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厄日ってやつじゃないか?



 大斧を油断なく構えるバッカスさんの姿は、まさに歴戦の強者といった雰囲気だった。しかし、俺にそんなことを気にしている余裕はない。


「いいですか、エデンさん。優しく、優しくですよ? 花を摘むように優しく……」

「承知」


 ……本当に分かってるのかな? ものすごく不安だ。

 しかし、バッカスさんの方もやる気満々なので止めても聞いてくれない……エデンさんがちゃんと加減してくれますように……。


 そんな風に諦め半分で祈りを奉げる俺の前で、バッカスさんが強く一歩踏み出す。その衝撃で地面にはヒビが入り、バッカスさんの魔力が暴風のように荒れ狂う。


「始めようか、名も知らぬ強者よ! 戦王五将が一角、鉄血のバッカス! 押して参――」


 力強い口上と共に強く地面を蹴ったバッカスさんの姿は、即座に消え去り……いつのまにか『反対側の壁にダーツの如く上半身が突き刺さっていた』……。


「ば……バッカスさあぁぁぁぁん!?」


 知覚さえ出来ない間にやられた!? だから言ったのに……エデンさんは駄目なんだって、本当に駄目なんだって……。

 しかも、これで十分すぎるほど手加減しているというのだから、本当にチートの権化みたいな方である。


 バッカスさんは気絶しているのか、壁に突き刺さったまま動かず、周囲にはどうしようもないほど気まずい沈黙が流れた。










 ……いやな、事件だった。

 あの後、エデンさんに頼みこんでバッカスさんの傷を治してもらった。まぁ、エデンさんはちゃんと手加減していたみたいで、それほど深刻なダメージはなかったみたいだが……。

 そして気絶から復活したバッカスさんにスタンプをもらい、リリアさん達を待つために闘技場の外に出た。


「……え、エデンさん。お願いします。エデンさんの力は強すぎるので、代理はこれ以後無しの方向で……あと普通に喋ってください」

「……なるほど、我が子は自分の力で頑張りたいのですね。我が子の成長、母はとても嬉しく思いますよ。しかし、心配ですね。この世界のゴミ共の手で我が子の体に傷が出来てしまっては大変です。そう、我が子の体は世界の宝……母は心配症なのですよ。ですが、ええ、我が子の成長を見守るのも母の務めですね。心配です。とても心配ですが、我が子のために我慢することにしましょう。あぁ、しかし、やはり今のままでは……そうです。我が子の身体能力を『千倍』にしましょう。魔力も増やしましょう。この世界のゴミ共など一掃できるように。そう、それがいいです! 我が子は至高なのですから、なんの価値もないゴミ共がいかなる分野でも我が子を上回るなどあってはいけない。そう、そうです! 口惜しくも、この世界のゴミ共を掃除するのは、この世界の神との約束で禁じられていますが、我が子を強くするのであれば問題はないはず。ええ、そうしましょう。私の手によって、我が子はさらなる高みに昇る……ああ、なんて素晴らしい。そうです、もっと他にも……」

「ストップ! エデンさん、ストォォォォップ!!」


 やっぱ怖ぇよこの方!? なにサラッと俺を超人類に改造しようとしてるの!? 


「お、俺はこのままで大丈夫ですから! 改造とかは……」

「ああ、そうですね。愛しき我が子は、いまの時点ですでに至高なのでしたね。申し訳ありません。母が浅はかでした。そう、その通りです! 我が子は、何者にも犯されぬ神聖な存在。いかに母とは言え、私も我が子を勝手に変えることなど許されませんね。考えてみれば、すでに『究極の奇跡』である我が子に手を加えることなど、出来るはずもありませんでした……いけませんね。そう、そうです! 愛しい我が子はそのままの自然体が、もっとも素敵で素晴らしいのです。ああ、ですが安心してください。たとえ戦う力がなくとも、母がしっかり守ってあげます。ええ、そうです、私が、母である私が、誰よりも我が子を……」

「お願いだからちょっとブレーキ踏んでくれませんか!?」


 目が濁ったハートになっているエデンさんに大慌てで呼びかける。ほんと、この方は途中で止めないと、マジで恐ろしいことになりそうな気がする。


「と、ともかく、俺はもう大丈夫なので……エデンさんは、観光に戻ってもらって……」

「分かりました。そうしましょう。我が子は次はどこに向かうのですか?」

「えっと、次はここから近い……この闘技場ですね」


 俺だってちゃんと学んでいる。ここで「リリアさん達を待ってから移動する」なんて口にすれば、間違いなく「我が子を待たせるなんて不敬だ」とか言い出しかねない。

 なのでここは素直に次の目的地を伝えて、早くエデンさんには観光に行ってもらおう。


 我ながらエデンさん対策をちゃんと考えた発言だと、そう思ったが……甘い考えだった。


「なるほど、では『母が送ってあげましょう』」

「……は?」

「さあ、行ってらっしゃい。頑張ってくるんですよ。母は、貴方の活躍を楽しみにしています」

「え? ちょっ!? なぁっ――」


 エデンさんがニッコリと最上級に美しい笑顔を浮かべると、俺の体は光に包まれ、景色が一瞬で切り替わった。

 ……そっか、そうくるか……転移させられちゃったか……どうしよう、リリアさん達と合流できない。


 有無を言わさず、先程の場所からかなり離れた位置へ転移させられた俺は、少し考える。

 下手に動くのは得策ではないだろう。ここはハミングバードで事情を説明して、こっちでリリアさん達と合流しよう。


 考えをまとめると、俺は素早くハミングバードをリリアさんに送る。

 さて、後はここで待つだけ……闘技場の中に入るとなにが起るか分からないから、ちゃんとここで待とう。


「おぉ、来たな! 待っていたぞ!!」

「……」


 なんで今日に限って、俺の予想をあざ笑うような出来事ばっかり起るの? なんで、3メートル越えの角の生えたゴリラがこっちに近付いてきてるんだけど……。

 いや、ゴリラってのは比喩じゃなくて、本当にゴリラである。黒い毛に大きな腕、歩き方までゴリラそっくり。違うのは、頭に大きな角が一本生えていることぐらいだ。


 い、いや、待て、落ち着け……見た目がそっくりだからって、ゴリラだと思うのは失礼だろう。あくまで見た目が似ているだけ……。


「俺は戦王五将の一角。『豪傑』の『コング』だ! よく来たな、異世界の小僧!!」


 名前までゴリラじゃねぇか!?


「……あ、えっと、宮間快人です。初めまして」

「おお! ここに来たってことは、バッカスを倒したのか、枯れ枝みてぇな貧相な体のくせして、やるじゃねぇか!」

「あ、いや、バッカスさんを倒したのは……」

「次は俺に挑戦ってことか! いいぜ、さっそく始めようじゃねぇか! 言っとくが、俺はバッカスみたいに甘くはねぇぞ!!」

「い、いや、俺は人を待って……」

「さあ、ついてこい! こっちだ!!」


 このゴリラ、全然こっちの話聞いてくれないんだけど!? 会話のキャッチボールがまったく成立しない!?


 ゴリラ……もとい、コングさんにひょいっと担がれ、俺は強制的に闘技場へ連行された。








 闘技場に入ると、コングさんは俺を降ろし両手で自分の胸を叩きながら口を開く……ドラミングって……もはや紛うこと無きゴリラである。


「よぉし! 始めようぜ! 安心しろ、お前が弱っちいのは分かってるから、ハンデは付けてやる! 代理を立てるなら、それもかまわねぇぞ!! さぁ、準備しろ!!」

「……」


 いや、だから、その代理になってくれそうな人たちを待っていたんですが……貴方に強制連行されたんですが……。


 し、しかし、どうしよう? エデンさんを呼ぶわけにはいかない。エデンさんは俺にはともかく、この世界の住人に対しては本当に容赦がない。というかゴミだって言ってるし、バッカスさんの時はちゃんと手加減してくれたけど、今度もそうしてくれるかはわからない。

 なので、他の代理を頼みたいところだが……ど、どうしよう。だ、誰か、来てくれ!


「……粗暴で野蛮。だから戦王配下は嫌いです。知性も品格もないゴリラが、ミヤマ様に無礼な口を聞いていいとでも思っているんですか?」

「……ぱ、パンドラさん?」

「ミヤマ様、お任せください。この無礼者は、ミヤマ様の『代理』として、私が対処します」

「え? い、いや、でも、パンドラさんは……」

「ご心配には及びません、シャルティア様の配慮により、私は『ミヤマ様の同行者』としてバッジも所持しています」


 ……お~い、アリス? なに俺の知らないところで同行者増やしてるの? あと直感だけど、パンドラさん結構ヤバい人だよね?


「ああ、ご安心を。ミヤマ様に無礼を働いた者を、簡単に気絶させたりはしません。しっかり『生まれたことを後悔させて』から、二度とミヤマ様に無礼な口がきけぬよう、教育します」

「……」

「枯れるほど、悲鳴を上げさせてきますね」


 ……なんで、エデンさんに続いて、こんなヤバそうな方が……リリアさんじゃないけど、胃が痛くなってきた気がする。


 拝啓、母さん、父さん――ヤバいエデンさんをなんとか説得したと思ったら、今度はエデンさんとは別のベクトルでヤバい方が救援に来たんだけど……本当に今日の俺、どうなってるの? これ、もしかして――厄日ってやつじゃないか?





~ドキッ! ヤンデレだらけの救援~


エデンママン:一瞬で消滅させる系

パンドラ:拷問する系


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― 新着の感想 ―
[一言] エデンママ基本一瞬で終わらせてくれるあたりが上位存在側としては良心的
[一言] バカスダイィィィィィィィィィンンッ!!?
[一言] 極の端しか居ねぇ…( ̄▽ ̄;)
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