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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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公爵様は良い人でした

 微かな震動に揺れる大きな馬車の中、初めて乗る馬車と言う乗り物に感想を抱く事も無く頭を抱える。
 ちなみに現在俺達はリリアさんの所有宅に向けて移動中であり、馬車の中には先程説明を受けていたメンバーが揃っている。
 光永君は勇者祭への参加を了承したらしく、国賓として王宮へ向かうと楠さんと柚木さんに軽く挨拶をしてから、物凄く豪華な馬車に乗っていった。俺もそっちに連れて行って欲しかった。

「……あの、カイトさん? 大丈夫ですか? 御気分が優れないようなら、休憩等を挟みますが……」
「イエ、ダイジョウブデス」
「お嬢様、ミヤマ様はきっとまだ混乱されているのでしょう」

 このメイドはいけしゃあしゃあと……原因分かってるくせに、当り前の様にとぼけてやがる。

「成程、無理もありませんね。原因を作り、ロクなお詫びも出来てない私が言える言葉ではないかもしれませんが……どうか、あまり考え込まないで下さい。私で力になれる事でしたらいくらでも言って下さい。勿論アオイさんとヒナさんも」
「はい」
「ありがとうございます」

 リリアさんの優しさが胸に突き刺さるよ。感想は一言――どうしてこうなった? リリアさんの家が女性ばかりとか、アウェー感半端じゃないよ。元の世界はおろか、こっちに召喚されてまでぼっちの俺にはハードモードすぎる環境だ。
 優しいリリアさんを疑ってたから罰があたったんだろうか? うぅ、せめてあの時見かけたもう一人の男子高校生君も一緒に来てくれてたら良かったのに……てかひょっとして、俺は彼のポジションを押しのけちゃった感じなんだろうか? 謝るから、代わってくれないかな?

 結局いくら悩もうが現実が変わる訳でも無く、30分ほどの時間をかけて馬車は目的の場所……リリアさんの家に到着する。
 明らかに一般人が住む様な大きさでは無く彼女の地位の高さをまざまざと見せつけられる様な外観。両開きの門の前には鎧に身を包んだ女性騎士の姿もあり、一種の芸術の様にすら見えてくる。

 綺麗な庭園を通過し家――屋敷と呼ぶのが正しい玄関に辿り着き、馬車から下りでリリアさんに続く。庶民の勝手なイメージとしては、扉を開くと両サイドに使用人が一列に並んでお出迎えみたいなのを想像していたけど、別にそんな光景は無く普通に廊下を進む。
 ルナマリアさんの言った通り、本当にこの屋敷には女性しかいない様ですれ違う人、掃除をしている人、全て女性ばかりで、俺は明らかに浮いている。というか、さっきからチラチラと冷たい視線をあちこちから向けられてて胃がキリキリと痛いよ!?

「……」
「お嬢様?」
「ルナ、お昼時ですし……皆さんも色々あってお疲れでしょう。先に昼食にしましょう。話は通ってますね?」
「ええ、すぐにでも用意できるかと」
「では、お願いします」

 そうリリアさんが告げ、俺達はこれはまた広い……数十人は入れるであろう広い部屋へ案内される。確かに召喚されたのは昼下がりで、午後の講義を取って無かった事もあってお腹は空いてる。楠さんと柚木さんも恐らくあの時間に帰宅していたと言う事は半日授業とかだったんだろうし、昼食はまだだと思う。
 それぞれ案内された席に着こうとすると、どこからともなくメイド服の人が現れ椅子を引いてくれる。何か俺の椅子だけちょっと雑に引かれた気がするのは、たぶん気のせいだろう。

「あ、あの、リリアさん……私、テーブルマナーとかあまり……」
「ああ、晩餐会と言う訳でも無いのですから、お気になさらず食べやすいように食べて下さい」

 不安そうな声を出す柚木さんに対し、リリアさんは優しい微笑みを浮かべる。正直俺もテーブルマナーとかは良く分からない。精々ナイフとかフォークは外側から使っていくとか、その程度の知識しかないし、実際にそんな食事を食べた事は無い。
 少しして給仕らしき女性達がテレビでしか見たことがない様な、銀色のドーム型のトレイを運んでくる。そしてそれを俺達の前に並べようとしたタイミングで、声が聞こえてくる。

「……カイトさん――そちらの男性の前に置こうとしている料理と、私の物を入れ替えて下さい」
「え? お、お嬢様?」
「聞こえませんでしたか?」
「い、いえ、しかし……」

 それは、先程までの優しく穏やかな声では無く、どこか鋭さを含む凛とした声だった。
 リリアさんの言葉を聞いて、給仕の女性は戸惑った様な表情を浮かべている。

「……誤解の無い様に言いますが、私は『お願い』してるのではありませんよ。『命令』しています……意味は、分かりますね?」
「は、はい。直ちに……」

 先程よりもさらに冷たく鋭い声を受け、給仕の女性は顔を青くした後で慌ててリリアさんの指示に従い料理の入れ替えを行う。
 そして料理が全て並べられると、リリアさんは優しい笑顔に戻り再び声をかけてくる。

「どうぞ、お召し上がりください。お口に合えば良いのですが」
「あ、はい」
「いただきます」
「失礼します」

 貴族の料理と言えばフルコースみたいなイメージがあったけど、出てきたのはパンにスープ、サラダと名前は良く分からないけどメインであろうお洒落な料理。外国版の定食みたいな感じで、非常に美味しそうだ。
 ライトノベルの異世界物等では硬いパンや塩辛いスープと異世界の料理は美味しくないと言うのが多く、実際俺もそれを想定していたのだが――美味しい。
 パンは普通に柔らかいし、スープはコンソメに似た優しい味付け、少なくとも今まで俺が食べてたコンビニの弁当とかよりはずっと美味しい。
 っと、そこでふと視線をリリアさんの方に向けると、リリアさんはどこか料理を一口食べた後で溜息を吐いていた。

「……ルナ、昼食が終わる頃に……」
「……畏まりました」

 ルナマリアさんに何か小声で指示を出した後、俺の視線に気付いたのか優しい微笑みを向けてくる。

「お味はいかがですか?」
「え? ああ、とても美味しいです」
「お口にあった様で、安心しました」

 花が咲く様な笑顔に思わず顔が赤くなる俺の近くを、何かの指示を受けたルナマリアさんが通りながら小声で話しかけてくる。

「……ミヤマ様、先程は驚かす様な事を言いましたが……まぁ、安心して頂いて大丈夫ですよ」
「え?」
「お嬢様は抜けてる所もありますが、聡明な方ですから……」

 そう言って微笑んだ後、ルナマリアさんは退室していった。なんだろう? さっき料理を入れ替えた事に関係してるのだろうか?












 昼食を終えて食後の紅茶が出された後で、何故か俺だけリリアさんに「少しだけお時間よろしいですか?」と言われ別室に連れてこられた。
 再び感想としてはただ一言――どうしてこうなった?
 現在俺の前にはずらりと並んだ女性達。メイド服の人も居れば、鎧に身を包んだ人も作業着の様なものを着た人もいる。数十人はいるだろう女性の視線は、全て俺に注がれており居心地が悪いなんてレベルじゃない。

「……概ね集まったようですね」

 何がどうなってるのか良く分からない俺の前にリリアさんが立ち、静かに……そして鋭く集まった女性達を見つめる。

「先ずは突然の招集、手間をおかけしました。こういった事は早くに言っておいた方が良いでしょうから、最低限の人数を残して集まってもらっています」

 決して声を張っている訳ではない。だけどリリアさんの声は静寂の中で響く様によく通る。美しくも凛とした横顔は、彼女の気品の高さがそのまま表れている様にさえ感じた。

「さて、本題ですが……このミヤマ・カイト様についてです。彼は確かに男性ですが、私自らが招いた大切な『お客様』です。普段そうそう招く事の無い男性に対し、対応に戸惑ってしまうのは当然でしょう。皆には苦労をかけてしまいます」
「……」

 そこまでリリアさんが告げて、俺はようやく彼女が何を言おうとしているのかを理解出来た。ルナマリアさんがリリアさんの事を聡明な方だと表現していた理由も分かった。

「ですが、ハッキリ言っておきます。男性であること……それを理由に彼が不利益を被ることを、私は許しません。この言葉の後で彼に対し、意図してそういった行いをする事は……私に剣を向けるに等しい行為だと思いなさい!」

 一切の反論を許さないと言う程に強く意思の込められた言葉、それは静かな場に正しく剣のように振り下ろされる。ああ、自分が恥ずかしい……一時でも、この人の事を悪人かもしれないとか考えてた自分が情けない。

「良いですか? 実害が有ったか否かではありません。貴女達が問題の無い範疇だと判断しても、私がそうでないと思った場合……容赦はしません。話は以上です。それぞれ仕事に戻ってください」

 リリアさんが話を終えると、集まっていた女性達はそれぞれの持ち場に戻っていき、部屋の中には俺とリリアさんだけが残る。

「これで、少しは過ごしやすくなるとは思います」
「あ、えと、ありがとうございます」
「いえ、むしろ謝罪しなくては……意図してそうなった訳ではないのですが、いつの間にか当家は男児禁制の様な空気になっておりまして、中には男性と言うだけで毛嫌いしている様な者もいるんですよ。カイトさんには、要らぬ気苦労をかけてしまい申し訳ありません」
「あ、いえ」
「やっぱり、私に男性の友人がいないのが原因でしょうかね? う~ん、淑女としての魅力が足りてないのかもしれませんね」

 先程までの正しく貴族と言った凛々しい表情では無く、どこか悪戯がばれた子供の様な苦笑を浮かべるリリアさん。
 異世界召喚で貴族は悪者等と言うのは、勝手な偏見だったと思い知った。むしろ俺の方が謝りたい気分だよ。

「……俺は、リリアさんはとても優しく魅力的な方だと思いますけどね」
「……! ふふ、ありがとうございます。さあ、アオイさんとヒナさんを待たせてしまってますし、戻りましょう」

 俺は正直気の利いた台詞を言えるほど対人経験が豊富でもない。けど、その月並みな称賛の言葉は自然と口から零れていた。
 少し驚いた様な表情を浮かべた、嬉しそうに微笑んでから歩きだすリリアさんに続いて俺も部屋を後にする。
 思い返してみれば――これが、これから過ごす1年間が、少し楽しみになってきた瞬間だったのかもしれない。

「そう言えば、結局俺の分の昼食って何かあったんですか?」
「ええ、お恥ずかしい話ですが、料理人を問い詰めてみるとカイトさんに出そうとしていた料理だけ、少し質の悪い物を使っていたそうです」
「成程……でも、たぶん俺それ食べても違いなんて分からなかったと思いますけどね」
「……私も分かりませんでしたよ」
「へ?」
「給仕の反応を見て、そんな事だろうとは思いましたが……食べてみても、美味しかったです。私に料理評論家の才能はなさそうですね」
「あはは、それは……腕の良い料理人をお雇いの様で」
「ふふふ、ええ、残念ながら私の舌が料理人の腕に追いついてない様です」

 拝啓、お母様、お父様――異世界での周囲は女性ばかりで、ぼっちには大変です。でも、お世話になる公爵様は――とても良い人でした。




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