんだか、妙だね』

『周りの人達が喜んでること? 魔族との戦いなんだし、家族が帰ってきて嬉しいのは当たり前なんじゃない?』

『サオリの言う通りなんだけど……魔族はまだそこまで大規模な進行を王国以外にはしてないはずなんだよね。それに、あのスケルトン達も……』


白華が何かを言おうとしたところで俺達は城の敷地内に入った。


「ん……?」


てっきり、そのまま城に入るもんだと思っていたが、俺達は誘導されるままに脇道へと入っていく。


『おかしい……』

「どうした?」

『いくら王族が強いからって武装解除されないなんて、有り得ないと思わない?』

「……確かにそうだな」

『普通は、門のところで武器を預けるのに……ユウ、これは何かあると思っていた方がいいよ』


警告に頷きながら誘導に従って歩いていると、四角い施設へと辿り着いた。

中はとても広く、周囲には観客席らしき物で囲まれている……要は闘技場だ。


「予感が当たったな……」


兵士に促されて中央へと進むと、そこには白髪に立派な髭を持つ上半身裸の大男が仁王立ちしていた。

近づくにつれて重くなっていく威圧感……恐らく、アレが今の国王だろう。


『痛そう……』


沙織が大男の上半身に付いた無数の傷跡を見て呟く。

俺も何かと生傷が耐えないために傷跡が多くあるが……目の前の男はそれ以上だ。見るからに“歴戦”という感じがした。


「……」


チラリと大男の背後を見てみれば、そこには男三人と少女一人が横一列に並んでいる。


「儂の子だ」

「……不躾に見たことを謝るべきか?」

「良い。全て許そう……ここでは、強さこそ全てだからな」

「そりゃ、よかった」


大男と向かい合った時点でスイッチは入っている。

俺の威圧感を直に受けている大男は、涼しい顔をしているが。


「心地よい威圧をぶつけて来おる……お主、叩き上げだな」

「あんまり、考えた事ないな」

「ふっ……若いな。だが、その無鉄砲さはヨシ」


大男が組んでいた腕を解いて右手を出してくる。


「儂の名はガンダル・フォン・アイスガルド……ここ、アイスガルドの王だ」


ニヤリと笑って名乗る大男ーーガンダルに俺も笑いながら左手を出す。


「一ノ瀬《いちのせ》 祐《ゆう》だ……まぁ、流れ者だ」


俺の自己紹介に頷き、ガンダルが握手をしようとしてーー


「「ーーッ!!」」


お互いに腕を振り上げた。


「ほう?」

「やろうとしてる事がズルっこいんだよ」


ガンダルは握手をするフリをして俺の腕を取って投げようとしていた。ソレを察知していた俺は腕を取られる前に振り上げて弾いたのだ。


「だが、まぁ……先に手を出したのはそっちだからな」


足を肩幅より少しだけ広く開き、半身になり、左腕を前に右腕を体に隠すように構える。コレはアルテナ式格闘術の基本形だ。


「ほぅ……見たことがない構えだがーーサマになっておる。隙もなし、か」

「見たことがない……?」


馬鹿な……アルテナ式格闘術は200年前に開発され、人類圏では最もメジャーな……それこそ、数多くの軍隊で正式採用されている程だぞ?

それを知らないとは、どういう事だ?


「では、味見と行こうか」

「ーーッ!」


ズドンッ! という音と地響きが木霊する。


「なるほど……捌く事に特化しているようじゃな」

「とんだ馬鹿力だ……!」


ガンダルが右ストレートを放ち、それを左手で捌いて地面へ拳が当たったーーただ、それだけなのに大技を放ったかのような衝撃だった。


(しかも……)


チラリと左手を見てみれば、指は全て変な方向に曲がっていた。

沙織の魔力で作られ、かなり頑丈なあの左手がだ。


「儂が思うに……その格闘術は本来ならば捌いた後にカウンターをする物じゃろう」

「ああ……」


素直に正解を認めれば、立ち上がったガンダルは嬉しそうに髭を弄る。

そう、アルテナ式格闘術はカウンターに特化した格闘術だ。だが、ガンダルの馬鹿力と隙のなさに反撃する事が出来なかった。


『ゆ、指が……どうしよう!?』

『馬鹿力だけ……って感じでもないねぇ』


二人の声を聞きながら、左指に力を入れて元に戻す。

嫌な音を立てて元に戻る指を見たガンダルはスッと目を細めた。


「その指……いや、左腕全てが普通ではないな」

「自慢の特別製でね」


答えながら、新しい構えを取る。

いや、この古龍式格闘術には構えなんて存在しない。それ故に、自然体こそが構えとも言える。


「自然体……だが、隙がない。なるほど、それこそが構えか」

「試してみたらどうだ?」

「確かに! 儂とした事が少々興奮しておったわ!」


ガンダルはそのまま右腕を振りーー放った。


(ーー早いっ!)


空気が破裂し、発泡音のような音を轟かせて放たれた右ストレートは目で追うのさえ困難な物だ。


「ふっ!」


小さく息を吐いて、身を屈め、向かってくる右手を避ける。

そのまま右腕を掴んでーー


「むっ!」

「チッ……!」


ーー投げ飛ばそうとしたが、とんでもない力で抵抗されて出来なかった。

せめてもの反撃として、脇腹を蹴り飛ばして距離を取る。


「なるほど……お主、強いな」

「アンタにまともな一撃を入れられてないが?」

「儂と体術でここまでやり合えるだけで十分強い……が、だ」


ガンダルの視線が少しだけ下をーー正確には俺の後ろの方を見た。


「お主は剣士じゃろう。何故、抜かん」

「……コレは、殺し合いじゃないだろ」


ガンダルはコートの下に背負っている白華に気づいているらしい。

だが……コレは殺し合いじゃない。抜いたら最後、血を見ることになるだろう。


「それに、アンタも本気じゃない」

「む……! バレておったか!」


豪快に笑っていたかと思えば、急に真剣な顔つきになった。

表情がコロコロ変わる爺さんだ。


「お主、何人殺した」

「……人をか?」

「全てじゃ」

「覚えてないな……アンタは覚えてるのか?」

「まさか! 数えていたらそれだけで寿命が尽きてしまうわ! じゃが、そうか……まだ若僧なのに修羅を見ておるか」


ガンダルは静かに目を閉じた後に、右手を前に出した。

雰囲気が変わった、か……。


「止めておけ」


一応、警告はしてみるがガンダルはニヤリと笑うだけでやる気満々だ。

だが、周りはそうでは無さそうだな。


「父上!! そのような者に剣を抜くのはおやめ下さい!!」


ガンダル息子の一人が声を上げる。並んでる順番的に長男だろう。


「そんな覇気も何も感じない者など、父上が相手をする必要はありません!」


そう言って俺を嘲笑うような顔をする長男。他の二人も声は出さないが同じ気持ちなのか長男と同じ表情をしている。


『ユウがおじさんにしか威圧を向けないから、侮られるんだよ?』

「侮れない相手だったんだよ」


長男はギャアギャアと色々まだ言っている中、小柄な少女ーーガンダルの娘が目に入った。

何故か狐のお面をした少女は、俺に見られているとわかると、ガタガタと小刻みに震え始めた。


『祐、小さい子を虐めるのはダメだよ』

「沙織……ソレは誤解だ……」

『じゃあ、何であの子は震えてるの?』

「俺にもわからん」


長男の声をBGMに沙織と話していると、ガンダルが大きく息を吸う気配を感じた。


「沙織、耳を塞いだ方がいいぞ」

『へ?』


そっと自分の耳を抑えるのと同時に、ガンダルはカッ! と目を開いた。


「カァァァァァッツ!!」

「「「!!??」」」


空気が泣き叫び、地面が震え、周りの兵士たちも震えた。


「先程から聞いておれば……お主達はこの者の力が分からぬのか!」

「ち、父上と殴り会えたのにも何か……!」

「もう良いッ! これ以上は興が削がれるわ!」


ガンダルはそう一喝して、こちらに向き合った。


「こんなに心躍る相手に出会ったのは久々なのだ……! ここで戦わずして何が王か! 何が戦士か! 息子達は何も分かっとらん!」

「……息子の言うことを聞いてくれた方が俺は嬉しいんだけどな」

「そう言うな。儂をここまで楽しませてくれた礼に我が一族の秘技を見せよう」


ガンダルはそう言ってから再度右腕を伸ばした。


「我が根源は闘争。刃に魂を、鍔に信念を、柄に熱を……」


詠唱だと気づいた時には既にガンダルの右手には得物が形作られていた。

薄い赤で形作られたソレは幅広の大剣にみえる。


「全てを束ね、炉に焚べよ!!」


その大剣はカッ! と一際眩しい光を放ったあとに”この世界に顕現“した。


「ウルスベルベラ……我が心剣《しんけん》よ」


色はそのままに確かにそこにある大剣は、ガンダルの長身とほぼ同じくらいの長さがある。

だが……それよりも特徴的なのはその幅だろう。どんな強固な大盾よりも広く、重圧感を感じる。


『心剣……?』

「白華? アレを知ってるのか?」

『前に本で読んだ事があるけど……もしかして……』


白華が何かを考え込んでいる間に、ガンダルは手に持った大剣ーー心剣ウルスベルベラを一振する。

無造作に振っただけ。それなのにも関わらず、強風が吹いた。周りにいた兵士など体を浮かせて後ろに倒れる程だ。


「律儀な爺さんだ……」


ガンダルはウルスベルベラを片手にジッと俺を見ている。

その目は「抜け」と王弁に語っている。


「白華、考えるのは後だ。本気でやらなきゃ喰われる」


背中に背負っていた白華を抜き、鍔上に付いている刃に親指を押し付け、刀身に血を流す。


「見たことも無い形じゃが……妖剣の類か」

『むっかー! あんな半端者と一緒にした! ユウ、アイツは殺そう。三枚に下ろそう!』


血を得たこととガンダルに言われた言葉が合わさって、白華は考え事を完全に放棄した。


「妖剣の使い手とは面白いッ! 往くぞッ!」

「装填《セット》」


突進してくるガンダルを見つめながら、脳内に魔法を一発装填する。

さっき戦ったばかりで、魔力は回復していないが戦えない程ではない。

そもそも、俺の魔力は最大値が低いくせに回復も遅いという燃費最悪仕様だから連戦には強くない。


「ハァッ!!」

「発射《インパクト》」


振り下ろされたウルスベルベラの軌道上に白華を横向きに置く。


「なんと!!」

「……」


白華とウルスベルベラが衝突し、強風が吹き荒れ、足下の地面はヒビ割れた。

だが、それだけだ。

ウルスベルベラは白華と食いあったまま少しも動いちゃいない。


「これ程の胆力があったとは! 嬉しい誤算だぞ!」

「そりゃどうも……だけど、訳あって長く付き合ってやれないんだ」


“右手だけ”で持っていた柄を両手で握って全力ーーで振るうと斬撃がガンダルの息子を殺しそうだったから、抑え目に振るうとガンダルは素直に下がった。


「余計な気を使わせたようじゃな」

「寝覚めが悪くなりそうだからな」

「ふむ……」


ガンダルが左手で合図を出すと、長身達が移動していく。


「お主と本気で斬り合いたい所じゃが……儂も時間が無い。それ故に、次の一撃を互いの全力とせんか?」

「わかった」


頷けば、ガンダルは満面の笑みを浮かべた。

戦闘狂め……。


「全力の一撃か……」


あるにはある。

むしろ、ほぼソレの鍛錬しかしていない。

だが、無視できない欠点もある。


『ユウ、やろう。アイツに一泡吹かせるんだから』

「わかったよ」


愛刀がやりたいと言うなら、それに合わせるのが所有者の責任だろう。

白華を再度右手だけで持ってから、左に切り払った後に右側から円を描くようにし、黒龍布で包まれた左手を鞘に見立ててそこにゆっくりと差し込む。


「スゥ……」


対するガンダルもウルスベルベラをおおきく上段に構えた。

その姿からは威圧感を超えたプレッシャーを感じる。


ガンダルは上段からの一撃。

俺は不完全な居合い。


まぁ、俺の方は不完全だからズルをさせてもらおう。


「装填《セット》」


感覚的に正真正銘最後の一発。

コレを放ったあとは、何をどうしても魔法を行使することは出来ない。

てか、多分、反動で倒れる。


「「……」」


お互いに無言で見据え続け、周りも息を飲んで見守る中で合図は唐突に来た。


「くちゅん!」

「「ーーッ!!!」」


右腕を動かす。

紛れもなく最速の抜刀だが、強化された目にはそれよりも早いガンダルの姿が映っていた。


「チェェェェェェッ!!」


気合いと共に振り下ろされるウルスベルベラを見てーー


「発射《インパクト》」


ーー俺は勝利を確信した。


魔法によってブーストされた右腕は抜刀する速度を何段も上げる。

このまま行けば、間違いなくガンダルの胴を両断する。


「ヌォォォォオォオオオオッ!!」


だが、ガンダルは想像を超えてきた。

ヤツは俺の速度が上がったのを見て、気合いで速度を合わせてきたのだ。

正直、人間じゃない。


交差する赤と紅。

互いに武器を振り終わった体勢で止まり、そこで視界が元に戻る。

魔法の制限時間だ。


「ぬぅ……儂の負けか」


ガンダルは自らの胴に付いた一筋の傷跡を見下ろした。

決して浅くない……だが、内臓までは達していない俺が付けた傷だ。

本当なら両断していたはずだが、直前で割り込んできたウルスベルベラのお陰でその程度で終わってしまった。


ウルスベルベラは半ばから斬られ、ガンダルも決して軽傷ではない。

ガンダルは戦場目線で勝敗を言ったのだろうが……


「いや……」


コートの袖から血が漏れだしている右腕を見て、俺は頭を振る。


「俺の負けだな……」


グラリと揺れる視界と、力が一気に抜ける体。

コレが戦場なら、俺の負けなのは明白だった。


『祐!』

『私もちょっと休憩ー……』

『えぇ!? ちょ、二人とも大丈夫!?』


沙織が慌てる声を聞きながら、意識を手放した。

あぁ、起きたら用済みとか言われて外に出されてないといいなぁ……。

白華「あれ? ユウって龍剣おじちゃんから三つの格闘術を教わってたよね?」

祐「アルテナ式、帝国式、古龍式の三つだな」

白華「アルテナ式がカウンターで、古龍式が捌きなんだよね」

祐「そうだな」

白華「なんで帝国式を使わなかったの?」

祐「帝国式は……殺し特化だから使い所が難しいんだよ……誤って王殺しとか嫌だし」

白華「なるほどねー」


沙織「帝国式ってあの王様倒せるくらいに凄いの……?」

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