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『対峙』



 快人が進むための道を切り開く、目的が明確になると比例して行動も早くなる。

 欠片も疲労を感じさせない強い足取りでノインが駆け、ラグナもそれに素早く並んで魔族の壁に向かう。


「……懐かしいのぅ、いつ以来の連携じゃ?」

「さあ、ブランクがあるなら休んでいても構いませんよ?」

「ぬかせ!」


 短く言葉を交わした後、ラグナが急加速しながら手に持った大槍を突き出す。


「ほれ、ヒカリ! アレでゆくぞ……トライデント!」


 ラグナが叫びながら地面に槍を突き刺すと、三つの巨大な水柱が上がり、それがまるで槍のように渦巻きながら敵に向かう。

 陸の津波とでも言えるその一撃は、大量の魔族を飲み込むと、三つ合わさり巨大な渦へと変わって魔族達を閉じ込める。


 それを見るよりも早く、ノインは一度足を止め、空中に大量の日本刀を出現させ、居合いの構えを取る。

 すると宙に浮かぶ刀もノインの動きに連動して動き、その全てから同時に斬撃が放たれる。


「一閃百刃……百花!」


 放たれた百の斬撃は、大渦を一瞬で切り裂き大量の魔族の意識を刈り取る。もっとも殺害する気などあるわけもなく、魔力斬撃はすべて加減したものだったが……。


「まったく、打ち合わせもなく……合わせる方の身にもなってください」

「ははは、これもお主への信頼ゆえよ!」


 それなりに多くの魔族の意識を奪うことには成功したが、それでも実力のあるものは渦を脱出しており、ラグナとノインは即座に武器を構えて応戦する。







 ノイン達以外の場所でも、駆け付けた面々が戦闘を開始していた。


「ルナッ!」

「……特別手当出して下さいよ。コレ、高い上に使い捨てなんですから……ね!」


 隊列を組みながら迫る魔族を見てリリアが叫ぶと、その意図を察したルナマリアが、懐から数枚のカードを取り出し魔族達に向けて投擲する。

 投げられたカードは、ルナマリアが指を鳴らすとクモの巣のような形状の魔力糸へと変わり、向かってきていた魔族達を絡め取っていく。


「ジーク!」

「ええ、ちゃんと加減して下さいよ。リリ」


 魔族達の動きが止まったのを確認すると、リリアは足元に巨大な魔法陣を浮かべて魔法を発動させる。

 リリアが放った魔法は、荒れ狂う竜巻を生み出し足が止まっていた魔族達を飲み込む。そして、ジークリンデが炎剣を地面に突き立てると、それは炎の竜巻へと変化する。


「……ジークの方こそ、殺しちゃ駄目ですからね?」

「大丈夫です。ちゃんと弱火です」

「ちょっと、お二方……私、軽く巻き込まれてるんですが? エプロン少し焦げました!? コレちゃんと経費で落ちますよね!?」


 親友同士であり、共に戦ってきた戦友でもあるリリア、ジーク、ルナマリアの連携は慣れたもので、三人で力を合わせながら着実に魔族の数を削っていた。







「ガァァァァ!」


 雄叫びをあげながら切り込み、強大な腕力を振るうアニマは、まるで主の敵は全て排除する重戦車のようだった。

 防御されれば防御ごと打ち崩し、強靭な防御力で敵の攻撃を意に介さず攻め続ける。

 まさに解き放たれた野生の獣。その重く鋭い一撃は爵位級の魔族とて容易に受けることはできず、ドンドン道が切り開かれていく。


 無論敵とて馬鹿ではない。アニマのパワーを前に正面から戦うのが得策ではないと判断し、アニマの弱点である機動力を突く為に回り込もうとする。

 しかし、それをイータとシータが見逃さない。


 迫りくる攻撃をシータが大盾で防ぎ、その隙にイータが槍で薙ぎ払う。


 平時は性格の違いからかよく喧嘩をする二人だが、こと戦闘になると双子である二人のコンビネーションは美しいほどに噛み合う。

 互いに実力を信頼し合っているからこそ、イータは全力で攻撃のみに専念し、シータは全霊で防御のみを遂行する。


 攻撃と防御を完全に分担して戦う二人は、個々の実力以上の力を発揮し、格上であるはずの男爵級高位魔族すらも打ち破っていく。


 三者三様の戦い方ながら、三人の心は一つ……敬愛する主人のために道を切り開く。







 派手な戦闘を繰り広げながら正面から突き進んでくる光景。それを目撃すれば『戦闘を行っていない一人』から、つい目が逸れてしまうのも仕方ないことだろう。

 戦闘の隙間を縫うように少しずつ、しかし着実に快人は結界の壁に向けて足を進めていた。


 それほど運動神経が優れるわけではない快人だが、陽菜に付き合って定期的に走っていることも功を奏し、からり順調に歩を進めることができていた。

 しかし当然全ての魔族の目を欺くことは不可能であり、時折快人に気付いた魔族が阻止しようと近付いてくるが……それは後方より飛来する矢によって阻止される。


「カイトクンさんの邪魔はさせないですよ!」


 弓の名手であるラズリアが快人に迫る者達を牽制し……。


「おっと、俺らも……」

「忘れてもらっちゃ困るんだよ!」


 そこにアハトとエヴァルがフォローに入ることで、快人はどんどん結界の壁に向けて進んでいく。


 戦力がある程度拮抗していたのは少し前までの話であり、いまや完全にパワーバランスは快人達に傾いている。

 なればこそ、この快進撃は必然と言えるものだった。


「もう、少し……」

「い、いかん!? 誰か、ミヤマ殿を……」

「よそ見している暇が、あるのか?」

「ぐぉっ!?」


 快人が間も無く結界の壁に到達する。それに気付いたゼクスが慌てて指示を出そうとするが、シアがそれを許すことはなく、大鎌でゼクスを殴り飛ばす。

 同時に他の5体の伯爵級高位魔族をも牽制し、快人の元へ辿り着けないように圧をかける。


 こうなってしまえば、もはや快人を止める術はない。快人はついに結界の壁のすぐ傍まで辿り着き、一度振り返って手を伸ばす。


「ノインさん!」

「はい! ラグナ、後を頼みます!」

「任せておけ!」


 呼ばれたノインはその場をラグナに任せると、すぐに快人に駆け寄り差し出された手をしっかりと握る。

 ノインと手を繋ぎ、残るもう一方の手を結界の壁に向けて伸ばす。

 快人が結界に触れると、結界は『快人と快人に触れている存在』を阻むことはなく、薄い水のベールをくぐり抜けるような感覚の後、快人とノインは結界の外へと脱出した。

 

 結界を抜けるとそこは、教会の扉のすぐ傍であり、快人とノインは一度足を止めてから顔を見合わせ、頷き合ってから教会の扉に手をかける。

 木造りの大きな扉が、擦れるような音と共に開く。


 快人とノインが目指すフィーア……彼女は、祭壇の前に居た。

 ステンドグラスから差し込む何色もの光を受けながら、フィーアはゆっくりと訪れた二人に向かって振り返る。


 光を背に受けて祭壇に立つその姿は威厳に満ちており、薄く微笑み浮かんだ表情は妖艶にすら感じられる。


「……いらっしゃい、二人共。ふふふ、なんかこうしてると、魔王時代を思い出しちゃうね」

「……」

「……」

「来てくれてありがとう。本当に嬉しいよ……でも、ごめんね。きっと、君たちの気持ちには応えられない」


 悲しげに微笑むフィーアは、快人達がなんの目的でここに来たのか、全て分かっていた。

 分かった上で……彼女はそれを拒絶しようとしていた。


「だから……帰ってくれるかな?」





光のさしこむ教会で、カッコイイBGMと共に表れるフィーア。ラズボスじゃないけどラスボス感ありますね。ラズボスじゃないですけど……


長いシリアスだったフィーア編ももうすぐ終わり、そこからはゲロ甘の六王祭……というなの六連続デートです。

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