精霊大弓
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そっと目を開けると飛び込んできたのは満開の星空だった。
「知らない星空だ……って、そんなことを言ってる場合じゃなかったな」
地面に横たわっていた身体を起こして、家の方を見てみればそこには庭側の壁が全て吹き飛んだ沙織の家があった。
結構な距離があるところからして、発生した爆発は予想以上の物だったんだろう。
「この空間でよかったな……」
「本当にそうだよ。ここじゃなかったらユウは今頃何も喋らない肉の塊になってたところだったよ」
呆れた声に振り返ってみれば、そこには白華が立っていた。
そんなに凄い威力だったのか……と左腕を見てみれば、そこには申し訳なさそうな、それでいて俺を気遣うような空気を出している沙織の魔力が揺らいでいた。
「いいさ……」
魔力は人によって千差万別。
扱いやすい魔力があれば扱いにくい魔力もある。燃費がいい魔力があれば燃費が悪い魔力がある。そういうのと同じで、あまり知られていない事だが、こいつらにはある程度の“感情”がある。
魔力を感じ、魔力と心を通わせれば魔力効率は格段に跳ね上がるというのは、有名な魔術書を書いた爺さんの言葉だと言う。
「ユウ、魔力の使い方わかった?」
「ああ」
大事なのはその魔力が“どう在りたいか”だ。
人間にとって在り方が大事なように、魔力にもソレが大事だ。こいつらが成りたくない形にさせようとすれば、その魔術は不発するか暴走するだろう。
「見せてくれ。お前の在り方を……その、形を」
左腕を伸ばして言葉を紡ぐ。
沙織の魔力は少しだけ俺の様子を伺った後に、その形を作り始める。
大きさは俺の身長より少し低いくらいだから恐らく170cm程。三日月のように反った形をしたソレに刻み込まれた文字は俺には読めない。
「それが……」
「コレが、コイツの在り方――精霊大弓アバリスだ」
左手に握った大弓は、その魔力を固めて作ったために黄緑色一色で構成されている。よく見てみれば輪郭が炎のように揺らいでいることから、この大弓が膨大な魔力を有しているのは間違いないだろう。
矢がないのは、魔力を引いて矢として放つ特性を持っているからだ。
『綺麗……』
沙織の呟く声が脳内に響く。
褒められた大弓は嬉しそうにその揺らぎを大きくした。その現象に先ほどの暴走を思い出して少しドキリとした。
沙織の魔力は幼い。
まるで、生まれたばかりのように無邪気であり、自分をもっと見てほしいと所有者に自己主張してくる。
それに加えて、俺や沙織の事が大好きすぎるようで、こちらが求めた以上の力を張り切って出してしまうようだった。
「でもまぁ……確かに、綺麗だな」
重さを一切感じさせない大弓を夜空に掲げて頷く。
弓という生き物の命を奪うために作られた武器のはずなのに、その在り方はどこか幻想的で、一見して武器と判断できない程に完成された芸術品のようだ。
「白華、コレなんて書いてあるかわかるか?」
「んー? コレは……大陸共通語じゃないよね。魔大陸語でもないし……」
首をかしげて大弓に刻まれてる文字を見る白華。
彼女が知らないとなると、もしかしたら古代語とかそういう失われた文字か、もしくは全く新しい言語の可能性もあるか。
『コレ……精霊語……?』
「精霊語? 沙織、わかるのか?」
『私もなんでかわからないけど……精霊語だって何となく思うの』
「精霊語……精霊語かぁ……。アレって精霊以外使う事がないから、歴史にほとんど出てきてないんだよね。サオリ、もしかして読めたりする?」
『ちょっと待ってね。えぇっと……【太陽に希望、月に願い。星空に】……ごめん、ここまでしかわからない』
沙織が読んでくれたのは、書かれている文字のほんの一部だった。
それでも、この刻まれている文字には意味があるという収穫はあった。この言葉に何か使い道があるのかどうかはわからないが、ソレは追々調べてみればいい事だ。
「少しでも意味がわかっただけでも十分だ。それより今は……アレの方が問題だよな」
「あぁ……アレね」
『私の家が……』
目線の先には半壊した家。
気温は空間の作用なのか快適だが、壊してしまった以上、あのままというのは気が引けた。
「まぁ、どうにかなる……よな?」
どうにかなってくれと願いながら、俺たちは家の方へと歩いて行った。




