バレンタイン番外編~ハッピーバレンタインVerジーク~
本日十七話目です。
木の月14日目。今日はバレンタインである。
まぁ、とは言っても、特に俺の行動がなにか変化するわけでもなく、日課のベルのブラッシングを行ってから、のんびりとベルにもたれかかって空を眺めていた。
すると、微かな足音が聞こえてきて、空に向けていた視線を動かすと……こちらに向かって歩いて来ているジークさんが見えた。
「こんにちは、カイトさん」
「こんにちは」
「今日はいい天気ですね」
「ええ、雲一つなくて綺麗ですね~」
穏やかに微笑むジークさんと、他愛のない言葉を交わしながら、自然と俺も微笑む。
雰囲気というのか、こうして話しているとホッと落ち着くのがジークさんの魅力だよなぁ……。
そんなことを考えていると、ジークさんは自然な動きで俺の隣に座り、マジックボックスからなにかを取り出す。
「カイトさん、今日はバレンタインなので、私もチョコレートを用意してきました。お口に合うといいのですが……」
「ありがとうございます。凄く嬉しいです……あれ? 温かい?」
バレンタインのチョコレートを手渡してくれるジークさんに、心からのお礼を伝えて小さめの箱を受け取ると……その箱は何故か温かかった。
個人的にチョコレートは冷蔵庫で冷やして完成させるみたいなイメージがあったが……温かいチョコ……うん? もしかして……。
ふとあるものが思い浮かんだ俺は、ジークさんに断りを入れてから箱を開く。
すると中には俺の予想どうり、カップケーキに似たチョコレートが入っていた。
「中身は、フォンダンショコラです」
「うわっ、俺これ好きなんですよ。ありがとうございます!」
なにを隠そう、俺はチョコレートの中では、ザッハトルテとフォンダンショコラがツートップで好きだ。
なんだろうケーキっぽい食感の方が好きなのかもしれない。ともかく、フォンダンショコラはあまり食べる機会が無かったが、とても好きでまた食べたいと思っていたし、これは本当に嬉しい。
「味は……たぶん、美味しいと思います」
「ジークさんの腕は信頼してますから……さっそく食べてみてもいいですか?」
「ええ、そう言うと思って……スプーンも持ってきています」
「流石、ジークさん……いただきます」
スプーンをフォンダンショコラに刺すと、トロリとチョコレートが零れ、それを生地に馴染ませつつ口に入れる。
温かく柔らかな生地、熱すぎず丁度いい温度のチョコレート……ふわりと口の中に広がっていくような甘さ。
さすがジークさんというべきか……本当に、凄く、美味しい。
フォンダンショコラは以前にも何度か食べたことがあるが、今まで食べたどれよりもおいしく感じるのは、なによりもジークさんが俺のために作ってくれたからだろう。
体だけじゃなくて心まで温めてくれるような、そんな味をしっかりと味わいつつ、ジークさんに微笑む。
「すごく美味しいです。本当に、手が止まらないです」
「ふふふ、慌てなくても、無くなったりしませんよ」
夢中でスプーンを動かす俺を見ながら、ジークさんは優しく微笑む。
その笑顔のおかげで一層味も美味しく感じ、あぁ、幸せだなぁ……と、そんな風に感じた。
するとそのタイミングで、ジークさんがなにかに気付いたように少し目を開く。
「……おや? カイトさん、慌てて食べ過ぎですよ。チョコレートが付いてしまってますよ」
「え? ど、どこ?」
「あっ、そこじゃないです……えっと」
「……え?」
「……ここ……です」
チョコレートが口の周りに付いていると教えられ、軽く手で拭ってみたが、ジークさんはそこではないと言って、なぜか俺の肩に手を置き顔を近づけてきた。
そして……蕩けるような甘い声で囁いた後、俺の唇の横をペロッと一舐め……えぇぇぇ!?
「はい。とれましたよ」
「な、なな、じ、ジークさん? いきなり、なにを……」
まさか、いつも穏やかで半歩後ろを歩くというか……そっと寄り添ってくれるタイプのジークさんが、こんな積極的なことをしたのはすごく意外で、自分でも分かりやすいほど動揺してしまう。
顔はどんどん熱くなるし、なんだかジークさんがいつも以上に綺麗で色っぽく見える。
そんな真っ赤な顔で慌てている俺を見て、ジークさんはくすっと小さく妖艶に微笑み、もう一度顔を近づけてくる。
今度は俺の唇の横にチョコは無い……つまりそれは、ジークさんの方から……
「……カイトさん」
「じ、ジークさん?」
「……バレンタインのプレゼントに……一つ……おまけです」
「んっ!?」
優しく囁くような言葉を紡いだ、小さく艶のある唇が……静かに俺に重ねられ、ジークさんの体温をダイレクトに伝えてきた。
そしてそのまま、ジークさんは数秒俺に唇を重ねてから、ゆっくりと離れ……またいつものような穏やかな笑顔を浮かべる。
「……ふふ、私だって、たまには……積極的になることも……あるんですよ?」
そう言って俺の目の前で首を少し傾けるジークさんは、天使かと思うほど美しく……自然と俺の体は、いま離れたばかりのジークさんの体に引き寄せられる、
頭に熱が集まり、欲望に忠実に動きながら近付く俺を……ジークさんはなにも言わず、両手を広げて迎え入れてくれた。
追加の甘いジークさんです。
とりあえず今日はここまでで……明日辺りに、リリアとアリス、明後日から本編再開で……。
か、感想返信はもうちょっと待って下さい……かなり溜ってますが、休日とか使って必ず全部返信するので。




