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不思議な魔族と出会いました

 小物魔王と英雄勇者の話を終えた後、シンフォニア王国や周辺都市について一通り説明を受けた。


「……あまり詰め込み過ぎてもアレですし、皆さんも色々と頭の中を整理したいでしょうから、一端説明はこの辺りにしておきましょう」

「そうですね。そろそろ部屋の用意も――あっ……」

「ルナ?」

「……申し訳ございませんお嬢様。私とした事が失念していました。ミヤマ様のお召し物が……」

「あっ……」


 色々と説明を終え、一区切りついた様な雰囲気の中ルナマリアさんが何かを思い出した様な表情を浮かべる。そして次に困った表情で発した言葉を受け、状況はすぐに理解出来た。

 リリアさんの屋敷には基本的に女性しか住んでいない。となると男物の服がないと言う事だ。


「ルナ……時間は間に合いますか?」

「ええ、しかし、流石に私も下着等までは分かりかねます」

「……カイトさん、申し訳ありません。私の落ち度です。当家には男性物の服が無く、着替えが用意できてないのです」

「……別に俺は一日ぐらい着替えなくても……」

「いえ、幸いまだ夕刻です。購入すればいいのですが……寝着等はやはり私達だけでは判断が難しいので、お疲れの所申し訳ありませんがルナと一緒に街へ出て服を選んでいただけますか?」

「あ、はい」


 正直俺としては別に一日ぐらい着替えなくても別にいいと思うんだけど……衣食住を保証すると宣言した以上、リリアさんにも譲れない部分があるのかもしれない。


「お嬢様、予算はいかほど?」

「とりあえず100000Rで、予備も含めて5着は購入してきて下さい」

「ぶっ!?」

「畏まりました」


 ちょっと待って!? 100000Rって日本円で1千万ぐらいじゃなかったっけ!? 服買うのに用意するお金じゃ無くない!? え? 貴族様にとっては1着100万とか当り前の感覚なの? 

 茫然とする俺の前で、リリアさんとルナマリアさんは手早くお金の準備を行う。


「あ、忘れる所でした。カイトさん、アオイさん、ヒナさん。もしデンキセイヒンという道具をお持ちでしたら、纏めてお預かりします。異世界技術の塊なので、法の女神様に預かってもらわなければならないのです」

「電気製品……スマホとかですね」

「スマホと言うのは分かりかねますが、以前勇者様が持っていたキカイと言うものが狙われた事がありまして、今は女神様に預けて1年間保管して頂く様になっております」


 成程、機械製品はこの世界には無い技術の塊って事か……なら欲しがる人は居るのかもしれないし、当然と言えば当然の処置かな。まぁ、どっちにせよスマホとかは充電できないだろうし、写真撮ったりするのも色々とまずそうだ。

 ルナマリアさんが個別に用意してくれた綺麗な箱に、俺達はそれぞれスマホやデジタル式の腕時計等をしまう。時計はどうしようかと思ったけど、代わりに懐中時計みたいな物を貸してくれた。もう見た目で分かるよ。この懐中時計めっちゃ高いやつだ……こんなの持ってる方が恐ろしい気がする。



















 馬車にゆられて10分程、馬車から下りて数分。中世ヨーロッパみたいなイメージが沸く街を歩いて服屋に到着し、服を5着に下着や寝着を購入する。

 流石公爵家御用達のお店と言うべきか、どの服も恐ろしい程手触りが良く高級品だと感じる作りでかなり委縮してしまう。

 何とか地味目の服を探して購入したつもりではあったが、価格は全部で25000R……250万円である。250万円である……信じられるか? 服買っただけなんだぜ?


「……もっと安い服で良かったんですが……」

「ミヤマ様はお嬢様――公爵家のお客様ですからね。あまり安物の服ですと、お嬢様の品位が疑われてしまいます」

「そう言うものなんですか?」

「……貴族と言うのは、見栄を張ってこそのものでもありますからね。それでも比較的簡素な服を取り扱っている店を選ばしていただきましたが」

「あれで、簡素……」


 多くの人で賑わう夕暮れの通りを、ルナマリアさんと一緒に歩きながら言葉を交わす。何か物凄いキラキラした服とかもあったけど、アレでも貴族的には控えめな服らしい。


「それにしても、凄い人の数ですね」

「時間帯が悪かったですね。特に明日は新年ですし」


 ああそうか、俺の感覚だと夏休み前だったけど……こっちの世界では年の瀬って訳だ。こちらの世界での新年がどんなものかは分からないけど、ここは王都って話だし賑わうものなんだろうな。

 そんな事を考えながら大きな噴水のある広場を通りがかると、馬車の荷台の様なものが浮いているのが目に止まった。

 おぉ、もしかしてアレって魔法なのかな? 状態保存魔法とかって言葉を聞いて期待はしてたけど、流石異世界! 魔法が日常に組み込まれてる様でちょっと感動した。


「ルナマリアさん、あの浮いてるのは――あれ?」


 浮いてる荷台に目を奪われたのはほんの数秒だった筈だが、振り返った視界にルナマリアさんの姿が見当たらない。慌てて左右を見るが、あまりにも人が多くルナマリアさんを見つける事が出来ない。

 さっと血の気が引く様な感覚がした。コレってアレだよね? もしかしなくても、そう言う事だよね?


「……はぐ、れた?」


 やばいやばいやばい。ルナマリアさんを見失ってしまった!? しかも、探そうにも人が多すぎるし途中まで馬車で来たから、帰り道も分からない。

 ど、どうしよう!? こういう時って下手に動かない方が良いんだっけ? いや、でもこのままここに居ても人波に流されそうで……あ、そうだ! あの大きな噴水の前なら!

 見ず知らずの場所で一人はぐれるという事態に混乱しながら、何とか目印になるであろう噴水の前に移動する。

 やってしまった……土地勘がないとは言え、即座に迷子とか笑えない。多分今頃ルナマリアさんも気付いて探してくれてるとは思うけど、この凄い人ゴミの中から発見できるだろうか? うわ、滅茶苦茶不安になってきた!? 本当にどうしよう……


「どうかした? 何か困ってるみたいだけど?」

「……え?」


 噴水の前で頭を抱えていると、喧騒の中の筈なのにハッキリと声が聞こえてくる。反射的に声が聞こえた方向へ振り返り、そして硬直した。いや、目を奪われたという表現が正しいかもしれない。

 視線の先に居たのは140cm以下に見える子供だったが、纏う雰囲気は異質と言って良かった。まるで輝いている様にさえ見える銀色のセミショートヘア、宝石すら色あせる程に美しい金色の瞳、少女にも少年にも見える愛くるしい顔……黒く大きめコート――大分袖が余っているせいかローブの様にも見える服に身を包んだ子供は、夕日に照らされ芸術の様に異質な煌きを放っていて、無意識に見とれてしまった。


「えと? 大丈夫?」

「あ、ええと……」

「君、異世界の人だよね。もしかして迷子かな? ボクで良ければ相談に乗るよ~」

「なッ!?」


 まるで花が咲く様な愛くるしい笑顔を浮かべ、子供は優しい声で話しかけてきたが……異世界の人? なんで、それを?


「魔力の感じは勇者とかに似てるし、服装もあまり見ない服だからそうかな~って思ったんだよ」

「え、えと……」


 服装はまだ分かるけど、魔力ってあれか魔法使う為の力って事か……見て分かる物なんだろうか?


「見るって言うか、感じるって表現がいいかも」

「ああ、成程……え?」


 今、俺声に出して無いよね? この子、エスパー?


「あはは、君思ってる事顔に出過ぎ、すっごく分かりやすいよ」

「うぐっ……」

「あ、ごめんごめん。馬鹿にしたつもりじゃないんだ。寧ろボクはそういう子の方が好きだよ」


 表情をコロコロと変えながら、愛くるしい顔で笑う子供を見て少し安堵した。しかし、口調や見た目は幼いのに、声の感じとか雰囲気とか随分大人っぽい不思議な子だ。


「まぁ、それはともかくとして……ボクはこんな見た目だけど君の何百倍も長く生きてるから、困ってるなら力になるよ?」

「……何百倍?」

「うん! あ、そっか、魔族を見るのは初めてかな? ボクの名前はクロムエイナ……クロムでもエイナでもクロでも好きな呼び方してくれて良いよ~」


 魔族!? 魔族って言った? 人間にしか見えないんだけど……


「角とかあった方が良い? よっし、じゃあこれでどうだ!」

「なんで鼻から角!?」

「ふふふ、これでも異世界の事は色々知ってるんだよ! 嘘付いたら角が伸びるお話しがあるんでしょ? そんな感じで!」

「いや、それは鼻が伸びる話……」

「ありゃ?」


 どうやったのかは分からないが、自信満々に鼻から角を生やしていたので思わず突っ込みを入れてしまう。するとクロムエイナと名乗った魔族は苦笑しながら角を消し、ニコニコと笑顔のままで言葉を続ける。


「それで、君の名前は?」

「ああ、俺は宮間快人……」

「カイトくんだね! よろしく~」

「よ、よろしくお願いします。えと、クロムエイナさん?」

「敬語なんていらないし、呼び方もクロって呼んでくれればいいよ」

「じゃ、じゃあ、よろしく。クロ?」

「うん、よろしくね! じゃあ、お近づきの印に……お一つどうぞ~」


 流されるままに自己紹介を行うと、クロは嬉しそうな笑顔でコートに手を入れ紙袋を取り出す。てか今、コートの生地から出てこなかった?

 差し出された紙袋の中には、甘く香ばしい……見覚えのある菓子が入っていた。


「これ、もしかして」

「そうそう、君の世界のお菓子だよね? ヘビーカクテル!」

「ベビーカステラね」

「あれ? まぁ、ほらほら、美味しいよ」


 クロはどうも中途半端に異世界の知識を持っているらしい、さっき他の勇者とか言ってたし、見た目からは想像できないけど長く生きてるって事なんで過去の勇者から話を聞いたのかもしれない。

 無邪気な笑顔に押されてベビーカステラを口に運ぶと、馴染みある優しい甘さが口に広がり、なんとなく気分が落ち着いてきた。

 そんな俺を見てクロは明るく笑顔を浮かべた後、ベビーカステラを食べながら言葉を続ける。


「それで、カイトくんは何に困ってたの? さっきからキョロキョロしてたけど……」

「ああ、連れとはぐれちゃって……帰り道も分からなくてね。そうだ! クロは、アルベルト公爵家ってどこにあるか知ってる?」

「う~ん……ごめん、ボクもこの国に住んでるってわけじゃなくて、家の場所までは分かんないや」

「そっか……」

「ああ、でも大丈夫。はぐれちゃった人なら探せるからさ」

「え!?」


 少し落ち込む俺を元気付ける様に笑顔を浮かべた後、クロは再びコートに手を入れ黒い宝石のついたネックレスを取り出す。


「はい、これあげる! これ持って、はぐれた人の事思い浮かべてみて~」

「え? あ、うん」


 言われるがままにネックレスを掌に置き、ルナマリアさんの事を思い浮かべると……宝石から黒い線の様な光が伸びる。


「お、おぉ!?」

「それ辿っていけば会えるよ。そのネックレスには探索魔法がかけてあるからね~」

「あ、ありがとう! で、でも、これ……貰って良いの?」

「あはは、若い内から遠慮なんてしなくて良いよ。困った時はお互い様だよ!」

「若いか……見た目だけなら、クロの方が全然若く見えるのに……」

「あ、そういえばそうだね」


 ニコニコと笑顔で話しかけてくるクロに癒されつつ、何度かお礼の言葉を繰り返す。これは本当に助かった。おかげで何とか帰る事が出来そうだ。

 気にしなくて良いと笑うクロに再びお礼を告げてから別れようとして、ふと一つの疑問が浮かぶ。


「……そう言えばクロって、男の子? 女の子?」

「ボク? 『どっちにでも変われる』よ。今は女の子だけどね」

「……魔族って性別自由に変えられるのが普通なの?」

「ううん。色々だね。人族と同じ様に男女があるのも居れば、生殖しなくて性別自体が無いのも居るし、ボクみたいに好きに変われるのもいるよ~」

「はぁ、不思議なもんだ」


 やっぱりこの世界では俺の常識なんて通用しないものらしい。っと、驚いてばかりもいられないか、ルナマリアさんも俺の事探してるだろうし急いで合流しないと。


「ともかく本当にありがとう!」

「気にしなくて良いよ~また機会があればお話ししよう」

「ああ」

「またね~カイトくん」


 無邪気な笑顔で手を振るクロにもう一度お礼を告げ、ネックレスから伸びる黒い光を辿って広場を後にする。


 拝啓、お母様、お父様――異世界で迷子になり、助けてもらいました。子供っぽい様で大人っぽく、無知な様で博識で、掴み所がない様でスッと心に安心感をくれる。そんな――不思議な魔族と出会いました。






















 少しずつ夕日が沈む噴水広場。青年の背が見えなくなるまで見送った後で小さな魔族の後方から、静かな声が聞こえてくる。


「お迎えにあがりましたクロム様」

「ん? 準備できたの?」

「はい。『シンフォニア国王』がお待ちです」

「了解。じゃ、行こうか」


 どこからともなく現れた漆黒の甲冑騎士が告げた言葉を聞き、魔族は静かに歩きだす。


「……随分、ご機嫌ですね?」

「うん。面白そうな『ニホンジン』と会ったよ~」

「……勇者役は城に居ると聞いていましたが……」

「誤召喚じゃないかな? たぶん今回わざわざ時間があるなら城に顔だして欲しいって言って来たのは、それが原因だと思うよ」

「成程」

「まぁ、ボクとしては良い出会いがあって嬉しいけどね~」


 騎士を従え無邪気な笑顔で歩く小さな影。ベビーカステラを美味しそうに口に運ぶ姿は子供そのものであったが、静かに未来を見据えるかのような金色の瞳には――確かな威厳が宿っていた。




 





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― 新着の感想 ―
読み返してみたのですが、ベビーカステラ好きなクロが名前を間違える訳がないのでこれは異世界人を安心させるためのジョークか、仮にマジで間違えてたとしたら認識改変なりして三世界のヘビーカクテルをベビーカステ…
[一言] 今思えば機械製品を狙ったのもアリスたち幻王配下のだれかなのかな?
[良い点] 久しぶりに読み直してます。 [一言] 100000Rって書くなら100,000Rとか10万Rとか書いてくれる方が読みやすくてありがたいです。
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