挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

291/525

知る必要があると思った



 違和感自体はもっとずっと前から、時々顔を見せていたのかもしれない。しかし、それが確かな形になったのは、エデンさんが去ってからだった。

「……カイトさん。ごめんなさい。ちょっと、疲れちゃったみたいで……デートはまた今度でいいですか?」
「え? あ、ああ……大丈夫?」

 エデンさんが去った後で、アリスは顔に苦笑を貼り付けながらそんな事を言ってきた。
 言葉の内容自体はなにもおかしな事はない。アリスはついさっきまで、強大な存在であるエデンさんと本気で戦っていた訳だし、疲れるというのも当然だろう。
 だけど、なんだか……胸の奥がざわつくような、理屈で説明できない違和感があった。

「あはは、全然大丈夫ですよ! ただ、スペシャルなアリスちゃんも疲労する事はあるんすよ」
「そ、そうか……」

 なんでだろう? アリスは、笑っているのに……なんで、『泣いてる』みたいに見えるんだろう?
 思えばさっきもそうだった。アリスは物凄く怒っていた筈なのに、何故か俺には……怖がって震えているみたいに感じられた。
 かと言って、明確にどこがおかしいとは説明できない……だからこそ、どうしていいか分からない。

「それじゃあ、分体を護衛に付けておきますので……失礼しますね」
「……ああ」

 短く話を纏めて去っていくアリスを呼び止めようと思った……でも、そこで、アリスの足を止められるだけの言葉を持っていない。アリスの事をなにも知らない自分を再確認して、結局頷くことしかできなかった。

 アリスは俺にとって、気の許せる友人……悪友みたいなものだ。突然現れて俺の発言に合いの手を入れたり、ふざけてみたり……そんな光景が、いつしか当り前になっていた。
 俺はアリスを知っている気でいた……いや、知っているんだと思い込もうとしていたのかもしれない。

 アリスは自分の過去を殆ど話さない。そこには明確な壁があるようで、暗に踏み込まないでくれと訴えられているみたいで……なにも分からないままだった。
 だけど、今日、アリスは初めて激情を表に出した。あの時のアリスの顔が、ずっと頭から離れず……痛いほどに、俺にある一つの思いを抱かせていた。

 俺はアリスの事をなにも知らなかったんじゃなくて……『知ろうとしてなかった』だけなんじゃないかと……
 アリスが俺に好意的に接してくれ、笑いかけてくれる……それに甘えて、分かってる気になって、知る努力を避けてきたんだと思う。
 だって、俺には……あの時……『なんでアリスが冷静さを失って、怒っていたか』すら、分からなかったから……

 このままじゃいけない。少なくとも、俺は……あんなに悲しそうな背中で去っていくアリスに、気の利いた言葉一つかけられない自分を、許せなかった。









 客一人居ない雑貨屋に戻り、その扉にCLOSEの札を下げ、店の中に入ったアリスは……壁に『震える手』を当てた。

「……私が、甘かった。最初の転移魔法……完全に油断して、不意を突かれた……もし、アイツがカイトさんを殺すつもりだったら……私は……私は……」

 震える両手で顔を覆い、アリスは恐怖に怯えるように全身を震わせる。
 虚空に消えていく声は、嘆きの慟哭……最悪の未来に怯える少女の叫びだった。

「……いやだ……もぅ、あんな想いは……絶対に……」

 アリスは悲痛な声で呟き、涙を流しながら薄暗い暗闇を見つめる。

「……奪わせない……カイトさんに仇なす奴は……全員殺す……奪わせない……奪わせない……カイトさんを……失わない……」

 それは、誰かに告げる言葉ではなく、己に言い聞かせるような言葉だった。
 苦しみながら、嘆きながら、それでも手放せない、手放したくない……そんな思いは、容赦なくアリスの心を、不甲斐ない己を責め立てる。

「……辛いよ……私は、どうすればいいの? イリス……イリス……『貴女のかけた呪い』は……どうやったら……もう、分からないよ……答えてよ……相棒」

 救いを求めるような声に、答える者は誰も居ない。ただ、静かな薄闇の中……すすり泣く少女の声だけが響いていた。








「……ごめん。それに関しては、ボクもあんまり力になれないかもしれない」
「……そっか」

 このままじゃいけないと思った俺は、まずアリスの事を知ろうと思った。かと言って、今までずっと隠してきた。踏み込んで欲しくないと思っている話題を本人に聞くのは気が引けた。
 だから別の所に聞いてみようと考え、まず初めに頼ったのはクロだった……だけど、クロは俺の話を聞いた後、申し訳なさそうに首を横に振る。

「ボクもシャルティアの事はよく知らない……ううん。ある程度は、知ってるけど、よく分からないんだ」
「よく分からない?」

 家族であり付き合いの長いクロならなにか知っているかもと、そう思って尋ねたが、クロはアリスの事をよく知らないと返してきた。そして、よく分からないとも……

「ボクがシャルティアに初めて会った時の印象は……凄くチグハクな子って感じだった。戦闘技術とか物凄くて、相当の戦いを経験してるって思ったけど……自分の力を扱えてないって言うか、力に振り回されてる感じだったんだ……まるで『急に強くなって』、力の扱い方が分かってないみたいだった」
「……」
「まぁ、それで練習とかに付き合いながらアドバイスとかして、仲良くなったんだけど……なんて言うのかな? 違和感があったんだ」
「違和感?」

 クロもアリスの過去を詳しく知る訳ではないみたいだが、クロから見たアリスの印象を教えてくれるらしく、湯呑に入ったコーヒーを飲みながら言葉を続けていく。

「うん。シャルティアは凄く明るくて元気なんだけど……なんだろう? ボクも上手い表現が思い付かないけど、まるで『シャルティア』っていう役を『演じてる』みたいで、漠然とだけど心の底からは笑ってないような感じだった。て言っても、それが分かったのはごく最近だけどね」
「……え?」
「違和感自体は感じてたと思う。だけど、漠然としか感じて無かった……それが確かな形になったのは、カイトくんが現れてからだね」
「俺が現れてから?」
「うん。上手く説明は出来ないけど……なんか違うんだ。ボク達と居る時と、カイトくんと居る時で……」

 クロもアリスの過去は知らない為、あくまで推測での話みたいだが……クロが言うには、アリスはクロと話している時と、俺と話している時で様子が違うらしい。
 俺はアリスがあまり他の相手と話しているのは見た事が無いので、その違和感は感じて無かったが……長い付き合いのクロが言うのであれば、たぶん間違いないと思う。

「今までずっと本心に薄い膜を張ってて、誰よりも冷静だったシャルティアが、カイトくんの事になると、時々凄い激情を見せるようになった」
「……」
「これはあくまでボクの推測だけど、シャルティアはカイトくんを失う事を、凄く怖がってる気がする。でも、なんでシャルティアがカイトくんにそこまで執着するのか、その理由が分からない。今までのシャルティアとは全然違う感じだったからね……」
「……」
「ボクに分かるのはこれぐらい……あまり力になれなくて、ごめんね」
「いや、ありがとう。助かったよ」

 結局詳細な事は分からないままだったが……一つ確信できた事がある。
 アリスがら感じた違和感、あの時エデンさんに見せた激情……その答えを知る為の鍵は、やはり、アリスが隠している彼女の過去にあると言う事。
 けど、それを調べるのは難しい……クロでも知らない事を、他に誰が知っているのだろうか?

 心の読めるシロさんなら、知っているのだろうか? いや、本当になんとなくではあるが、アリスはシロさんにも心を読ませない術を持っていそうな気がする。
 それこそ、アリスが自発的に自分の事を話していそうな相手……フェイトさんはどうだろう? アリスとフェイトさんは仲が良いらしいし、フェイトさんならアリスについてなにか知ってるかもしれない。

 拝啓、母さん、父さん――今まで見た事のないアリスの一面を見て、本当に俺はアリスの事を全く知らなかったと実感した。だからこそ、今のアリスに声をかけるには、まずアリスの事を――知る必要があると思った。









 神界上層、三つある最高神の神殿の内の一つ……時空神の神殿。その執務室で仕事をしていたクロノアの元に、運命神フェイトが現れる。

「時空神、ちょっといい?」
「運命神か……なんだ? 異世界の神の来訪で、ただでさえ忙しい。急ぎの用でないのなら……」
「私、ちょっと人界に行ってくるから」
「……は? ま、まて、ふざけるな、忙しいと言ったであろうが! 貴様の元にも、大量の仕事が……」
「もう終わってるよ。はい。これで全部ね」
「……なに?」

 人界に行ってくると告げるフェイトの言葉を聞き、クロノアはそれをいつものサボりだと思い、怒りを顔に浮かべながら叱りつけようとしたが……直後に、フェイトは大量の書類をクロノアの机に置く。
 フェイトが自主的に仕事をする……普段ならまずあり得ないその光景に、クロノアは茫然としつつ、何枚かの書類を手にとって目を通す。

「……た、確かに……全てちゃんと……」
「じゃ、問題無いね。私は人界に行ってくる。大事な用事だから、邪魔しないでね? その為にわざわざ、仕事なんてクソ面倒くさい事したんだから……」
「……あ、あぁ……割り当てた仕事が終わっている以上。問題はない……が、一体どうしたと言うのだ? 貴様が仕事をしてまで向かう用事とは……」
「……」

 まだ信じられないと言いたげな表情を浮かべつつ、静かに呟くクロノアを一瞥し、フェイトは背を向けて入口の方に『歩いて』向かう。
 そして扉の前で一度立ち止まり、小さな声で、独り言のように呟いた。

「別になんでもないよ。くだらない事でウジウジ悩んでる……『馬鹿な友達』をぶん殴りに行くだけ……」



シリアス先輩「我が世の春が来たあぁぁぁ! アリス編は過去最高! ハッキリわかるね!!」

【いいシリアスだ。感動的だな……だが、前振りだ(アリス編後半は、今まで以上にゲロ甘)】

シリアス先輩「……」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ