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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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バレンタイン番外編~ハッピーバレンタインVerリリア~


 木の月14日目……シンフォニア王国公爵、リリア・アルベルトは、現在一件の家の前で真剣な表情でたたずんでいた。
 目的はもちろん、恋人である快人へチョコレートを渡すこと。

 ここに来るまでは、リリアにとって本当に長い道のりだった。
 いや、物理的な話で言えば、快人の家はリリアの屋敷の隣なので徒歩1分程だが……そういうことではなく、精神的な面だった。

 彼女はジークリンデの教えを請うて、必死にチョコレートを作り上げた。
 しかし、残念ながら短い時間でリリアの壊滅的な料理の腕が上達する訳もない。正直言って、出来は良いとは言えないだろうが……愛情はたっぷりと込めたつもりだった。
 だからこそ、きっと快人は喜んでくれるとそんな自信がリリアにはあった……が、世の中そう簡単な問題ではない。

 ここで顔を出してしまったのが、リリアの奥手な部分……彼女にしてみれば、バレンタインに家族以外の男性へチョコレートを送るのは初めてであり、しかもこのチョコレートは紛うこと無き本命チョコ。
 いくら快人と既に恋人同士だとしても、いくら快人が優しいと知っているとしても……リリアの性格上、いざ渡す段階になるととんでもなく緊張してしまった。

 そのおかげで通常徒歩1分の距離を、30分かけて移動するという、情けなさこの上ない牛歩行進となってしまった。
 途中で何度か引き返しかけながらも、必死に奮起して辿り着いた。しかし、ここでさらなる難関がリリアの前に立ちふさがる。

「……よ、呼び鈴を押す……押したら、カイトさんが出てくる……出てきたら、チョコレートを渡す」

 まるで己に言い聞かせるように呟くリリアの前には、快人の家の呼び鈴があった。
 魔法具であるそれは、軽くならせば確実に快人に音が聞こえ来訪を知らせてくれる。さらに、現在快人の従者であるアニマ達が出かけているのは確認済み。

 多くの従者を雇うということをしない快人の家には、従者はアニマ、イータ、シータの三人しかいない。そしてその三人は外出中……つまりいま、家の中に快人は一人。
 リリアにとってはこれ以上ない好条件。後は呼び鈴を押すだけ……。

「……や、やっぱり、また後にした方が……」

 しかし恋愛関係にはとことんヘタレなリリアは、もう恋人同士になって数年経ち、肉体関係を持った今でもこの手のことは恥ずかしくて仕方が無かった。
 まぁ、そもそも、リリアは去年も一昨年も快人にチョコレートを贈ろうと……その時は市販品だったが用意していた。しかし、いざその日になると勇気が出ず、ズルズルと引き伸ばしたあげく渡せずにいた。

 なので今年は自作することで、教わったジークリンデにもチョコレートを作っているということをあえて知らせ、退路を断ったつもりだった……しかし、ふたを開けてみればこのヘタレ具合である。
 尤も快人は、リリアのそんなところが可愛いと褒めてはいたが……。

「い、いや、駄目です。いま、渡さないと……よ、よし!」

 踵を返そうとしたリリアは、なんとか途中で踏みとどまり、大きく深呼吸をしてから呼び鈴に手を伸ばし……すぐに引っ込めた。

「……あ、あれ、手が震えて……お、落ち着かないと……」

 緊張から手が震えて引っ込めてしまったリリアは、もう一度大きく深呼吸をしてから……落ち着きなくウロウロし始めた。
 その姿は、彼女の部下には見せられないほど、情けないものだった。
 しかし、リリアには一つだけ大きな誤算……緊張のあまり、忘れていることがあった。それは……。









「……どうしよう? 声、かけた方がいいのかな?」

 現在、俺の家の前に居るリリアさん……なにをしてるのか分からないが、先程から扉の前を行ったり来たりしているのを『感応魔法』が感じ取っており、どうしたものかと悩んでいた。
 俺に用事があるんだろうか? それにしては、いつまで待っても呼び鈴を鳴らす気配が無い。

 リリアさんがこういう状態になる時は、大抵恥ずかしがってる時だってのは長い付き合いだから分かってるけど……その原因はなんだろう?

 そこまで考えたところで、ふと今日がなんの日か思い出した。
 そうか、今日はバレンタインか……分かってきたぞ。リリアさんはたぶん、俺にチョコレートを作ってきてくれたんだろう。
 去年も一昨年もそんな動きが無かったから、てっきりリリアさんはバレンタインに興味が無いのかと思っていたけど……もしかして、ずっと決心がつかなかったとか、そういうことなんだろうか?

 リリアさんは付き合って数年経ついまでも、初々しいところがあるというか……恥じらいを忘れない。
 その点に不満は一切無い、というか滅茶苦茶可愛い。いまだにキスするだけで、顔を真っ赤にしてアワアワするので、反射的に押し倒してしまうほど可愛い。

 まぁ、ただ、このまま放っておくと、日が暮れても呼び鈴はなりそうにないので……俺は決意を固めて、偶然を装いながら扉を開ける。

「ひゃわっ!?」
「え? あれ? リリアさん……いらっしゃってたんですか? すみません、驚かせちゃいましたね」
「い、いい、いえ、わ、私は、べ、別に30分前から居たとかじゃ……」

 リリアさん……誤魔化すのが下手過ぎる。そんな馬鹿正直に30分前から待機してましたなんて言われたら、反応に困るじゃないか……。
 と、とりあえずその発言は無視することにして。

「立ち話もアレですし、どうぞ、入ってください」
「は、はい! し、しつれいしまちゅ!」
「……」

 ……噛んだ。超可愛い。
 今すぐ抱きしめたい気持ちでいっぱいになったが、それをグッと我慢して、リリアさんを俺の部屋に案内する。
 なぜ応接室や食堂ではなく俺の部屋かというと、目的が分かっているので……アニマ達が買い物から帰って来た時に、遭遇してしまいそうな場所を避けるためだ。

 部屋に案内して、リリアさんをソファーに座らせてから、紅茶を淹れる。
 それをソファーの前のテーブルに置いてから、リリアさんと向かい合うように座る。

「今日は、遊びに来てくれたんですか?」
「そ、そうでもありますし、別の目的もあります」
「別の目的? ですか?」
「は、はい! えっと、えっと……その……こ、これを……」
「これは、もしかして……」
「は、はい……ば、バレンタインの贈り物……です。そ、その、お、美味しくなかったらごめんなさい。ジーク教わって、作ってみたんですが……」
「わざわざ、俺のために……ありがとうございます、リリアさん。凄く、嬉しいです」

 リリアさんがプルプルと震えながら差し出してきた箱を受け取る。
 バレンタインチョコだとは予想していたが、まさかリリアさんの手作りだったとは……うん、嬉しい。大丈夫、ちゃんと味への不安より、嬉しさの方が勝ってる。笑顔で受け取れたはずだ。

 し、しかし、リリアさんの手作りか……う、う~ん。ジークさんが監修してるんだし、大丈夫だとは思うけど……ちょっとだけ、不安かな。

 リリアさんの料理という言葉に、いままでの経験から少し不安を感じつつ、リリアさんに断りを入れてから箱を開くと……うん? なんだこれ?
 中に入っていたのはハート形のチョコレートで、見た目はかなり良かったが……問題はその上に描いてある絵。なんだろうこれ? 『踏み潰されたカエル』に見えるけど、まさかそんなわけ無いよな?
 ど、どうする!? ここで下手なリアクションをとれば、リリアさんを傷つけてしまう。考えろ、考えるんだ……コレ上手く切り返す一手を……。

「……カイトさん?」
「あ、いえ、あまりに綺麗な出来で見とれてしまいました。こ、この上に描いてある絵がいいですね!」
「あ、ありがとうございます! 喜んで貰えて嬉しいです。やっぱり、私らしくといえば『ドラゴン』なので、それを描いてみました。茶色の鱗の『グラウンドドラゴン』です!」
「あ、え? あぁ! ですよね! そうだと思いました!! いや~凄くその、味がある感じで良いですね!!」
「そ、そんなに褒めないでください……は、恥ずかしいです」

 ど、ドラゴンか~な、なるほど、そうきたか……。下手なクイズより難しいぞこれ。
 しかし、なんとか上手く合わせることができたみたいで、リリアさんは恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべている。

 そんなリリアさんを見て冷や汗が流れるのを感じていると、ふとリリアさんの手に巻かれている包帯に気が付いた。

「り、リリアさん! 手、どうしたんですか? まさか、怪我を……」
「あっ、い、いえ、これは、その……チョコレートを作っている時に……ジークに身体強化魔法を禁止されまして、それで包丁でちょっと切ってしまったんです」
「だ、大丈夫なんですか!?」
「え、ええ……『包丁は折れました』けど、私は軽傷です」
「……」

 おっと、幻聴かな? なんか、身体強化魔法をオフにした状態で、包丁がリリアさんの強度に負けて折れたとか聞こえたけど、気のせいだろう。
 そ、そんなことより、リリアさんが怪我をしている方が重要だ。

「ち、治癒魔法は?」
「え? いえ、治癒魔法は私もジークも使えませんし、軽傷ですからね。病院に行く時間も無かったので、消毒して包帯だけ巻きました」
「い、いやでも……あっ、そうだ! 世界樹の果実が!!」
「カイトさん!? ちょ、ちょっと、待って! 落ち着いてください! なに食べさせようとしてるんですか……ほ、本当にちょっと切っただけで……そんなとんでもないものを、机の上に並べないで下さい!!」

 リリアさんが怪我をしているということに動転し、慌てながらテーブルの上に世界の果実を20ぐらい並べたところで、リリアさんからストップがかかった。

「で、でも、痛くないんですか?」
「心配してくれて、ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですよ。すぐの治ります」
「そ、そうですか……」
「……それに、その、カイトさんのために頑張ってついた傷なので、ちょっとだけ……本当にちょっとだけですが、誇らしかったりもします。あ、あはは、私が料理下手なのが原因ですけどね」

 そう言って頬を微かに染め、はにかむように笑うリリアさんはとてつもなく可愛い。もう正直、我慢の限界である。
 なんかこう、自分のために料理を作ってくれた可愛い彼女が手に怪我をしてると、本当に必死にやってくれたんだなぁって気がして、嬉しくて愛おしくなる。

「カイトさん?」

 俺が急に立ち上がったことで、リリアさんは不思議そうに首を傾げるが、その仕草もいまの俺には欲情を駆り立てる要因になった。
 俺はそのままリリアさんに近付き、その華奢な体を思いっきり抱きしめる。

「ひゃぅっ!? か、カイトしゃん!?」
「……リリアさん。可愛すぎです。ちょっと、もう、我慢が出来そうにないです」
「え? えぇぇぇ!? で、でも、その、ま、まだ明るいですし……その……」
「……リリアさん」

 真っ赤になってアタフタとするリリアさんだが、抵抗は弱々しい。
 リリアさんはもの凄く恥ずかしがり屋で、その上とても優しい……少なくとも、こういう雰囲気になった場合、なんだかんだで受け入れてくれる。

 その予想通り、リリアさんは恥ずかしそうに視線を動かしていたが……しばらく抱きしめていると、俺の目を見つめ体から力を抜いた。

「はぅ……その、えっと……屋敷には連絡するので……今日は……泊まっていっても、いいですか?」
「はい、もちろん」
「あぅ……や、優しく……お願いします」

 いつまでたっても初々しく、可愛らしいリリアさん。
 今日は恋人たちの日って言われているんだし……この愛しい彼女を、一人占めしても罰は当たらないだろう。
 腕の中の愛おしい温もりを実感しつつ、ゆっくりと目を閉じたリリアさんに顔を近づけていった。



本当はアリス編も今日書く予定だったんですが、リリア編があまりに長くなってしまったので、アリス編は明日です。

リリアが可愛いので仕方ないですね。
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