表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
266/2395

イケメンになっていた



 ハイドラ王国の王城において、最も広く重要な用途で使用される部屋。

 中央に巨大な円卓のあるこの部屋は、国政の大部分を担う議会が開催される場所。


 ハイドラ王国は議会制を採用しており、国民の投票によって選出された議員がこの場に揃っている。

 貴族から8名、商人や平民から8名、そこに国王を加えた17名により日々国の様々な課題を話し合っている。

 国民による投票は、勇者祭を区切りとしており、今この場に居る議員達は最低でも9年は議員を務めてる事になる。


 そんな場慣れしている議員達も、今日ばかりは表情が緊張にそまっていた。

 その理由は明白で……国王の隣に座る本来ならこの場に……いや、人界に訪れる事すら稀な最高神フェイトが居るからだった。


「……それじゃあ、始めてくれるかな?」

「はい」

「出来れば、神界が関わる案件を先に進めてくれると嬉しいかな?」

「畏まりました……では、光の月以降に各地で行われる行事に関してから……」


 シアとハートを後方に控えさせ、議会に参加しているフェイトの目は背筋が凍りつく程冷たく、声も感情を感じさせないような淡々としたものだった。

 その凄まじいプレッシャーに汗をかきながら、ハイドラ国王が初めの議題を口にすると、部屋に控えていた国王の部下達がフェイトと議員に資料を配る。


 まず最初の議題としてあがったのは、光の月以降……勇者祭までに行われるハイドラ王国内での祭りに関してだった。

 勇者祭の年は世界各地で祭りが行われており、ハイドラ王国においても小さな村のものまで合わせれば、祭りの数は膨大になる。


 そして祭りの主催者達は、神族……つまり神を祭りに招きたい。それだけで祭りには箔がつくので、駄目元でほぼ全ての祭りは神族に来てもらえないかと、伺いを立てている。

 本来ならそれはハイドラ王国各地に滞在する下級神の元に届けられ、上級神のチェックを経て最高神であるフェイトが最終決定を下す。

 しかし現在はフェイトがこの場に出向いて来ている為、この場ですぐに返答を貰える事になっている。


 フェイトは目の前に置かれた資料をゆっくりと手に取り、議員達の視線が集中する中、100枚はあろうかという用紙を片手で少し持ち上げ、そこで手を離す。

 フェイトの手から落下した資料は、不思議な事に一枚も乱れる事はなくストンとテーブルの上に戻る。


「……4番目、9番目、13番目、25番目、41番目、52番目から56番目、76番目、92番目に関しては許可するよ。災厄神、各地の担当に割り振って」

「はっ……」

「それ以外は神族が出向く必要を感じない。どうしても神族を招きたいなら、練り直して再提出……ただし、66番と80番に関しては、概要が非現実的すぎる。一から見直して」

「……は、はい。ありがとうございました。そのように致します」


 フェイトは先程の数秒で全ての資料に目を通してしまっており、それどころか許可を出す祭りに関しては用紙を抜き取り上級神であるシアに渡していた。

 しかもその用紙には既にフェイトのサインが入っていて、書類として既に完成されていた。


「……じゃ、次。今年、ハイドラ王国の国民のうち、ハイドラ王国滞在の下級神以外から祝福を受けたリスト、見せてくれる」

「は、はい!」

「……災厄神、神界に上がってる報告書頂戴」

「こちらです」


 フェイトは無駄な時間を使う気はないとでも言いたげに、即座に次の案件……祝福報告の補足分について、王国制作の物と、神界への報告を見比べる。


「……3件もれてるね。シンフォニア王国で受けたのが2件、アルクレシア帝国で受けたのが1件」

「こ、これは、失礼致しました」

「いいよ、別に……チェック入れておいたから、明日までには確認して修正……できるよね?」

「は、はい! 必ず!!」


 恐ろしいスピードで次々仕事を片付けていくフェイトの姿を見て、議員達と国王は完全に圧倒されたように沈黙していた。

 その姿は最高神という存在がいかに規格外の存在なのかを、如実に物語っていた……


「……それじゃ、次は勇者祭に関して……ハイドラ王国に滞在する神族のローテーションだね。素案は?」


 

 

 





「もぐもぐ……ぷはぁ~美味しかったです!」

「そ、それは良かった」


 今俺の目の前にあるのは、アリスが食べ終えた後の残骸……山のように積まれた串や、タワーみたいになっている木の皿……本当に全部食べきりやがったコイツ。

 い、いくらなんでもおかしくないか? 明らかにアリスの体のサイズより、食べた物の体積の方が上回っているんだけど……ま、まぁ、そこはアリスだし、仕方ないのかな?


「ま、まぁ、ともかくこれで……デートはシンフォニア王国に帰ってすぐって事で良いかな?」

「おっけ~ですよ! いや~久々に沢山食べて、アリスちゃんは満足ですよ」

「そ、そっか……って、おいおい、アリス」

「……へ?」


 満足げな笑みを浮かべるアリスを見て、苦笑を浮かべたタイミングで、アリスの口元が少し汚れているのが見えた。

 そりゃあれだけがっつけば、口元も汚れるだろう。相変わらず手のかかる奴だ。

 そんな事を考えながらハンカチを取り出し、アリスの口元を拭く。


「ふぇっ!? むぐっ!?」

「ほらじっとしてろって」

「にゃぁっ!? か、かか、カイトさん!?」

「いや、だから動くなって……」

「じ、自分で拭けます! 拭けますからあぁぁ!?」


 俺が口元を拭くと、アリスは珍しく本当に慌てた様子で手をバタバタと動かす。

 そしてその抵抗に負けて俺が手を離すと、アリスは真っ赤な顔で俺の方を見る。


「……そ、そそ、それでは、私は、ごご、護衛に戻ります!!」

「あっ、ちょっ!?」


 そして瞬く間に姿を消してしまい、呼びかけても反応が無くなってしまった。

 え? あれ? もしかして、今、照れてた? あんなアリス見たのは、仮面を外した時以来初めてかもしれない。

 なんというか、アリスの意外な一面というか、可愛らしい姿を見てふと笑みがこぼれたのを実感した。









 それから改めて俺は宿に向かう為に歩きだす。

 賑やかな露店街を進んでいくと、少しずつ落ち着いた雰囲気の商店街に風景が変わっていく。

 この辺りは衣類の店が多いようで、あちこちにショーウィンドウみたいなものがあり、綺麗なドレスや高級そうな服が並んでいた。


 そういえばアリスが以前、ハイドラ王国は衣服の文化が発展してるって言ってた覚えがあるし、この辺りはそういう店が集まっているのかもしれない。


 折角なので歩くついでにいくつかの店を覗きながら、ゆっくりと宿を目指していると……


「……あれ? もしかして……宮間さんじゃないですか!?」

「……え?」


 名前を呼ばれて振り返ると、少し離れた所に黒い髪の青年が居て、こちらに向かって手を振っていた。

 眼鏡をかけて爽やかな笑顔を浮かべる青年は、幼さと大人っぽさが一体になったような整った顔立ちをしており、どこかで見た覚えがあるような……なんか違うような……


「……こんにちは、こんな所で会うなんて奇遇ですね。僕の事、覚えてますか?」

「……え、えっと……」


 青年は明るい笑顔のままで俺に駆け寄ってきて、軽く頭を下げて挨拶をしてくる。

 見覚えがあるかと聞かれれば……確かにある。あるんだけど……どうも俺の知ってる人物と結び付かない気がする。

 面影はあるけど雰囲気は違うというか……子供が大人になったというか……ともかく、この青年は……


「……も、もしかして『光永君』?」

「はい! お久しぶりです!」

「え、えぇぇぇ!?」


 やっぱりそうなの!? 光永君!? 前に見た時と変わり過ぎじゃない!?

 だ、だって、俺が知ってる光永君って、言い方は悪いかもしれないけど、どっちかというと文系寄りで猫背気味の……大人しそうな子って感じだった筈なのに……再会したら、爽やかスポーツマン風イケメンに変化していた。


 い、いやいや、劇的変化とか男子三日会わずば刮目して見よとか、そんなレベルじゃねぇぞ!? え? 本当に光永君? このリア充感あふれるイケメンが? 光永君!? マジで!?

 ……い、一体、この5ヶ月余りの間に……なにがあったんだ?


 拝啓、母さん、父さん――ハイドラ王国にて、偶然にも一緒に居世界に召喚された光永君と再会した。いや、確かに光永君の事は心配だったし、こうして会えたのはありがたい偶然だけど……再会した光永君は、以前より遥かに――イケメンになっていた。



 


正義君、実に264話ぶりの登場です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 2話目以来で草
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ