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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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手のかかる方だ



 反射的に閉じていた目をゆっくり開くと……そこは、磯の香り漂う海辺の神殿だった。
 青く広がる海に隣接し、小高い丘の上に立っている神殿は非常に美しく絵になった。
 そんな美しい光景を呆れ果てた目で見ながら、俺は隣に立つ元凶に声をかける。

「……フェイトさん、色々言いたい事はありますが、まず一つ……なんでいきなりハイドラ王国!?」

 そう、現在俺はハイドラ王国の首都近くにある神殿へとやってきていた。
 ハイドラ王国は人界でまだ行った事のない国であり、アリスの話では貿易が盛んな国とか聞いた覚えがある。

「いい質問だね、カイちゃん」
「いや、いい質問もなにも、俺完全に拉致されてるんですからね」
「そうだね……話すと長くなるけど……」
「……」

 こちらの反論は徹底無視し、フェイトさんは目を細めて海を見つめながらゆっくりと、こうなった原因を語り始めた。







 時をさかのぼる事数十分前、フェイトはいつも通り神界上層にある神殿でだらけていた。
 ごろごろと敷き詰めたクッションを転がり、今日も一日この体勢で過そうと心に決めたタイミングで、それはやって来た。

「運命神! 貴様、いい加減にしろ!!」
「うおぅっ!? じ、時空神? ど、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか! 勇者祭への打ち合わせはどうなっている! 報告書が上がってないのは、貴様の担当だけだぞ!!」
「……せ、生命神は?」
「とっくに完了しておる!!」

 神界の最高神はそれぞれ人界の国を一つずつ担当している。
 時空神クロノアはシンフォニア王国を、生命神ライフはアルクレシア帝国を、そして運命神フェイトはハイドラ王国を担当しており、各国に滞在する下級神は全て担当神の配下である。
 そして配下から上がってくる情報は上級神によって整理され、最終的に最高神であるフェイトの元に到着する。

 今年は勇者祭もある為、通常の祝福等の報告以外にも、各国で勇者祭に向けでの準備のまとめや、神界と王家による打ち合わせ、勇者祭の当日のスケジュール等の調整も行わなければならない。

「……わ、私は労働なんて言う拷問には……」
「ふざけるな! 貴様が指示を出さねば、下級神も次の打ち合わせに進めんだろうが!! 下級神と王家が共同で催し物を開催する場合もある。なれば、早急に進めねば間に合わなくなるであろうが!!」
「……い、いや、ほら、ここまでもちゃんと仕事はあげてた訳だし……少しぐらい遅れても……」
「たわけ! 貴様『災厄神』に仕事を押し付け過ぎだ!!」
「うぐっ……」

 そう、例によって例の如くフェイトはしっかり仕事をしていない……どころか、ほぼ全ての仕事を直属の上級神に丸投げしており、それがクロノアにばれていた。
 クロノアはまさに怒髪天を突くと言った様相で、今日という今日は許さないという雰囲気が溢れている。

 そんなクロノアを見て、ダラダラと汗をかきながら言い訳を考えるフェイトだが、それより先にクロノアが大きなため息を吐く。

「……はぁ、まぁ良い。貴様がそういう態度であるならば、我にも考えがある」
「か、考え?」
「ああ、貴様が直接出向けば、打ち合わせは早々に片付くであろう? 担当国であるハイドラ王国に行き、直接打ち合わせに参加して来い」
「えぇ~嫌だよ。なんで私がそんな面倒な事……」

 ジト目でフェイトを見ながら淡々と告げるクロノアの言葉、しかし当然ながらそれにフェイトが従う訳もなく、不満そうな声を上げる。
 しかしクロノアはそんなフェイトを見て、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

「……時に運命神。六王祭……楽しみだな? なにせ我等最高神が参加出来る数少ない祭りだ」
「……ま、まさか……」
「ああ、仕事をしたくないというなら、それでも構わん。ただし、光の月15日目までに、その仕事が片付かなければ……貴様は六王祭に参加できんと思え!」
「げぇっ!? な、なんて事を……鬼! 悪魔!!」
「なんとでも言え、これは決定だ。今言った通りの仕事をこなさなければ……我が総力をあげて、貴様の六王祭参加を阻止する。ゆめ、忘れるなよ?」
「……」

 そう告げてクロノアは帰っていき、残されたフェイトはガックリと肩を落とす。







「……っと、そういう訳なんだ! アイツ悪魔だよ!」
「完全に自業自得じゃないですか!?」

 要するに仕事さぼり過ぎて怒られて、罰としてハイドラ王国に直接行って交渉して来い、じゃないと六王祭に参加させないって言われてしぶしぶ仕事をする事にしたって事か……うん、どこをどう考えてもフェイトさんが悪い。

「……って、ちょっと待ってくださいよ。それ、俺が連れてこられる理由が全く無いんですか?」
「そこはアレだよ。ノリだね!」
「ノリっ!?」
「だってほら、仕事なんて拷問をする事になったんだよ……心の癒しが必要なんだよ。つまり、カイちゃんが必要なんだよ! だから結婚しよう!!」
「ちょっと、なに言ってるか分からないです」

 相変わらずぶっ飛んだ発想ではあるが、つまるところ、俺は暇つぶし……空き時間の話相手として引っ張ってこられたらしい。
 物凄く理不尽ではある……しかしもう、そんなのはある程度慣れっこだ。

「……はぁ、まぁ俺も一度ハイドラ王国には行ってみたかったですし、それは良いんですけど……俺には交渉とか無理ですよ?」
「あ~それは大丈夫。打ち合わせは私と『私の配下』でやるから、カイちゃんはその間は適当に観光してていいよ~」
「わ、分かりました」
「その後は私とデートしよう!」
「……前向きに検討しておきます」
「それ高確率で了承しないやつだよね?」

 フェイトさんの提案には適当に茶を濁しつつ答え、その後で改めて周囲を見渡す。
 それなりに距離の離れた所に港町だろうか? 大きめの街があり、そこからさらに遠方……ここからでは少し霞む程度にしか見えないが、城らしいものも見える。

「じゃあ、まずはあの街に向かうんですか?」
「え? ううん。先に私の配下と合流しよう……あそこの神殿で待ってるから」
「成程、分かりました」
「うん! じゃ、はい!」
「……え?」

 今俺達が居る場所から神殿までは、200mくらいだろうか? ともかく大した距離では無いので歩きだそうとすると、何故かフェイトさんが両手を広げてこちらを見ていた。

「……えっと、なんでしょう?」
「カイちゃん、だっこして~」
「……は?」
「もしくはおんぶでも可!」
「……」

 本当になにを言ってるんだろうか? この方は?

「……一応聞きます。なんでですか?」
「歩くのが面倒だから!」
「いつもの空飛ぶクッションは?」
「いや~こんな事もあろうかと置いて――忘れてきた!」

 今完全に置いてきたって言ったよね? わざと、ねぇ、わざとなの?

「……さっ、行きましょうか」
「やだ~! だっこして、おんぶしてえぇぇぇ! カイちゃんは、私を見捨てたりしないよね? か弱い私を放っておいたりしないよね!?」
「……」

 誰がか弱いんだと声を大にして突っ込みたかったが、それをぐっと堪え呆れた目でフェイトさんを見る。
 フェイトさんは目を潤ませ、縋るような目をこっちに向けてきている……完全に俺の弱点を分かっている目だ。
 しかし、いくら俺が甘っちょろいとはいえ、今回ばかりはフェイトさんのぐうたらに力を貸すつもりは……力を貸す……つもりは……

「うぅぅ……」
「……お、おんぶなら……」
「やったっ! さっすが、カイちゃん! 私の旦那!」

 俺の嫁みたいな言い方止めてもらえます? 完全なる誤解です。
 相変わらずすぎるフェイトさんに大きく溜息を吐きつつ、泣きついてくる相手に弱すぎる自分を恨めしく思いながら、フェイトさんの前にしゃがむ。
 するとフェイトさんは一切の躊躇も迷いもなく、俺の背中に飛びついて来て、身長に不釣り合いなほど大きな双丘が俺の背中に押し当てられる。

「い、いい、いきますよ!」
「は~い」

 その柔らかな感触にドギドキしながらも、出来るだけ平静を装いつつ立ち上がり、神殿に向けて歩きだす。
 フェイトさんは完全にだらけモードに移行したらしく、予想以上に俺に密着……というか俺の肩に顎を乗せ、溶けたチーズみたいにだら~っとくっついてくる。

「は~カイちゃんの背中は暖かいね~良い心地だよ~もう私、ここに住む。カイちゃんの背中で生活する~」
「やめてください」

 肩に顎を乗せたまま喋るフェイトさんの吐息が微かに頬を撫で、まるで桃みたいな心地良い香りが漂ってくる。
 フェイトさんの髪が首に当たって少しくすぐったく、それ以上になんだか顔が熱くなるような気がして、気恥ずかしさに押されながら少し早足で神殿を目指した。

 拝啓、母さん、父さん――フェイトさんと一緒にハイドラ王国にやってきたよ。フェイトさんが俺を連れてきた理由は呆れるものだったし、こうなった原因も自業自得。本当にフェイトさんは――手のかかる方だ。



シンフォニア王国・国王(苦労性) 担当:クロノア
アルクレシア帝国・皇帝(女狐)  担当:ライフ
ハイドラ王国・国王(???)   担当:フェイト

なんとなく似たタイプが担当してる気がしますね。
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