8日本には、古来より魔法少女が存在していた。
あたしは今、一人置いてきぼりをくらっていた。
アゲハの市営プールデビューがあっけなく失敗に終わり、このまま帰るのもアレなので、どこかでお茶でもしていくことにした…………その後。
プールを出て、他に人通りのない通りに入って少し進んだところで、急に二人が立ち止まって振り返ったかと思ったら、透明人間とお話を始めてしまったのだ。
「え、と。あなた、だあれ?」
「ど、どどど、どうして、それを!?」
「お友達とはぐれちゃったのかな?」
「ち、ちちちちち、違います! 違います! 私は魔法少女なんかじゃ、ありません!」
「何を言ってるのか、分からないんだけど。最近の中学校では、そういう遊びが流行ってるのかな?」
「あ、あああああ、あなた、一体、誰なんですか!?」
「えーとさ。二人とも、何と話しているの? そこに、幽霊でもいるの?」
二人とも、何もない空間に向かって、見えない何かとお話を始めてしまったのだ。あたしには、道路と生け垣と、側溝のふたくらいしか見えないんだけど。
二人が話しかけている相手が、透明人間じゃないなら、幽霊しかありえない。そんな状況。
事態についていけず、恐る恐るお話ししている相手について聞いてみると、二人は不思議そうな顔であたしを見た。
え? 何?
なんで、そんな、あたしの方がおかしいみたいな反応を?
だって、そこ。何にもいないよね? ね?
「何、言ってるの、風鈴? 中学生くらいの女の子がそこにいるじゃない」
美琴の言葉に、アゲハもこくこくと頷いている。
え? マジ?
いや、だって、誰もいないよ?
猫の子一匹、いないよ?
なに、これ。なに、これ。あたしが、おかしいの?
不安になりかけて、あることに思い至った。
「あ。もしかして、アゲハの同類? アゲハの他にも、存在感ゼロの生き物がいるってこと?」
そう言えば、アゲハのことだって、仲良くなったばかりの頃は、そのあまりの存在感の薄さからよく存在を見失っていたものだ。最近は、まあ、前よりは発見できるようになってきた…………ような気はする。たぶん。
だが、アゲハと一緒でそこにいると分かって探せば、姿が見えてくる……はず。
そう思って、さっき二人が話しかけていた辺りに向かって目を凝らしてみる。
んー。
んんー?
「あ。よく見ると、心霊写真に写っている影みたいなのが、見えるような、見えないような?」
「ちょっと、風鈴! 失礼だよ」
美琴が小声で窘めてきた。けど、薄らぼんやりとした黒い影っぽいのが辛うじて見えるだけなんだもん。
「ひぃっ! 何か、怒ってますよ?」
元々猫背のアゲハが、さらに身を小さくした。
え? ごめん。
なんて、心の中だけで謝ってたら、てたら。
なんか、現れた!
何にもないとこから、いきなり!
中学生くらいの、ショートカットの勝気そうな女の子。
カボチャパンツ。白タイツ。青マント。小っちゃい王冠。てっぺんに赤くてでっかい宝石がついた錫杖。まあ、宝石はさすがに偽物だろうけど。
「えーと。今日って、ハロウィンだったっけ?」
「ハロウィンじゃない! これは、由緒正しい魔法少女の正装だ!」
「………………は?」
カボチャパンツは何やら怒っているみたいだけど、つい素で聞き返してしまった。
いや、だってさ。ねえ?
由緒正しいって、何?
魔法少女の正装って何?
てゆーかさ。学芸会の王子様役の衣装にしか見えないけど?
…………………魔法少女?
疑問符を乱舞させていると、カボチャパンツは偉そうに腕組みでふんぞり返ると何やら一人で語り始めた。
「ボクは、そいつみたいな野良魔法少女とは違うんだ。由緒正しい魔法少女の血筋なんだぞ」
魔法少女に野良っているの?
「野良魔法少女って、私のことなんでしょうか……?」
「魔法少女の血筋?」
アゲハは肩を落とし、美琴は不思議そうに首を傾げていている。
カボチャパンツは、そんなこちらの様子を気にすることなく得意げに話を続けている。
「いいか、よーく聞け。おまえ達は知らないかもしれないが、日本には、古来より魔法少女が存在しているんだ。ボクの家は、古くから続く由緒正しい魔法少女の家系なのさ」
日本には、古来より魔法少女が存在していた!
うわ! 何、その、新情報。
えーと、つまり?
陰陽師系魔法少女とか?
鬼っ娘魔法少女とかが、存在しちゃったりも?
戦国武将系魔法少女。
遊女系魔法少女。
くのいち系魔法少女とか?
くのいち系っていうよりも、伊賀流とか甲賀流とかみたいに、魔法少女流忍者がいたりとか!
うわ、何コレ、捗る。
普段は貧相な体の冴えないくのいちで、簡単な任務すらさっぱりこなせないダメっ子だけど、魔法少女に変身すると、超お色気くのいちになって、どんな難しい任務もバッチリこなしちゃうみたいな?
変身したら、サービスシーンもバッチリな体になっちゃうとか、乙女の憧れだよね?
いいなー。あたしも、変身したい。
そんな、爆乳とかじゃなくていいからさ。
贅沢は言わない。微乳じゃなくて、美乳になりたい。
新しいおブラを購入する時。
Aカップのおブラですらカップが余っちゃったらどうしようとか不安になっちゃう気持ちがおまえに分かるのか!?
「風鈴! ちょっと、風鈴!」
お?
美琴に肩をゆさゆさされて、我に返った。
やべー。つい、興奮して。
ん? あれ?
「カボチャパンツは?」
ふと気が付くと、カボチャパンツの姿がない。
「言いたいことだけ言って、帰ったよ」
いつの間に。脳内会議に忙しくて気が付かなかった。
「えーと、それで、結局なんだったの? あの子?」
「さあ? 日本古来からの由緒正しい魔法少女だって、本人は言っていたけど?」
「うう。野良って言われました。野良って…………」
「魔法少女協会とかがあって、登録していな魔法少女は野良扱い、とか?」
「さあ?」
「……………………」
「うう、野良…………」
「とりあえず、どっかお店に入ろうか?」
「そうだね。冷たくて甘いのが欲しい」
何かよく分からないので。
とりあえず、当初の予定通り、どこかでお茶をすることにした。
何だかよく分からないけど。
とても、有意義な時間だった。
いい夢、見させてもらったよ。
ありがとう。カボチャパンツ。




