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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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『WHITE JOKER』



 俺とノインさんを見つめながらも、フィーア先生の表情に焦りは欠片も見えない。
 その余裕すら感じる姿からは、フィーア先生の「自分の返答は変わらない」という意思のようなものが感じられた。

 そんなフィーア先生は、俺とノインさんを交互に見た後、穏やかな微笑みを浮かべつつ口を開く。

「……懐かしい格好だねヒカリ。うん、やっぱりヒカリは、髪が短い方が似合ってるよ」
「ありがとうございます。懐かしいという意味では、私も同感です……こうして貴女と向かい合っていると、かつてあいまみえた時のことを思い出します」
「うん。そうだね……どうする? 今回も、昔みたいに戦ってみる?」
「いえ、生憎といまの私は『勇者』として貴女を倒しに来たわけではありません。『友人』として、貴女を説得しにきました」

 それは一見穏やかな会話に感じられた。しかし、ノインさんもフィーアさんも互いを真剣な表情で見つめ合ったまま、決して視線は逸らさない。
 かつて勇者と魔王が対峙した時とは違う意味で、違う形式かもしれないが……二人の戦いは既に始まっているのだと、そんな気がした。

 その光景を俺は口を挟まずに見続ける。いま、ここで俺が割って入るわけにはいかない。
 いま言葉を交わしているのは当事者同士、ここに部外者である俺が加わっても会話を乱れさせるだけ……ノインさんがフィーア先生を説得できるなら、それが一番良い結果だろう。
 ただ、そうならなかった場合には……当事者同士だからこそ、相手の苦しみを知っているからこそ、ノインさんが押しきれなければ……俺も話に加わるつもりだ。

 だからいまは、二人の会話を聞き逃さないように見つめ続ける。

「……嬉しいよ。私にとっても、ヒカリはすごく大事な友人だからね……でも、一体なにを説得するのかな?」
「単刀直入に言います。クロム様と会ってください」
「なら、私も簡潔に答えるよ。それは出来ない」
「でも、貴女自身はクロム様に会うことを望んでいる。違いますか?」
「違わないね……そこを隠すつもりはないよ。私はクロム様に会いたい、もう一度会って話がしたい……でも、それは出来ないんだよ」

 『会いたくない』ではなく『会えない』……フィーア先生がそう答えることは、当然ノインさんだって分かっており、特に動揺することもなく会話を続ける。

「……フィーア、貴女はいったいいつまで、そうやって苦しみ続けるつもりなんですか? もう、いいじゃないですか……貴女がこの1000年、どれだけ苦しみ、どれだけ贖罪を続けてきたか……私は痛いほど分かっています」
「……」
「多くの人の命を助け、危険な魔物が発生すれば暇を見つけて人知れず駆除し、医者として稼いだ金銭の大半を寄付する。不治の病と呼ばれた病気に対しても、積極的に関わりいくつもの新しい治療法を生み出し、それを知り合いの医者を通じて惜しむことなく広める。称賛されることを良しとせず、ずっと己を責め続け……そんなことを、いつまで続けるつもりなんですか?」
「……終わりなんてないよ。私がしてる贖罪は、ただの自己満足……終わることなんて永遠にない」
「……もう、貴女は許されてもいいはずです。貴女がいったいなにをしたんですか? 貴女は魔王と呼ばれた時も、戦う力なき者は傷つけず、戦った者でさえ誰も殺さなかった」
「……」

 それはきっと、ノインさんがずっと思っていたことなんだろう。
 フィーア先生は誰も殺さなかった。だけど、フィーア先生が配下に加えていた魔族達はそうじゃなかった。
 アリスが言っていたようにフィーア先生にも御し切れなかったという責任はあるだろう。だけど、ノインさんの主張通り……確かに、彼女は血も涙もない魔王ではない。
 だけど、それでも、フィーア先生は……きっと自分を最低の存在だと語るだろう。

「……それなのに、なぜ貴女は許されないのですか? なんで、幸せに笑うことすら……」
「……決まってるよ。他の誰が許したとしても……『私が私自身を許せない』……私は許されちゃいけない。愚かな罪を犯し、大切な方を傷つけた私に……『幸せになる資格なんてない』」

 苦々しげに告げるノインさんの言葉に、フィーア先生はバッサリと答えるが……なんだろう? なんか少し腹が立ってきた。

「どうして、そんなことを言うんですか……貴女にだって、願いを叶える権利はあるはずです! クロム様に会いたい……なら、会えばいいじゃないですか!!」
「会えないって言ってるんだよ! もう、私はクロム様に顔向けなんて出来ない……そんな資格は私には無いんだ!」
「この分からず――「ふざけるなっ!」――へ? か、カイトさん?」
「……ミヤマくん?」

 気が付いた時には、思わず叫んでいた。
 話に加わるつもりはなかった。当事者同士で話すのが一番良いと思って、傍観していた……でも、クロの名前が出て、自分の心にある『怒り』という感情を押さえ切れなかった。

 驚いた様子でこちらを向くフィーア先生を睨みつける。

「……なんですかそれ……なんで、過去に罪を犯した者は幸せになっちゃいけないみたいな、わけのわからないことを言ってるんですか!」
「え? な、なにを……」
「フィーア先生が過去の罪を償うことに関して、俺はなにも言うつもりはありません。フィーア先生が、満足いくまで償えばいい、納得できるまで続ければいい。それに関して、当事者でもない俺はなにも口を挟む気はありません……だけど! 『いまの貴女』が幸せになるのに資格なんてものが必要なわけないでしょう!」
「み、ミヤマくん……だから、私は……」
「……ただ『クロと会うのが怖い』だけだろ……」
「なっ!?」

 つい興奮して敬語が崩れた俺の言葉を聞き、フィーア先生は今日初めて明確に動揺した表情を浮かべる。

「クロと再会して、それでもし、クロが自分を許してくれなかったらって……貴女は! それが怖くて、クロに合わせる顔が無いなんて言いわけを並べて逃げてるだ!」
「……ち、違っ、私は……」
「……本当にクロが大切で、迷惑をかけたって思ってるんだったら……なんで直接会って謝ろうとしない?」
「ッ!?」

 ここまで俺が聞いた話だと、フィーア先生はクロに会わないままクロの元を去ったと聞いた。
 クロに許される自分が許せないと、そう言っていたらしいが……俺は本当の理由は別だと思っている。
 それは、クロが俺に対して溢した……会いたいけど、フィーア先生の方が会いたがってないかもしれないと、寂しそうに告げた言葉……きっと、フィーア先生も同じだったんだろう。

「もしかしたら、クロに嫌われてしまってるかもしれない。そんな考えが頭にあって、結局今まで会えないままだったんじゃないですか?」
「そ……れは……」
「貴女は……大好きだと、母親だと言ったクロを……自分自身が逃げるための言いわけに使ってるんじゃないんですか?」
「……」

 どうやら俺の考えは決して的外れなものではないみたいで、フィーア先生は動揺した表情で後ずさる。
 たぶん、当たりだ……この人はクロに会いたい。ちゃんとクロに謝って許してもらいたいと思う反面、もし、クロに拒絶されたらどうしようと、そんな考えが浮かんで踏み出せずにいるんだ。
 少なくとも多少なりとも自覚が無ければ、ここまで動揺したりはしないだろう。

「……やっぱり、そうなんですね? 貴女はクロに会えないんじゃなくて……会うのが怖い。でも、同時にクロと会って、許してもらいたいって、そう思ってるんですね?」
「……ち、違う……違う……私は……」

 否定するように首を横に振るフィーア先生だが、その声は非常に弱々しい。
 でも、良かった……フィーア先生は幸せになんてなりたくない、救われたくないなんて思ってるわけじゃない。
 かつての俺と同じで救ってほしい、手を差し伸べて欲しいと願いながらも、それを自分で拒絶してしまっていただけなんだ。

「……フィーア先生。クロと会ってください」
「い、や……いやだ! 私は、クロム様とは……会わない!」
「……フィーア」
「いやだ! 会いたくない……だって、クロム様に拒絶されたら……私はもぅ……」

 先程まであったフィーア先生の余裕は完全に崩れ、俺とノインさんの呼びかけに対し、まるで駄々をこねる子供のように首を振る。
 もう、ここまでくると意地のようなものだろう。会いたいけど会いたくないか……。

「……残念ですけど、フィーア先生。もう、俺は決めました。手段は選びません。貴女がなんと言おうが知ったことじゃない。嫌ってくれて構いません、軽蔑してくれていい……『力づくで』でも、貴女をクロの前に連れていく」
「い、行かない! 私は……」

 会いたくないと叫ぶフィーア先生だが、もはや俺にとっては関係ない。
 クロは俺に言った「フィーアに会いたい」と……なら、俺はクロの願いを叶える。いや、もしかしたらそれもただの言いわけなのかもしれない。

「し、しかし、どうするんですか、カイトさん? ああなると、簡単に動いてはくれません。それに力づくとは言っても……フィーアは相当強いですよ? 本気で抵抗されれば……」
「ノインさん、俺はいま言いましたよ……手段は選ばないって……『切り札』を使います」
「……その『羽根』は……切り札とはいったい……」

 ノインさんの言葉に静かに答えながら、俺は懐から一枚の純白の羽根を取り出す。

「……俺は、フィーア先生とクロを再会させたい。クロの願いを……いや、俺自身が納得できない。そう、これは俺の我儘……だから、それを叶えるために……」

 自分自身に言い聞かせるように呟きながら、俺は手に持った羽根を放り投げる。
 ヒラヒラと重力に従って落下する羽根を見つめ、キーとなる言葉を口にする。

「力を貸して下さい『エデンさん』!」

 瞬間、教会の内部に白銀の風が吹き荒れ、巨大な球体状になった十対二十枚の羽が現れる。
 そして一枚一枚翼が開かれていき、圧倒的な魔力を放ちながら、異界の神が降臨した。

「……委細、承知」



Q、なぜゼクス達との戦いで切り札使わなかったの?
A、『味方も含めて』薙ぎ倒す未来しか見えなかったから。
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