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6 一色アゲハ改造計画

「髪の毛、引っかかってます」


 その、たった一言。

 ただ、それだけを言うために、少女は自分に魔法をかけた。


 なーんて。

 あ、どーも。

 真山まやま風鈴ふうりんです。

 只今、魔法少女改造計画中です。……いや、あたし的にはそうしたかったんだけど、正確には一色アゲハ改造計画中です。

 まあ、改造計画って言っても、何とかアゲハの存在感アップを図ろうとか、そんな感じなんですけどね?

 簡単そうに見えて、なかなか難しかったりするんだな。これが。


 何でこんなことを始めたのかといえば、魔法少女の悲しい現実を知ってしまったことが発端だ。

 存在感が薄すぎて誰にも気が付いてもらえない少女が、何てことのないたった一言を伝えるためだけに魔法少女に変身して、言い終わったらあっさり変身が解けてしまう。

 変身して、たった一言を言うだけの魔法。

 それが、自分にとっての最大の魔法だとちょっと嬉しそうに語ったアゲハ。

 そのあまりに悲しすぎる魔法に、あたしは何とかしてアゲハの魔法力を底上げして、本物の魔法少女にしてあげたいと思った。

 そう。魔法蝶々バタフライ改造計画を実行しようと思った。

 思ったんだけど、神に祈るくらいしか思いつかなくてさー。

 美琴のほうはどうかなって思ったら、あたしとは真逆の改造案を出してきやがった。

 美琴の提案。

 それは、アゲハの存在感を底上げして、魔法蝶々に変身しなくても、みんなに気付いてもらえて言いたいことを言えるようにしよう、というものだ。

 一色アゲハ改造計画。

 それは、つまり。魔法蝶々バタフライを封印するということでもある。変身しなくても言いたいことが言えれば、アゲハのストレスは解消されて変身の必要がなくなるからだ。

 あたしは勿論反対した。

 せっかく現れた魔法少女を封印するなんてとんでもない!

 それに、アゲハのほうも、封印にはあまり乗り気じゃないみたいだった。実は結構、楽しんでるのかな。うーん、あたしは、見てる分にはいいけど、自分でアレに変身するのはちょっと嫌だな。黒歴史すぎる。

 でも、アゲハには変身して欲しい。

 たとえ、変身しか能がなくても、魔法少女は魔法少女。その活動を間近で見れるなんて、滅多にあることじゃないよ? ていうか、普通はあり得ないよ?

 でも、美琴は譲らなかった。


「変身しなくても、ちゃんとみんなに認知してもらえるようにならないと。このままじゃ、就職とか出来ないよ?」

「それは、そうだけどさ」

 もう少し、魔法少女との日常を楽しみたいと思うのが、人情ってものでしょう? いや、口に出しては言えないけどさ。

「それに、人はいつまでも少女のままじゃいられないんだよ? 今はまだいいかも知れない。でも、このまま何もしなかったら、二十歳すぎても魔法蝶々に変身しちゃうかもしれないんだよ? 流石にそれは、最早、痴女だよ!」

「う、それは、確かに……」

「ち、痴女……」

 アゲハがちんやりと、いつも以上に猫背を丸める。

 う、うーん。流石にそれは黒歴史にもほどがあるけど。でも、あたしたち、まだ高一だし。そんなに急がなくてもいいじゃん?

「で、でも、卒業までに何とか出来ればいいじゃん? 卒業なんて、まだ先だしさ」

 もう少し、魔法少女との日常を楽しもうよ。

 美琴は腰に手を当てて胸を反らした。

 そんなに突き出さなくても、君のおっぱいが立派に成長を遂げたことは分かっているよ。

「卒業はまだ先かもしれないけど、三年生になったら、わたしたちは受験生だよ? ちゃんと進学するつもりなら、余計なことに気を取られてる場合じゃないんだよ。実際には、来年の夏ぐらいまでには何とかしないとダメなんだよ!」

「うぐ。嫌な現実を突きつけられた!」

「アゲハが就職するにしても進学するにしても、今のままじゃ、まともに面接とか受けられない可能性が高いんじゃない?」

 あたしとアゲハは、ハッと顔を見合わせた。

 美琴がそんなことまで考えていたとは。

 確かにそう考えると、今から始めても遅すぎる気もしてきたな。

 アゲハも、真剣な顔で頷いている。

「せめてさ、風鈴に気付かれるくらいには、存在感を上げようよ」

「わ、分かりました。私、本気でがんばります」

 アゲハは頷いた。大きく、大きく頷いた。

 さっきよりも、本気度が高い。

 えーと、ごめん。

 友達になっておきながら、存在に気が付かずに変身させちゃって、ごめん。

 進学・就職よりもマジな顔になるほどショックだったんだね。ホント、ごめん。

 うん。分かったよ。

 あたしも、協力するよ。

 魔法蝶々がいなくなるのは寂しけれど、変身したからって、何がどうなるわけでもないしね。それに、魔法のほうをパワーアップさせて、そのせいで平和な学校に悪の組織とかが現れちゃっても、それはそれで困るしね。

 ふっ。こんな判断ができるなんて。

 あたしって、大人ー。


 まあ、こんなわけで。

 一色アゲハ改造計画はスタートしたのである。

 まー、改造って言ってもあれだ。

 早い話が、ただのイメチェンなんだけどね。

 ま、女子高生に出来ることなんて、この程度だよねー。

 だが、これはこれで、結構楽しい。

 まずは、髪型。

 地味少女の定番ともいえるおさげはとっぱらい、高い位置でのポニーテールに結わえて、大きめのリボンなんかも結んじゃう。色は、薄紫。

 次は、地味眼鏡……といきたいところだけれど、これはお金もかかるので後回し。でも、その内コンタクトか、もっとお洒落な眼鏡に買い直させる予定。進学とか就職とか面接とかいう単語をチラつかせて説得すれば、ご両親もきっとお金を出してくれるだろう。たぶん。

 そして、最後は猫背強制。

 背中に定規を入れておく案は却下されたけれど、なるべく胸を張るようにと言ってある。

 その自慢の胸を見せつけてやれ!

 こう、胸元を開けて、なるべく谷間を強調するようにすれば、より存在感が増すと思うんだけど、これも却下された。

 せっかくの存在感なのに。

 だが、それだけでも、なかなかの仕上がりになったと思う。

 アゲハは、元はいいんだよなー。

 背中丸めて、俯き加減な上に、オドオドしてるからアレなだけでさ。

 まあ、バタフライになった時は、あれだけの存在感があるわけだしねー。元々、ポテンシャルは高いんじゃないの?

 むしろ、これ、あたしの存在感が薄まってない? 

 おっぱい美少女二人に囲まれてさ。

 あたしの女子としての存在感が低迷中じゃない?


 もー。そこは、ソンナコトナイヨっていうとこでしょ!

 って、誰に言ってるんだろうね、あたしは……。


 まあ、いずれにせよ、アゲハの存在がみんなに認知されての話である。

 結果から言えば、冒頭の通り、作戦は失敗に終わった。

 イメチェンしたアゲハにみんなが気が付いてくれるかどうかを試すために、あたしと美琴はアゲハから離れて様子を窺うことにした。

 二人で教室の後ろに陣取り、アゲハに意味もなく教室内を行ったり来たりさせてみたのだが。

 あんな、おっぱい女子が教室内をウロついているというのに、誰一人としてチラリとも視線を投げやがらねえ。おい、男子! 何してるんだよ! 挙動不審にチラチラ横目で見るところだろ!

 やっぱり、もっと胸元を開けさせるべきだったんじゃと思い始めたところで、事件は起きた。

 ふわりと棚引いたアゲハの髪のひと房が、すれ違いざまに男子の胸のボタンに引っかかったのだ。

 気が付かずに、談笑を続ける男子。

 髪の毛を外そうと焦りまくるアゲハ。

 でも、男子の胸元へは手を伸ばせないらしくて、オロオロしながら男子に声をかけるアゲハ。

 気が付かない男子。

 あまりにも誰も気が付かな過ぎて、もう本当、心霊現象のようだ。

 これはもうどうにもならなさそうだなと、助け舟を出そうとしたところで、魔法蝶々が現れたのだ。

 いきなり現れたバタフライに呆然としている男子の胸元に手を伸ばし、引きちぎらんばかりの勢いで髪の毛をボタンから外すと、バタフライは消えた。

 猫背に戻って、トボトボとあたしたちのほうへ向かって歩いてくるアゲハ。

 何もかもが突然すぎて、シーンと静まり返る教室。


 作戦は失敗に終わった。


 これはもう。

 神社とかお寺とかで、お祓いをしてもらうしかないかもしれない。


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