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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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人の話を聞いてくれ!?



 風の月29日目。俺は朝起きてすぐ、リリアさん達に昨日の事を正直に伝え謝罪した。
 勿論大変恥ずかしかったが、ピーマンが嫌いという事も伝えると、なんというか暖かい目で笑われた……穴があったら入りたい。
 しかも人の口に戸は立てられないもので、それは瞬く間に屋敷中に広まり……昼過ぎにはもう、俺がピーマン嫌いというのは屋敷内で周知の事実になっていた。

 料理長を務める女性は、俺を子を見る親のような目で見ながら「嫌いな食べ物は分かったけど、好きな食べ物はあるかい?」と聞いてきて、変にごまかしても悪い方向に繋がるというのは学んだので、正直に答えた……ハンバーグだと……
 そしてそれを聞いた料理長はひとしきり笑った後で、今日の夕食はハンバーグにすると言って、より恥ずかしくなった。
 なんだろう年が離れているせいか、料理長は俺の事を息子みたいに思ってるのか、なんだかやたら楽しげだった覚えがある。

 というか、俺って好きな食べ物がハンバーグで、嫌いな食べ物がピーマンって……味覚が子供なのかな? 否定できない所がなんか悲しい。
 ちなみに反応が優しかったのはジークさんとリリアさんで、どちらも俺の好みの話題を口にしたりはせず、俺が体調を崩していなくて良かったと微笑みを浮かべてくれた。

 しかし、当然の如く面白がる相手も居る……うん、言うまでもない。駄メイドだ。

「……おや? これは、ピーマン嫌いのミヤマ様」
「……」

 ルナマリアさんは、本当に水を得た魚のようにウキウキしており、廊下で偶々すれ違っただけでこんな感じだ。
 ニヤニヤと良いネタを手に入れたと言いたげに俺を見る表情は、とんでもなく腹が立ったが……ムキになった所でより楽しませるのは分かり切っている。
 なので俺は、反撃の意味も込めて、ちょっと別のアプローチを試してみる事にした。

「……そう言えば、ちょっと小耳に挟んだんですけど……なんでも、ルナマリアさんは虫が苦手とか……」
「……な、なぜそれを……」

 そしてどうやらそれは思った以上に効果があったらしく、ルナマリアさんは笑みを引っ込め、動揺した表情を浮かべる。

「いえ、別に、だからどうとは言いませんが……」
「……み、ミヤマ様、す、少し関係ないお話をしてもよろしいでしょうか?」
「え? ええ」
「……いえ、ほら、誰しも苦手なものや不得手なものがあるのは必然だと思うのです。それは一個の生物として、仕方ないものであり、決して恥ずべき事ではないと私は思います」
「……成程、確かにそうですね」

 ちょっとさっき自分で言った台詞と表情を思い出してみろと言いたくなったが、ここはぐっと我慢してルナマリアさんの次の言葉を待つ。
 たぶん、その方が俺にとって得だろうと考えたからだ。

「故に、それを弱味の如くひけらかすのは、人として駄目な行いでしょう……お、お互いに、そういう事にしませんか?」
「……そこまで虫が嫌いなんですか……」
「あのような生物は、この世界から滅べばいいと思っております」
「……な、なるほど」

 つまりルナマリアさんが言いたいのは……今後ルナマリアさんは、俺のピーマン嫌いをからかったりはしない。その代わり俺もルナマリアさんの虫嫌いをからかわないようにして欲しいと……一種の休戦協定みたいな提案だ。
 どうやら俺が思っている以上に虫が嫌いらしい……たぶんルナマリアさんは、怒った俺が虫でも捕まえてきたりしたらと、恐れているんだろう。

「お話しは分かりました。お互いこの件には不干渉……どうですか?」
「異論ありません」

 ともあれ俺も子供っぽい好き嫌いをからかわれるのは恥ずかしいので、ルナマリアさんの提案を受ける事にする。
 こうして、俺とルナマリアさんの間に変な連帯感が生まれる事になった……








 そしてルナマリアさん以外にも、俺のピーマン嫌いを聞いて楽しそうな人物がいた。

「ふふ、快人先輩って、結構子供っぽいところもあるんですね……なんだか可愛いです」
「うぐっ……ひ、陽菜ちゃん? それ褒め言葉じゃないからね」

 時々一緒させてもらっているランニングの途中で、楽しげに告げてくる陽菜ちゃんも、今朝からとても楽しそうだ。
 尤も、こちらはルナマリアさんのようにからかってるという感じではなく、純粋に意外な一面を知れて楽しいと言った感じだろうか?
 でも、覚えておいてほしい、男にとって可愛い決して褒め言葉じゃ……いや、褒め言葉になる人もいるかもしれないが、俺にとっては褒め言葉では無い。

「あはは、すみません。でも、男の人ってなんでも出来るより、出来ない事や苦手な物があった方が、親しみやすくて素敵ですよ」
「う、う~ん。そ、そうかな?」
「あっ、でも、快人先輩は出来ない事の方が多い感じですけどね。時々頼り無いですし」
「がはっ!? ひ、陽菜ちゃん……なかなか、キツイ事を……」

 楽しげに告げる陽菜ちゃんの言葉は、俺のちっぽけなプライドに甚大なダメージを与えてくる。会心の一撃というやつだ……
 これは親しくなれたっていう証拠なのかもしれないが、最近後輩二人は俺に結構容赦が無い……俺には頼れる先輩ポジションは無理みたいだ。

 っと、そう思っていると陽菜ちゃんは少し慌てた様子で手を振りながら言葉を続ける。

「あっ、別に先輩の事馬鹿にしてる訳じゃないですよ? むしろ親しみがあって、私は、その、結構好きです」
「……え?」
「……快人先輩は、確かに出来ない事もいっぱいですけど、同じくらい……ううん。もっと、も~っと、良い所が沢山ありますよ。優しくて暖かいですし、一緒に居て楽しいですし……それに、いざという時は、凄くカッコいいですから……私は、素敵だと思います」
「……あ、ありがとう」

 そう告げる陽菜ちゃんの頬はリンゴのように赤くなっていて、はにかむような笑顔がとても眩しかった。

「す、すみません!? へ、変な話、しちゃいましたね! さぁ、気合い入れて走りましょう!」
「へ? あ、ちょっ!? 早っ!?」
「ほらほら、快人先輩~おいてっちゃいますよ~」
「ま、待って……流石にそんなスピードは……」

 楽しげにスピードを上げる陽菜ちゃんを見て、俺の全速力より早いであろうその速度に驚愕しつつ、慌ててその後を追う。
 う、う~ん。身体強化魔法抜きでコレだからね……やっぱ俺には頼りになる先輩は無理そうだけど、まぁ、それも俺らしさ……なのかな?








 一夜明けて風の月30日目。事件が起ったのは、風の月も最終日となったこの日の朝だった。

 朝の気だるさを感じつつ食堂に移動し、運ばれてくるであろう美味しい朝食を待っていると、朝食の到着より早く食堂の扉が、それはもうバーンと効果音の出そうな程勢いよく開かれた。

「カイちゃん! 私だよ!!」
「……お、おはようございます。フェイトさん」

 扉を開いて現れたのは、神界の問題児……俺の知る限り、アリスと双璧を成す駄目な存在であり、不定期に『仕事をさぼって』遊びにくるフェイトさんだった。
 フェイトさんがいきなり登場するのはいつもの事だし、今回も大方仕事をさぼって遊びに来たんだろう。
 そんな風に考えながら挨拶を返すと、フェイトさんはニッコリと可愛らしい笑顔を浮かべとんでもない事を告げた。

「うん、おはよう。カイちゃん……さっそくだけど、これから私と一緒に『ハイドラ王国』に行こう!!」
「……は? いや、いきなり何を……」
「ありがとう! カイちゃんなら快く了承してくれると思ってたよ!」
「へ? いやいや!? まだなにも……って、なんで腕掴んでるんですか!? 後、その魔法陣は!?」
「じゃ、れっつご~」
「なぁっ!?」

 フェイトさんは俺の返答など一切お構いなしに……いや、とんでもなく都合の良いように変換しながら俺の手を掴み、魔法陣……間違いなく転移魔法の魔法陣を浮かべ……俺の体は光に包まれた。

 拝啓、母さん、父さん――ピーマン嫌いを打ち明けた翌日。前触れもなく来訪したフェイトさんによって、俺は強制的にハイドラ王国へ連れて行かれる事になってしまった。なんでこんな事になってるのか、これからどうなるのか、全く分からないけど……せめて――人の話を聞いてくれ!?








 快人が連れ去られる一瞬の出来事を眺めた後、リリア達は特に何事も無かったかのように運ばれてきた朝食に手をつけ始めた。

「……はぁ、またですか……」
「まぁ、快人さんですからね」
「快人先輩ですしね」
「ミヤマ様ですから……」

 パンにジャムを塗りながら、大きなため息を吐くリリアを見て、葵、陽菜、ルナマリアの三人はいつも通りだと言いたげに呟く。
 その言葉を聞いてガックリと肩を落としながら、リリアは軽く手を振って指示を出す。

「……胃薬持って来てください」
「お嬢様、胃薬の先飲みはいかがなものかと……」
「良いんですよ……どうせ、また、国王とかと仲良くなって帰ってくるんでしょう……どうせ、また、私が大変な目にあうんでしょう……」
「……否定できないのが恐ろしい話です」



っという訳で、ハイドラ王国に快人を連れていくのは駄女神フェイトです!
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