3 魔法少女は存在るするのか?
一色アゲハは、クラス一存在感の薄い女の子だ。
いや、クラス一どころか、宇宙一を名乗ってもいいかもしれない。
彼女の存在を意識していない時は、たとえ目の前にいて声をかけられたとしても全く気が付かない。霊感のない人間にとっての幽霊のような女の子。
ただし。ちゃんと現実に存在しているのだと認識したうえで教室内を探せば、直ぐに……は無理だったけど、一応発見することが出来る。
そんな不思議な生命体。
それが、一色アゲハ。
まあ、一番不思議なのは、気づいて欲しいのに気づいてもらえないストレスが最高潮に高まると魔法蝶々バタフライとかいう、魔法少女の亜種みたいなのに変身しちゃうことなんだけどね。
所謂、ストレス系魔法少女というヤツですよ。たぶん。
アゲハが、魔法蝶々だと知っているのは、あたしと美琴の二人だけだ。たぶん。おそらく。
なんかねー。変身自体は公衆の面前で普通に行われているみたいなんだけど、変身前が存在感なさ過ぎて、はた目には魔法蝶々がいきなり現れて唐突に消えた様に見えるんだよね。
あたしも昨日の放課後目撃したんだけど、本当に幽霊のように突然現れて突然消えた様にしか見えなかった。なのに、どうしてか美琴のヤツには、アゲハの姿が見えるのだ。なんか、特殊なセンサーでもついているのかね?
まあ、とにかく美琴のおかげで、あたしもアゲハの姿を肉眼でとらえることが出来た。
その後は、美琴と二人でアゲハを追いかけて、マンションまで押しかけて事情を聴き出して、友達になった。アゲハの、生まれて初めての友達に。
高校生になって初めて友達が出来るって。
今まで、本当に、幽霊みたいな人生を送ってきたんだろうなあ……。
そんなわけで。
今日から、あたしたちは。下の名前で呼び合い、三人でお昼ご飯を食べることになったのだ。
ちなみに、アゲハはどっちも初体験らしい。
これから、あたしと美琴で、アゲハのいろんな初体験を奪っていくんだね……。
お昼は三人ともお弁当だったので、教室で食べることにした。ちょうど、アゲハの周りの子たちは外へ食べに行ったようなので、椅子だけお借りすることにした。
あと、これ。不思議なんだけどさ。アゲハが一人でいると、他のクラスメートたちは、まるで幽霊みたいにアゲハのことをスルーしまくりなのに、あたし達と一緒にいるとちゃんと認識できるみたいなんだよ。
みんな、アゲハを見て不思議そうに首を傾げては、「ああ、こんな子いたっけ」みたいな顔をするんだよね。
さて。
記念すべき三人でのランチタイム第一回の話題は、魔法少女は存在するのか、だ。
あたしとアゲハは肯定派。そして、美琴は否定派だ。
「大体さー。幽霊は信じてるくせに、どうして魔法少女はいないって言い張るんだよ。変身シーンを目撃したくせに」
「もー。高校生にもなって、魔法少女とか恥ずかしいってば。それに、幽霊は人が、何か心残りがある状態で死んだらなるものでしょう? つまり、材料は実在しているし、原因も分かっている。対して、魔法少女は架空の生き物でしょう? 常識的に考えて」
くっ。変なところで常識派を気取りおって。てゆーか、材料って!
「変身シーンを目撃したくせに」
「え? だって、あれは早着替えでしょう? いつも制服の下に水着を着ているんだよ」
「き、着てません!」
それまで大人しく話を聞いているだけだったアゲハが涙目で反論する。
水泳の事業がある日なら兎も角、何でもない日に制服の下にスクール水着を着こんでいるとか、ちょっとヤバいと思うんだけど?
昨日は体育なかったし。あったとしても、魔法蝶々を目撃したのは放課後だ。授業で泳いだなら、水着は当然濡れているはずだ。濡れた水着の上に制服着るとか、何の罰ゲームだよ。それに、蝶々の着ていたスク水、別に濡れてなかったしな。
「本人は、こう言っているぞ?」
「ストレスのあまり、本人も気が付かないうちにスク水を着こんでいた、とか?」
「だったら、今ここで確認してみればいいだろ! 下にスク水を着こんでいるかどうか」
箸をおいて、左に座っているアゲハのスカートに手を伸ばそうとしたら、右からげんこつが飛んできた。
いだっ。もー、乱暴者め。体罰、反対!
ほんの冗談だったのに。……半分、本気だったけど。
「あ、えっと、その。ここでは、流石に恥ずかしいですけど、その、食べ終わってから、トイレでなら……」
「…………そうねー。アゲハちゃんがそれでいいなら、確認しておこうか。ちゃんと、はっきりさせた方がいいもんね!」
美琴は箸をぐっと握りしめた。
なんだかんだで、こいつも好奇心には負けるんだよな。
「てゆーかさー。蝶々が魔法少女の亜種じゃないとしたらだよ? あれ、ただの怪人か、むしろ痴女じゃん?」
「え、えぇ!?」
あ。アゲハが真っ青になってる。
いや。でもなー。
魔法蝶々バタフライってさー。
蝶々の羽のアイマスクと、背中にも羽を付けた蝶々系魔法少女なんだけど。同時に、スク水系魔法少女でもあり。そして、おっぱい系魔法少女で、太もも系魔法少女でもある。
これらをすべて兼ね添えると、やっぱり何かの怪人か、ただの痴女ってことにならないだろうか?
美琴は、卵焼きを掴んだ箸を宙で留めたまま、真っ青になっているアゲハを見つめ、そして頷いた。
「そうだね。魔法蝶々は、魔法少女の亜種だよね。うん。魔法少女は、現実には存在しなくても、わたしたちの心の中に存在してるってことだよね。常識的に考えて」
アゲハの心中を慮ってか、何か無理やりまとめてきおった。
アゲハはホッとした笑みを浮かべている。
が。
たとえ魔法少女の亜種と認められたとしてもだ。
魔法蝶々が、変質者臭いのは拭えてないけどな。
「でも、とりあえず。あのスク水はよくないと思うんだよね。校内の風紀的な意味で。あ、そうだ。今度の土曜日、三人で水着買いに行かない? もうすぐ夏休みだし。そう言えば、わたしと風鈴もスク水しか持ってないし。それで、三人で海とかプールとか行こうよ」
アゲハの顔がぱあっと輝いた。
コクコクと頷いている。
夏休みに三人でお出かけに、反応したのだろう。
新しい水着を魔法蝶々の新衣装にという美琴の考えには気が付いていないようだ。
ま、その話は、水着を買ってから改めてすればいいよね。
スク水じゃなくなったところで所詮水着だし、着ているのがあのおっぱいと太ももでは、どのみち風紀的にはアウトだと思うけど。まあ、黙っておこう。
しかし。
おっぱい二人と一緒の水着購入イベント&海・プールイベントか。
あたしが男なら、ウハウハなんだけどな。
じっと、自分の平すぎて視界良好な胸を見下ろす。
二人には、なるべく離れていてもらおう。
ちなみに。
お弁当を食べた後は、宣言通り、トイレでスク水の有無を確認させてもらった。
青と白のストライプだった。
そして、そこから覗く、程よくむっちりとした白い美脚。
うむ。この太ももは、間違いなく魔法蝶々バタフライと同じもの。
「パンツの下にスク水を着こんでいないかも確認しとこうか!」
興奮のあまりアゲハのパンツに手を伸ばそうとして、たんこぶが出来そうなくらい殴られた。
うん。
分かってる。
これは、流石に、あたしが悪かった。
自分でも、反省している。




