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運命の戦い

お久しぶりです。

そして、かなり時間が経っていますがあけましておめでとうございます。


今年も、ゆるゆると更新していくのでよろしくお願いします。

 目の前を銀閃が通り過ぎていくのと同時に、前髪を剣風が撫でる。

 もう、何度目になるのかもわからないギリギリの回避をした俺は、目の前で黙って幅が広い直剣を構えたフルフェイスの男を睨みつける。


 男の名前はわからないが、この部屋に入ってから幾度と刃を交えた感覚として明らかに技量は向こうが上だ。身長も向こうの方が高く、昔から鍛えてきたであろう筋肉によって繰り出されるその剣はどこまでも力強く、下手に受けてしまえばいくら頑丈な魔刀まとうである白華しろかをもってしても折れてしまうだろう。


「ふぅ……」


 息を深く吐き出し、乱れかけていた呼吸を正す。

 戦い始めて結構な時間が経つが、あちらさんは呼吸一つ乱すことはない。それに対して俺は連戦という事もあってスタミナの限界など等に超えてしまっている。


 このペースで戦い続ければ間違いなく、先に力尽きるのは俺だろう。

 いや、俺よりも先に白華が力尽きてしまう可能性の方が高い……。


「……」


 溜息を吐き出しながら、俺は再度剣先を男へと向けた。



◇ ◇ ◇



「佐々木達が居る場所に案内してほしい」


 そう簡潔に話した結果、俺はどこか暗い雰囲気を醸し出しているフェルを連れてリル・ベラ・ヴェルザイムの後を付いて行っていた。

 と言っても、道は一本しかない。つまり、リルの案内が無くても辿り着く事は可能なように思えるが……。


「この先、いくつか認められた者しか通れぬ場所がある。その場所を通るには妾の存在が必要じゃよ」

「心を読めるのか?」

「別に心を読んだわけではない。ただ、過去にも同じような事を口に出した男が居ただけのことじゃ」


 そう言って先を歩くリルはどこか懐かしそうであり、それと同時に悲しそうでもあった。


「かつて……」

「ん?」

「かつて、この国が未だ小国であった頃の話じゃ。とある男がフラリと現れた」


 まだ、火の国などと呼ばれていない時代じゃよ、とリルは笑う。

 何時ぞやシエルの部屋で見た地図に記された火の国は大国と言えるほどの面積を持っていたが、それよりも前――小国となると相当前の話だろう。


「この国は火の無い国と呼ばれておった……」

「火の無い国?」

「左様。この国には魔王によって掛けられた呪いがあったのじゃ。“火は一日としてもたず”という人間が生きていく上で大切な火という物を奪う呪いじゃよ」


 火……火か。

 確かに、料理をするにも何をするにも人間が生きていく上で切って離せないのが火という物だ。

 ソレを奪われる……確かに、大問題だろう。


「この国もいよいよ終わりか……そんな時に、一人の男がふらりとこの国にやって来た。そして、現状を知った男の仲間はこの国に救いを与えたのじゃ」

「どういう事だ?」


 と、そこで大扉の前に到着する。

 大扉の前でもわかる熱気が身体を包み込み、ジワリと汗が滲みだす。


「見てもらった方が早い。それに、この先にお主の探し物がある」

「そうか……まあ、百聞は一見に如かずっていうしな」


 一応、左手で大扉に触れる。

 コレだけの熱気を放っているのだ。生身の右手で触ったら爛れるかもしれない。中にいる佐々木達も心配だが、凍華達が一緒に居るから問題ないだろう。


「もしも、今、ここにあの男が居たなら――」


 大扉を押し始めるのと同時に、リルが呟く。


「きっと、我らを許さぬだろうな――」


 そんな懺悔のような声は大扉が開く音に飲まれた。



◇ ◇ ◇



 中は円形にくり抜かれた空間だった。

 扉に対して中はそこまで広いわけでもなく、そんな場所に佐々木達と見知らぬ老人と騎士一人が何やら睨み合っている。


「兄さん!」


 いち早く俺に気付いた凍華が声を上げ、こちらに向かって来ようとするがソレを騎士が持っていた剣で阻止する。


『動くな。お前もだ……動けば、この子達を殺す』


 フルフェイスで覆われた顔から発せられた声はくぐもっていたが、この空間にはよく響いた。

 チラリと佐々木達を見てみれば、今のところ外傷などは確認できないが何かあったのかその顔には疲労が色濃く出ている。

 いや、きっと佐々木の具合が悪そうなのは精神的な疲労だけではないだろう。ここに入ってからずっと思っていた事だが、この部屋は“暑すぎる”のだ。


「俺の連れをこんな所に連れてきて……一体、何をやっていた?」


 白華の柄に手を添えながら、騎士と老人を睨みつける。

 隣に立っているリルも何やらワケを知っていそうだが、そっちを問い詰めている暇はない。仮に、俺がリルに視線を向けようものなら、相手は逃げるか斬りかかってくるだろう。


「答える気はないか?」

『……』


 騎士と睨み合いながら、ジリジリと間合いを詰める。

 白華の鯉口は既に切られ、一息の内に必殺の間合いへと飛び込み先手を取る事が出来る。

 コレが格下相手や実力が拮抗した相手であれば、佐々木達を人質にされているとは言えここまで慎重になる事はなかっただろう。

 だが、相手の騎士は確実に強者だ。

 強者はただ立っているだけでもわかるくらいの雰囲気を常に纏っている。ソレは場を圧倒する威圧感であったり、全てを見透かしているかのような視線だったり様々だ。

 そして、目の前の騎士からはこちらの呼吸を止めてしまうのではないかと思わせるほどの威圧感を感じている。

 故に、慎重にならねば俺の首も佐々木達の命も危ない。


『ユウ……あの人が持ってる剣だけど、ただの剣じゃない……』

「ソレは魔剣とかそういう類の物か?」

『詳しくはわからないけど……なんだか、嫌な感じがする』


 白華の言葉を聞いてから、騎士が持つ剣へと視線を向ける。

 飾り気一つない無骨な直剣。長さは恐らく90cmほど。


「わからないな……」


 そもそも、俺は目利きが出来る人間ではない。

 実際に斬り合ってみるまで、本当の意味であの剣を理解する事は出来ないだろう。


「話し合いは不可能。佐々木達を素早く回収して逃げる事も出来ない……なら、やるしかないよな」


 息を飲み、腹に力を入れ、覚悟を決める。


「いくぞ、白華ッ!!」

『うんっ!』


 白華の頼もしい返事を受けながら、俺は一歩戦場へと踏み出した。

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