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7 そんなに揉んじゃ、イヤ!

 うむ。

 よし。

 違和感なし!

 いつもより成長しているお胸の出来栄えに、あたしは満足げに頷いた。

 豊かに実ったメロンの持ち主である幼馴染の美琴との格差を哀れに思ったお母さんたちからの軍資金で、あたしは立派なお胸を手に入れたのだ。

 シリコン。

 お高いだけのことはある。

 買ったばかりの、黄色と黄緑と白のチェック柄水着。お胸の三段フリルが、さらにボリュームを後押ししてくれている。

 晴れがましい気持ちで顔を上げたあたしの視界に、熟れすぎて破裂しそうなメロンが二つ…………いや、四つ? 目に入ってきて、舌打ちをする。

 既に水着に着替え終えた、美琴とアゲハ。

 二人とも、あたしと一緒に買いに行ったおニューの水着を身に着けている。


 美琴は、ターコイズブルーのビキニ。肩ひもと胸の部分の間に、白い輪っかの飾りがついている。シンプルなだけに、素材の持ち味が生かされている。ちっ。

 そして、アゲハ。ちょっとラメがかかった、マットなピンクと紫と黒で構成されたビキニ。猫背のため、せっかくの持ち味が半減されている。お胸に携えた二つのメロンが重いのはよく分かるけど、もう少し胸を張ろうよ。あたしを気にせず、もっと見せつけてくれて構わないんだぜ?

 存在感薄子のアゲハのことは、どうせ誰も気づかないからな。誰にも比べられることもない。だったら、存分にあたしの目を楽しませてくれて構わない!

 隣に並んで比べられるのは嫌だけど、ただ鑑賞する分には嫌いじゃないからな!


 さて。


「みんな、着替えが終わったみたいだし、行こっか」

 美琴とはさりげなく距離を置きながら、あたしは女子更衣室の出口へと向かった。


 時は、夏休み。

 あたしたちは、かねてより約束していた市民プールへ訪れていた。

 本当は、海とか行きたいけど。

 山に囲まれたあたしたちの町からは、海なんて遠すぎるのだ。

 距離的にも、お財布的にも。

 ま、学校以外のプールで泳いだことがないというアゲハには、これくらいがちょうどいいだろう。

 さー。チャプチャプ、涼むぞー!

 

 市営プールは、流れるプールとか波のプールとかがあるわけじゃないショボい施設だけど、お天気がいいせいもあってか、なかなか繁盛していた。

 ファミリーに混じって、高校生っぽいのもちらほらいることにほっとする。

 よかった。いい年して、市営プールに遊びに来るのがあたしたちだけじゃなくて。


「とりあえず、シャワーだね」

「うう。シャワーの水、冷たくて苦手です」

「あー、分かるー。あたしもー。プールも一回、入っちゃえば平気なんだけど、最初に入る時がねー。すっごく、水、冷たく感じるよね」

 オドオド歩くアゲハに同意しながら、ささっとシャワーを浴びて、そんなに泳ぐつもりはないけど一応準備運動はしとくかと、プールサイドの空いているところで、少し散らばって、思い思いに運動を始める。


 おー。

 天然もののメロンが揺れている。

 何アレ?

 つい、動きを止めて、見入ってしまう。

 ホント、何アレ?

 運動を再開する。

 あたしの胸元でも、シリコンとフリルが揺れる。

 とても。とても、慎ましやかに。

「すごーい。揺れてるー」

 一人、黄昏ていると、小学生低学年男子の無邪気な声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、わんぱくそうな男の子が美琴の胸を指さしている。

 プールサイドからもプールの中からも、あらゆる視線が美琴のメロンに集中して、

「きゃっ!」

 悲鳴が聞こえた。

 美琴の声じゃない。

 声の主はアゲハだった。


 アゲハのほうを見ると、こっちはなんだか、大変なことになっていた。

「や、やめてください!」

「ん? 何だろ? 何も見えないのに、何か、すごく柔らかいものがあるんだけど。何だ、これ?」


 見知らぬ、高校生くらいの男子がアゲハの胸を揉んでいる!

 不思議そうに、首を傾げながら。

 え? 何コレ? どういう事態?

 すっごい、モミモミしてるんだけど!?

 なのに、まるで、いやらしさを感じない。


 えーと、つまり?

 あまりの存在感の薄さにアゲハのことに気付いていないけど、確かにアゲハの実態はあるわけで、物理的な接触は可能。

 つまり、つまり。

 見えてないけど、お触りは出来ちゃうってこと?

 女子高生のお胸とは気づかずに、モミモミしちゃってるってこと?

 何もないのに、何か柔らかいものに触ってるー。何だろ、これー、みたいな?

 彼の頭の中にあるのは、疑問符だけで、エロ要素はないからってこと?

 え? これ。

 どうすれば、いいの?

 どうやって、止めればいいの?

 これは、痴漢に入るの?

 それとも、ただのラッキースケベなの?

 そもそも、ラッキースケベの範疇なの?

「や、やめっ。ひっ、やぁん」

「あれ? なんか、変な声が聞こえるような? 幽霊じゃないよな? 気のせい?」

 ああ、そうしている間にも、モミモミが進行している。

 ていうか。

 幽霊でも、気のせいでもないから!

 それ、実在している、女子高生のお胸だから!

 しかも、メロン級の!

 そんな、無造作じゃなくて、もっと、敬意を払ってモミモミを!

 いや、そうじゃなくて、落ち着け、あたし!


 あっ、そうだ!

 美琴! 美琴がいた!

「美琴、これ、何とかし…………」

 美琴を振り返って、あたしは固まった。

 そっちはそっちで、何やってんの?

「お姉ちゃん、ジャンプ! ジャンプして!」

「もっと、高く!」

 小さなお子様たちに取り囲まれて、何やらおねだりされている。

 男の子だけじゃなくて、女の子もいるよ。

 親御さんたちは、我が子を窘めつつも、チラチラと美琴のメロンに視線を走らせているし。


 もう、一人で泳いでこようかな。

 そんな投げやりな気分になったところで、聞いたことのあるフレーズが響き渡った。


「私のストレス解消のため、小さな悪だけ見逃さない! 魔法蝶々・バタフライ!!」

 あ。変身した。

 変身って言っても、今日は元々水着なので、マスクとか羽とかのオプションが加わっただけって感じだけど。

「止めてください! この変態!」

 パシンといい音をさせて、平手打ちがさく裂。

「へ? え? ええ!?」

 でも、彼にとっては、そうではない。誰もいなかったはずなのに、いきなり目の前に現れた際どい恰好の美少女に驚いて、男子高校生は赤くなったり青くなったりしている。

 アゲハは、そんな彼をキッと睨み付けると、女子更衣室に向かって駆け出した。

「い、いきなり、現れた!? え? 本当に、幽霊?」

 混乱している彼の声をバックに、あたしもアゲハを追って更衣室へ向かう。美琴を回収しながら。


 美琴の回収に手間取ったおかげで、更衣室に着いた時には、アゲハのお着替えはもう終わっていた。

 なんだか、目が座っている。

「もう、二度とプールには来ません!」

 変身していない時のアゲハには珍しい、強気な発言。

 後ろ向きだけど、強気な発言。

 シャワーを浴びただけで、一度もプールに使ってないというのに、この結論。

 うーん、でも、まあ。しょうがないか。

「わたしも、市営プールはもういいかな」

 こっちもか。

 美琴は、いいじゃん。

 そりゃ、あたしも、親父どもにサービスしろとは言わないけどさ。ちびっ子たちにくらいサービスしてあげればいいじゃん。持てる者の義務として。

「ファミレスかどこかで、お茶でもして帰ろうか」

 楽しみにしていたプールデビューがこんな結果に終わり。このまま帰るのもあんまりなので、そう提案すると、アゲハは力なく頷いた。



 ちなみに、この後。

 プールサイドでボインボインの幽霊が現れて、胸を揉ませてくれるという噂が流れ、市営プールは男性客であふれかえった。

 しかし、幽霊はただの一度も姿を現すことはなかったという。


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