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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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『牙むく我が子が愛おしい』



 光り輝くような翼を動かし、天使はゆっくりと俺とアリスの前に近付いてくる。
 そして俺達の居る場所から数メートル離れた地点に来た時に、アリスが片手を挙げて制止を促し、天使はそれに従ってその場に留まる。

「まず、答えてください。貴女はなんの目的でカイトさんに近付いたんですか?」
「目的、対話」
「あくまで対話が目的で、カイトさんに危害を加える気はないと、そういう事ですか?」
「肯定、我、目的、対話。故、暴力、不行使」

 物凄く分かり辛い喋り方ではあるが、天使はどうやら俺との会話が目的であり、俺に危害を加えたりする気はないと言いたいらしい。
 それには、漠然とではあるが納得できた。実際、この天使が俺に危害を加えるつもりなら……アリスを転移させた後で即行っていた筈……でも、この天使はそれをしなかった。
 その事はアリスも気付いているのかと思っていたが、先程の明らかに普段と違う……感応魔法で感じた激情。普段のアリスからは想像もできないが、頭に血が上っていたのかもしれない。

 アリスは天使の言葉を聞いた後、静かに頷きながらも、短剣を油断なく構え天使から視線を外さないままで問いかけてきた。

「……カイトさん、どうします? 応じますか? それとも、排除しますか?」
「排除って……アリス、その、えっと……もし仮にそうなったとして、勝てるのか?」

 俺には目の前の天使がどれ程の力を持っているのか、ハッキリと理解する事は出来ない。ただ、それでも、とてつもない力を有している事だけは分かる。
 だからこそ、アリスの質問に応える前にそれだけは聞いておきたかった。

「……勝てます。いえ、勝ちます……でも、相当時間がかかるでしょうね」
「……」
「間違いなくアイツは、最高位の神かそれに準ずる存在でしょう。この手の相手は基本的に不死身ですから。倒すには纏っている権能を、一つずつ引っぺがして封印していかないといけません。なので、相当時間はかかるでしょうね」
「……そうか」

 アリスの勝てるという言葉は嘘じゃないと思う。だけど、簡単に勝利できる訳ではないという事実も、痛いほどに伝わってきた。
 俺は少しだけ沈黙してから、短剣を構えるアリスの方に視線を動かして、ゆっくりと告げる。

「じゃあ、アリス……命令だ」
「はい! なんなりと」
「もし、あの天使がこちらに攻撃の意思を見せたら……『俺を連れて逃げてくれ』」
「任せてくださ――え? 逃げる? た、倒すじゃなくて?」

 俺が告げた言葉を聞いたアリスは、力強く頷きかけて……途中で気が抜けたような声で聞き返してきた。
 そう、俺が選んだ選択肢は……とりあえず対話に応じる。でも、危なくなったら逃げるというもの……

「うん。逃げる……アリスは勝てるって言ったけど、それは無傷でって訳じゃないんだろ?」
「そ、それは……」
「だったら俺は、アリスに傷ついてなんて欲しくないから、逃げよう……それで、クロやシロさんに助けを求めよう」
「……む、むぅ、テンション的に間違いな気もしますが、確かに一番確実な手段です。クロさん達ならこの状況にも気がついてるでしょうし、カイトさんが呼べば来てくれるでしょうね……了解です」

 その逃げる対象の前で堂々と話すのもアレだが、これはアリスの力を信頼しているからこそ言える提案だ。
 アリスならこの天使相手でも、俺を連れて逃げる事が出来ると、そう信じている。

 ただ、まぁ、こうしていざという時の算段を話していても、眉一つ動かさないと言う事は、この天使の言葉が嘘偽りでは無いことの証明だろう。
 そんな風に考えつつ、俺は天使の方を向いてゆっくりと口を開く。

「……どうして、俺と話したいのかは分かりませんが、対話には応じます……ただ、その前に、一つお願いがあります」
「……?」
「俺だけじゃなく、アリスにも危害を加えない……それを約束してくれるなら、対話に応じます」
「か、カイトさん!?」
「……」

 これだけは、なんとしても約束させたい。俺に危害を加えないのは分かった。だけど、先程アリスと戦闘した事から考えて、アリスはその危害を加えない対象ではないのだろう。
 この天使はなにを考えているか分からない。気休めかもしれないが、アリスの安全を保証する言葉が欲しかった。

「……不敬」
「ッ!?」

 瞬間、天使の纏う雰囲気が鋭い重圧に変わる。
 それはまるで全身を見えない針で滅多刺しにされたかのような、痛みを伴う威圧……貴様が自分に条件を提示できる立場だと思っているのかと、その威圧感が言葉なく語っていた。
 しかし俺は、俺の前に飛び出そうとしたアリスを手で制しつつ、こちらを威嚇してくる天使を睨みつけた。

 この際だからハッキリさせておこう。俺は、今、怒っている。

 さっきコイツがアリスを強制転移させた時……血が凍る思いだった。こいつをアリスが戦っている間、心が締め付けられるみたいだった。
 正直に言って、この天使は恐ろしい……なにを考えているか分からないし、俺では抗う事など不可能なほど強大な力を持っている……だけど、だからと言って……アリスを傷つけることを許容する気なんてない。

「貴女にしてみれば、俺なんて虫けらみたいな存在かもしれません。この発言は不敬かもしれません。だけど、どれだけ脅そうと無駄です。貴女がアリスを傷つけると言うなら、俺は……たとえこの場で殺されたとしても、貴女の要求には一切応じない!」
「……カイト……さん」
「……」

 チリチリと肌を焼く敵意に晒され、震える足を叱咤しながら、俺は天使に向かってハッキリと告げた。
 ともすればそれは、喧嘩を売ったに等しい発言だろう。交渉は決裂……天使が即座に前言を翻して襲いかかってくる可能性もあった。
 馬鹿かもしれない、愚かかもしれない……だけど、俺にだって許せない事はある。そして、譲れないものも……

 天使はそんな俺を、冷たい極彩色の瞳で見つめ……ほどなくして、押しつぶされるような威圧感が消えた。

「前言、撤回」
「……え?」
「汝、平凡、特異性、皆無。否、汝、能力、平凡……精神力、評価」
「……え、えっと……」
「蛮勇、価値有、無礼、不敬、是認」
「……」

 ……えっと、長い台詞は意味を理解するのが難しいけど、要約すると……身体能力は凡人だけど、精神力だけは少し評価する。だから、その威勢の良さを評価して、先程の無礼は許してやろう……って事で良いのかな?
 物凄く分かり辛い天使の言葉に首を傾げながら理解しようとしていると、天使は口元を深く歪めて、笑みを浮かべた。

「ッ!?」

 こ、こ……怖っ!? な、なんだこれ? なんか肉食獣が獲物でも見つけたみたいな、鳥肌が立つような笑顔なんだけど!? 
 笑顔とは本来攻撃的な表情であると、そんな言葉が頭によぎる程、天使の笑顔は恐ろしかった。
 い、いや、顔が整ってるから綺麗なのは綺麗なんだけど……な、なんか笑い慣れてない人が無理やり笑ってるみたいな、物凄くいびつな笑顔だ……正直マジで怖い。

「興味、獲得、時間、必要。今後、裁定、継続」
「え? は? えっと……」
「汝、名称、宮間、快人……完全、記憶」
「……え?」

 ちょっと待って欲しい。本当に全然付いていけないんだけど? お前の名前は覚えたぞって部分だけは分かったけど、その前はえっと……

「カイトさんに興味を持った。だけど、その真価を測るには時間が必要……今後継続して、様子を見るって事っすか?」
「肯定」

 すげぇよアリス。あの訳の分からない単語の羅列を、ちゃんと言葉をして理解してる。この辺りは頭の回転の差なのかな? ちょ、ちょっと、この天使と会話するには慣れが必要な気がする。

「人間、矮小、能力差、歴然……蛮勇、不敬、賞賛。汝、抵抗、美麗……再会、態度、同様、希望」

 そんな事を考えていると、天使はくるりと背を向け、背中の後ろに浮いている金色の輪っかと、そこから生えている純白の羽が見えた……え? その羽、背中から生えてるんじゃなかったの!?
 と、というか対話とかってのはもういいんだろうか? え? もしかして……また日を改めて来るって事? なにそれ、怖い。

 天使は俺達からゆっくりと離れて行き、10メートル程距離をとってから振り返る。
 そして未だ状況に頭が追いつかず混乱している俺を見て、口元に微かな笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

「……我が名は『エデン』……また会おう、愛しき我が子よ」
「ッ!?」

 その言葉と共に、電脳世界のような空間がひび割れ、景色が元の街中に戻る。
 そして、天使……エデンさんの姿は、最初から存在などしていなかったかのように、いつの間にか消えていた。

 ほ、本当に何だったんだあの方は? 最初から最後までよく分からないまま。ある意味これから先の波乱を予感させるような、衝撃的な存在だった。
 目的は結局分からないままで、言葉を交わしても真意の欠片も読みとれなかった……ただ、しかし、一つだけ……心の底から叫びたい事がある。

 普 通 に 喋 れ た の か よ!!

 な、なんというか、これから先もあの方には頭を悩まされるような……そんな、確信に近い予感があった。



謎を残したまま、地球神……エデンは一先ず去りましたが、タイトル通り快人をロックオンしたみたいです。こいつの愛情、歪んでやがる……あれ? こいつもしかしてヤンデレなんじゃ……

今日はあまり時間がないので、感想返信は明日纏めて……
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