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何か複雑な事情があるのかもしれない

 一悶着あったもののジークさんの家に辿り着き、ルナマリアさんを待つ間お茶を頂く。

 ジークさんの家は落ち着いた木作りで、中もかなり広く木の温もりが心を落ち着かせてくれる。


「というか、レイさん。大丈夫ですか?」

「……いやはや、娘の愛は重いね。回復魔法かけておこう」


 お茶を飲みながら、顔面が爆心地の様に荒れ果ててしまったレイさんに声をかける。

 するとレイさんは苦笑した後で自分の顔に手をかざし、その手が淡い光を放つとみるみる顔の傷が治っていく。


「流石は『元宮廷魔導師』、見事な腕前です」

「ははは、いや、流石に私も最近は衰えを感じて来たよ。特に今回はリリアちゃんやルナちゃんも参加するなら、狩猟大会の優勝も難しそうだね」

「リリアさんってそんなに強いんですか?」


 どうやらレイさんは以前は王宮で宮廷魔導師として働いていたらしく、相当な腕前を持つらしい。

 そしてそんなレイさんがリリアさんの実力を高く評価しているみたいで、疑問に思った楠さんが質問をする。


「おや、知らないのかい? リリアちゃんはシンフォニア王国内で、殆ど『最強に近い実力』を持っているよ。戦闘力だけなら騎士団長をも凌ぐほどさ」

「あ、あの、レイさん。そのへんで……」

「リリアさんが強いと言うのは以前聞いた事がありますが、ルナマリアさんも凄いんですか?」


 リリアさんの実力に関しては、10代の頃で既に武術大会で準優勝している事からも伺えるが、ルナマリアさんが強いと言うのは初耳だ。

 ああ、でも、そう言えば……普段がアレなのであまり想像できないが、ルナマリアさんは元冒険者だったっけ?


「ルナは優勝候補の一角と言って良いと思いますよ。特に森の中での狩猟技術は冒険者経験がある分、私より遥かに上でしょう。勿論ジークも優勝候補でしょうね。エルフ族は人間に比べて筋力では劣りますが、視覚や聴覚が優れていますし、森での狩猟はまさに独壇場です。特にジークの剣の技量は私以上ですからね」

「……」

「なるほど」


 やはりというかジークさんも相当強いみたいだ。

 感覚の優れたエルフ族であり、剣の技量はリリアさん以上……正直リリアさんって技巧派ってイメージより、パワータイプなイメージがあるのは何でだろう? 何度も気絶させられてるからかな?


「……カイトさん。何か言いたい事でも?」

「な、何でもないです!?」

「ははは、まぁともかくシンフォニア王国内でも屈指の実力者達ってことさ」


 ともかくリリアさん達は立派な優勝候補と言う事らしい。ただやはり、普段から森で狩猟しているリグフォレシアの戦士も粒揃いで、そう簡単に優勝できると言う訳ではないみたいだけど……


「う~ん。俺がこの世界に来て見た戦闘と言えば、クロのだけなんですが……やっぱ魔法を使っての戦闘となると、豪快なんでしょうね」

「あの、カイトさん……比較の対象がおかしいです。それ、世界でも最強クラスの方ですからね?」


 とまぁ、そんな感じで楽しげに話をしていたのだが……それは少しして、扉を跳ね飛ばす様に開いて駆け込んできたルナマリアさんによって破られる。


「……はぁ……はぁ……」

「ルナ?」

「お、お嬢様!? 大変です!!」

「どうしたんですか?」


 駆け込んできたルナマリアさんは、余程急いで来たんだろう。肩で大きく息をしながら、焦った様子でリリアさんに話しかける。

 リリアさんもその只ならぬ空気を感じ取ったのか、真剣な表情で続きを促す。


「さ、先程、今回の狩猟大会の『優勝賞品』が発表されたんですが、それが……」

「優勝賞品? ああ、そう言えば今回はまだ発表されていなかったね」

「そうねぇ~去年は魔法具だったし、今年は何かな~って思ってたのよね」


 狩猟大会では毎年優勝者に賞品が贈られる事になっており、それは毎年変わると聞いた。

 金銭が贈られる年もあれば、魔法具の様な道具が贈られる年もあるらしく様々だが、ルナマリアさんの用件はその賞品についてらしい。


「それが、今回はエルフの森が出来て1000年の記念と言う事で……界王様よりエルフの長に賞品が下賜かしされたらしいんです!!」

「ッ!? か、界王様が……」

「ルナ……それは……まさか……」


 ルナマリアさんが告げた言葉を聞き、レイさんとフィアさんも信じられないと言った様子の表情を浮かべる。

 しかしそれ以上に、リリアさんの表情が印象的だった……驚愕と、何だろうあれは……どこか鬼気迫る様にも感じる鋭い表情、普段のリリアさんとどこか違う様な気がする。


「はい……『世界樹の果実』です」

「!?!?」


 その瞬間、俺の感応魔法が強い感情を感じ取った。

 深い後悔と……己への怒り?

 そしてその強い感情を発しているのは……リリアさんだ。


「世界樹の果実って、なんなんですか?」

「あらゆる病や傷を癒し、失った四肢さえ蘇らせると言われる伝説の果実。私も実物を見た事は無いけど、極々稀に界王様が眷族に下賜する事があると聞いた事がある」

「金銭に換算できるような価値ではないわね~界王様の眷族ですら、実物を見た事が無い者も多いらしいわよ」


 柚木さんが口にした疑問に、レイさんとフィアさんが返答するが、二人も何か複雑な様子に見えた。

 何だろう? これは……一番強い感情を感じるのはリリアさんだが、ルナマリアさんも、ジークさんも、どこか複雑な表情を浮かべている。


 そしてリリアさんはその後『少し用事がある』と告げ、ルナマリアさんと共に出て行き、その後姿をジークさんが辛そうな表情で見送っていた。


 拝啓、母さん、父さん――今回の狩猟大会の賞品はとても凄いものらしいけど、それを聞いたリリアさん達の様子がどこかおかしかった。俺が知らないだけでリリアさん達には――何か複雑な事情があるのかもしれない。

























 狩猟大会参加者の為に解放された訓練所。そこではリリアとルナマリアが真剣な表情で訓練を行っていた。


「……早く、早く、勘を取り戻さないと……」

「……リリ」


 長く実戦から遠のいていたリリアは、かつての感覚を取り戻す為必死に剣を振るっており、その様子をルナマリアはどこか悲しそうな表情で見つめる。

 リリアの表情には強い焦燥が見てとて、それは普段の彼女からは想像もできない程鬼気迫る姿。


「ルナ、絶対に優勝しますよ。何としても、世界樹の果実を……」

「リリ、やはり貴女はまだ……」

「当り前です!」

「ッ!?」


 ルナマリアもリリアに世界樹の果実の存在を伝えれば、こうなってしまう事は分かっていた。それでも伝えない訳にはいかなかった。

 何故なら世界樹の果実は、リリアがずっと探し求めていた物……彼女を今も縛り続ける深い後悔を、少しでも和らげてくれるかもしれないものだったから……

 悲しそうに呟くルナマリアの言葉を受け、リリアは普段の彼女からは想像もできない悲痛な表情で叫ぶ。


「彼女は……ジークは! 『私のせいで声を失った』んですよ!」

「……」

「回復魔法では戻らなかったジークの声……それを治せる可能性があるのなら、私は……私は……」


 瞳に涙を浮かべ、強く唇を噛むリリア。

 その過去を悔む悲痛な姿に、ルナマリアはかける言葉が見つからず、無言でリリアの訓練に付き合う。


 そんな二人の様子を、遠く離れた場所から……ジークリンデが悲しそうに見つめていた。















たぶん、快人が死王辺りに頼めば手に入れられる。

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― 新着の感想 ―
アイシスさんが最初に手土産にしようとしてたのが世界樹の果実だから頼めば確実に貰える
カイトが事情を知っちゃったらクロかアイシスに頼んで手に入れるのも有りですね~。
後書きでずっこけた
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