旅立ち
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正確な時刻はわからないが、恐らく深夜になるくらいだろう頃に俺は縁側に座って星空を眺めていた。
何故、縁側があるのかと言えば、家を直す際に『思ったことがそのまま反映されるなら、家もそれで直せるのでは?』と思いついて、父親の実家を想像してみたら記憶通りの和風建築が出来上がったからだ。
「こっちではもう深夜っぽいけど……ここと向こうで時間の流れはどうなってるんだ? 戻ってみたら数年が経ってましたとかは困るんだけどな……」
白華が用意してくれた緑茶と紅茶をブレンドしたような味がする物を飲みながら、そっと呟く。
精霊大弓のおかげで、この空間から出ることは可能……だと思う。ただ、先ほどの暴走の件もあって未知数の力を持つこの魔力を容易に使うことに対して危機感がある。それ故に、慣熟期間が欲しいのだがそこで問題となってくるのが“この世界と元の世界”での時間の流れだ。
このことは白華にも確認を取ってみたが、流石にわからないとの事だ。
「……考えていても仕方ないか」
湯呑を隣に置いて、再度空を見上げる。
高校生だったあの世界でも、異世界に来てからも星空を見上げることは多々あった。思えば、何か嫌なことがあった時はいつでも星空を眺めていた気がする。
無数に広がる星を眺め、自分の悩みなどこの世界に比べたら小さい物だから深く気にすることはないと自分に思い込ませ、精神の安定を図っていたのかもしれない。
「綺麗だな……」
この空間に広がる星空は、今まで見てきた物よりもハッキリとしていて美しく輝いている。ソレが非現実的すぎてこの場所自体が知っている場所ではないと認識する要因にもなっている。
「あの星空は全部、命の輝きだよ」
「白華……沙織の方はいいのか?」
「うん。どうにか人化の魔術は使えるようになって、今は横になってるよ。サオリは凄いね……人化の魔術は難易度が高いからこんなに早く習得出来る物じゃないのに、もう安定して使えてるよ」
「……異世界召喚の特典、かもな」
最近、思う事がある。
自分のステータスをきちんと見たのは召喚された直後くらいな物で、あの時はチートな能力なんて一切見当たらなかった。ステータスの数値もそこまで高い物でもない。
だから、俺は自分にチート能力は無い物だと思ってこれまで戦ってきた。腕を失い、目を失い、血反吐を吐いて、汗を流し……そうやって戦って、強さを身に付けてきた。
だが……この強さに至るまでに“あの程度”の経験で済むはずがないのではないだろうか?
途中、並行世界の自分の経験を上書きしたとしても……こんな短期間でここまで強くなれるのは異常だろう。
「もしかしたら、俺にもそういう能力があるのかもな……」
ボソリと呟いた言葉は、誰の耳にも入らずに星空へと消えていくはずだったが、ソレに待ったを掛ける存在が居た。
いつの間にか俺の隣に座っている白華だ。
「あったかもしれないけど、今はないよ」
「わかるのか?」
「サオリと会ってからわかるようになったんだけどね。ああいう神様からの贈り物をされた人間って鬱陶しいくらいに神様の気配が付いてるの。でも……少なくとも、私が初めて会った時からユウからはその気配を感じた事はないよ。むしろ、何か違う……私が知らない気配を感じる」
「白華が知らない気配、か……」
「私も何でも知ってるわけじゃないけどね。こういうのは凍華お姉ちゃんが詳しかったかもね」
魔刀はその生まれ故にかなりの知識を持っていることが多い。
生前に知識を蓄え、何かを成そうとした者だから。魔刀になってからも、呼吸をするように自然と知識を身に付けるのだという。
凍華は魔刀になってからかなり長い。逆に白華はそんなに時間は経っていないのだから知識量の差は仕方がないことだろう。
「凍華は凍華。白華は白華だろ。別に、何かを気にする必要なんてないんじゃないか」
「……そっか。そうだね」
俺の言葉に白華はニコリと微笑んだ。
「ユウは、私のことを“武器として”見てくれるし、使ってくれるもんね」
「ああ……そうだな」
俺は、白華を人間のように扱わない。
武器として……誰かを殺すための道具として、使う。
その力が俺には必要だし、何よりも彼女がソレを一番に望んでいると知っているから。
△
▽
精霊大弓を具現化させられるようになってから体感で一週間が過ぎた。
その間にも色々と試し、その度に爆発やら何やらを起こしながらも能力の把握と慣熟をある程度進めることができた。
沙織の方も白華が指導する事で自分にできる事を色々と身に付けているようだ。
「さて……」
で、現在俺たちは星空が見つめる先で庭に集まっていた。
俺たちと言っても、白華は刀状態で黒いコートに包んで背負っており、沙織は人化の魔術を解いて俺と一体化しているから、実質俺一人だ。
「今回はお前が頼りなんだから、頼んだぞ」
左手に握った精霊大弓にそう言うと、やる気を漲らせるように魔力が大きく鼓動する。
今から俺たちはこの空間から脱出するために、精霊大弓で穴を開ける。色々と実験してみて、最大出力ならば人間一人くらい通れる穴を開けられるという事がわかったからだ。
「行くか」
『う、うん』
『ここでの暮らしは結構快適だったけどね』
二人の返事を聞いてから、右手で弦を引く。
引かれた弦に細い矢が出現し、ソレに魔力を込めると矢はどんどん大きくなる。
「いい子だ……」
今のところ、暴走する気配は感じない。
沙織の魔力も上手く調整してくれているようだ。
「狙うは星空……まさか、星空に向かって矢を放つ日が来るとは思ってなかったな」
そんな事を呟いて適当な星に狙いを定めようとして――不意に、誰かに呼ばれている気がした。声にならない声に従って矢先を移動させると、そこには一際大きく輝く星が鎮座していた。
「……」
別に狙う星はどれでもよかった。
この声でさえ、無視してもいいはずだった。
ソレなのに、俺は気づけばその星に向かって照準を合わせており、そのまま矢を放った。
衝撃によって足が地面に陥没し、全身を魔力の奔流が襲う。
それでも放った矢は真っ直ぐに狙った星へと飛んでいき――この空間を覆う壁に激突した。
「--ッ!」
目を焦がすような閃光と、立っている事も難しい衝撃に襲われた後、俺は――いや、俺たちはポッカリと空いた穴へと吸い込まれた。




