↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/259

制約

 必殺とは“必ず殺す”と書く。

 必ず殺せる一撃であるからこそ必殺であり、必ず殺せないのであればソレはまがい物の一撃でしかない。


「――ッ!」


 ギィンッ! と刃を交えた音がこの広いようで狭い空間に反響する。

 本来であれば――いや、俺の想定では絶対に鳴り響かなかった音だ。何故ならば、今まさに放った初撃でフルフェイス男の首を落とすつもりだったからだ。

 文句なしの一撃。必ず相手の首を刈り取れるものだったはずだが、ソレは難なく受け止められている。


『呆けていていいのか?』


 フルフェイスの男が言うのと同時にブワッと背筋が粟立つ。

 このままではやられる。距離を離さなければならない。そう本能が訴えかけ、脳内ではうるさい程に警報が鳴り響く。


『下がるか』

「悪手かッ!」


 一歩下がった所に幅広い直剣が叩きつけられる。

 反射的に右手に持った白華《しろか》で受け止めるが、俺の腕力はそんなにあるわけではない。どちらかといえばパワー系よりもスピード系。つまり、明らかにパワー系のフルフェイス男が放つ一撃を耐えきれるはずがない。


「――」


 一瞬飛んだ意識を背中に走る激痛が引き戻す。

 視界は土煙で覆われており、耳鳴りが激しい。何やら誰かが叫んでいる声は辛うじて聞こえてくるが、言葉までは理解できない。


『ユウッ!』

「くそっ、壁に叩きつけられたのか……!」

『動いて! 早くッ!!』

「――ッ!!」


 白華の言葉に従って無様に床を転がると、俺がさっきまで座り込んでいた場所に剣が生えた。

 否、アレは生えたんじゃない。フルフェイスの男が俺目掛けて空中から降って来たんだ。この土煙でしかもフルフェイスという事もあって視界は最悪のはずなのに的確に。


「化け物め……」

『俺から言わせてもらえば、まだ動けているお前も化け物だ』


 ゆらりと立ちあがるフルフェイスの男。

 その姿はただ敵を殺すためだけに生きている幽霊のようで薄ら寒い物を感じさせた。


「俺が化け物? まだ人間を辞めたつもりはないけどな」


 軽口を叩きながら立ち上がり、身体の具合を確認する。

 大丈夫、骨は折れていない。ヒビは入ってるかもしれないが、動けないほどじゃない。


(桜花が手元にあればアイツに勝てる自分に力を借りる事も出来たが……流石に、アイツの攻撃を掻い潜りながら桜花の所に行くのは無理だな)


 考え事は中断。

 素早く間合いを詰めて振られた幅広の直剣を今度はきちんと両手で持った白華で受け止める。

 ピシリッと足元にヒビが入った音を聞いて、このまま受け止め続ければ白華が折れると判断して手首を返し、逸らす。


「ふっ――!!」


 ガァンッ! と音を立てて幅広の直剣は左側に突き刺さり、その破片を飛び散らすが無視してがら空きとなった男の胴を白華で斬り付ける。

 だが、刃は鎧の内側にある肉を断ち切る事は叶わない。

 それどころか、鎧を僅かに傷つけるに留まった。


「硬いなッ!」

『ふんっ!!』


 下手に留まる事よりも切り抜ける事を選択し、すぐさま振り返って男が振るった直剣を受け止め、逸らす。


「いちいち、死を実感させてくれる――ッ!」

『お互い様だな』

「アンタはそうは見えないけどな!!」

『我が鎧に傷を付けたのはお前が初めてだ』

「そりゃ、どうも!」


 受け止め、逸らす。

 金属同士がぶつかり、逸らす時に刃同士が滑って火花を散らす。


 周りに広がっていた土煙は俺達の剣風で吹き飛び、ただでさえ暑かった部屋の温度を更に上げていく。

 距離は常にお互いを殺せる間合いであり、正直に言ってしまえば一旦仕切り直したい。

 だが、一歩下がればソレは隙となる。初撃のやり取りが脳裏にこびりつき、身体が下がる事を許してくれない。


「――ッ!」


 反射的に身体を逸らすと、眼前を剣先が通過する。剣風によって前髪がふわりと上がる。ほんの数ミリしかないギリギリの回避を既に何回も繰り返していた。

 体力も連戦という事で既に限界を超え始めているが、それよりも先に気力が先に尽きそうだ。


 このまま行けば間違いなく先に力尽きるのは俺の方だろう。

 相手は一撃でも当てればいいのだから。

 それに比べて、俺は未だに決定打を見つけられないでいる。普通に斬り付けるだけでは強固な鎧によって阻まれてしまう。


「……」


 白華の峰側の鍔上に取り付けられている刃物をチラ見する。

 ここに親指を当て、俺の血液を流し込めば白華は今よりも鋭くなり全てを切り裂く刀へと変貌する。

 本来であれば戦闘開始と同時に使うべき能力。今までも白華を使って戦う時は必ず最初に使って来た。

 だが、俺が今回の戦闘で使わなかったのには理由がある。ソレはこの部屋に辿り着くまでにした白華との会話が原因だった。



◇ ◇ ◇



『ユウ……」


 リルの後ろを歩いていると不意に白華が声を掛けて来た。その声はいつもとは違く、どこか不安に満ちた物だ。


「どうした?」

『私、ユウに言わないといけない事があるの……』


 言わなければならない事……なんだろう?

 白華は先程の戦闘で十分に戦ってくれた。武器である彼女が気にする事と言ったら戦闘での事かと思い先んじて聞いてみたが違うと否定されてしまった。


『あの……あのね……』

「白華?」

『あの……』


 どうにも歯切れが悪い。

 言いたくないけど、伝えなければならない。そして、伝える事を怖がっているという雰囲気が左腰に差した白華から流れ込んでくる。

 魔刀と契約者は一心同体。こちらが考えている事は向こうに筒抜けなのは知っていたが、どうやら向こうの気持ちなどもある程度はこちらに流れ込んでくるらしい。


「言いたくないなら言わなくてもいいんだぞ?」

『ううん。コレは言わなくちゃいけない事だから……』


 白華がここまで主張するなんて珍しいと思いながら言葉を待つこと数分。


『ユウ、この先どんな敵が現れても私に血を吸わせないでほしいの』

「は……? いや、ソレは出来ない。この先に何が待ち受けているのかは知らないが、確実に強敵だろう。そんなヤツ相手に手加減なんてしてられない」

『うん、わかってる。でも、ダメなの……』

「……理由を教えてくれ」

『ユウは私に血を吸わせる行為をそのままに捉えてるよね?』

「まぁ、そうだな」


 むしろ、それ以外に一体何があるというのか。


『でも、実際はそうじゃないの。アレはユウの血液を媒体として“ユウ自身の生命力”を私に流し込んで強化してるの』


 白華の言葉に足が止まる。

 後ろを歩いていたフェルが俺を見上げて来るが今は構っている場合ではない。


「生命力だって?」

『うん……生命力っていうのは言葉の通りで生き物が生きる上で日々消費する力の事なの。本来であれば私に血を吸わせたとしても一日休めばある程度回復するから問題はないんだけど、連続となると……』

「ダメ、なのか」

『うん。特にさっきみたいに激しい戦いはユウの生命力を大きく消費するの。だから、もし、今日中にもう一回使ってさっきみたいな戦いになったら……ううん。あんな戦いにならなくてももう一回使ったらユウの命は保証できない……』


 白華は最後に「黙っていてごめんなさい……」と本当に申し訳なさそうに言う。


「別に黙っていた事はいいんだ。それより、命は保証できないって死ぬのか?」

『流石に即死はないと思う。でも、後遺症が残ったり……長時間使ったら死に至るとは思う』

「そうか……」


 歩みを再開しながら思考を巡らせる。

 長時間の使用は禁物……ならば、短時間ならばいけるのでは?


「どれくらいだ」

『え?』

「どれくらいの時間ならもう一回使える?」

『ユウッ!!』

「わかってる。別に命を投げ捨てようってわけじゃない。ただ、俺の目的のためにはこの先に待ち受ける敵を殺さなきゃならない。それに……自分の命惜しさに桜花たちを見捨てられない」


 そう。桜花は娘だし、凍華達は仲間だ。

 もし、ここで自分の命可愛さに力を出し渋り見捨てようものなら、ソレはあの王都で美咲を見捨てた彼らと同じになってしまう。


 そんな事は、許されるはずがない。


『……三分。それが限界』

「三分か……わかった」

『ユウ、本当に三分だからね? それ以上は私の方で切断するから!』

「わかってる。なに、簡単な話だ。三分以内に殺せばいいんだろ?」

『……』


 白華がこんなに喋ったのは初めてかもしれない。

 そんな事を考えながら俺は力の使いどころは見極めると心に誓った。


 だが、もし――三分以内に殺しきれないような事があったなら。



 その時は、この命を死神に差し出すのを覚悟しなければならないかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。