挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

265/526

メモに残す事にしよう



 しばらく時間が経ち、復活したシアさんとフェイトさん、ハートさんと一緒に港町に向かって歩く。
 不思議と道中に人影を見る事が無く、首をかしげていると、ハートさんが最高神であるフェイトさんが来るため、住民は街で待機しておくようにと事前に指示を出していたらしい。

 そう言えばフェイトさんは意外な事に、街に向かう際にはおんぶしてくれとかは言ってこなかった。
 そのまましばらく、特にこれといった会話もないまま歩き、街の入り口である門が見えてきた辺りで、フェイトさんが俺を見上げて口を開く。

「それじゃあ、カイちゃん。私達は打ち合わせをしてくるから、その間カイちゃんはのんびり観光でもしてると良いよ……恋愛神」
「はい。ミヤマ様、どうぞこちらを」
「……これは?」
「打ち合わせは恐らく今日中には終わりませんので、こちらで宿を手配させていただきました。アルベルト公爵家には私の方から連絡を入れておりますので、本日はそちらにお泊まり下さい」
「は、はい。ありがとうございます」

 ハートさんが俺に手渡してくれたのは、宿の位置が書かれた地図で、どうやら俺が今日泊まる宿になるらしい……え? というか、俺の知らない所で宿泊する事が決定してるの? ま、まぁ、俺もハイドラ王国を観光はしてみたいし……良しとしておこう。

「それじゃ~打ち合わせ終わった後のデート、楽しみにしてるよ!」
「……え~と……あ、はい」

 そのデートとやらを了承した覚えは全く無かったのだが、フェイトさんにそんな事を言った所で無駄だろう。

 そんな諦めに似た思考で俺が地図を受け取ると……

「じゃ……行こうか?」
「「はっ!!」」
「ッ!?」

 その瞬間フェイトさんの纏う雰囲気が変わった。
 まるで研ぎ澄まされた刃のような、鋭さと冷たさを感じる威圧感……普段のフェイトさんからは想像もできない感覚。
 それに俺が驚いているのを尻目に、フェイトさん達は門の前まで歩いて行く。
 すると門番らしき人物達がやや慌てた様子で門を開くと……そこに広がっていたのは、視界を埋め尽くすほどの人の山だった。

 最高神であるフェイトさん……間違いなくその姿を見に来たであろう人達は、フェイトさんの姿を確認すると驚くほど静かに両膝を地面に降ろして頭を垂れる。
 圧倒すらされるその光景の中で、豪華な鎧に身を包んだ……騎士団らしき人達がフェイトさんに近付き、深々と最上級の礼をとる。

「……ようこそおいで下さいました運命神様。麗しいご尊顔を拝見でき、光栄の極みに……」
「世辞はいらないよ。手早く案内してくれる?」
「はっ、はい……失礼致しました!!」

 この方は本当にフェイトさんなんだろうか? 失礼かもしれないが、そんな感想が頭に浮かんだ。
 紡がれた声はあまりにも冷たく、重く……一切の反論すら許さない……まさに神の啓示とすら言える程、絶対的な圧力を含んでおり、たった一言で周囲の温度が何度も下がった気さえした。

 フェイトさんなのに、フェイトさんじゃないような感覚に、なにも言えずに茫然としていると、シアさんが俺の近くまで来て、小さな声で呟く。

「……貴方は、自分が特別だと認識するべき」
「え?」
「貴方は運命神様と対等に言葉を交わし、触れる事すら許されている……それは、貴方という存在を運命神様が特別視している証拠……覚えておいて」
「……は、はい」

 それだけ語り、シアさんは歩きだしたフェイトさんについて行った。
 あくまで打ち合わせはフェイトさん達で行うので、俺はその場に残り、歩いてくフェイトさん達の背中を見送った。







 フェイトさん達と別れた後、俺はのんびりと宿の場所を確認しようと街を歩いていた。
 流石に港町だけあって活気があり、所狭しと並んだ木造りの屋台には大小様々の魚が並べられ、それを売る声が飛び交っている。
 行った事はないが、築地とかもこんな光景なのかもしれない。

 その賑やかで新鮮な喧騒を眺めつつ、折角だし観光ついでになにか食べようかと、そんな事を考えたタイミングで、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 声の聞こえた方を振り返ると、そこには……青い……青い……魚の……着ぐるみが居た。

「安いっすよ~安いっすよ~! 獲れたて、新鮮なお魚ですよ!!」
「……」
「あっ、カイトさん! どうっすか? この辺りなんてオススメで――ふぎゃっ!?」

 おっと、しまった……あまりにも不審者だったので、反射的に殴ってしまった。まぁ、いいか、こんな街中で魚の着ぐるみで魚売ってる馬鹿だし、どうしようもないほどの馬鹿だし……アリスだし。

「私の扱い酷くないっすか!?」
「……お前、一体なにしてるんだ?」

 一体なにがどうなったら、シンフォニア王国にある雑貨店の店主であるアリスが、ハイドラ王国の港町で魚の着ぐるみで魚売ってるんだ?

「あっ、ちなみに私は分体アリスちゃんです!」
「ちなみに私が本体アリスちゃんです!」
「……もう一回繰り返す。お前、なにやってんだ?」

 魚の着ぐるみの馬鹿がふざけたポーズをとりながら告げ、見慣れた仮面姿の馬鹿が俺の後ろから現れる。
 馬鹿による挟撃……恐ろしい陣形だ。

「いや~ほら、雑貨屋だけじゃギャンブ……食べてけないので、分体で副業を……」
「……今、お前、ギャンブルって言ったよな?」
「き、きき、気のせいじゃないっすか? と、ともかく、私の分体はあちこちで商売してます! 可愛いアリスちゃんがいっぱいで嬉しいですね!!」
「……もう一回殴って良い?」
「ひぇっ!? や、やめてください! 副業用分体アリスちゃんは脆いんです。数発殴ったら消えちゃうんすよ! カイトさんがバイオレンスな性癖を持っているのは知ってますが、それだけは勘弁してくださ――あいたっ!? 本体にっ!?」

 とりあえず今度は仮面の馬鹿の方を殴っておいた。本当にコイツは、どれだけスペックの無駄遣いを……というか副業で魚売ってるって……それで良いのか? 六王……
 頭が痛くなるのを感じつつ、商売に戻って行く魚の着ぐるみを横目に、本体のアリスに話しかける。

「……で、ちなみに、よく売れてるの?」
「……」

 悲しい沈黙である。見てるこっちの方が辛くなってきた。まぁ、どう見ても着ぐるみのせいだと思うけど……なんで着ぐるみ? その着ぐるみへの情熱はなんなの?

「ま、まぁ、それは置いておいて……カイトさん!」
「うん?」
「聞きましたよ! てか、聞いてましたよ! フェイトさんとデートってどういう事ですか!?」
「え? い、いや、アレはフェイトさんが勝手に……」
「別にフェイトさんとデートするのは結構ですけど、いつになったら私と豪華なディナー付きデートをしてくれるんですか!? 放置プレイもそろそろ限界っすよ!」
「……豪華な……ディナー付き、デート?」

 あれ? なんだったっけそれ、なんか聞き覚えがあるような……

――今度私と豪華なディナー付きでデート……

――わ、分かった

「……あっ……」

 サアッと血の気が引いていく感覚と共に、背中を冷や汗が流れ始める。
 そ、そうだった……た、確かにそんな約束をした覚えがある。や、ヤバい、完全に忘れてた。

「……あっって……まさか! カイトさん!?」
「あ、いや、えっと……」
「忘れてましたね!? 忘却の彼方に消し去ってましたね!! どうせアリスだからまぁいっか、みたいな精神で捨て置いてましたね!!」
「……ご、ごめん!! い、いや、別にアリスだからどうとかじゃなくて……あ、あの後バタバタして、完全に忘れちゃってたというか……ご、ごめんなさい!」

 猛然と俺に抗議してくるアリスに対し、俺は大慌てで頭を下げる。
 完全にやってしまった……思いっきり素で忘れてた。
 アリスとその約束をしてから、クロとの事があったり、アイシスさんへの告白の返事をしたりとバタバタしているうちに、すっかり記憶から消えてしまっていた。
 こ、これは言い訳の余地もない。完全に俺の失態だ。

「酷いっすよカイトさん!? 私楽しみにしてたんですからね!! 焦らされてるとか、勝手に思ってたんすよ!? まさかの素でって……」
「ほ、本当にごめん!」
「……どうせ、どうせ、私なんてカイトさんにとっては都合のいい女なんすよね~」
「い、いや、そういう訳じゃ……」
「アリスだから仕方ないで、済みますもんね~」

 や、ヤバい、完全に拗ねてる。いや、そもそも俺が悪いんだから怒って当然だけど……ど、どうしよう? な、なんとか先ずは、アリスの機嫌をとらないと……

 ダラダラと大量の汗が流れるのを感じつつ、慌てて周囲を見渡すと、ふとすぐ近くに串に刺した焼き魚を売っているかなり大きな露店が目に付き、俺は藁にも縋る思いで素早くそれを一つ購入し、アリスの前に差し出す。

「あ、アリス、本当にごめん……こ、これを……」
「あぁぁぁ! カイトさん!? 食べ物与えとけば、私が大人しくなるって思ってるんでしょう!! 馬鹿にしないで下さいよ! 私はこんなもので、こんな――美味っ!? え? なんすかこれ、滅茶苦茶美味しいじゃないっすか!?」
「そ、そう? 気に入ったなら良かった……いや、アリス。忘れてて本当にごめん! お詫びに、そこの店で売ってる物、好きなだけ食べて良いから!」
「好きなだけ!? ま、マジっすか!? む、むぅ……し、仕方ないっすね。カイトさんも悪気があった訳では無いですし……ま、まぁ、アリスちゃんは心が広いですから、許してあげないでもないです」

 よ、よし、なんとか少し機嫌が戻ってきたみたいだ……助かった。
 いや、でも、まだ不満はありそうだし、なんとかもう一押し……

「……その、デートは近い内に必ず……それに、ディナー以外に、豪華なランチも付けるから!」
「豪華なランチも!? 許します! 全然余裕で許します!!」

 俺の言葉を聞いたアリスは、眩しいほどに目を輝かせ、何度も首を縦に振った。
 どうやら許してもらえたようだ……本当に良かった。

 拝啓、母さん、父さん――今回ばかりは完全に俺の失態だ。アリスとの約束をすっかり忘れてしまっていて、本当に悪い事をしてしまった。なんとか今回は許してもらえたけど、今後はこういう事が無いように、約束事はしっかりと――メモに残す事にしよう。


「さ、さあ、アリス。遠慮せずに、好きなだけ……」
「ありがとうございます! では、『串焼き300本』お願いします!」
「……え?」
「あっ、壺焼きもあるんすね!? じゃあそれも『50個』!」
「…………え?」
「切り身っすか? じゃあ、それも『80人前』で、燻製を『60個』と……え? オススメ? じゃあ、それもとりあえず『40ぐらい』……」
「………………え?」



???「おっと、ここで大事な豆知識ですよ! アリスちゃんは、高位魔族なので、胃に入ったものは即座に分子レベルで分解して魔力に変換しちゃうので、食べようと思えばいくらでも食べられますよ!! 体系も可愛らしいナイスバディのままです。最高ですね!! さすがアリスちゃん!!」

魚の串焼き5R×300……1500R
壺焼き10R×50……500R
切り身盛り合わせ15R×80……1200R
魚の燻製4R×60……240R
店主オススメ高級魚30R×40……1200R
総計……4640R(日本円で46万4千円)
アリスちゃんの笑顔……プライスレス。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ