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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした  作者: 灯台


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一周年記念番外編「死の魔力への挑戦中編①・果てなき壁」

中編長くなりそうなので、二つに分けます。


 神界にある神域。そこでは現在、この世界の頂点と言っても過言ではないふたりが真剣な表情で言葉を交わしていた。


「……駄目」

「……私も快人さんを手伝いたいです」

「駄目!」

「なぜですか? 私が快人さんの魔力を『爵位級』に増幅すれば、それ済む話ではないですか?」


 ことの始まりは昨日、快人がアイシスの死の魔力をなんとかするために、自身の魔力量を増やす特訓を始めようとしたことに起因する。

 クロムエイナがシャローヴァナルには見えないように、結界を張っていたのだが、どこからか聞きつけたシャローヴァナルが手伝いをしたいと申し出てきて、クロムエイナがそれを断固拒否していた。


「確かに結果としては一緒だよ。でも、結果だけじゃ駄目なの! カイトくんがアイシスのために頑張るって過程も大事なんだよ!」

「むぅ、最終的に同じ形になるのであれば問題無いと思いますが……」

「シロだって、カイトくんがお店で買ってきたお菓子より、頑張って手作りしてくれたお菓子の方が貰って嬉しいでしょ? そういうことだよ」

「……なるほど、ようやく理解できました」

「うん、それじゃあ……」

「では、『触れるだけで魔力量が増加する魔法具』を造り出して……」

「……違う、そうじゃない……」


 シャローヴァナルの動機としては、快人のためになにか力になりたいという可愛らしいものではある。しかし、ほぼ全能と言っていい彼女が、自重せずに力を貸してしまえば、それこそ快人が努力などせずとも一瞬で終了してしまう。

 過程というものを大事にするクロムエイナにとって、それは看過できない問題であり、故にシャローヴァナルの協力は断っている。


「……ですが、私もなにか快人さんの手助けをしたいです」

「う、う~ん……じゃあ、訓練に使う魔法具を作ってもらおうかな? えっと――って感じの性質を持つ魔法具があると、訓練がはかどるんだけど……」

「分かりました……出来ました」

「うん、ありがとう。じゃ、ボクはカイトくんのところに行ってくるね」


 シャローヴァナルが造り出した魔法具を受け取り、クロムエイナは手を振って去っていった。そして神域には、いまだやや不満そうなシャローヴァナルが残される。

 シャローヴァナルはそのまま少し考えたあと、ふとなにかを思い付いた様子で空中に指で円を描く。

 すると自室に居る快人が映し出され、シャローヴァナルはその快人に向かって軽く指を振った。


「……快人さんを『成長しやすくする』ぐらいならいいでしょう」


 微かに微笑みながら呟いたその言葉を、耳にした者は誰もいなかった。








 アイシスさんのために死の魔力へと挑戦することを決意した翌日、俺はちょっとだけ自分の決断を後悔していた。


「じゃあ、今日から訓練を始めるよ」

「う、うん。けど、その前にひとついい?」

「うん?」

「そ、その山のように積まれた『世界樹の果実』は?」


 そう、クロの後ろには何百個という数の世界樹の果実が積み上げられており、それが俺にいいようのない不安を与えてくる。

 恐る恐る尋ねる俺に対し、クロはニッコリと……悪魔のような微笑みを浮かべて口を開く。


「……これはカイトくんの疲労回復に使うんだよ。とりあえず『今日の分』として『500個』だね」

「今日の分!?」


 間違っても世界樹の果実を500個食べることが訓練ではないだろう。一部の魔物なんかには魔力の籠った食材を食べることで、魔力を増やすことができる種もいるらしい。うちのリンもそうだ……しかし、人族は食事で魔力を増やすことはできないと聞いたことがある。

 つまり、世界樹の果実を食べるのは魔力を増やす目的ではなく、あらゆる傷と疲労を癒すという効力の方が目的だろう。


 要約すると、俺はこれから『世界樹の果実を500個食べなければ乗り越えられない地獄の特訓』を経験するわけで……想像してたより大分キツそうだ。


「まず基本的な魔力量の増やし方を説明するね。魔力量の最大値は、魔力を使えば使うほど大きくなる。特に満タンから魔力が空っぽになるまで魔力を使って回復させると、大きく上昇するね」

「……質問いい?」

「いいよ~」

「たしか、魔力って空っぽになると『気絶』するんじゃないの?」

「うん。それだけじゃなくて、急激に魔力を消費すると頭痛や目眩なんかの症状もでるし、なにより脱力感がすごいね。だから、普通は時間をかけて少しずつ増やしていくわけなんだけど……今回それじゃ全然足りないからね! カイトくんには『何度も気絶するまで』魔力を使ってもらうよ!」


 ま、まぁ、俺もそれなりに覚悟はしてきたわけだし……何度も気絶するぐらいは許容範囲内だ。


「気絶しちゃうと、魔力がある程度回復するまで目が覚めない。けど、安心して、カイトくんが気絶したら、ボクが多少の魔力をカイトくんに補充して……『気付けの魔法』で『強制的に目覚めさせる』からね」

「う、うん?」

「で、目覚めたら世界樹の果実を食べる。世界樹の果実は魔力も回復してくれるから……また訓練が出来るよ」

「あ、はい」


 よ、要するにアレかな? 『死ねない拷問』みたいな感じなのかな?


「それで、肝心の魔力の消費方法なんだけど……シロが協力してくれて、こんな魔法具を用意したよ」

「……懐中時計?」


 クロが取り出したのは、どこにでもありそうな懐中時計だった。しかし、シロさんが作ったということは、生半可なものではないだろう。

 いったいどんなとんでも効果が……。


「この時計は、カイトくん専用の魔法具で、カイトくんが手に持っていると『10秒間に1割の魔力を消費する』っていう効果があるんだ。つまり100秒で魔力が空っぽになるよ」

「……なにその呪いの装備……」

「これなら魔力量が増えても、短い時間で全部消費できるから……とりあえず今日は『軽めに500回』気絶してみようか?」

「……ハイ」


 そっか……そうなのか……これで、軽めなんだ。明日からの俺、どうなるんだろう?

 背筋が冷たくなるような感覚に晒されつつ、俺は懐中時計を受け取る。

 そのまま10秒待ってみると……少し走ったようなだるさを感じた。


「むっ……」

「魔力を消費したね。半分を切ると辛くなってくるから、頑張ってね」

「う、うん……ぐっ、うぁ……」


 クロの言葉通り、50秒ほど経った辺りで、まるで二日酔いみたいな鈍い頭痛が襲いかかって来た。

 そしてさらに10秒経つと、吐き気がしてきた。な、なるほど、これが魔力を急激に失うって感覚か……これ、思ったよりきつい。


 頭痛と吐き気に襲われながら、それでも歯を食いしばって耐えること30秒……ついに魔力が尽きたのか、視界がブラックアウトするように闇に包まれ、俺は意識を手放した。


「……はっ!?」

「はい、じゃあ世界樹の果実食べて~」


 ……かと思ったら一瞬で目覚めさせられた。そしてクロが差し出してきた世界樹の果実を食べる。うぇぇぇ、気持ち悪くて吐きそう。


「……頭痛い……これ、頭痛は消えないの?」

「魔力の急激消費による体調不良は、世界樹の果実でも癒えるまで少し時間がかかるんだよ。どうする? 収まるまで休憩する?」

「……いや、やる。いまの一回で、どれぐらい魔力が増えたの?」

「う~ん。0.001が0.0015になったぐらいかな?」

「……先は長そうだ」


 たった0.0005の上昇と考えるべきか、先程までの1.5倍に急成長したと考えるべきか……どちらにせよ、10万倍という領域は遠い。

 が、頑張ろう……って、げぇっ!? こ、これ、頭痛さらに強くなるの!? これがあと498回……なるほど、これは地獄だ。





快人

特殊能力:感応魔法 new魔力成長率上昇 new魔力成長限界突破 new経験値倍加 new今回のお礼に創造神とデート(自動発動、一回使用で消滅)


天然神「……よし」

冥王「ちょっと、さっきの話聞いてた!? あと最後になにシレっと我欲まみれの呪い追加してるの!?」

天然神「……報酬があっても良いはずです。私も快人さんといちゃいちゃしたいんです」

冥王「……開き直りやがった……駄目だこの創造神、早くどうにかしないと……」

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― 新着の感想 ―
100秒で1回、500回は50000秒、14時間くらいか。余裕ないですねえ。
[一言] シロさんに10万倍という択が封じられてた!?
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