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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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魔王は小物でした

 比較的小さめながら手入れの行き届いた綺麗な部屋。応接室だろうか? そこで移動と食事により中断されていた俺達への説明が再開された。

「では、この世界について……少し話題にも上がりましたし、初代勇者様の話を交えて説明をしていきましょう」

 リリアさんがそう口にすると、ルナマリアさんがテーブルの上に地図らしき物を置く。
 先ず全体を見た印象としてはヨーロッパ地図を拡大した様な印象を受ける大陸の形、そして左下――地球でのスペイン辺りに白と黒の印が付いていて、そことは少し離れた大陸の中央付近が赤い丸で囲んである。

「赤く囲んであるのが、現在私達のいるシンフォニア王国です。その北側に『アルクレシア帝国』、海を挟んで南側に『ハイドラ王国』……この三つが大国と呼ばれる主な国であり『1000年程前までは』我々の知る世界の全てでした」
「……今は違うって事ですか?」
「ええ、その通りですアオイさん。この世界地図は主に人間、エルフ、ドワーフ――総称して『人族』が多く住む世界であり『人界』と呼ばれています。この他に『魔族』の住む『魔界』、『神族』の住む『神界』が存在しています」

 その言葉と共に机の上に新しく二枚の地図が置かれる。一つは今見ていた地図の倍以上の大きさでオーストラリア大陸に似た形の、地図で見ただけでもあまりにも広大だと分かる大きさの大陸。もう一つはドーナツ型とでも言えば良いのか、輪の形をした小さめの大陸の地図。

「大きな地図が魔界、小さな地図が神界です。サンドイッチの様な形を想像してもらうと分かりやすいでしょうか? 神界、人界、魔界と三つの世界が目には見えない次元の壁に隔てられ、隣り合わせに存在しており、それがこの本当の意味でのこの世界『トリニィア』の全てです」
「……なんか、凄く壮大な話になってきましたね」
「ふふふ、ええ、異世界から来られた方にとっては三つの異世界がある様に感じられるみたいですが、我々にとってこの三つの世界は各地にあるゲートで自由に行き来が出来るもので、勇者様や皆さんの住んでいた場所の様に召喚魔法陣以外では干渉できない異世界とは少し認識が違いますね」
「成程」

 世界が変われば常識は変わる。俺達にとっては異質に感じる次元の壁とやらも、実際にこの世界で生きる人達にとっては海や山とさほど変わりの無いものだと言う事らしい。
 うん、こればっかりはそう言うものだって認識するしかない気がする。

「人界の国家制度については、過去の勇者様方のお話では皆さんの居た世界に近い物と伝え聞いていますが……どうでしょう? ある想像はできますか?」
「……う~ん。王様がいて貴族がそれぞれ領地を持っていてって感じですか?」
「ええ、その認識で間違いありません」

 リリアさんの言葉に柚木さんが少し自信なさげに答える。俺もそんな感じにイメージしてたけど、間違いは無いみたいだ。ただ気になるのは、今リリアさんは『人界の国家制度については』ってわざわざ言ってたって事は、神界や魔界は違うって事だろうか? 
 そこでふとリリアさんがこちらに視線を動かしたので、柚木さんと同じ認識である事を伝えるため一度頷く。

「では、三つの世界が友好関係を結んだ経緯等は、後にお話しすることとして……まずは神界と魔界について説明します。神界は『創造神様』を頂点とした……言うならば一国のみの世界で、神族は例外なく創造神様の意を絶対の物であると認識していますね」
「創造神様は10年に1度の勇者祭以外で公にお姿を現す事はありませんので、先ずお会いする事はないでしょう。そもそも創造神様は基本的に世界に干渉はせず行く末を見守っているそうです。伝承では、太古の昔にあったといわれる魔界との大戦争以外でその絶対的な力を行使された事すらないそうです」

 リリアさんの説明にルナマリアさんが補足を加える。
 言ってみれば神界は究極の縦社会とも言えるって事だろう。で、そのトップである創造神が基本的に見守るってスタンスを崩さない……イメージ通りと言えば、正にイメージ通りだ。

「次に魔界ですね。三つの世界の内最も広大であり、最も多種多様な種族が住む世界です。魔族と一括りで呼ばれていますが、見た目一つとっても数え切れない程様々です。勇者様方は魔物と同一視されることが多いのですが、魔界においては知性が一定に満たない存在を魔物と定義しています」

 う~ん俺も正直魔族と魔物って同じ様なイメージだったけど、当人達にとっては明確な基準が有るって事なのかな? 実際見てみないと何とも言えないけど……

「魔界は分かりやすい実力主義です。力の強い存在が上に立つと言った感じですね。ただ一つ誤解無き様に言っておきますが、実力主義だからと言って魔族が凶暴だったりする訳ではありませんよ。と言うより大半の魔族は理性的で理由なく暴力を振るったり、力の弱いものを見下したりはしません。あくまで血筋ではなく個々の実力を重視する世界と言うだけですね」
「と言うよりむしろ、人族よりよっぽど温和です。私もお嬢様も何度か魔界観光に行ったことがありますが、随分と親切にして頂きました」
「ええ、是非また時間を作って訪れたいものです。そんな魔界には国という区切りは無く、6の領地に分かれています。そしてその頂点に君臨するのは6体の魔族……通称『六王』と呼ばれる方々です。『冥王様』『戦王様』『死王様』『界王様』『竜王様』『幻王様』……それぞれ何千年と言う時を生きた魔族であり、その力は世界を優に滅ぼせる程の物と言われています」

 とんでもないな六王……もうその呼び名を聞いてるだけで、若かりし頃の黒歴史ブラックヒストリーが呼び起こされる思いだけど、この世界では絶対に逆らっちゃ駄目な存在っぽい。
 けど、今の説明で気になった点が一つある。リリアさんもルナマリアさんも、魔族は基本的に温和な存在って言ってたけど、過去に人族は魔族と戦ってたんじゃなかったのかな?

「あの、質問いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「……魔族は温和と言う話しでしたが、1000年前にはその六王様? の中に魔王が居て、人界に攻めてきてたって事で良いんでしょうか?」
「う~ん。なんて言えば良いのか……かつて猛威を振るった魔王は、実は魔界では単なるゴロツキ程度の認識だったらしいんですよ」
「へ?」

 俺の質問に対し、リリアさんは困った様に苦笑しながら言葉を返してくる。ここまで割とイメージ通りだった中で飛び出した、まさかの魔王小物説……物凄い気になる。

「先に述べた様に、魔族の方々は基本的に温和です。魔界自体が広大で食料等も豊富、更に頂点である六王様達も仲が良く交流も盛んに行われている。魔界内での小競り合いこそあれど、他の世界と戦ったのは太古に神界と争った一度限りと言う話で、そもそも魔王と初代勇者様が現れるまでは魔族にとって人族と言うのは、存在は知ってるけど見たことないし、特に争う理由も無い程度の認識だったらしいです」
「まぁ、どこの世界にも平穏に暮らす事を良しとせず、野心を抱く者はいると言う事です」

 ルナマリアさんがため息交じりに補足する。1000年経っても敬われている初代勇者と違って、魔王の方の株は低い様だ。

「ええ、そこで血の気の多い魔族を集め、当時の六王様を打倒し魔界の頂点に立とうとしたのが魔王ですね。人界で言うところの山賊……いえ、反乱軍みたいなものですね。ただ魔族の全体数が凄まじく多いので、結果として魔王軍は100万を超える大軍勢となったみたいです。それでも、魔界全体からみれば小さな規模だったそうですが……」

 分母が増えればそれだけ同調者も増えるって事か……正直100万の軍勢と言われてもすぐに想像は出来ないけど、そうやって魔王は現れたらしい。じゃあ、何で六王に挑まず人界に攻めて来たんだ魔王。

「……そして魔王軍は魔界の支配権を得るため、冥王様に戦いを挑んだそうです」
「あ、先に魔界で戦争はしてたんですね」
「……それで、どうなったんですか?」

 その後人界に攻めて来たって事は負けたんだろうけど、なんかちょっと気にはなってきたので俺と柚木さんはやや食い気味に続きを求める。

「1対100万で、冥王様にものの数分で叩き伏せられたらしいです」
「……えと……」
「それは、その何と言うか……」
「……哀れみすら感じてしまう結果ですね」

 楠さんも思わず魔王に同情してしまう様な圧倒的惨敗の事実。魔王軍が弱いのか、冥王が強すぎるのか……楠さんの言葉通り、何か魔王が可哀想になってきた。てか交戦時間数分って、殆ど一発か二発で全滅してるんじゃ……

「ただ冥王様は非常にお優しい方でして、誰も殺す事はなく『元気なのは良いけど、周りに迷惑かけちゃ駄目』とだけ注意して魔王軍を解放したらしいです」

 手加減された上に、扱いが近所の悪ガキレベルぅぅぅぅ!? もうやめてあげて! 俺の中で魔王の株が大暴落してるんだけど!?

「そしてその一件で、六王様には敵わないと悟った魔王は……当時不干渉と六王様が定めていた人界へ侵略をですね」
「「「……」」」

 逃げたぁぁぁぁ!? 魔王、魔界から逃げて来たの!? もう愛着ってか、親近感湧くレベルでヘタレなんだけど魔王!? 叱られた子供が家出したみたいな感じになっちゃってるよ……
 これは、本当に……どうリアクションすればいいんだろうか?

 拝啓、お母様、お父様――魔族は理性的で温和だそうです。そして魔王は――小物でした。


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