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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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リリアさんの過去を知ることになった

 静かな夜、木造りの大きな宿屋の一室。俺は自分に割り当てられた部屋で、ベットに寝転んで考えていた。
 やはりというか何と言うか、夕食の時もリリアさん達の様子はおかしいままだった。
 表面上は普段通りの様に振舞っていたが、俺の感応魔法はリリアさんとルナマリアさんからは静かな決意を、ジークさんからは複雑な感情を読みとっていた。

 レイさんとフィアさんも狩猟大会には参加するらしいが、やはり二人も何か思う所があるのか、どこか明るい様子にも違和感があった。
 間違いなくその原因は今回の大会の報酬……世界樹の果実という物のせいだろう。
 あらゆる傷を治すと言う神秘の果実、そこには何か大きな事情があるんだろう。

 その事情が何か……気にはなるし、知りたいとも思うが、たかが一月程度の付き合いである俺が踏み込んで良い話題とも思えない。
 だからと言って、こうして一人で考えていた所で答えは出ないだろう。

(教えましょうか?)

 悶々と答えの出ない疑問を浮かべていると、頭の中に声が響いてくる。
 ……気持ちはありがたいですけど、シロさんにそれを聞くのは反則だと思うので、気遣いだけ頂いておきます。

(そうですか。ところで快人さん。掌を上にして前に出して下さい)

 答えを教えてくれると言うシロさんに、やんわりと拒否の言葉を返す。
 するとシロさんは特に気にした様子も無く、すぐに話を切り替える。

 掌を上にして前に? なんだろう?
 意味は分からなかったがとりあえずその言葉に従い掌を前に出すと、俺の掌が一瞬光を放ち1cmくらいの小さな白い球が現れる。

(差し上げます)

 なんだろうこれは? ただの白いビー玉にしか見えないんだけど、態々シロさんが渡してくると言う事は何かしら特殊な物なのだろうか?
 というかそもそも、何でこのタイミングで?

(遅くなりましたが、以前の神殿での一件はイベントと判断しました。なので贈り物です)

 ……シロさん。お前もか……てか、やっぱりクロに妙な知識を教え込んでるのはシロさんだったのか。
 ま、まぁ、それはそうと、一体これは何なんですか?

(魔水晶です)

 どうやらこの球体は魔水晶らしい。
 むむ、それは正直嬉しい。俺も最近は魔法にも慣れてきたし、まだ術式を自分で作ったりは出来ないけど、クロに教わった魔法なら問題無く行使できるようになった。
 なので丁度そろそろ、簡単なもので良いから魔法具も作ってみたいと思っていたので、本当にいいタイミングだ。
 色が白いって事はそれほど純度の高い魔水晶じゃないんだろうけど、初めならむしろその程度の方が良いかもしれない。ありがたく使わせてもらう事にしよう。

(喜んでいただけた様で嬉しいです。では、私はこれで)

 どうやらこれを渡す為に話しかけてきたみたいで、シロさんはそこで会話を打ち切る。
 俺は心の中でもシロさんにお礼の言葉を告げ、頂いた魔水晶をマジックボックスに収納する。

(クロだけずるいので、今度私ともデートしてください)

 ……は? ちょっと、シロさん? いきなり何を……創造神であるシロさんとデートなんて事になったら、それはもうとんでもない事になるんじゃなかろうか?
 最後に告げられた言葉に、驚きながら尋ね返すが……返事は返ってこなかった。























 神界にある空中庭園で快人との会話を終了したシャローヴァナルの元に、偶々用事があって空中庭園に訪れ、快人とシャローヴァナルの会話が終了するのを待っていたクロノアが近付く。

「シャローヴァナル様。ミヤマとは何を?」
「イベントがあったので、贈り物をしました」
「贈り物……ですか? シャローヴァナル様から頂けるとは、ミヤマは幸せ者ですね。差し支えなければどの様な物かお伺いしても?」
「魔水晶です」
「ほう、それは……純度はいかほどなのですか?」

 快人に贈り物をしたと言うシャローヴァナルの言葉を受け、クロノアは驚きながら、それがどんな物なのかを尋ね、シャローヴァナルが簡潔に答える。

「さあ?」
「……な、何故首を傾げていらっしゃるのですか?」
「今『造り出した』物なので、純度という概念はありません」
「……つ、造り出した? あ、あの、その魔水晶は一体どのような……」

 シャローヴァナルが告げた『造り出した』という言葉、それは即ち今この世界に存在するものとは異なる魔水晶を創造したと言う意味であり、クロノアは大きな不安を抱きながら尋ねる。

「……」
「あの、シャローヴァナル様?」

 しかしシャローヴァナルはその言葉に答える事は無く、クロノアを無視して移動し、テーブルと椅子を出現させて紅茶を飲み始める。

「アレがあれば『死ぬ事は無い』でしょう」
「……死ぬ? ミヤマがですか? 何か起こると言う事でしょうか?」
「怪我をします。重傷となるか軽傷となるかは不確定ですが」
「……忠告しなくてもよろしかったのですか?」

 シャローヴァナルはほぼ全能と言って良い力を有しており、未来予知も当然の如く可能。ただ未来とは数多ある可能性の内の一つであり、不確かで移ろい易いものであり、シャローヴァナルも不確定と言う言葉を使っていた。
 ただ快人が怪我をするという部分に関しては確信を持って告げており、故にクロノアはそれがこれからほぼ確実に起こる未来と判断して尋ねる。

「忠告したところで快人さんは同じ行動を取ります」
「……そうですか」

 クロノアにとってシャローヴァナルは絶対の主であり、その決定に異を唱える事は無い。
 そしてシャローヴァナルが、これ以上詳細を語る気が無いと言うのは、長く仕える彼女には即座に理解が出来、それ以上の質問は行わない。

「それと、今度人界に行きます」
「……は?」
「快人さんとデートします」
「ちょ、ちょっと待ってください!? シャローヴァナル様が人界に訪れれば、大騒ぎに……」
「対応は任せます」
「なっ!? は……はぃ。す、全てシャローヴァナル様の御心のままに……」

 淡々と告げるシャローヴァナルの言葉を受け、クロノアは引きつった表情で首を垂れる。
 今日も神界で貧乏くじを引いたのは、時空神だった……
 頭を抱えるクロノアを尻目に、シャローヴァナルは紅茶を飲みながら遠方に視線を向けて微かに笑みを浮かべていた。











 

 










 どうも、シロさんと会話をした事で目が冴えてしまったみたいで、寝付けなかった俺は軽く夜風に当たろうと宿の外に出る。
 宝樹祭前夜ではあるが、リグフォレシアの街の夜は静かなもので、冷たい風が心地良く頬を撫でる。
 しばらくそのまま夜風に当たっていると、宿の裏手から微かに音が聞こえてきた。

 音が気になり宿の裏手に回ってみると、そこには黙々と剣を振るリリアさんの姿があった。

「……リリアさん?」
「え? カイトさん? どうしたんですか? こんな夜遅くに」
「いえ、なんだか寝付けなくて……リリアさんこそ、剣の訓練ですか?」
「ええ、少しだけですが……」

 たぶん、嘘だろう。少しだけ、という雰囲気ではない。
 おそらくリリアさんは夕食の後からずっと、ここで剣を振り続けていたんじゃないだろうか?
 どうして、そこまでするのだろう? 知りたい。今この場で、どんな事情があるのか尋ねてしまいたい。
 だけどそれはきっと、リリアさんの心の奥底に踏み込む行為。興味本位なんて軽い理由で尋ねて良いものではないだろう……

 聞くべきではないのなら、俺に出来るのはリリアさんを応援する事だけ。いつも優しく、俺達に色々な事を教えてくれた恩人であるリリアさんに、今の俺がしてあげられるのは……
 頭の中で考えをまとめた後、俺は首にかけていた黒いネックレスを外してリリアさんに差し出す。

「リリアさん、これを」
「これは、クロムエイナ様の? 何故、私に?」
「ソレにはクロが施した探索魔法が入っています。まだ魔法の事はよく分かりませんが、狩猟大会の助けになるんじゃないかと思って……優勝、狙うんですよね?」
「……ありがとうございます」

 森の中で獲物を探して狩猟を行うのなら、探索魔法と言うのは役に立つのではないかと思い、クロから貰ったネックレスを手渡す。
 リリアさんは少し戸惑う様な表情を浮かべたが、少ししてそれを受け取ってお礼の言葉を返してきた。

「それじゃあ、俺は戻ります。大会……頑張ってください」
「……」

 それ以上は何も言えず、俺はリリアさんに言葉を告げた後、背を向けて宿屋に戻ろうとしたふが、その直後に背後から小さな声が聞こえてきた。

「カイトさん、少しだけお時間を頂いても良いですか?」
「え? はい、構いませんが……」
「……楽しい話ではありませんが、少し私の昔話に付き合って下さい」

 静かな声に、どこか覚悟を決めた様な表情。
 どうやらリリアさんは、俺に教えてくれるらしい。リリアさんと今回の賞品、そこにまつわる因縁の話を……

 拝啓、母さん、父さん――リグフォレシアに来た日の夜。月明かりの下で、俺は――リリアさんの過去を知ることになった。




















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