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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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文通をする事になったよ

 リリアさんがただならぬ様子で出て行って1時間程、現在俺はリグフォレシアの街を一人で歩いていた。
 と言うのも、リリアさんとルナマリアさんが出て行った後、レイさんとフィアさんは何やら気を取り直す様な、妙に高いテンションで俺達に街を案内すると言ってくれた。
 そしてやはり何故か俺とジークさんを二人で出かけさせたい様子で、かなり強引ながら楠さんと柚木さんの案内はレイさんとフィアさん、俺の案内はジークさんと言う形に纏められてしまい、俺はジークさんと二人で街の散策に繰り出した訳なんだが……
 やはりジークさんの様子はどこかおかしく、リリアさんとルナマリアさんを気にしている様子だったので、俺は適当に近場を散策しているので二人の様子を見に行ってくれて大丈夫だと告げ、ジークさんはかなり迷っていたが結局リリアさん達の所に向かったので俺は一人になった訳だ。

 まぁそうやって気を使ったのは良いが、一人で散策するにしても俺はこのリグフォレシアをよく知らないので、あまり変な所に行かない様に近場をうろうろとしている。
 宝樹祭が明日に控えていると言う事もあり、街は活気付いていて賑やか……正しく前夜祭と言う雰囲気で、あちこちにカップルの様な組み合わせも見かける。リア充爆発すればいいのに……

 しかし、分かってはいたけど、この雰囲気の中一人と言うのはどうも味気ないものだ。
 せめて誰か知り合いでも見つかれば良いのだが、生憎こんな所に知り合いは……

「ああぁぁぁぁ!!」
「ッ!?」
「カイトクンさんです!」
「へ?」

 大きな声が聞こえてきて振り返ると、そこには見覚えのあるピンクブロンドの髪をした50cm以下……大体30cm前後に見える妖精の姿があった。

「……ラズさん!?」
「お久しぶりですよ~」

 以前クロに誘われバーベキューに参加した時に出会った妖精族の少女、クロの家族であるラズリアさんは、ニコニコ明るい笑顔を浮かべ小さな羽で俺の周囲をくるくる飛び回る。

「お久しぶりです。こんな所で会うなんて奇遇ですね。ラズさんも宝樹祭に?」
「そうですよ~ここには妖精族の森もあるですから、ラズの友達もいっぱいいるです」
「成程、でも、またお会いできて嬉しいですよ」
「ラズもカイトクンさんに会えて嬉しいです!」

 ちなみにラズさんは以前から俺の事を「カイトクンさん」と呼ぶが、これはクロが俺の事をカイトくんと呼んでいるので、そこにさんを付けたんだと言っていた……勿論訂正したけど、修正はしていただけなかった。

「あや? なんか、カイトクンさんカッコ良くなりました?」
「え?」
「よく分からないですけど、カイトクンさんの近くはふんわり暖かいです。う~ん。ちょっとシャローヴァナル様に似てる感じがするですよ」
「シロさんからは祝福を受けましたけど……」
「あ~成程ですよ。シャローヴァナル様は世界の神ですから、シャローヴァナル様の祝福を受けたカイトクンさんは、世界から愛されてるですね。だから自然から生まれた妖精のラズには、カイトクンさんの魔力が心地良いんですね~」
「へぇ、そんな効果があるんですね」

 今までシロさんの祝福の効果がいまいち謎だったんだが、どうやらシロさんの祝福はこの世界から愛されると言う効果があるらしく、この世界の自然から生まれた妖精にとって、俺が纏う魔力は心地良いものになるらしい。
 森林浴するとリラックス効果があると言うし、それに似た感じなのかもしれない。

「ラズさんはお一人でいらっしゃったんですか?」
「違いますよ~ノインと一緒に来たです」
「ノインさんと?」
「はいです。ノインが落ち込んでたんで、気分転換に来たんですよ~」
「落ち込んでるって、ノインさん何かあったんですか?」
「……アレ見て下さい」
「……なんですかあれ……」

 俺の質問を受けてラズさんが指差した方向に目を向けると、黒い甲冑が道の端っこで膝を抱え……所謂いわゆる体育座り状態になっていた。
 アレは、間違いなくノインさんだけど……いったいぜんたいどういう状況なんだ? てか、どうやって甲冑で体育座りしてるんだ?

「何がどうなったら、ああいう事になるんですか?」
「それがですね~前にカイトクンさんにオトウフさんの作り方を教わってから、ノインは凄く張り切ってたですよ。最初はアインさんが作ろうとしてたんですけど、今度こそ自分が作るって頑張ってたです」
「ふむふむ」
「それはもう毎日毎日籠りっきりで作ってまして、よく『なめらかさが足りない』とか『深みが無い』とかブツブツ言ってたです」
「それはまた、凄い拘り様ですね」

 ノインさんは和食に非常に拘りがあるらしく、妥協せずに美味しい豆腐を作ろうと試みていたらしい。
 成程、豆腐が完成したらお裾分けに来ると言っていたのに、ずっと訪問してこなかったのは納得いく物が出来ていなかったかららしい。
 まだノインさんの事はそれほど知っている訳ではないが、大の和食党と言うのは知っているし、生半可なものでは納得しなかったんだろう。

「それで、そうなるとラズやアハトくんもオトウフさんが気になるです。けど、ノインは納得いく物が出来るまで食べさせてくれなかったんですよ。でもラズは食べてみたかったので、アインさんに頼んで作ってもらったんですよ」
「アインさんならパパっと作っちゃいそうですね」
「ですです。すぐに作ってくれて、アハトくんと一緒に食べたです。アハトくんは『味気ない』って言ってましたが、ラズはオトウフさんぷるぷる柔らかくて、とても美味しかったです」

 ラズさんは菜食主義と言うか、種族的なものなのかどうか分からないが肉類は一切食べられないらしい。
 確かに思い返してみれば、バーベキューの時も野菜だけ食べてた覚えがある。
 ともあれそんなラズさんにとって、大豆で出来た豆腐はとても美味しいものだったらしい。

「それでですね。丁度そのタイミングでノインが、オトウフさんが完成した~ってやってきたです」
「ふむ……」
「それでラズ達がオトウフさん食べてるのを見たんですけど、作ったオトウフさんに自信があったみたいで『いくらアイン様とはいえ、私が作った物以上ではないでしょう』って言ったです」
「……なんて、無謀な」

 つまりノインさんは、別に本人がそう意図した訳ではないが、あの化け物メイドに挑んでしまったらしい。
 駄目だ。どれだけノインさんを贔屓してみても、あのアインさんに勝てる未来が思い浮かばない。

「で、そう言いながらアインさんの作ったオトウフさんを一口食べて……地面に座りながら『私程度の羽虫が、メイドであるアイン様に無礼を働きました。申し訳ありません。どうか今後もこの豆腐を食べさせて下さい』って泣きだしたです」

 心折られた!? 抱いた自信ごと粉々に粉砕された!?
 な、成程、それであんな風に落ち込んでるのか……そりゃ1月近く必死に思考錯誤した物を、一回作っただけで越えられてしまったら、心も折れるかもしれない。

「それは、何と言うか……哀れすぎる」
「アインさんも、別にラズ達の頼み聞いてくれただけで、ノインを虐める気なんてなかったですよ。なので、珍しく困った顔でノインを慰めてたです」

 物凄く失礼な話かもしれないが、あのアインさんが戸惑う姿とか想像が出来ない。
 まぁ、それだけアインさんにとってもノインさんの落ち込みようが予想外だったんだろう。
 それでラズさんは気分転換に宝樹祭に誘い、現在に至ると言う訳らしい。

 ラズさんの話を聞き終え、俺は座りこんでいるノインさんに近付いて、戸惑いがちに声をかけてみる。

「あ、あの、ノインさん。お久しぶりです」
「……宮間さん? あ、はい。お久しぶりです……私みたいな、豆腐もまともに作れないゴミ虫の事を覚えていて下さって、ありがとうございます」
「……あの、ラズさん」
「……なんですか?」
「……ノインさんって、割と心強いイメージあったんですけど……」
「……時々こうなるですよ。一回沈みだすと中々元気にならないです」

 初代勇者と言う事もあって、てっきり化け物じみた心の強さかと思っていたが……どうもノインさんは、落ち込みだすと歯止めが効かないタイプらしい。
 確かに言われてみれば責任感強そうな感じだから、自己嫌悪をこじらせてしまうと長引きそうに思える。
 いや、しかしこれは気まずい……何と言うか、初代勇者を崇めるこの世界の人には見せられない感じになっちゃってる。

「え、えっと、ラズさんから話は聞きましたが……アインさんがとんでもなさ過ぎるだけですよ。ノインさんの作った豆腐だって、負けない位美味しい筈ですって……」
「……じゃあ、食べてみてください」
「へ?」
「食べてみれば、違いが分かります」
「あ、えと……はい」

 何とか落ち込んでるノインさんを元気付けようと、フォローになるか分からない言葉を投げかけてみる。
 そもそもあの化け物みたいな方と競うのが間違いであって、和食に拘るノインさんが作った豆腐もきっと美味しい筈だと、そう思いながら声をかけると、ノインさんはマジックボックスを取り出して二種類の豆腐を差し出してくる。

「右がアイン様が作った物で、左が私です……アイン様のと比べたら、私の豆腐など生ゴミみたいなものです」
「……」

 大変ダウナーな雰囲気に気圧されながら、それぞれの豆腐を食べてみる。
 右の豆腐は、それはもう凄まじいと言うか……滑らかで全く引っかからない舌触りに、俺でさえ最高級品だと分かる程に洗練された上品な味わい。アインさんこれ一発で作ったの? ホントどれだけ化け物なんだ……
 左の豆腐は、まさしく手作りというと言う感じで、どこか暖かみを感じる優しい味わい。
 あれ? でも、これって……

「……あの、俺としては左の豆腐の方が好みなんですが……」
「……え?」
「あ、いや、勿論俺は豆腐の良し悪しなんてロクに分からないでしょうけどね。ただ、右の豆腐は確かに物凄く上品で美味しいんですが……俺としては、家庭の味と言うんでしょうか? 素朴で優しい感じがする左の豆腐の方が好きですよ」
「ほ、本当ですか?」

 俺の感想を聞いて、ノインさんはまだ信じられないと言った感じで、伏せていた顔を上げて俺の方を向いてくる。

「ええ、本当に美味しいですよ。『毎日でも食べたい』くらいです」
「ふぇっ!?」

 素直な感想を告げると、ノインさんは急に妙な声を上げて一気に立ち上がる。
 あれ? どうしたんだろう? 何か慌ててる様な感じがするけど……

「み、みみ、宮間さん!? そ、そそそ、それはつまり、えと、わ、私の味噌汁を飲みたいとか……そそ、そう言う意味でしょうか?」
「……味噌汁ですか? ええ、ノインさんが作る味噌汁なら、それはとても美味しそうですし、是非飲んでみたいですね」
「~~!?!?」

 この豆腐で作った味噌汁。うん、ノインさんは和食党だし、これだけ美味しい豆腐が作れるなら料理も上手なんだろうから、迷惑でないなら是非飲ませていただきたいものだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!? と、殿方からそのような事を言われたのは初めてで、理解が追いつかないので……」
「あ、いえ、何も無理にとは言いませんよ」
「い、いえ、わ、私も決して宮間さんの事が嫌いなわけではないのですし、以前話した時に宮間さんがとても優しい方だと好意的に感じました……で、ですが、ま、まだ私達は、お互いの事をよく知らないと思うんです!!」
「え? あ、はい。確かにそれはそうですね」

 うん? ノインさんは一体何を言ってるんだろう? よく知らない相手に手料理を振舞うのは抵抗があるって事かな?
 いや、別に俺ももしノインさんさえ良ければ食べてみたいなぁと思っただけで、無理強いする気は全く無いんだけど……もしかして、俺がクロの知り合いだから断り切れないとかそういう感じなのかな?

「あの、ノインさん。気を使っていただかなくても、無理なら無理と言って下さって大丈夫ですよ」
「い、いえ、み、宮間さんは素敵な方だと思いますし、わ、私ももう長く生きていますので、そろそろ考えなければと思いはしていたんですが、す、すす、少し時間を下さい! ま、まずは、その『文通』辺りから始めさせてください!!」
「……文通、ですか? ええ、それは別にかまいませんが……」

 あれ? 何で、いきなり文通を始めようとかそう言う話になってるんだ? さっき、お互いの事をよく知らないって言ってたし、その関係かな?
 つまり要約するとまず先に親睦を深めてから、手料理をふるまってくれるって事らしい。
 ノインさんは大正生まれという事らしいし、もしかしたら相手と親睦を深める手段として、すぐに思い浮かぶのは文通って事なのかもしれない。
 文通などした事は無いが、丁度こっちの世界に来て時間は持て余し気味だったし、手紙でのやり取りと言うのも新鮮で良いかもしれない。

「で、では、その、不束者ですが……こ、今後ともどうか、よろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ」
「あ、あの、でで、では、私は少し用事があるので、これで! し、失礼します!!」

 ノインさんは早口でそう告げた後、物凄い勢いで去って行ってしまった。
 よくは分からないが、ともかくノインさんは元気になってくれたって事で良いのかな?

「ノインさん、随分戸惑ってましたけど、どうしたんでしょう?」
「ラズにはよく分かんないです。でも、元気になったみたいで良かったですよ~」
「そうですね」
「はい! カイトクンさんのお陰ですよ~ありがとうです!」

 去っていったノインさんについて、ラズさんと一緒に首を傾げる。

 拝啓、母さん、父さん――宝樹祭の前日、思わぬ方々と再会した。後何か妙な話の流れで――文通をする事になったよ。

























 首を傾げる快人とラズリアの姿を、少し離れた場所から見つめる影が二つ。

「……どう思います? 葵先輩」
「……今のに関しては、相手側にも問題がある様な? 日本人って話だったけど、よっぽど古風な考え方をしてるのかもしれないわね」

 散策の最中にたまたま近くを通りがかり、一連のやり取りを眺めていた葵と陽菜はどこか呆れた様な表情で呟く。

「というか、何で宮間先輩。あの反応で照れてるじゃなくて、戸惑ってるって感想になるんですかねぇ~」
「いや、普通に会話してても気付かないのに、甲冑で表情が見えない相手とのやり取りで、宮間さんがそれに気付くのは無理でしょ……」
「宮間先輩って、感応魔法で滅茶苦茶感情に鋭い筈なんじゃないんですか?」
「読みとれた所でlikeとloveの違いが分からなければ無理だって……」

 もはやどこか諦めた様な表情で会話を交わす二人の元に、案内役のレイジハルトが近付く。

「うん? 立ち止まって、どうしたんだい?」
「いえ、何でも無いです」
「ええ、ちょっと天然の女たらしってのを目の当たりにしただけです」
「……うん?」


















快人のセリフ、リア充爆発しろ。
自殺願望があるのかな?
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