神界は大丈夫なんだろうか?
フェイトさんを背負いながら神殿の前に辿り着くと、そこには二人の女性が待っていた。
一人はスラリと高い身長で、明るいピンクの髪を綺麗に後ろで纏めているなんだか仕事の出来る女性といったイメージの方。
もう一人は150cm前後のやや小柄な体で、モミアゲ部分の長い白髪の女性で……濃い緑色のセーラー服の上に黒いローブを纏っている……なんで、セーラー服?
「お待たせ~」
「いえ、ようこそおいで下さいました運命神様」
「……」
俺の背中に乗ったままのフェイトさんが気の抜けた声で話しかけると、ピンク髪の女性が微笑みを浮かべて頭を下げ、セーラー服の女性は無言で明後日の方向を見る。
そしてフェイトさんが俺の背中から降りると、ピンク髪の女性が近付いて来て俺に深く頭を下げる。
「初めまして、ミヤマ様。姿だけはアルベルト公爵家にて拝見しましたが、こうしてお話しするのは初めてですね。運命神様の配下で、この地を担当する下級神……恋愛神のハートと申します」
「あ、はい。宮間快人です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ピンク髪の女性……恋愛を司る下級神であるハートさんは、この地域を担当する神らしい。
その印象はやはり仕事の出来る方って感じで、喋り方もハキハキしていて、キャリアウーマンみたいなイメージだ。
「ほら、先輩も……」
「……」
ハートさんは俺に挨拶をした後、隣に居たセーラー服の女性を先輩と呼びながら声をかけるが、とうの先輩は依然としてなにも喋らない。
いや、それどころか目を合わしてさえくれない……なんかずっと斜め下45度ぐらいを、親の仇かというほど睨みつけている。
そのままでは埒が明かないので、俺はセーラー服の女性に近付き頭を下げる。
「え、えと、初めまして、宮間快人です」
「……チッ」
「……」
凄いよこの方……俺人生で初めてだよ。初対面の方にここまで露骨に嫌悪感を抱かれるの……完全に「なに話しかけてきてんだコイツ」みたいな顔してるし……
「……あ、あの……」
「……災厄神……」
「え?」
「私は災厄神……私は『貴方が嫌い』だから、これ以上話す気はない」
「ちょっと、先輩!」
しょ、初対面で嫌いとか言われた……こ、これ結構ショックだ。
あまりにも敵意丸出しの雰囲気に押され、思わず俺が一歩下がると、フェイトさんが俺の隣に立って口を開く。
「こら、災厄神!」
「……」
「ごめんね。カイちゃん、この子凄く優秀なんだけど……人見知りでさ、初対面の相手にはなかなか心開かないんだよ」
「……は、はぁ」
いや、心開かないどころか思いっきり敵意向けられてるんですけど!? なにこれ? 俺なにかした?
「あ、あの……災厄神……様?」
「……」
「俺、なにか気に触ることしました?」
「……」
……無言である。これはあまりにも理不尽ではなかろうか? 人見知りというのは良い、それは構わないけど……いきなり嫌いと言われて、今も目すら合わせてくれないというのは、流石にそれ以外にも理由がありそうな気がする。
そう思いながら災厄神さんを見つめ続けていると、災厄神さんはもう一度舌打ちをしてから、俺を睨みつける。
「お前のせいで……お前のせいで……」
「……え?」
「私が何回『カイちゃんの所に遊びに行ってくるね~』って、運命神様に仕事押し付けられたと思ってるんだ!! 全部お前のせいだあぁぁぁぁ!!」
「……」
原因はフェイトさんか!? ていうか、災厄神さん完全に涙目なんだけど!? 一体どれだけ仕事押し付けたの!?
成程、だからやたら俺に敵意を向けてたのか……うん、全部フェイトさんのせいだけど、申し訳なさしかないよ。
しかもこの怒りようでは、関係修復は不可能かもしれない……流石にそれは、ちょっと辛いな。
そんな事を考えながら、俺は肩を落としつつ口を開く。
「……その、俺が謝る事じゃないかもしれませんが……ごめんなさい。災厄神様の怒りも尤もだと思います」
「え? あっ、ちがっ!?」
「……え?」
ここは下手に反論するより謝罪した方がいいと思って告げた言葉だったが、何故か直後に災厄神さんの声色が代わり、顔を上げると災厄神さんは何故かオロオロと慌てていた。
「べ、別に貴方を責めた訳じゃ……」
「え?」
「いや、先輩。アレ完全にミヤマ様を責めてましたからね。八つ当たりでしたからね」
「え? あぅ……べ、別に悪いのは運命神様だから! 貴方が謝ることないから!!」
「へ? あ、はい」
かなり慌てた口調でそう告げられ、俺は少し混乱しながら災厄神さんを見る。
すると災厄神さんは、ハートさんに近付き青ざめた表情で話しかける。
「ど、どど、どうしよう!? お、落ち込んでる……言い過ぎたかな? 言い過ぎだよね? 謝った方が……」
「ならさっさと謝ればいいでしょう?」
「あっ、えと……い、異世界人!」
「あ、はい!?」
「今回だけは許すから!!」
「は、はぁ……」
「……先輩、それ謝ってないですからね」
あれ? これ、もしかしてだけど、災厄神さんって良い人なんじゃなかろうか?
だって言葉は変で、未だに目は合わせてくれないままだけど……要するに言い過ぎたからごめんなさいって事だよね?
「……シ……シア」
「へ?」
「私の名前はシア! と、特別に名前で呼ぶ事を許してあげる! 特別だからね!!」
「は、はい。よろしくお願いします。シアさん」
「……ふんっ! よ、よろしく……」
どこか恥ずかしそうにそう告げてそっぽを向くシアさん。
う~ん、なんというか濃い人だ……人見知りってのもあるんだろうけど、とにかく早口で捲し立てる感じで、圧倒されてしまう。
けど、根は優しい人なのか……ちゃんとよろしくとも返してくれたし……う~む、今までに会った事のないタイプだ。
「……んぁ? 話し終った?」
「……フェイトさん、誰のせいでこうなってると思ってるんですか?」
「そりゃ間違いなく、災厄神だね! 災厄神が全部悪い!!」
「う、うわあぁぁぁぁん!! 運命神様なんて、嫌いだあぁぁぁぁ!!」
「ええ、完全に先輩のせいです。癇癪起こす子供ですか、情けない」
「お前も嫌いだあぁぁぁぁ!!」
泣きだしちゃった……なんか、物凄く不憫な方だ。
というかこれ、このメンバーで本当に打ち合わせとやらは大丈夫なんだろうか?
ぐうたらしてるフェイトさん、泣きながら地面にのの字書き始めたシアさん……まともなのはハートさんしかいないんだけど!?
そんな俺の不安な気持ちを察したのか、ハートさんは俺の方を向いて苦笑する。
「大丈夫ですよ。そうは見えないかもしれませんが、先輩は創造神様と最高神様に次ぐ、神界の№5ですから……やるべき時にはしっかりしてくれますよ」
「そ、そうなんですか……」
なんと驚いた事にシアさんは神界の№5らしい……大丈夫だろうか? 神界……まぁ、トップからしてアレだけど……
(急に褒められると照れます)
褒めてねぇよ! 天然女神!!
脳内に響いた声に素早く突っ込みを入れつつ、目の前に広がるカオスな状況を眺める。
「あ~もう疲れた~一歩も歩きたくない~」
「……おうち……帰りたい」
「さっさと帰ればいいのでは? ほら、先輩、ゴーホーム」
「うるさい! 馬鹿!!」
なんというかこれは、先行きが本当に不安な気がする。
拝啓、母さん、父さん――ハイドラ王国に来て早々に知り合った、恋愛神のハートさんと災厄神のシアさんはなかなか濃い方達だったよ。それはそうと、俺の知る上級神以上でまともなのって、クロノアさんしかいない気がするんだけど――神界は大丈夫なんだろうか?
【シ】リ【ア】ス
シリアス先輩「あれ? 登場してるのにここに?」
【災厄神とシリアス先輩は似て非なる別人。災厄神=本編用のシリアス先輩】
シリアス先輩「じゃ、こっちの私の出番は?」
【永遠にない】
シリアス先輩「お前なんて嫌いだあぁぁぁぁ!!」




